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  • 平成29年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第8 農林水産省|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

(3) 国営更新事業等の実施に当たり、支障となる他目的使用施設の移転等に要する費用を国が負担する場合の取扱いを明確にして周知徹底することなどにより、他目的使用施設の移転等に要する費用の負担が適正なものとなるよう改善させたもの


会計名及び科目
一般会計 (組織)農林水産本省
(項)農業生産基盤保全管理・整備事業費
(項)農地等保全事業費
(項)北海道開発事業費
部局等
農林水産本省、4農政局等、5事業所等
土地改良財産に係る他目的使用の概要
かんがい排水事業等の国営土地改良事業によって整備した用水路等の土地改良財産を他の用途又は目的に使用させ、若しくは収益させるなどするもの
国が負担した補償施設には該当しない施設等の原形復旧に係る工事費等相当額
1353万円(平成26年度~29年度)

1 土地改良財産の他目的使用の概要

(1) 土地改良事業及び土地改良財産の管理の概要

農林水産省は、土地改良法(昭和24年法律第195号)等に基づき、農業用用排水施設の整備を行うかんがい排水事業等の国営土地改良事業(以下「国営事業」という。)を実施している。

そして、農林水産省は、国営事業によって整備した用水路等の国有財産(以下「土地改良財産」という。)について、同法第94条の6の規定等に基づき、土地改良区等に管理を委託できることとなっている(以下、管理を受託した者を「管理受託者」という。)。

(2) 他目的使用に係る手続

土地改良法施行令(昭和24年政令第295号)によれば、管理受託者は、農林水産省の承認を受けて、受託に係る土地改良財産をその本来の用途又は目的を妨げない限度において他の用途又は目的に使用し、若しくは収益し、又は使用させ、若しくは収益させること(以下「他目的使用」という。)ができることとされている。

そして、管理受託者は、他目的使用に当たっては、土地改良財産の他目的使用を行おうとする者から他目的使用の申請を受けて、他目的使用の申請書に契約書の案等を添えて地方農政局長等に提出し、地方農政局長等から他目的使用の承認を受けた後に、同者と他目的使用契約を締結することとなっている。

この際、地方農政局長等は、他目的使用が当該土地改良財産の本来の用途又は目的を妨げないものであって、使用期間が原則として5年を超えない場合等に限り承認することができることとなっている。また、他目的使用契約を更新することなく、他目的使用契約に定められた使用期間が満了したときは、他目的使用を行う者(以下「使用者」という。)は、土地改良財産を使用者の負担により原状回復することとなっている。

(3) 国営更新事業等の支障となる他目的使用施設の取扱い

農林水産省は、土地改良財産の更新整備に係る国営事業(以下「国営更新事業」という。)等の実施に当たり、他目的使用契約に基づいて使用者が土地改良財産上に設置した施設等(以下「他目的使用施設」という。)が支障となる場合、原則として使用期間の満了をもって使用者に土地改良財産を原状回復させて工事に着手することとしている。

一方、平成16年3月以前の国営事業において、国が工事施工箇所に既に存在していた第三者所有の施設等を撤去等して、整備後の土地改良財産上に補償として原形に復旧する(以下「原形復旧」という。)などした他目的使用施設(以下「補償施設」という。)であって、他目的使用契約の締結の時点で、他目的使用契約に国営更新事業の計画等の内容及び時期が示されていない場合は、「国営更新事業における他目的使用施設の移転等の取扱いについて」(平成15年15農振第590号農林水産省農村振興局整備部設計課長通知。以下「課長通知」という。)に基づき、社会通念上やむを得ないものなどとして、国が施設等の移転等(原形復旧を含む。以下同じ。)に要する費用を負担することとなっている。

2 検査の結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

本院は、合規性、経済性等の観点から、国営更新事業等の支障となる他目的使用施設の移転等に要する費用が他目的使用契約に従って適切に負担されているかなどに着眼して、9農政局等(注1)が28年度末に41事業所等(注2)の管内において管理委託している土地改良財産を対象として、他目的使用施設の移転等に要する費用等に関する調書の提出を受けて、その内容を分析するとともに、農林水産本省、5農政局(注3)及び7事業所(注4)において関係書類を確認するなどして会計実地検査を行った。

