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各府省庁の災害関連情報システムに係る整備、運用等の状況について


検査対象
内閣府本府、総務省、消防庁、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、国土地理院、気象庁、海上保安庁、原子力規制委員会、防衛省
災害関連情報システムの概要
各府省庁が災害応急対策に用いる情報の収集等を行う情報システム
前記の府省庁が整備、運用等している災害関連情報システムの数
67システム
上記災害関連情報システムの整備経費及び運用等経費に係る支払額
整備経費396億6954万円
(平成24年度~29年度(29年9月30日まで))
運用等経費566億2355万円
(平成24年度~29年度(29年9月30日まで))
962億9310万円

1 検査の背景

(1) 我が国の災害対策に係る法制度等

ア 災害対策基本法の概要等

我が国の防災関係の基本法として、国土並びに国民の生命、身体及び財産を災害から保護するために、防災に関し、基本理念を定め、国、地方公共団体等を通じて必要な体制を確立し、責任の所在を明確にするとともに、必要な災害対策の基本を定めることにより、総合的かつ計画的な防災行政の整備及び推進を図ることなどを目的として、災害対策基本法(昭和36年法律第223号。以下「災対法」という。)が制定されている。

災対法によれば、国は、国土並びに国民の生命、身体及び財産を災害から保護する使命を有することに鑑み、組織及び機能の全てを挙げて防災に関し万全の措置を講ずる責務を有するとされている。また、内閣府に内閣総理大臣を会長とした中央防災会議を置くとされ、同会議は、災害予防、災害応急対策及び災害復旧の基本となる防災基本計画の作成、その実施の推進及び防災に関する重要事項の審議をそれぞれ行うなどとされている(図表0-1参照)。

図表0-1 中央防災会議組織図

図表0-1 中央防災会議組織図 画像

災対法は、阪神・淡路大震災、東日本大震災等の大規模な災害の発生を契機とするなどして改正されてきている(図表0-2参照)。

図表0-2 災対法の制定及び主な改正の内容

制定又は改正年月 制定又は改正の契機となった災害 制定又は改正の主な内容
昭和36年11月
(制定)
34年 伊勢湾台風
  • 防災に関し、必要な体制を確立し、責任の所在を明確にするとともに、必要な災害対策の基本を定めることにより総合的かつ計画的な防災行政の推進を図ることなどのために災対法を制定
平成7年12月
(第22回改正)
7年 阪神・淡路大震災
  • ボランティアや自主防災組織による防災活動の環境整備
  • 緊急災害対策本部の設置要件の緩和
  • 自衛隊の災害派遣要請の法定化
24年6月
(第51回改正)
23年 東日本大震災
  • 発災時における積極的な情報の収集・伝達・共有の強化
  • 救援物資等を被災地に確実に供給する仕組み
  • 地理空間情報の活用
25年6月
(第54回改正)
23年 東日本大震災
  • 被災者支援の充実
  • 住民等の円滑かつ安全な避難の確保
  • 大規模広域な災害に対する即応力の強化
  • 都道府県が災害の状況等を報告できなくなったときの指定行政機関の長等による情報収集
注(1)
緊急災害対策本部は、著しく異常かつ激甚な非常災害が発生した場合において、当該災害に係る災害応急対策を推進するため特別の必要があると認めるときに内閣総理大臣が閣議決定により内閣府に臨時に設置する機関であり、本部長は内閣総理大臣である。
注(2)
地理空間情報は、位置情報又は位置情報に関連づけられた情報である。

そして、平成24年6月の改正では、内閣総理大臣が指定する行政機関の長、地方行政機関の長(以下、両機関をそれぞれ「指定行政機関」及び「指定地方行政機関」といい、両機関を合わせて「指定府省庁」という。図表0-3参照)、地方公共団体の長等、内閣総理大臣が指定する公共機関(以下「指定公共機関」という。図表0-3参照)、都道府県知事が指定する地方公共機関(以下「指定地方公共機関」という。図表0-3参照)、公共的団体及び防災上重要な施設の管理者は、災害に関する情報を共有し、相互に連携して災害応急対策の実施に努めなければならないと規定された。また、25年6月の改正では、都道府県が被害状況の把握等を行うことができなくなったときは、指定行政機関の長は、その所掌事務に係る災害に関する情報の収集に特に意を用いなければならないなどと規定された。

