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  • 平成28年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第11 国土交通省|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

(2) 社会資本整備総合交付金等の交付を受けて地方公共団体が実施する公共工事において、総合評価落札方式による入札には最低制限価格が設定できないことを地方公共団体に対して周知徹底し、誤って設定した最低制限価格により価格その他の条件が最も有利な者が失格として排除されないよう改善させたもの


会計名及び科目
一般会計 (組織)国土交通本省 (項)社会資本総合整備事業費 等
自動車安全特別会計(空港整備勘定)
(項)離島空港整備事業費
東日本大震災復興特別会計
(組織)国土交通本省 (項)社会資本総合整備事業費
部局等
10都府県
交付等の根拠
道路法(昭和27年法律第180号)、河川法(昭和39年法律第167号)等、予算補助
事業主体
都、府1、県6、市11、区2、町2、計23事業主体
総合評価落札方式の概要
価格その他の条件が最も有利なものをもって入札した者を落札者とする方式
検査の対象とした総合評価落札方式による入札の契約件数及び契約金額
5,081件 1兆1169億1046万余円(平成27、28両年度)
上記に対する交付金等交付額
2854億5224万余円
最低制限価格制度を誤って適用して最低制限価格を設定していた契約件数及び契約金額
2,301件 3745億0652万余円(平成27、28両年度)
上記に対する交付金等交付額
1224億9672万余円
最低制限価格を設定していた契約のうち評価値の最も高い者をその価格を下回る価格で入札したことをもって失格として排除していた契約件数及び契約金額
640件 728億6536万余円(平成27、28両年度)
上記に対する交付金等交付額
269億8739万円

1 公共工事に係る入札及び契約制度の概要

(1) 総合評価落札方式の概要

国土交通省は、道路法(昭和27年法律第180号)、河川法(昭和39年法律第167号)等に基づき、道路事業、河川事業等を行う地方公共団体に対して、毎年度、多額の社会資本整備総合交付金等(以下「交付金等」という。)を交付している。そして、地方公共団体は、交付金等の交付を受けて、公共工事を請負契約により多数実施している。

地方公共団体は、競争入札に付して工事請負契約を締結する場合には、地方自治法(昭和22年法律第67号)第234条第3項本文の規定に基づき、地方公共団体の定める予定価格の制限の範囲内で最低の価格で入札した者を落札者とすることとなっている(以下、この方式を「最低価格落札方式」という。)。ただし、同条同項ただし書の規定に基づき、地方公共団体は、政令の定めるところにより、最低価格落札方式によらずに落札者を決定することができることとなっており、平成11年に改正された地方自治法施行令(昭和22年政令第16号。以下「施行令」という。)第167条の10の2第1項において、契約がその性質又は目的から最低価格落札方式により落札者を決定し難いものである場合には、価格その他の条件が地方公共団体にとって最も有利なものをもって入札した者(以下「価格その他の条件が最も有利な者」という。)を落札者とすることができることとなっている(以下、この方式を「総合評価落札方式」という。)。

総合評価落札方式は、公共工事の品質確保の促進に関する法律(平成17年法律第18号)において、公共工事の品質は、経済性に配慮しつつ価格以外の多様な要素をも考慮し、価格及び品質が総合的に優れた内容の契約がなされることにより、確保されなければならないと規定されたことにより、公共工事の品質を確保するための主要な取組の一つとなっている。

そして、地方公共団体の運営に関する制度の企画及び立案に関することを所掌する総務省と建設工事の請負契約の適正化に関することを所掌する国土交通省が連名で、公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律(平成12年法律第127号)に基づき地方公共団体に対して発出した「公共工事の入札及び契約の適正化の推進について」(平成18年総行行第208号総務省自治行政局長、国総入企第49号国土交通省総合政策局長連名通知)において、発注者は、総合評価落札方式の導入に向けて評価基準を整備するなど円滑な実施に必要な措置を講ずることとなっている。

総合評価落札方式による入札における落札者の決定方法等は、「地方公共団体向け総合評価実施マニュアル」(平成19年3月国土交通省作成)に例が記載されている。これによれば、地方公共団体は、入札参加者から提出された技術資料を基に、同種工事の施工実績、工事成績等の価格以外の要素を数値化した技術に関する評価点(以下「技術評価点」という。)を算出し、それを入札価格で除するなどして算定した数値(以下「評価値」という。)で入札参加者の評価を行い、評価値の最も高い者を落札者とすることとされている。

(2) 契約の内容に適合した履行を確保するための制度

地方公共団体が競争入札に付して工事請負契約を締結する場合において、契約の内容に適合した履行を確保することを目的として、施行令に基づき、最低価格での入札者を落札者としないことができることとなっており、当該入札者を排除できる制度として最低制限価格制度がある。最低制限価格制度は契約の内容に適合した履行を確保するために特に必要があると認められるときに、あらかじめ最低制限価格を設けて、これを下回る価格で入札した者は無条件に失格として落札者としない制度であり、施行令第167条の10第2項により、最低価格落札方式による入札にのみ適用されるものである。一方、総合評価落札方式による入札においては、価格と価格以外の要素を総合的に評価して評価値の最も高い者を落札者とするという総合評価落札方式の趣旨に鑑みて、落札者の決定に当たり価格のみを考慮する最低制限価格制度は適用できないこととされている。

