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  • 昭和28年度|
  • 第2章 国の会計|
  • 第4節 各所管別の不当事項および是正事項|
  • 第8 通商産業省|
  • (一般会計)|
  • 不当事項|
  • 補助金

国庫補助金の交付について処置当を得ないもの


(1882)−(1886) 国庫補助金の交付について処置当を得ないもの

(昭和27年度) (組織)工業技術院 (項)科学技術研究助成
(組織)通商産業省 (項)工作機械試作補助
(組織)工業技術院 (項)科学技術研究助成費

 通商産業省および工業技術院で、鉱工業等に関する技術の研究、工業化試験または新規の機械設備等の試作を奨励助長するため、その試験研究を行う者に対し工作機械試作補助として昭和28年度25事項100,000,000円、科学技術研究助成として27年度289事項426,000,000円、および科学技術研究助成費として28年度320事項599,700,000円を交付しているが、国庫補助金交付の時期が適切でなかったり、交付後の指導監督に欠けるところがあることなどにより、試験研究が著しく遅延しているもの、はなはだしいものは当初から試験研究を全然実施しなかったものがあるなど遺憾な事例が少なくない。
 本件国庫補助金は、相当多額に交付されるものであり、補助を受けるものの負担も重いものであるから、試験研究の基礎的な研究または資料のしゅう集、資金計画、設備計画等研究の前提となる基礎的条件を充足しているかどうかを十分調査勘案して国庫補助金交付の方法、時期等を決定する要があり、交付後においてもその設備および試験研究の進ちょく状況等については実体のは握に努め、適切な監督を行うことが望ましい。
 いま、そのおもな事例をあげれば次のとおりである。

(1882)  通商産業省で、池貝鉄工株式会社に対し「生産治具中ぐりフライス盤」の工作機械試作費補助金として、試作研究に必要な経費14,500,000円のうち、機械装置費等10,258,300円に費途を指定し、28年11月4,800,000円を交付している。 
 本件試作機械は、米国デブリーグ会社製の精密治具フライス盤の性能を研究してから試作するものであり、右精密治具フライス盤については、池貝鉄工株式会社が別途に27年10月同省から工作機械輸入補助金の交付指令を受けて、デブリーグ会社から輸入することとなっていたが、この機械は、米国の国防生産法に基く米国政府の許可を得られないため輸入が遅延しており、この事情は担当者においても当然に知っていたものと認められ、また、28年7月デブリーグ会社から池貝鉄工株式会社に対して29年5月以前には出荷不能であることが通知されていたのであるから、池貝鉄工株式会社について調査してもこのような事実は判明することができたものと認められ、したがって、本件機械の試作実施期限としている年度内には試作することができないことはもちろん、設計に着手することさえできないことが明らかであったのに国庫補助金の全額を交付しており、同会社の年度内における実際の支払額はわずかに人件費87,866円にすぎない状況である。

(1883)  通商産業省で、池貝鉄工株式会社に対し「倣いフライスおよび型彫盤」の工作機械試作費補助金として、試作に必要な経費10,340,000円のうち、機械装置費等8,013,900円に費途を指定し、28年12月4,000,000円を交付している。
 本件は、基礎研究として高性能倣い削り方式の研究およびこれに伴う倣いフライス装置の試作を終ってから実施するもので、右基礎研究については、同会社が別途に27年10月工業技術院から応用研究補助金の交付を受けていたが、28年10月に至り29年3月末日まで完了期日の延期申請をしていた状況であるから、この間の事情を調査すれば、当然機械の試作実施期限としている年度内には試作することができないことはもちろん、その設計も完了することは困難であることが明らかとなったものと認められるのに国庫補助金の全額を交付しており、同会社の年度内における支払額はわずかに人件費249,481円にすぎない状況である。

(1884)  工業技術院で、濱野繊維工業株式会社に対し「綿布高圧拡布連続精練操作に溶融合金密封処理かんを応用する試験」の工業化試験費補助金として、試験に必要な経費27,270,900円のうち、機械装置費24,375,000円に費途を指定し、27年12月8,500,000円を交付している。
 29年4月本院会計実地検査の際の調査によると、本試験の主要な装置である処理かん(21,575,000円)製造についての労働基準局の許可が遅延したため試験に必要な前記施設は全く設置されていない。
 右処理かんの製造ならびに設置については労働基準局の許可を要するものであり、その申請、許可に相当の時日を要した事情はあるが、本来このように主要な装置の施設等について監督官庁の許可を要するようなものについては、少なくともその設計について仮許可程度のものは受けて初めて将来の見とおしをたてることができることになるのであるから、国庫補助金の交付時期もこれらの事実を確認して決定するのが適当と認められる。

(1885)  工業技術院で、日本電解精錬株式会社に対し「磁硫鉄鉱、含ニッケル磁硫鉄鉱より純鉄、硫黄、ニッケル鉱を採取する磁硫鉄鉱の完全利用法」の工業化試験費補助金として、試験に必要な経費63,410,000円のうち、粉砕機等13,006,000円に費途を指定し、28年9月8,000,000円を交付している。
 同会社は、磁硫鉄鉱の完全利用法の企業化を目標に28年3月新設されたものであり、試験研究の実施場所である工場の建設も計画中であったのであるから、工場が完成してから国庫補助金を交付しても補助の目的を達成することができたと認められるもので、申請書および請書による資本も事実と異なりきん少であり、前記工場は建設資金不足のため整地を終了しただけで試験研究を中止している状況である。

(1886)  工業技術院で、旭化学工業株式会社に対し「ナトリウムアマルガム還元によるベンチヂン類の製造」の工業化試験費補助金として、試験に必要な経費25,736,320円のうち、変流器等11,411,000円に費途を指定し、28年11月6,500,000円を交付している。
 本件試験の基礎条件である工場の借入れが、国庫補助金交付当時既に失効していた事情を当局者も承知していたのであるから国庫補助金交付の要はないと認められるのに交付しており、同会社は工場を借り入れることができなかったなどの理由により試験を放棄している状況である。
 なお、当局は本件国庫補助金の全額を返納させることとした。