図表0-3 災対法で指定された機関

機関名 定義
指定行政機関
中央省庁等で内閣総理大臣が指定する行政機関
平成12年総理府告示第62号により、内閣府、国家公安委員会、警察庁、金融庁、消費者庁、総務省、消防庁、法務省、外務省、財務省、文部科学省、文化庁、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、資源エネルギー庁、中小企業庁、国土交通省、国土地理院、気象庁、海上保安庁、環境省、原子力規制委員会、防衛省が指定されている。
指定地方行政機関
指定行政機関の地方支分部局その他の地方行政機関で、内閣総理大臣が指定するもの
平成12年総理府告示第63号により、沖縄総合事務局、管区警察局、総合通信局、沖縄総合通信事務所、財務局、地方厚生局、都道府県労働局、地方農政局、北海道農政事務所、森林管理局、経済産業局、産業保安監督部、那覇産業保安監督事務所、地方整備局、北海道開発局、地方運輸局、地方航空局、地方測量部及び沖縄支所、管区気象台、沖縄気象台、管区海上保安本部、地方環境事務所、地方防衛局が指定されている。
指定公共機関
独立行政法人、日本銀行、日本赤十字社、日本放送協会その他の公共的機関及び電気、ガス、輸送、通信その他の公益的事業を営む法人で、内閣総理大臣が指定するもの
昭和37年総理府告示第26号により、83法人が指定されている。
指定地方公共機関
地方独立行政法人、公共的施設の管理者及び都道府県の地域において電気、ガス、輸送、通信その他の公益的事業を営む法人で、当該都道府県知事が指定するもの

イ 防災基本計画の概要等

災対法によれば、防災基本計画は防災に関する基本的な計画であるとされている。

そして、防災基本計画(昭和38年6月策定)に基づき、指定行政機関の長等は、その所掌事務等に関して当該計画上に定められた重点を置くべき事項等を踏まえて防災業務計画等を作成するなどしており、指定行政機関等は、当該計画等に基づき防災に関して執るべき措置を実施している(図表0-4参照)。

図表0-4 災対法及び防災基本計画に基づく防災に関する計画の体系

図表0-4 災対法及び防災基本計画に基づく防災に関する計画の体系 画像

防災基本計画では、「第1編 総則」において、防災を時間の経過に応じて、①災害予防、②災害応急対策及び③災害復旧復興の3段階に分け、それぞれの段階における基本理念とこれにのっとり実施すべき施策の概要を定めており、各段階における基本理念は次のとおりとされている。

① 災害予防段階においては、災害の規模によってはハード対策だけでは被害を防ぎきれない場合もあることから、ソフト施策を可能な限り進め、ハード・ソフトを組み合わせて一体的に災害対策を推進する。また、最新の科学的知見を総動員し、起こり得る災害及びその災害によって引き起こされる被害を的確に想定するとともに、過去に起こった大規模災害の教訓を踏まえ、絶えず災害対策の改善を図ることとする。

② 災害応急対策段階においては、発災直後は、可能な限り被害規模を早期に把握するとともに、正確な情報収集に努め、収集した情報に基づき、生命及び身体の安全を守ることを最優先に、人材・物資等災害応急対策に必要な資源を適切に配分する。また、被災者のニーズに柔軟かつ機敏に対応するとともに、高齢者、障害者その他の特に配慮を要する者に配慮するなど、被災者の年齢、性別又は障害の有無といった被災者の事情から生ずる多様なニーズに適切に対応する。

③ 災害復旧復興段階においては、速やかに施設を復旧し、被災者に対して適切な援護を行うことにより、被災地の復興を図る。

そして、第2編以降の各編において、地震、津波、風水害等の各災害に共通する対策及び個別の災害に対する具体の対策について、各段階における諸施策が示されている。

前記の各段階における各災害に共通する対策は、防災基本計画「第2編 各災害に共通する対策編」(以下「共通対策編」という。)に示されており、その構成は図表0-5のとおりである。

