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  • 昭和30年度|
  • 第2章 国の会計|
  • 第5節 各所管別の不当事項および是正事項|
  • 第7 農林省|
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  • 工事

代行工事の施行にあたり処置当を得ないもの


(932)−(1001)代行工事の施行にあたり処置当を得ないもの

 (昭和29年度) (組織)農林本省 (項)開拓事業費ほか3科目
 (組織)農林本省 (項)開拓事業費 ほか1科目

 農林省で、事業費の全額を国が負担して開墾、干拓等国営土地改良事業の一部を都道府県に実施させている代行工事については、本院において、昭和31年中、前年に引き続きこれら代行工事施行地区中北海道を除く862箇所(北海道の分については参照) のうち、前年に実地検査を施行しなかった府県を主とし宮城県ほか25府県につきその34.6%に相当する299箇所を検査したところ、補助工事として施行するのが適当と認められるものを代行工事としているもの、開拓計画が当を得ないため不経済となっているものがあり、また、工事の内容についてみると、工事の施行が粗漏で手直しを要するものや、工事の出来高が不足しているのに設計どおり完成したものとして請負代金の全額を支払っているものがあり、工事費の積算においても現地の調査が不十分で積算が過大となっているものなどが多く、不当金額1工事10万円以上のものを集計すると100工事135,399,767円に上っている。
 この種不当工事については、昭和29年度決算検査報告において多数指摘したところであるが、本年の検査においても、耕作に適せず入植者がほとんどいない高冷の山林地を開墾しようとして多額の経費を投入しているものや、代行工事の前身である緊急開拓事業当時においてさえ4割の地元負担を要するものとしていた既存の畑地を開田する事実上のかんがい排水補助事業を全額国庫負担の代行工事に含めているものや、既存の県道または市町村道等を利用して営農上支障がないのにことさら拡幅したり、一部路線の付替えを行うなど明らかに市町村道等の改修工事と認められるもの、または付近に利用可能な道路があるのにさらにこれと近接して道路を開設しているものなどが多く見受けられたほか、既成の老朽した干拓地の補修だけを施行しているものや、わずか11町余の小規模な干拓に3千3百余万円の多額を投じ、しかもその工法および施行が当を得なかったため海面と等水位にたん水して作付不能となっているもの、または代行工事の対象とはならないのに部落共有の耕地を学校敷地とした代替としてわずか開畑1町3反、開田3反を代行地区の一部とし、かつ、農道橋の災害復旧等を2百余万円で施行しているものがあるなど事業計画当を得ないと認められるものが少なくない。
 しかして、検査の結果明らかになった不当工事のうち、不当金額1工事20万円以上のものを事項別にあげると別表第4のとおり70件131,432,441円であるが、このように多数の不当事項が発生する原因としては、農林省当局の現地調査と設計内容の検討が十分でなかったことならびに支出庁である各農地事務局が現場監督および検収をほとんど行うことなく都府県の請求により工事費と代行料を支払うにとどまり、また、工事を施行する都府県においても、工事の監督、検査等を十分に行なっていないことなどによるものと認められる。
 いま、前記不当事項のうち代表的な事例をあげると次のとおりである(各項末尾の( )内の数字は別表第4に掲記した番号を示す。)

〔1〕 東京農地事務局で、神奈川県に施行させている大楠山線開拓道路工事は、27年度から総事業費8,040,000円をもって大楠山の周辺に散在する補助および非補助開拓地3地区94町4反のために道路延長1,550メートルを施行することとして30年度までに1,183メートルを5,900,000円で施行したものであるが、右道路の路線は大楠山東側の谷間を通っているため、右のうち70町5反からはこれに連絡することが不可能で、わずかに1地区の1団地23町9反だけが利用することができるにすぎないものである。
 しかして、この団地には2級国道横須賀大磯線に至る幅員5メートル程度の市道が通じており、また、他の地区にもそれぞれ右国道に至る幅員3メートル程度の市道が通じているので開拓者はこれらを利用して営農に支障がないものであるから、ことさら本件道路を代行工事として施行する要は認められない。
 なお、本件道路は前記国道の旧大楠町付近を起点とし、三浦半島を横断して横須賀市街に向っているものであるが、代行工事として施行予定の終点からは別途横須賀市の都市計画による道路が予定されている状況である。(代行工事として施行することが適当でないもの)(932)

〔2〕 熊本農地事務局で、長崎県に施行させている島原線開拓道路延長49,731メートルのうち、29年度に1,542,275円をもって施行した2,488メートルは、2級国道島原諌早線から唐比に至る既設の町道を幅員6メートルに拡張したものであるが、右町道は幅員4.5メートル程度の良好なものであり、また、30年度以降に2,849,651円をもって施行する1,715メートルは既設の道路にほぼ並行して道路を新設するものであるが、右既設道路は幅員4メートル程度の良好なもので、開拓者はこれを利用して営農に支障がないものであるから、代行工事としてこれを施行する要は認められない。(代行工事として施行することが適当でないもの)(940)

〔3〕 京都農地事務局で、滋賀県に施行させた信楽地区開墾建設工事のうち、28年災害復旧ほか1工事は、27年度から29年度までの間に2,117,000円をもって橋りょう1箇所の復旧および排水路延長72メートルの新設等を施行したもので、29年度に1,373,000円で復旧した橋りょうは幅員3メートルのP.Sコンクリート構造で施行したものであるが、原形は地元が農道橋として架設したものであるから、代行災害復旧工事として施行したことは当を得ない。
 なお、右橋りょうを利用する江田工区は入植1戸、開畑1町3反、開田3反の小団地で、その入植者は従来耕作していた部落共有地を学校敷地として信楽町に使用させた代替として右工区の割当を受けた特殊事情のものであり、しかも、2百余万円多額をわずか1町6反にすぎない小団地に投入することは不経済に失するものと認められる。(代行工事として施行することが適当でないもの)(935)