なお、契約の内容に適合した履行を確保するための制度としては、このほか、入札価格が地方公共団体が定めた基準価格を下回った場合、入札者により契約が適正に履行されるかどうかを調査した上で当該入札者を落札者としないことができる低入札価格調査制度があり、最低価格落札方式と総合評価落札方式のいずれによる入札にも適用される。

2 検査の結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

地方公共団体は、国土交通省から交付金等の交付を受けて、公共工事を多数実施しており、同省が実施した調査によれば、総合評価落札方式による入札は、27年度において23,805件と多数に上っている。

そこで、本院は、合規性等の観点から、地方公共団体が発注する公共工事において、総合評価落札方式による入札における落札者の決定は、施行令に基づいて適正に実施されているかなどに着眼して検査した。

検査に当たっては、16都道府県(注1)及び127市区町、計143事業主体が、27、28両年度に国土交通省から交付金等の交付を受けて実施した公共工事のうち、総合評価落札方式による入札を実施して落札者を決定した当初契約金額5000万円以上の工事請負契約5,081件(契約金額計1兆1169億1046万余円、交付金等交付額計2854億5224万余円)を対象として、契約書、入札状況調書、評価結果書等の関係書類を確認するなどして会計実地検査を行った。

(注1)
16都道府県  東京都、北海道、京都、大阪両府、埼玉、神奈川、富山、静岡、愛知、兵庫、奈良、和歌山、鳥取、山口、福岡、長崎各県

(検査の結果)

検査したところ、12都道府県の68事業主体が締結した工事請負契約2,301件(検査の対象とした5,081件の45.3%。契約金額計3745億0652万余円、交付金等交付額計1224億9672万余円)において、総合評価落札方式による入札には適用できない最低制限価格制度を誤って適用して、最低制限価格を設定していた。

そこで、価格その他の条件が最も有利な者が誤って設定された最低制限価格により失格として排除されていないかについて、事業主体から提出を受けた落札者及び失格者の評価値を確認したところ、のとおり、10都府県の23事業主体(注2)が締結した工事請負契約640件(契約金額計728億6536万余円、交付金等交付額計269億8739万余円)において、評価値の最も高い者すなわち価格その他の条件が最も有利な者が、誤って設定された最低制限価格を下回る価格で入札したことをもって失格として排除されていた。

表 価格その他の条件が最も有利な者が失格となっていた契約

(単位:件、万円)
項目 検査の対象
左のうち誤って最低制限価格を設定していた契約 左のうち価格その他の条件が最も有利な者が失格となっていた契約
契約件数 5,081 2,301 640
契約金額 1兆1169億1046 3745億0652 728億6536
交付金等交付額 2854億5224 1224億9672 269億8739

上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。

<事例>

兵庫県は、平成27年度に、総合評価落札方式による道路改良工事の入札に当たり、予定価格を255,200,000円(消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)抜き)、誤って、設定することができない最低制限価格を225,138,267円(消費税等抜き。予定価格の88.2%)と設定していた。そして、23者による入札の結果、誤って設定した最低制限価格を下回る価格で入札した8者を失格として排除した上で、最低制限価格を上回る価格で入札した15者のうち、技術評価点を入札価格で除するなどして算定した評価値が46.907と最も高かった者(技術評価点106.667点、入札価格227,400,000円(消費税等抜き。同89.1%))を落札者として、契約金額245,592,000円(消費税等込み。最終契約金額283,137,120円、交付金交付額141,568,560円)で契約を締結していた。

しかし、失格となった8者のうち、評価値の最も高い者は49.394(技術評価点107.333点、入札価格217,300,000円(消費税等抜き。同85.1%))と評価値が落札者より高くなっており、この者は技術評価点についても落札者より高くなっていた。

このように、交付金等の交付を受けて実施した総合評価落札方式による入札において、誤って最低制限価格を設定して価格その他の条件が最も有利な者を最低制限価格を下回る価格で入札したことをもって失格として排除していた事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。

(注2)
23事業主体  東京都、京都府、神奈川、愛知、兵庫、和歌山、鳥取、長崎各県、吉川、昭島、藤沢、岡崎、安城、舞鶴、米子、境港、北九州、大牟田、長崎各市、目黒、板橋両区、日高郡みなべ、日高川両町

(発生原因)

このような事態が生じていたのは、事業主体において、総合評価落札方式による入札には最低制限価格を設定できないことについての理解が十分でなかったことにもよるが、国土交通省において、事業主体に対して総合評価落札方式の趣旨及び総合評価落札方式による入札には最低制限価格を設定できないことについて十分に周知していなかったことなどによると認められた。

3 当局が講じた改善の処置

上記についての本院の指摘に基づき、国土交通省は、最低制限価格の設定により価格その他の条件が最も有利な者が失格として排除されることがないよう、総務省と連名で、29年9月に地方公共団体に対して通知を発して、総合評価落札方式による入札には最低制限価格を設定できないことなどについて、周知徹底する処置を講じた。