図表0-5 防災基本計画の共通対策編の構成

第1章 災害予防

  • 第1節 災害に強い国づくり、まちづくり
  • 第2節 事故災害の予防
  • 第3節 国民の防災活動の促進
  • 第4節 災害及び防災に関する研究及び観測等の推進
  • 第5節 事故災害における再発防止対策の実施
  • 第6節 迅速かつ円滑な災害応急対策、災害復旧・復興への備え


第2章 災害応急対策

  • 第1節 災害発生直前の対策
  • 第2節 発災直後の情報の収集・連絡及び活動体制の確立
  • 第3節 災害の拡大・二次災害・複合災害の防止及び応急復旧活動
  • 第4節 救助・救急、医療及び消火活動
  • 第5節 緊急輸送のための交通の確保・緊急輸送活動
  • 第6節 避難の受入れ及び情報提供活動
  • 第7節 物資の調達、供給活動
  • 第8節 保健衛生、防疫、遺体対策に関する活動
  • 第9節 社会秩序の維持、物価の安定等に関する活動
  • 第10節 応急の教育に関する活動
  • 第11節 自発的支援の受入れ


第3章 災害復旧・復興

  • 第1節 地域の復旧・復興の基本方向の決定
  • 第2節 迅速な原状復旧の進め方
  • 第3節 計画的復興の進め方
  • 第4節 被災者等の生活再建等の支援
  • 第5節 被災中小企業の復興その他経済復興の支援

また、23年12月に修正された後の防災基本計画の共通対策編によれば、災害の規模や被害の程度に応じ、国、地方公共団体、公共機関等は、被害情報等の収集・連絡を迅速に行うこととし、概括的な情報や地理空間情報も含め多くの情報を効果的な通信手段・機材、情報システムを用いて伝達・共有し、被害規模の早期把握を行う必要があるとされている。

(2) 災害発生時における被害状況等の報告の手順等

ア 災対法に基づく被害状況等の報告の手順

災対法に基づく被害状況等の主な報告の手順は、次のとおりとなっている(図表0-6参照)。

① 市町村は、当該市町村の区域内に災害が発生したときは、速やかに、当該災害の状況及びこれに対して執られた措置の概要を都道府県等に報告する。

② 都道府県は、当該都道府県の区域内に災害が発生したときは、速やかに、当該災害の状況及びこれに対して執られた措置の概要を内閣総理大臣に報告する。

③ 指定行政機関の長及び指定公共機関の代表者は、その所掌事務等に係る災害が発生したときは、速やかに、当該災害の状況及びこれに対して執られた措置の概要を内閣総理大臣に報告する。

④ 内閣総理大臣は、上記の①から③までに係る報告を受けたときは、当該報告に係る事項を中央防災会議に通報する。

イ 防災基本計画に基づく被害状況の情報等の収集・連絡の手順

防災基本計画では、共通対策編において、被害状況の情報等の報告の手順が災対法よりも詳細に定められており、その手順は、主に、災害発生直後に行う被害の第一次情報等の収集・連絡と、各府省庁が被害の第一次情報等の収集・連絡の次に災害応急対策の実施に必要とする詳細情報の収集・連絡を行う一般被害情報等の収集・連絡という二つにまとめられている(図表0-6参照)。

(ア) 被害の第一次情報等の収集・連絡手順

被害の第一次情報等の収集・連絡の主な手順は、防災基本計画において次のとおりとなっている。

① 市町村は、人的被害の状況、建築物の被害、火災、津波、土砂災害の発生状況等の情報を収集するとともに、被害規模に関する概括的な情報を含め、把握できた範囲から直ちに都道府県等に報告する。