(注1)
9農政局等  東北、関東、北陸、東海、近畿、中国四国、九州各農政局、北海道開発局、沖縄総合事務局
(注2)
41事業所等  平川二期、和賀中央、岩手山麓、中津山、平鹿平野、田沢二期、旭川、赤川、最上川下流左岸、会津南部、荒川中部、印旛沼二期、三方原用水二期、栃木南部、加治川二期、新川流域、信濃川左岸流域、関川用水、九頭竜川下流、湖東平野、東播用水二期、吉井川、香川用水二期、石垣島各農業水利事業所、新濃尾、矢作川総合第二期、那賀川、筑後川下流左岸、筑後川下流右岸各農地防災事業所、津軽土地改良建設事務所、駅館川農地整備事業所、札幌、函館、小樽、旭川、室蘭、釧路、帯広、網走、留萌、稚内各開発建設部
(注3)
5農政局  東北、関東、東海、近畿、中国四国各農政局
(注4)
7事業所  岩手山麓、赤川、荒川中部、新川流域、吉井川各農業水利事業所、矢作川総合第二期、那賀川両農地防災事業所

(検査の結果)

検査したところ、次のような事態が見受けられた。

前記の9農政局等において、26年度から29年度までの間に、国営更新事業等として実施された工事等の状況を確認したところ、4農政局等(注5)及び5事業所等(注6)は、幹線水路補修工事等計5件において5施設等の原形復旧に要する費用の負担が課長通知の対象となるなどとして、原形復旧に係る工事費等相当額計1353万余円を負担していた。

しかし、上記の5施設等はいずれも国以外の者が設置したものであり、補償施設に該当せず、さらに、5件のうち4件の施設等は、管理受託者である土地改良区が他目的使用の承認を受けていない施設等であった。そして、課長通知の対象が他目的使用施設のうち補償施設のみであることが明確でなかったり、他目的使用契約が締結されていなかったりしていたなどのため、4農政局等及び5事業所等は、5件の工事等において、課長通知における国営更新事業の計画等の内容及び時期が使用者に示されていない場合に該当するなどと誤認して、原形復旧に要する費用を負担していた。

上記について事例を示すと次のとおりである。

<事例>

中国四国農政局及び同農政局那賀川農地防災事業所は、国営総合農地防災事業として、平成27、28両年度に、幹線水路に係る工事を工事費268,056,000円で実施しており、この工事費には、開水路上部の農業協同組合所有の駐車場の原形復旧に要する費用(工事費相当額計9,263,408円)が含まれていた。

しかし、当該駐車場は、同組合が自ら設置したものであることから、補償施設に該当せず、これに係る原形復旧に要する費用を負担すべきでないのに、同農政局等は、課長通知の対象が補償施設のみであることが明確でなかったこと、他目的使用契約が締結されておらず、使用者に国営更新事業の計画等の内容及び時期が示されていなかったことなどから、課長通知の対象になると誤認して上記の費用を負担していた。

(注5)
4農政局等  東北、北陸、中国四国各農政局、北海道開発局
(注6)
5事業所等  平鹿平野、赤川、新川流域各農業水利事業所、那賀川農地防災事業所、札幌開発建設部

このように、課長通知の対象となる補償施設には該当しない施設等の原形復旧に要する費用を国が負担していた事態は適切とは認められず、改善の必要があると認められた。

(発生原因)

このような事態が生じていたのは、課長通知の対象が他目的使用施設のうち補償施設のみであることが明確でなく、4農政局等及び5事業所等において、その内容についての理解が十分でなかったことなどによると認められた。

3 当局が講じた改善の処置

上記についての本院の指摘に基づき、農林水産省は、30年9月に地方農政局等、事業所等に対して事務連絡を発して、課長通知が補償施設を対象としていることを明確にして周知徹底するなどの処置を講じた。