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  • 平成28年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第3 総務省|
  • 不当事項|
  • 補助金

(7) 無線システム普及支援事業費等補助金により整備した無線設備の設置工事の設計が適切でなかったもの[総務本省](37)(38)


2件 不当と認める国庫補助金 56,358,553円

無線システム普及支援事業費等補助金は、電波法(昭和25年法律第131号)に基づき、市町村防災行政無線(移動系)及び消防・救急無線のデジタル化の円滑な実施を図ることなどを目的として、無線設備をデジタル用に置き換えるなどの事業を行う事業主体に対して、事業の実施に要する経費の全部又は一部を国が補助するものである。

無線設備等を構成する設備機器の耐震性を確保する設置工法等については、国、地方公共団体等が実施する設備機器の設置工事における技術上の指針として広く使用されている「建築設備耐震設計・施工指針」(独立行政法人建築研究所監修)等(以下「耐震設計指針等」という。)で示されている。これらによれば、設備機器の設置に当たっては、地震時の移動、転倒等を防止して耐震性を確保するために、原則としてアンカーボルトを用いて鉄筋コンクリートの床等に固定することとされている。そして、アンカーボルトについては、地震時に設備機器に作用する水平力や鉛直力に応じて、作用する引抜力(注1)が許容引抜力(注1)を上回らないよう選定すること、アンカーボルトを埋め込む床の部材は、建物のく体の一部とみなせる鉄筋コンクリートであって、地震時にアンカーボルトを介して伝達される力に対して十分に安全なものであること、また、設備機器の頂部を固定する振れ止め金具等は、地震時に生ずる応力度が許容応力度を上回らないような材料、構造等とすることなどとされている。

本院が14市町等において会計実地検査を行ったところ、1町及び1一部事務組合の2事業主体において、次のとおり適切とは認められない事態が見受けられた。

(注1)
引抜力・許容引抜力  「引抜力」とは、機器等に地震力が作用する場合に、ボルトを引き抜こうとする力が作用するが、このときのボルト1本当たりに作用する力をいう。また、当該ボルトに作用することが許容される引抜力の上限を「許容引抜力」という。
  部局等 補助事業者
(事業主体)
補助事業 年度 補助対象事業費 左に対する国庫補助金交付額 不当と認める補助対象事業費 不当と認める国庫補助金相当額 摘要
          千円 千円 千円 千円  
(37) 総務本省 長野県下伊那郡阿南町 周波数有効利用促進 27 104,167 52,083 29,473 14,736 設計不適切

この補助事業は、下伊那郡阿南町が、防災行政無線のデジタル化を行うために、防災行政無線の統制局である同町役場庁舎及び中継局局舎2か所に統制局制御装置1基、直流電源装置3基等を設置するなどしたものである。

同町は、設置工事に係る請負契約の締結に当たり、特記仕様書において、請負会社から設備機器の耐震性を確保する設置工法を検討した耐震強度検討書を提出させて、これを施工前に確認することにしていた。

しかし、同町は、請負会社から耐震強度検討書が提出されていなかったのに提出を求めておらず、設備機器の耐震性を確認しないまま、請負会社に設備機器を設置させていた。

そして、請負会社は、統制局制御装置1基及び直流電源装置3基と床面とをそれぞれアンカーボルト(埋込み長37mm又は40mm)4本を使用して固定する設計としていたが、アンカーボルトを埋め込む床面は、建物のく体の一部とはみなせない仕上げモルタルを30mmの厚さで鉄筋コンクリートの上に打設するなどしたものとなっていたため、この設計は、鉄筋コンクリートに対してアンカーボルト本来の埋込み長を確保するものとなっていなかった(参考図1参照)。

そこで、耐震設計指針等に基づき耐震設計計算を行ったところ、統制局制御装置1基及び直流電源装置3基については、地震時にアンカーボルトに作用する引抜力は2.53kN/本から8.85kN/本となり、許容引抜力0.75kN/本を大幅に上回っていて、耐震設計計算上安全とされる範囲に収まっていなかった。

したがって、統制局制御装置1基及び直流電源装置3基(工事費相当額計29,473,949円)は、設計が適切でなかったため、地震時に転倒するなどして損傷するおそれがあり、防災行政無線としての機能の維持が確保されておらず、これに係る国庫補助金相当額計14,736,974円が不当と認められる。

このような事態が生じていたのは、請負会社が耐震強度検討書を提出していなかったのに、これに対する同町の監督が十分でなかったことなどによると認められる。

(参考図1)