② 都道府県は、市町村等から情報を収集するとともに、自らも必要な被害規模に関する概括的情報を把握するなどして、これらの情報を国(消防庁)に報告する。

③ 国(内閣府、警察庁、消防庁、国土交通省、海上保安庁、防衛省等)、指定公共機関等は、必要に応じ、自らも各種通信手段の活用等により、被害の第一次情報や被害規模に関する概括的な情報等を速やかに把握し、官邸(内閣官房)及び内閣府(事故災害においては安全規制等担当省庁)に連絡する。そして、当該連絡を受けた官邸(内閣官房)及び内閣府は、被害規模を迅速に把握するとともに、当該情報を速やかに関係機関に連絡する。

④ 国(内閣府、警察庁、消防庁、国土交通省、海上保安庁、防衛省等)及び地方公共団体は、必要に応じ、官邸及び非常災害対策本部(注1)又は緊急災害対策本部(以下、両本部を合わせて「非常本部等」という。)を含む指定行政機関等と収集した被災現場の画像情報の共有を図る。

⑤ 大規模な災害が発生した場合には、必要に応じ、官邸において、関係府省庁等幹部による情報の集約等を行う。この場合、必要に応じ、関係指定行政機関を通じて又は直接に、地方公共団体の被害状況の確認を行う。

(イ) 一般被害情報等の収集・連絡手順

一般被害情報等の収集・連絡の主な手順は、防災基本計画において次のとおりとなっている。

① 都道府県や市町村は、被害の情報を収集し、必要に応じ消防庁及び関係省庁に当該情報を連絡する。消防庁及び関係省庁は、官邸(内閣官房)及び内閣府(非常本部等の設置後は非常本部等)に当該情報を連絡する。

② 指定公共機関は、その業務に係る被害情報を収集し、直接又は関係指定行政機関等を通じて官邸(内閣官房)、内閣府及び関係省庁(非常本部等の設置後は、非常本部等)に当該情報を連絡する。

③ 指定行政機関は、その所掌事務に係る被害情報を収集し、必要に応じて、官邸(内閣官房)、内閣府及び関係省庁(非常本部等の設置後は、非常本部等)に当該情報を連絡する。

④ 官邸(内閣官房)、内閣府又は非常本部等は、必要に応じて、収集した被害情報を内閣総理大臣に報告する。

⑤ 官邸(内閣官房)、内閣府又は非常本部等は、収集した被害情報を共有するために、指定行政機関及び指定公共機関に連絡する。

⑥ 非常本部等は、収集した被害情報を都道府県に連絡する。

(注1)
非常災害対策本部  非常災害が発生した場合において、当該災害の規模その他の状況により当該災害に係る災害応急対策を推進するため特別の必要があると認めるときに、内閣総理大臣が内閣府に臨時に設置する機関であり、本部長は防災担当大臣である。

図表0-6 災害発生時における被害状況の情報等の流れ

図表0-6 災害発生時における被害状況の情報等の流れ 画像

(3) 災害対策に用いる防災情報システムに係る計画等

ア 防災情報システム整備の基本方針

防災基本計画によれば、情報の収集・連絡体制の整備について、国等は、被災地における情報の迅速かつ正確な収集・連絡を行うために、情報の収集・連絡システムのIT化に努めることとされている。

中央防災会議は、指定行政機関等が個々に整備している防災情報システムの相互の連携がとられていない面があり、効果的な防災対策に結び付いておらず指定行政機関等間での防災情報の共有化が必要であるとして、14年10月に「防災情報の共有化に関する専門調査会」を設置した。そして、同専門調査会は、政府が緊急に推進すべき防災情報システムの整備戦略について検討を行い、中央防災会議は、当該検討結果を受けて、15年3月に、防災情報システムの整備の推進に向けた具体的施策を取りまとめた「防災情報システム整備の基本方針」(平成15年3月中央防災会議決定。以下「基本方針」という。)を決定した。

