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  • 平成28年度|
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(2) 中期目標期間終了時の会計処理の結果、積立金がないことなどにより次の中期目標期間への繰越等の対象とならずに国立大学法人に留保されることとなる精算収益化額に相当する額等の資金について、その取扱いを明確にして各国立大学法人に周知するなどするよう改善の処置を要求したもの


部局等
文部科学本省
検査の対象
文部科学本省、86国立大学法人
上記のうち中期目標期間終了時に繰越欠損金が生じていた国立大学法人
国立大学法人岐阜大学、国立大学法人島根大学
国立大学法人における運営費交付金等の概要
国立大学法人が行う業務に充てるために必要な金額の全部又は一部に相当する金額について、国が予算の範囲内で交付する資金等
第1期中期目標期間に国立大学法人岐阜大学に交付された運営費交付金等
838億0494万余円(平成16事業年度~21事業年度)
上記のうち法人内部に留保されていた精算収益化額に相当する額等の資金(1)
8億3142万円
第2期中期目標期間に国立大学法人島根大学に交付された運営費交付金等
631億8997万余円(平成22事業年度~27事業年度)
上記のうち法人内部に留保されていた精算収益化額に相当する額等の資金(2)
7806万円
(1)及び(2)の計
9億0949万円

【改善の処置を要求したものの全文】

中期目標期間終了時の会計処理の結果として、国立大学法人に留保されている資金の取扱いについて

(平成29年10月30日付け 文部科学大臣宛て)

標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の処置を要求する。

1 国立大学法人における会計処理等の概要

(1) 運営費交付金等の会計処理

ア 運営費交付金の会計処理

国立大学法人は、国立大学法人法(平成15年法律第112号。以下「国大法」という。)に基づき、平成16年4月に、貴省の施設等機関として設置されていた国立大学に係る権利及び義務を承継して設立され、国大法等に基づき教育研究等の事業を行っている。そして、国立大学法人は、国大法第35条の規定により準用される独立行政法人通則法(平成11年法律第103号。以下「準用通則法」という。)第46条の規定に基づき、業務の財源に充てる資金として、毎事業年度、国から運営費交付金が交付されている。

国立大学法人会計基準(平成16年文部科学省告示第37号。国立大学法人会計基準注解等を含む。)によれば、国立大学法人が国から運営費交付金を受領したときは、その相当額を運営費交付金債務として整理することとされている。そして、運営費交付金債務は、業務の進行に応じて収益化を行うこととされている。また、運営費交付金債務は、次の中期目標期間に繰り越すことはできず、中期目標期間の最後の事業年度の期末処理において、これを全額収益に振り替えなければならない(以下、当該処理を「精算収益化」、当該処理により振り替えられた運営費交付金債務の額を「精算収益化額」という。)こととされている。

イ 定員未充足及び定員超過の会計処理

貴省は、次のいずれかに該当するものについては、運営費交付金債務のまま翌事業年度以降へ繰り越すこととしており、中期目標期間終了時に精算収益化を行うことになる。

  • ① 国立大学の収容定員に対する在籍者数の割合が一定率を下回った場合、運営費交付金の積算のうち学生の受入に要する経費として措置している額について、収容定員を下回った割合により当該措置額に相当する額(以下「未充足学生経費相当額」という。)
  • ② 国立大学の学部ごとの入学定員(1年次)及び収容定員(2年次以降)に対する入学者数等の割合が一定率以上の場合、運営費交付金のうち、一定率以上の入学者数等の授業料収入に相当する額(以下「超過授業料収入相当額」という。)

ウ 承継剰余金の会計処理

国立大学法人の設立により国立学校特別会計が廃止された際、15年度の決算上の剰余金のうち、国立大学法人化前に発生した事件に係る損害賠償の見込額に相当する額等については、国立大学法人に承継されている(以下、国立大学法人に承継された剰余金を「承継剰余金」という。)。承継剰余金は、特定の業務の財源であり相当程度の負債性が認められることなどから、運営費交付金に準じて負債として整理することとなっている。そして、中期目標期間終了時に残額が生じた場合には、精算収益化を行うこととなっている。

(2) 運営費交付金の収益化基準等

国立大学法人は、国立大学法人会計基準に基づき、原則として、一定の期間の経過を業務の進行とみなして運営費交付金債務を収益化する期間進行基準を採用している。ただし、プロジェクト研究等で、一定の業務等と運営費交付金との対応関係が明らかにされている場合には、当該業務等の達成度に応じて財源として予定されていた運営費交付金債務を収益化する業務達成基準を、退職手当の支払等の特定の支出のために運営費交付金が措置されている場合には、当該支出額を限度として収益化する費用進行基準を、それぞれ採用している。

