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  • 平成28年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第7 文部科学省|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

被災私立高等学校等教育環境整備支援臨時特例交付金により造成された基金における被災私立学校復興支援事業に係る取崩額の算定に当たり、授業料等納付金の減免措置実施前の収入額に基づく必要があることなどを明確に示すことなどにより、同基金の取崩額が適切に算定されるよう改善させたもの


会計名及び科目
一般会計 (組織)文部科学本省(項)東日本大震災復旧・復興私立学校振興費
部局等
文部科学本省
交付の根拠
予算補助
交付金事業の概要
東日本大震災に起因する事情により、幼児児童生徒数が減少した私立学校の教育環境の保障を図る取組に対する補助を行った交付対象県の負担を国費で支援する事業等を実施するための基金を造成するために交付対象県に対して被災私立高等学校等教育環境整備支援臨時特例交付金を交付するもの
交付金事業者
事業主体
3県
上記の交付金事業者に交付した交付金交付額
64億2189万余円(平成23年度)
交付金事業者が被災私立学校復興支援事業を実施するために基金を取り崩した額の計
32億8953万余円
上記のうち過大に取り崩されていた基金の額
4116万円

1 支援事業の概要等

(1) 被災私立高等学校等教育環境整備支援臨時特例交付金の概要

被災私立高等学校等教育環境整備支援臨時特例交付金(以下「交付金」という。)は、東日本大震災により甚大な被害を受けた岩手県、宮城県及び福島県(以下「交付対象県」という。)に基金を造成し、この基金を活用することにより、交付対象県に所在する私立の幼稚園、小学校、中学校、高等学校等(以下「私立学校」という。)の安定的・継続的な教育環境の整備に資することを目的として、国が交付対象県に対して交付するものである。

 「平成23年度被災私立高等学校等教育環境整備支援臨時特例交付金交付要綱(高校生修学支援基金)」(平成23年文部科学大臣裁定。以下「交付要綱」という。)によれば、交付金は、交付対象県が「高校生修学支援基金事業実施要領(被災私立高等学校等教育環境整備支援臨時特例交付金)」(平成23年文部科学大臣裁定。以下「実施要領」という。)に定められた被災私立学校復興支援事業(以下「支援事業」という。)等を実施するための基金(以下「支援基金」という。)を造成する事業を交付対象とすることとされている。

そして、文部科学省は平成23年度に交付対象県に対して、計64億2189万余円の交付金を交付し、交付対象県はこれを原資として、支援基金を造成しており、28年度末時点での支援基金の残余額は計20億5829万余円となっている。

なお、交付要綱及び実施要領によれば、支援事業等は32年度末までとされ、交付対象県は、その時点で支援基金を解散し、その時に有する支援基金の残余額を国庫に納付しなければならないこととされている。

(2) 支援事業の概要

実施要領によれば、支援事業は、東日本大震災に起因する事情により、幼児児童生徒数(以下「生徒数」という。)が減少した私立学校の教育環境の保障を図る取組に対する補助を行った交付対象県の負担を国費で支援する事業とされている。

また、支援事業の対象となる交付対象県の補助は、東日本大震災に起因する事情により、生徒数が減少したことに伴い、22年度に比して授業料等納付金(保育料・授業料、入学料・入園料、施設整備費等、入学検定料・入園検定料の各費目。以下、これらを「対象費目」という。)の収入額が1割を超えて減少した交付対象県に所在する私立学校に対して、授業料等納付金の減収額を対象とするものとされている。

一方、交付対象県は、東日本大震災に起因する事情等による経済的理由により就学等が困難である生徒等に対し授業料等納付金の減免措置(以下「減免措置」という。)を実施した私立学校に対して、減免措置に伴う減収額を対象として補助を行う場合があるが、当該補助については、支援事業の対象とならない。

そして、交付対象県が支援事業の実施に必要な経費として支援基金を取り崩すことができる額は、交付対象県が補助を行う年度において、各私立学校の対象費目ごとに、22年度の対象費目の収入額に0.9を乗じた額から当該年度の対象費目の収入額を減じた額に、補助率(27年度以前は10分の9、28年度は10分の8、29年度は10分の7、30年度は10分の6、31、32両年度は10分の5)を乗ずるなどして算定することとされている。

また、交付対象県は支援事業が終了したとき又は32年度末を経過したときは、文部科学大臣に事業実施状況報告書により実績報告をしなければならず、同大臣はその書類の内容を審査し、必要があるときは、交付対象県に対して報告を求めるなどして支援事業が適正に行われたかどうかを調査することができるとされており、交付要綱、実施要領等の内容に適合しない事実が明らかになった場合には、交付対象県に対して適合させるための措置を執るべきことを命ずることができるとされている。

2 検査の結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

文部科学省は、支援事業等について、当初は26年度末までとしていたものの、被災地の私立学校が中長期的な見通しをもって学校運営ができるよう復興・創生期間の最終年度である32年度末まで延長しており、生徒数の回復状況や支援基金の執行状況等を踏まえ、支援の在り方や継続の可否については、毎年度検討することとしている。

そこで、本院は、合規性、経済性等の観点から、支援基金の取崩額が適切に算定されているかなどに着眼して、交付対象県が23年度から27年度までの間に支援事業を実施するために支援基金を取り崩した額計32億8953万余円(岩手県1811万余円、宮城県6億9162万余円、福島県25億7980万余円)を対象として、文部科学本省及び交付対象県において、事業実施状況報告書等の関係書類の内容を確認するなどの方法により会計実地検査を行った。