基本方針によれば、情報は、災害時において状況に即応した対応を行うなどのために最も基礎となるものであること、広域的で大規模な災害に的確に対応するためには、大容量のデータの的確な流通を可能とする情報システムの実現とそれによる情報共有が不可欠であることなどとして、情報の共通化・標準化を図りITを活用した防災電子政府を構築するなどとされている。そして、指定行政機関等が共有すべき情報の形式を標準化し、当該情報を共通のシステムに集約し、その情報にいずれからもアクセスできる防災情報共通プラットフォーム(以下「防災PF」という。)を構築して、①迅速・的確な情報収集、②信頼性の高い大容量データ通信体系等の整備、③総合化による情報の有効活用、④的確で効果的な住民等への情報提供、⑤情報の共通化・標準化及び⑥防災情報システム整備推進体制の整備を推進する各種の施策が示された。

イ 災害管理業務の業務・システム最適化計画

13年1月に、高度情報通信ネットワーク社会形成基本法(平成12年法律第144号)に基づき、内閣総理大臣を本部長とした高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部が設置され、電子政府の推進体制が構築された(図表0-7参照)。

図表0-7 電子政府の推進体制図(平成30年3月時点)

図表0-7 電子政府の推進体制図(平成30年3月時点) 画像

そして、同本部が14年9月に設置した各府省情報化統括責任者(CIO)連絡会議(以下「CIO連絡会議」という。)は、国の災害における情報の収集、確認及び集約並びに対策の実施に関わる情報の共有に係る業務や当該業務に係る情報システムについて、17年12月に、内閣府を担当府省とする「災害管理業務の業務・システム最適化計画」(平成17年12月各府省情報化統括責任者(CIO)連絡会議決定。以下「最適化計画」という。)を策定した。

最適化計画によれば、基本方針を受けて内閣府が構築した防災PFにより防災情報の共有化を図ることとされ、次の①から⑥までの各事項を実施することとされている。

  • ① 横断的に共有化すべき情報の整理
  • ② 防災情報の形式の標準化
  • ③ 情報の統合化、視覚化、共有化
  • ④ 運用ルールの明確化による恒常的な利用
  • ⑤ セキュリティ対策の向上
  • ⑥ 地方公共団体、企業、住民等との連携

内閣府は、最適化計画は26年3月に終了しているとしているが、「業務・最適化計画について」(平成26年4月各府省情報化統括責任者(CIO)連絡会議決定)によれば、その実施状況について引き続きフォローアップを行うものとされ、最適化計画に記載する実施内容を変更する場合においては、内閣官房及び総務省が示す要領に基づき、最適化計画を改定するものとされている。そして、CIO連絡会議が同年4月に公表した「2012年(平成24年)度災害管理業務・システム最適化実施評価報告書」(平成26年4月各府省情報化統括責任者(CIO)連絡会議報告)によれば、内閣府は、今後も情報の統合化、視覚化及び共有化を推進するとともに、災害時に被害状況を把握することができる省庁とのデータや情報システムの連係を引き続き進めていく必要があり、東日本大震災等の教訓を生かし、更なる改善に取り組んでいく必要があるとされている。

(4) 総合防災情報システムの概要等

ア 総合防災情報システムの概要

内閣府は、前記のとおり、基本方針及び最適化計画に基づき、17年度に防災PFを整備し、横断的に共有すべき情報を防災PFに登録し、情報共有を行うこととして、18年度から運用を開始し、機能拡張を続けてきた。

その後、22年8月に改定された最適化計画において、防災PF、地震の震源や震度を基に被害を推計する地震防災情報システム(DIS)及び人工衛星等を活用した被害早期把握システム(RAS)の三つの情報システムを統合し、総合防災情報システム(以下「総防システム」という。)として一体的に運用、管理を行うこととし、防災PFに対して実施するとされていた各事項は、総防システムに対して実施することとされた。

そして、内閣府は、23年5月に、総防システムの運用を開始した。

23年12月に修正された後の防災基本計画の共通対策編によれば、国、地方公共団体等は、情報の共有化を図るために、各機関が横断的に共有すべき防災情報の形式を標準化し、総防システムに集約できるように努めることとされている。