そして、退職手当等に係る運営費交付金は特定の支出のために措置されていること、また、プロジェクト研究等に係る運営費交付金は使途を限定して措置されていることから、貴省は、これらの運営費交付金について、中期目標期間中、他の用途に使用することができないとしている。

(3) 利益の処分又は損失の処理等

国立大学法人の利益の処分又は損失の処理については、準用通則法第44条第1項の規定によれば、毎事業年度、損益計算において利益を生じたときは、前事業年度から繰り越した損失を埋めて、なお残余があるときは、その残余の額を、積立金として整理しなければならないこととされている。そして、同条第2項の規定によれば、毎事業年度、損益計算において損失を生じたときは、同条第1項の規定による積立金を減額して整理して、なお不足があるときは、その不足額を、繰越欠損金として整理しなければならないこととされている。

また、積立金の処分については、国大法第32条の規定によれば、中期目標期間の最後の事業年度において上記積立金の整理を行った後、準用通則法第44条第1項の規定による積立金があるときは、次の中期目標期間の業務の財源に充てるために当該積立金の額から文部科学大臣の承認を受けた額を繰り越すことができるとともに、繰り越す額を控除してなお残余があるときは、その残余の額を国庫に納付しなければならないこととされている。

一方、中期目標期間の最後の事業年度において上記積立金の整理を行った後、準用通則法第44条第1項の規定による積立金がない場合等には、精算収益化額に相当する額等の資金は次の中期目標期間への繰越等の対象にならないことになる。

(4) 国から承継した土地の譲渡による会計処理

国立大学法人は、国からの現物出資として承継した土地の全部又は一部を譲渡したときは、当該譲渡収入の範囲内で文部科学大臣が定める基準により算定した額に相当する金額を、独立行政法人大学改革支援・学位授与機構(以下「機構」という。)に納付することとなっている。そして、機構は、国立大学法人から納付された金額を財源として、国立大学法人に対して土地の取得等に必要な資金の交付を行うこととしている。

2 本院の検査結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

前記のとおり、国立大学法人においては、国から承継した土地の譲渡収入については、その一部を機構に納付することとなっているのに対して、精算収益化額に相当する額等の資金については、中期目標期間終了時の会計処理の結果として積立金がない場合等には、次の中期目標期間への繰越等の対象にならないことになっている。

そこで、本院は、有効性等の観点から、中期目標期間終了時の会計処理の結果、次の中期目標期間への繰越等の対象とならずに国立大学法人に留保されている資金はないかなどに着眼して検査した。

検査は、86国立大学法人の第1期中期目標期間(16事業年度から21事業年度まで)及び第2期中期目標期間(22事業年度から27事業年度まで)のそれぞれの終了時の積立金の処分等を対象として、貴省及び37国立大学法人(注)において、国立大学法人の財務諸表、国庫納付金計算書等により会計実地検査を行うとともに、86国立大学法人から財務諸表の補足資料等の提出を受けて、その内容を分析し確認するなどの方法により行った。

(注)
37国立大学法人  北海道、室蘭工業、小樽商科、東北、宮城教育、茨城、筑波、宇都宮、千葉、東京、東京工業、電気通信、一橋、横浜国立、新潟、福井、山梨、信州、岐阜、静岡、名古屋、愛知教育、京都、京都工芸繊維、大阪、神戸、奈良女子、鳥取、島根、岡山、山口、香川、九州、九州工業、熊本、鹿児島、琉球の各国立大学法人

(検査の結果)

検査したところ、国立大学法人岐阜大学(以下「岐阜大学」という。)及び国立大学法人島根大学(以下「島根大学」という。)に対して、それぞれ第1期又は第2期の中期目標期間に交付された運営費交付金等(岐阜大学838億0494万余円、島根大学631億8997万余円)のうち、業務の財源に充てられずに残っていた運営費交付金債務等について、中期目標期間終了時の会計処理の結果として、次のとおり、精算収益化額に相当する額等の資金が岐阜大学及び島根大学に留保されている事態が見受けられた。

(1) 岐阜大学

岐阜大学は、第1期中期目標期間の終了する21事業年度末に、当該事業年度に交付された退職手当に係る運営費交付金12億5735万余円のうち退職手当の財源に充てられずに残っていた運営費交付金債務7億9928万余円を含めた運営費交付金債務計8億1487万余円と、承継剰余金債務1655万余円の計8億3142万余円について、精算収益化を行うなどして損益計算を行い、7億5075万余円の当期総利益が生じていた。