アンカーボルトの埋込み状況の概念図

アンカーボルトの埋込み状況の概念図 画像

(38) 総務本省 東備消防組合 周波数有効利用促進 25、26 475,351 237,675 83,243 41,621 設計不適切

この補助事業は、東備消防組合(岡山県備前市所在)が、消防・救急無線のデジタル化を行うために、消防本部庁舎、中継局局舎1か所、基地局局舎3か所等に簡易多重無線装置2基、無線送受信装置6基、空中線共用器4基等を設置するなどしたものである。

同組合は、設置工事に係る請負契約の締結に当たり、特記仕様書において、請負会社から設備機器の耐震性を確保する設置工法を検討した耐震強度検討書を提出させて、これを施工前に確認することにしていた。

しかし、同組合は、請負会社から耐震強度検討書が提出されていなかったのに提出を求めておらず、設備機器の耐震性を確認しないまま、請負会社に設備機器を設置させていた。

そして、請負会社は、中継局局舎では、簡易多重無線装置等が収容された収容架(以下、この簡易多重無線装置等と収容架を合わせて「中継局無線装置等」という。)と軽量コンクリートの床面とを、軽量コンクリート用の特殊なアンカーボルト4本を使用して固定する設計としていたが、この設計は、必要とされる安全率を考慮せずに許容引抜力を過大に算定したものとなっていた。

そこで、耐震設計指針等に基づき耐震設計計算を行ったところ、中継局無線装置等については、地震時にアンカーボルトに作用する引抜力は1.59kN/本となり、許容引抜力0.36kN/本を大幅に上回っていて、耐震設計計算上安全とされる範囲に収まっていなかった。

他方、基地局局舎1か所では、簡易多重無線装置等が収容された収容架(以下、この簡易多重無線装置等と収容架を合わせて「基地局無線装置等」という。)と軽量コンクリートの床面とを、軽量コンクリート用の特殊なアンカーボルト4本を使用して固定する設計としていた。また、無線送受信装置2基と空中線共用器2基等(以下、これらを合わせて「基地局送受信装置等」という。)を互いに金具で連結して一体とした上で軽量コンクリート用の特殊なアンカーボルト6本を使用して軽量コンクリートの床面と固定していた。さらに、基地局無線装置等と基地局送受信装置等の頂部を同一のストラクチャー(注2)に振れ止め金具で固定する設計としていた。しかし、これらの設計は、基地局無線装置等と基地局送受信装置等に使用する軽量コンクリート用の特殊なアンカーボルトの許容引抜力を前記と同様に過大に算定したものとなっていた。

そこで、耐震設計指針等に基づき耐震設計計算を行ったところ、基地局無線装置等及び基地局送受信装置等については、地震時にアンカーボルトに作用する引抜力は1.29kN/本から4.42kN/本となり、許容引抜力0.36kN/本を大幅に上回っていた。

このため、地震時には、アンカーボルトだけでは十分な耐震性を確保できず、頂部を固定する振れ止め金具及びストラクチャーに水平力が作用することになる。そして、地震時に振れ止め金具及びストラクチャーに生ずる曲げ応力度(注3)は43.33kN/cm2から140.00kN/cm2となり、許容曲げ応力度(注3)23.50kN/cm2を大幅に上回っていて、耐震設計計算上安全とされる範囲に収まっていなかった(参考図2参照)。

(注2)
ストラクチャー  設備機器の頂部を固定するために室内に据え付けられた梁
(注3)
曲げ応力度・許容曲げ応力度  「曲げ応力度」とは、材が曲げられたとき、曲がった内側に生ずる圧縮力又は外側に生ずる引張力の単位面積当たりの大きさをいい、その数値が設計上許される上限を「許容曲げ応力度」という。

したがって、中継局無線装置等、基地局無線装置等及び基地局送受信装置等(工事費相当額計83,243,158円)は、設計が適切でなかったため、地震時に転倒するなどして損傷するおそれがあり、消防・救急無線としての機能の維持が確保されておらず、これに係る国庫補助金相当額計41,621,579円が不当と認められる。

このような事態が生じていたのは、請負会社が耐震強度検討書を提出していなかったのに、これに対する同組合の監督が十分でなかったことなどによると認められる。

(参考図2)

設備機器の固定状況の概念図

設備機器の固定状況の概念図 画像

(37)(38)の計 579,519 289,758 112,717 56,358