総防システムでは、各指定府省庁等が入力したり、閲覧したりする情報を、図表0-8のとおり、15種類に分類して整理している。

図表0-8 総防システムにおける情報の分類

情報項目
1.津波 6.ガス 11.鉄道
2.台風 7.水道 12.被害報
3.地震 8.電話回線 13.施設情報
4.地震被害推計 9.河川・ダム 14.部隊派遣
5.電力 10.道路 15.ヘリ位置

イ 総防システムへの各指定府省庁からの接続手段

内閣府は、各指定府省庁、指定公共機関等を結ぶ無線及び有線の通信設備によって構成される通信ネットワークとして中央防災無線網を整備しており、総防システムはこれに接続することによって、災害時にも運用することができるよう考慮するなどした仕様となっている。

各指定府省庁等は、原則として中央防災無線網又は同無線網に接続した政府共通ネットワーク(24年12月31日以前は霞が関WAN。以下同じ。)を経由して情報システムに係る機器や端末を総防システムに接続することになる。

ウ 総防システムによる情報共有方法

各指定府省庁等の情報システムが収集するなどした情報は、次のいずれかの方法で総防システムに集約されることになっている(図表0-9参照)。

① 各指定府省庁及び指定公共機関は、保有する情報システムと総防システムとの情報連携(注2)を行い、当該情報システムの情報を総防システムに自動入力する。

② 各指定府省庁は、それぞれに与えられたアカウントを利用して総防システムにログインし、情報を総防システムに手入力する。

(注2)
情報連携  異なる情報システムの間で保有する情報について、情報システム間を接続して自動的に共有する仕組み

また、内閣府は、総防システムに登録された情報を次の方法で各指定府省庁と共有することとしている(図表0-9参照)。

③ 総防システムと各指定府省庁及び指定公共機関が保有する情報システムとの情報連携を行い、総防システムに自動入力や手入力された情報を当該情報システムに自動入力する。

④ 各指定府省庁は②と同様の方法により総防システムにログインし、自ら又は他府省庁が総防システムに登録した情報を閲覧する。

図表0-9 総防システムへの情報の登録方法と登録された情報の共有方法

図表0-9 総防システムへの情報の登録方法と登録された情報の共有方法 画像

このように、各指定府省庁及び指定公共機関が、情報を総防システムに自動入力するなどして当該情報を総防システムに一元的に登録することにより、各指定府省庁及び指定公共機関は、当該情報を共有することができるようになっている。また、総防システムは、登録された気象情報、地震情報、河川情報、ライフラインの状況、避難所の状況、道路状況等の各種の情報のうち地理空間情報を電子地図上に重ねて表示することにより、防災業務の実施における状況判断等に活用できるようになっている。

エ 総防システムに対する政府による検証

総防システムは、24年6月に開催された内閣官房・内閣府行政事業レビュー「公開プロセス」の対象とされ、この評価結果において、「大幅な改善を要する」とされた。そして、取りまとめコメントにおいて、実際の運用を想定したシステム設計とすべき、民間・他省庁の資源との連携をすべき、地方公共団体と共有できるシステムを整備すべき及び効果の検証を行うべきとされた。

これに対して内閣府は、「行政事業レビュー点検結果の平成25年度予算概算要求への反映状況について」において「機能拡張項目を整理し、他機関との連携・共有に重点化を図るなど、事業内容の見直しを行った」としている。

(5) 災害情報ハブ推進チームにおける標準化災害情報プロダクツの提示

28年7月に中央防災会議の防災対策実行会議の下に設置された「熊本地震を踏まえた応急対策・生活支援策検討ワーキンググループ」は、28年12月に取りまとめた「熊本地震を踏まえた応急対策・生活支援策の在り方について(報告書)」(平成28年12月中央防災会議防災対策実行会議熊本地震を踏まえた応急対策・生活支援策検討ワーキンググループ)において、防災分野におけるICTの導入が進んでいないとした。

