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  • 平成29年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
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  • (1) 工事の設計が適切でなかったもの

擁壁の設計が適切でなかったもの[中国四国農政局](199)


(1件 不当と認める国庫補助金 12,072,465円)

  部局等 補助事業者等 間接補助事業者等 補助事業等 年度 事業費 左に対する国庫補助金等交付額 不当と認める事業費 不当と認める国庫補助金等相当額
            千円 千円 千円 千円
(199) 中国四国農政局 香川県 三豊市
(事業主体)
農業用施設災害復旧 27、28 12,239 12,072 12,239 12,072

この補助事業は、三豊市が三豊市正宗地区において、平成27年7月の台風11号により被災したため池堤体の石積擁壁の機能回復を図るためにブロック積擁壁(高さ3.6m、延長14.5m)を築造するなどしたものである。

同市は、本件擁壁の設計を「土地改良事業計画設計基準及び運用・解説 設計 「水路工」」(農林水産省農村振興局整備部設計課監修。以下「基準」という。)等に基づいて行っている。そして、本件擁壁の設計に当たり、擁壁の前面に、洗掘対策としてセメントを添加した改良土で盛土を行い、この盛土により擁壁前面に生ずる土圧(以下「受働土圧」という。)25.350kN/mを、擁壁背面に生ずる土圧(以下「主働土圧」という。)に対する抵抗力として考慮して、転倒及び滑動に対する安定の検討を行い、安定計算上安全であるとして、これにより施工していた(参考図1参照)。

しかし、基準等によれば、転倒に対する安定の検討においては、受働土圧を主働土圧に対する抵抗力として考慮することとされていない。また、滑動に対する安定の検討においては、擁壁前面の盛土が洗掘等により取り除かれるおそれがあることなどから、原則として受働土圧を主働土圧に対する抵抗力として考慮しないとされており、洗掘等の対策を講じて抵抗力として考慮する場合であっても、受働土圧に0.5を乗じた値を抵抗力として用いることとされている(参考図2参照)。

そこで、基準等に基づいて、転倒に対する安定の検討においては受働土圧を抵抗力として考慮せず、滑動に対する安定の検討においては、洗掘等の対策として改良土で擁壁前面に盛土を行ったことを考慮して、受働土圧に0.5を乗じた12.675kN/mを抵抗力として、それぞれ安定計算を行ったところ、次のとおり、安定計算上安全とされる範囲に収まっていなかった。

① 転倒に対する安定については、擁壁の重量及び主働土圧の合力の作用位置が、擁壁の天端中央より2.034mの位置となり、転倒に対して安全であるとされる範囲1.947mを逸脱していた(参考図2参照)。

② 滑動に対する安定については、その安全率が1.16となり、許容値1.5を大幅に下回っていた。

したがって、本件擁壁(工事費12,239,640円)は、設計が適切でなかったため、所要の安全度が確保されていない状態になっており、これに係る国庫補助金12,072,465円が不当と認められる。

このような事態が生じていたのは、同市において、委託した設計業務の成果品に誤りがあったのに、これに対する検査が十分でなかったことなどによると認められる。

(参考図1)

当局の安定計算によるブロック積擁壁の概念図

当局の安定計算によるブロック積擁壁の概念図 画像

(参考図2)

修正後の安定計算によるブロック積擁壁の概念図

修正後の安定計算によるブロック積擁壁の概念図 画像