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  • 平成28年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
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  • 第9 農林水産省|
  • 不当事項|
  • 補助金|
  • (2) 工事の設計が適切でなかったもの

水路の設計が適切でなかったもの[九州農政局](238)


 

  部局等 補助事業者等 間接補助事業者等 補助事業等 年度 事業費 左に対する国庫補助金等交付額 不当と認める事業費 不当と認める国庫補助金等相当額
            千円 千円 千円 千円
(238) 九州農政局 福岡県 久留米市
(事業主体)
農業用施設災害復旧 26、27 5,388 5,059 5,388 5,059

この補助事業は、久留米市が、久留米市武島地区内において、被災した水路を復旧することを目的として、水路(内空断面の高さ1.2m又は1.0m、幅1.2m、底版の厚さ0.1m、延長63.6m)を築造したものである。

同市は、水路の設計を「土地改良事業計画設計基準・設計「水路工」」(農林水産省農村振興局制定。以下「設計基準」という。)等に基づき行っていた。設計基準によれば、水路の安定を図るために、水路背面の地下水位(以下「周辺地下水位」という。)による水路の浮上に対する検討として、水路の自重と、土圧により水路背面に作用する摩擦力とを合わせた下向きの鉛直力を、周辺の地下水による上向きの鉛直力である揚圧力で除した値が、当該水路の目的、規模等を考慮して定めた安全率(1.1~1.2)以上となることを確認することとされている。また、設計を行う際に用いる地下水位(以下「設計地下水位」という。)については、周辺地下水位が水路の内空断面の高さ(以下「壁高」という。)の2分の1より高く、かつ、水路側壁の下部に水抜きを設置する場合は、壁高の2分の1の位置とすることとされている。

同市は、水路の設計に当たり、水路の周辺は田としても利用されているため周辺地下水位は壁高の2分の1より高くなるとし、水路側壁の下部に水抜きを設置することから、水路の左右両背面の設計地下水位を、水路の左右の側壁のうち低い方の右側側壁の壁高1.0mの2分の1である0.5mに底版の厚さ0.1mを加えた0.6mの高さとして浮上に対する検討を行い、この場合の安全率が必要とされる安全率1.1を満たしていると判断し、浮上に対して安全であるとしていた。

しかし、図面及び現地の状況を確認したところ、同市は、水路の左側背面は田及び畑として利用される土地であることから、田として利用する際には水の流出を防ぐために、水路の左側側壁に設置された水抜きをキャップにより開閉できるようにしていた。このため、水抜きをキャップにより閉じて田を湛水した場合には、水路の左側背面の周辺地下水位は水路の左側側壁の壁高1.2mに底版の厚さ0.1mを加えた1.3mの高さとなることから、水路に作用する揚圧力は設計よりも大きくなると認められる(参考図参照)。そこで、水路の左側背面の設計地下水位を1.3m、右側背面の設計地下水位を0.6mとするなどして浮上に対する検討を行ったところ、安全率は0.76となり、必要とされる安全率1.1を大幅に下回っていた。

したがって、本件水路(工事費5,388,120円)は、設計が適切でなかったため、湛水時において所要の安全度が確保されていない状況となっており、これに係る国庫補助金額5,059,444円が不当と認められる。

このような事態が生じていたのは、同市において、水路の設計に当たり、浮上に対する検討における設計地下水位についての理解が十分でなかったことなどによると認められる。

参考図

湛水時における設計地下水位の概念図

湛水時における設計地下水位の概念図 画像