これを踏まえるなどして、中央防災会議は、災害時に、国、地方公共団体、民間企業等の各機関がそれぞれ保有している様々な情報を共有することが重要であるとして、各種の情報について取扱いや共有・利活用に係るルール等に関する仕組みづくりを行うために、29年4月に防災対策実行会議の「災害対策標準化推進ワーキンググループ」の下に、内閣府副大臣(防災担当)を座長とした国と地方・民間の「災害情報ハブ」推進チーム(以下「災害情報ハブ推進チーム」という。)を立ち上げた。そして、29年4月の災害情報ハブ推進チームの第1回検討会において、国立研究開発法人防災科学技術研究所(以下「防災科研」という。)等が府省庁連携防災情報共有システム(注3)で集約及び提供することを検討している情報項目案の一覧(以下「標準化災害情報プロダクツ」という。)が、災害対策における情報の必要性を示す資料として提出された。

標準化災害情報プロダクツは、指定行政機関等が運用している情報システムで取り扱われている多様な形式の災害に関する情報を集約して、当該情報の形式を変換して提供するために、図表0-10のとおり、情報項目を3の大分類、20の中分類、63の小分類に整理したものとなっている。

図表0-10 標準化災害情報プロダクツにおける情報項目

大分類 中分類 小分類 大分類 中分類 小分類 大分類 中分類 小分類
ハザード 地震 (1) 震源情報 被害 人的被害状況 (22) 死傷・行方不明者 対応 医療 (46) 医療施設状況
(2) 震度情報 (23) 孤立状況 避難 (47) 避難勧告・指示
津波 (3) 津波警報・注意報 (24) 人の分布 (48) 避難所状況
(4) 津波情報 建物 (25) 住家被害状況 物資 (49) 物資拠点状況
(5) 津波浸水情報 (26) 非住家被害状況 (50) 物資要請状況
火山 (6) 噴火警報・予報 施設 (27) 庁舎状況 (51) 物資調達状況
(7) 噴火速報 (28) 文教施設状況 廃棄物 (52) 清掃施設状況
(8) 降灰予報 (29) 河川・ダム施設状況 (53) 廃棄物発生状況
気象 (9) 警報・注意報 (30) 農業施設状況 派遣 (54) 医療活動
(10) 降水量(現況) (31) 産業施設状況 (55) 警察庁(広域緊急援助隊)
(11) 降水短時間予報 (32) 燃料供給状況 (56) 消防庁(緊急消防援助隊)
(12) 積算雨量 交通 (33) 道路状況 (57) 防衛省(自衛隊)
(13) 積雪量 (34) 鉄道運行状況 (58) 国土交通省 (TEC-FORCE)
台風 (14) 台風情報(現況) (35) 港湾施設状況 (59) 地方自治体
(15) 台風経路図 (36) 空港施設状況 (60) 災害ボランティア
洪水 (16) 河川洪水情報 ライフライン (37) 電力供給状況 生活再建支援 (61) 被害認定状況
(17) ため池情報 (38) ガス供給状況 (62) 罹災証明書発行状況
(18) 浸水(内水氾濫)情報 (39) 水道供給状況 (63) 仮設住宅供給状況
土砂災害 (19) 土砂災害警戒情報 (40) 下水道状況  
(20) 土砂災害警戒判定メッシュ 通信 (41) 固定電話状況
(21) 土砂災害箇所 (42) 携帯電話状況
  (43) インターネットアクセス状況
写真・映像 (44) 定点カメラ
(45) 空撮写真・映像

災害情報ハブ推進チーム第1回検討会においては、標準化災害情報プロダクツの検討が進められるなどして、府省庁連携防災情報共有システムが整備された場合は、指定行政機関等が運用している各情報システムを同システムが仲介することにより、それぞれ連携するための機能等を付加することなく当該情報システム間で情報の相互利用が可能になるとしている。

(注3)
府省庁連携防災情報共有システム  指定行政機関等が運用している情報システムで取り扱われている多様な形式の情報を集約し、災害に対応する者の業務に即応可能な形に加工し、災害に対応する者の求める形式に変換して提供する情報システム。内閣府に設置された総合科学技術・イノベーション会議が創設した「戦略的イノベーション創造プログラム」(平成26年5月総合科学技術・イノベーション会議決定)に基づき防災科研等が、26年度から30年度までの予定で当該情報システムの研究開発を行うとされている。