(検査の結果)

検査したところ、支援基金の取崩額の算定に当たり、次のような事態が見受けられた。

(1) 減免措置実施後の収入額を用いて算定していた事態

前記のとおり、支援事業の対象は、東日本大震災に起因する事情により生徒数が減少したことに伴う減収額を対象とした補助とされていて、減免措置に伴う減収額を対象とした補助については支援事業の対象とならないことから、支援基金の取崩額の算定に当たっては、減免措置に伴う減収額を除外した減免措置実施前の収入額に基づく必要がある。

しかし、交付対象県のうち宮城、福島両県において、支援基金の取崩額の算定の対象とした私立学校142校のうち30校について、当該年度の対象費目の収入額を減免措置実施後の収入額としていて、生徒数が減少したことに伴う減収額だけでなく、支援事業の対象とならない減免措置に伴う減収額計4876万余円も含めていたため、支援基金の取崩額の算定に用いた収入額が同額分過小に算定されており、支援基金が過大に取り崩されていた。

なお、前記の交付対象県が行う減免措置に伴う減収額を対象とした補助については、支援事業とは別に国の被災児童生徒就学支援等臨時特例交付金等を原資とした助成制度があり、宮城、福島両県は、同制度を利用した補助も行っていたため、減免措置に伴う減収額に対して国費による助成が重複することとなっていた。

上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。

<事例1>

福島県は、平成23年度に、A幼稚園の授業料等納付金の減収額を対象に補助を行い、1053万余円を支援基金から取り崩しており、取崩額の算定に当たり、同園の同年度の対象費目の収入額を計4033万余円としていた。しかし、同園は、東日本大震災に起因する事情による経済的理由により就園が困難である幼児に対し保育料、入園料等の減免措置を実施しており、上記の収入額は減免措置実施後の収入額となっていた。したがって、この収入額には、生徒数が減少したことに伴う減収額だけでなく、支援事業の対象とならない減免措置に伴う減収額167万余円も含まれていたため、支援基金の取崩額の算定に用いた収入額が同額分過小に算定されており、同県は、支援基金150万余円を過大に取り崩していた。

なお、同県は、上記の補助とは別に、同園の減免措置に伴う減収額を対象として、国の被災児童生徒就学支援等臨時特例交付金を原資とした補助金167万余円を同園に対して交付していたため、国費による助成が重複することとなっていた。

(2) 私立学校の決算額に基づく調整を行わず、決算見込額に基づいて算定していた事態

実施要領等によれば、支援基金の取崩額の算定に用いる収入額は各私立学校の決算額に基づくこととされている。一方で、一般的に私立学校の決算額の確定は翌年度6月頃になることから、交付対象県は各私立学校の決算見込額に基づき支援基金の取崩しを行うことがあるが、この場合には、決算額の確定後に改めて決算額に基づく調整を行う必要がある。

しかし、宮城、福島両県において、前記の私立学校142校のうち21校について、決算額に基づく調整を行っていなかったため、支援基金の取崩額の算定に用いた収入額が計1852万余円過小に算定されており、支援基金が過大に取り崩されていた。

上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。

<事例2>

宮城県は、平成23年度に、B幼稚園の授業料等納付金の減収額を対象に補助を行い、853万余円を支援基金から取り崩しており、取崩額の算定に当たり、対象費目の収入額を同園の同年度の決算見込額に基づき計6379万余円としていた。しかし、同県は、その後、24年6月に、同園の決算額に基づく対象費目の収入額が、決算見込額より649万余円多い計7028万余円と確定していたにもかかわらず、同園の決算額に基づく調整を行っていなかった。したがって、支援基金の取崩額の算定に用いた収入額が649万余円分過小に算定されており、同県は、支援基金570万円を過大に取り崩していた。

これらの結果、宮城、福島両県において、23年度から27年度までの間に支援基金計4116万円(宮城県2625万円、福島県1491万円)が過大に取り崩されていた。

このように、支援基金の取崩額の算定に当たり、減免措置実施後の収入額を用いていたり、私立学校の決算額に基づく調整を行わず、決算見込額に基づいていたりしていて、支援基金の取崩額が過大に算定されていた事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。

(発生原因)

このような事態が生じていたのは、宮城、福島両県において、支援基金の取崩額の算定についての理解が十分でなかったことにもよるが、文部科学省において、交付対象県に対して、支援基金の取崩額の算定に当たり、減免措置に伴う減収額を除外した減免措置実施前の収入額に基づく必要があること及び各私立学校の決算額に基づく調整を行う必要があることを明確に示していなかったことなどによると認められた。

3 当局が講じた改善の処置

上記についての本院の指摘に基づき、文部科学省は、29年6月に事務連絡を発して、宮城、福島両県に対して、過大に取り崩されていた額の支援基金への返還を求めるとともに、交付対象県に対して、支援基金の取崩額の算定に当たり、減免措置に伴う減収額を除外した減免措置実施前の収入額に基づく必要があること及び各私立学校の決算見込額で取崩しを行った場合には改めて決算額に基づく調整を行う必要があることを明確に示して、周知徹底を図る処置を講じた。