しかし、岐阜大学では、医学部附属病院の再開発に伴う建物整備等による減価償却費が大幅に増加したことなどにより前期繰越欠損金が12億8148万余円あったため、会計処理上の積立金がないこととなり、精算収益化額に相当する額等の資金計8億3142万余円は次の中期目標期間への繰越等の対象とならなかった。その結果、岐阜大学では、上記の精算収益化額に相当する額等の資金計8億3142万余円は、業務の財源に充てられることなく、会計実地検査時点(29年5月)においても、その全額が法人内部に留保されていた(図1参照)。

図1 岐阜大学の第1期中期目標期間終了時の会計処理の流れ(概略図)

図1 岐阜大学の第1期中期目標期間終了時の会計処理の流れ(概略図) 画像

(2) 島根大学

島根大学は、第2期中期目標期間の終了する27事業年度末に、法科大学院の定員未充足による未充足学生経費相当額に係る運営費交付金債務2763万余円と、生物資源科学部の定員超過による超過授業料収入相当額に係る運営費交付金債務535万余円の計3299万円について、精算収益化を行うなどして損益計算を行い、2億6294万余円の当期総利益が生じていた。また、第1期中期目標期間から承継剰余金相当額4507万余円を繰り越して積立金として整理していた。

しかし、島根大学では、医学部附属病院の再開発に伴う建物整備等による減価償却費が大幅に増加したことなどにより前期繰越欠損金が16億5967万余円あったため、会計処理上の積立金がないこととなり、精算収益化額に相当する額等の資金計7806万余円は次の中期目標期間への繰越等の対象とならなかった。その結果、島根大学では、上記の精算収益化額に相当する額等の資金計7806万余円は、業務の財源に充てられることなく、会計実地検査時点(29年2月)においても、その全額が法人内部に留保されていた(図2参照)。

図2 島根大学の第2期中期目標期間終了時の会計処理の流れ(概略図)

図2 島根大学の第2期中期目標期間終了時の会計処理の流れ(概略図) 画像

以上のとおり、岐阜大学及び島根大学において、中期目標期間終了時の会計処理の結果、積立金がないこととなり、精算収益化額に相当する額等の資金計9億0949万余円(岐阜大学8億3142万余円、島根大学7806万余円)は、いずれも次の中期目標期間への繰越等の対象とならなかった。この結果、当該資金は、業務の財源に充てられることなく岐阜大学及び島根大学に留保されていた(表参照)。

表 国立大学法人に留保されている精算収益化額に相当する額等の資金

(単位:千円)
国立大学法人
項目
岐阜大学
(第1期中期目標期間)
島根大学
(第2期中期目標期間)
運営費交付金 (1) 814,871 32,990
  うち退職手当関係 799,285
うち定員関係 32,990
承継剰余金(2) 16,558 45,072
計 (1)+(2) 831,429 78,062
合計 909,491

(改善を必要とする事態)

岐阜大学及び島根大学において、国大法等に基づいた会計処理を行った結果として、精算収益化額に相当する額等の資金が、業務の財源に充てられることなく法人内部に留保されており、有効かつ効率的に活用されていない事態は適切ではなく、改善を図る要があると認められる。

(発生原因)

このような事態が生じているのは、貴省において、中期目標期間終了時の会計処理の結果として積立金がない場合等には、精算収益化額に相当する額等の資金が次の中期目標期間への繰越等の対象とならずに国立大学法人に留保されることとなるのに、その資金を特定の業務の財源等にすることを考慮しておらず、その取扱いを明確にしていないことなどによると認められる。

3 本院が要求する改善の処置

国立大学法人に対しては、今後も引き続き、業務の財源に充てる資金として、多額の運営費交付金が交付されることが見込まれる。

ついては、貴省において、国立大学法人の中期目標期間終了時における運営費交付金債務等の精算収益化等の会計処理の結果、精算収益化額に相当する額等の資金が次の中期目標期間への繰越等の対象とならずに国立大学法人に留保された場合に有効かつ効率的に活用されるよう、その資金が特定の業務の財源等であったことを踏まえて、その取扱いを明確にして各国立大学法人に周知するとともに、岐阜大学及び島根大学に留保されている資金が、その取扱いに沿って退職手当の支払等の特定の業務の財源等になることとなるよう改善の処置を要求する。