〔4〕 熊本農地事務局で、熊本県に施行させている鞍岳線開拓道路工事のうち、29年度に1,296,220円をもって熊本県開拓事業農業協同組合連合会に請け負わせた延長1,710メートルは、切取5,781立米、盛土3,830立米を施行するもので、切取のうち転石は1,021立米を施行したこととしているが、実際は306立米を施行すれば足り、213,839円が設計過大となっている。
 しかして、同連合会は工事費から181,471円を差し引き残額1,114,749円を現場責任者永田某に交付しているが、同人は工事を982,553円で施行している。
 なお、本開拓道路は総事業費41,652,000円をもって道路延長21,559メートルを施行するもので、30年度までに施行した16,076メートルのうち11,813メートルおよび31年度以降施行予定の5,482メートルその工事費35,661,031円は尾ケ石地区と既設県道とを結ぶものであるが、尾ケ石地区は阿蘇外輪山鞍岳の東北方斜面に位置する標高900メートル以上に及ぶ高冷の地で、土質も酸性土壌であるなど開墾適地である未墾地とは認められない。現に開墾面積431町、入植121戸の計画に対し101戸が入植したが、その大部分が離農し8年を経た現在わずかに5戸が薪炭の生産等により生計を立てているにすぎず、開墾はほとんど行われていない状況で、本地区を開拓地として選定したことは当を得たものとは認められないばかりでなく、さらに、このような地区と県道とを結ぶ道路を代行工事として施行するのは当を得ない。(設計過大)(994)

〔5〕  金沢農地事務局で、石川県に施行させている木郎地区開墾建設工事のうち、29年度に1,285,000円をもって株式会社丸仁組に請け負わせた干拓堤とうほか1工事は、河川堤延長520メートルの張石736平米、盛土1,012立米および潮受堤延長44メートルのコンクリート波返し14立米等を施行したものであるが、右干拓地は堤とう、遊水路、排水機場等の工事を28年度までに一応完了したにもかかわらず、漏水に対する考慮が不十分であり、かつ、工事の施行も粗雑であったため海水の浸透が著しく海面と等水位にたん水しており、これが耕地としての利用は全く不可能な状況となっているものであるから、これに張石および波返しの一部を施行したとしてもその効果を期待することができないものであるのに、漫然と既定計画どおりの工事をそのまま施行しているのは当を得たものとは認められない。また、右工事のうち、張石は控23センチメートルから27センチメートルの割石を使用し、波返しコンクリートは1:3:6の配合で施行したこととしているが、実際は割石は控20センチメートル程度のものを使用し、波返しコンクリートは粗悪なもので施行しているため134,325円が出来高不足となっている。

 なお、本地区は当初50町の干拓を予定していたところ、地形の関係で11町程度以上の干拓が不可能であることが判明したのに地元の要請をいれ干拓地と直接関係のない開畑30町をあわせ22年緊急開拓事業として採択されたものを、そのまま総事業費30,232,749円の代行工事としたものであるが、右のうち、開畑30町に必要な建設工事としてはわずか131,000円の道路を施行したにすぎないものであり、本地区は事実上11町4反の干拓を目的としているもので、このような小団地の干拓を代行工事の対象としているのは当を得ないばかりでなく、その後25、28両年に災害を受けこれを3,708,000円で代行災害復旧工事として施行しており、結局、開田わずか11町余にすぎないものに3千3百余万円の多額を投入することとなり著しく不経済な結果をきたしている。(出来高不足、その他)(966)

〔6〕 熊本農地事務局で、熊本県に施行させた1町田地区干拓建設工事のうち、29、30両年度に10,804,600円(うち29年度分6,024,600円)をもって共栄建設株式会社ほか3名に請け負わせた干拓堤とう補強工事は、堤とう延長1,583メートルを施行するもので、盛土11,154立米のうち8,587立米は水中掘さくにより立米当り397円から405円で施行したこととしているが、実際は水替えを行い掘さくすることができたため292円で足り、水替費等671、679円を見込んでも592,450円が設計過大となっている。また、から積石垣2,335平米は石積の施行が粗雑で築石の間に空げきが多いなど245,331円が出来高不足となっている。
 なお、本地区は22年緊急開拓事業として主留、二浦両工区の新規干拓81町6反と明治の初期に干拓され水田として利用されてきた久留工区60町2反等の改修を総事業費83,200,000円をもって着手したところ、昭和23年5月代行工事に切り替えられたものであるが、26年にいたり未施行となっていた主留、二浦両工区は反当単価が高価となる事由でこれを中止し、本件久留工区だけを大規模に改修することに計画を変更し、30年度までに77,137、521円をもって潮受堤のかさ上げおよび腹付、用水路、排水ひ門等の改修を施行したもので、このように既成の干拓地を補修するにすぎないものを全額国庫負担の代行工事として施行していることは当を得ない。(設計過大、出来高不足)(990)

〔7〕 岡山農地事務局で、島根県に施行させている江島地区干拓建設工事のうち、30年度に685,000円(ほかに支給材料667,590円)をもって丸和建設株式会社に請け負わせた堤とう工事は、堤とう延長360メートルの護岸を施行するもので、練積石垣414平米は胴込コンクリート平米当り0.21立米総量86立米を施行したこととしているが、実際は築石の間に多量のぐり石をそう入しこれを配合の悪いコンクリートで被覆したにすぎないなど工事の施行が粗漏で776,275円に相当する工事がその目的を達していない。(粗漏工事)(975)

〔8〕 金沢農地事務局で、富山県に施行させている武農地区開墾建設工事のうち、27年度から30年度までの間に13,534,000円をもって平村開拓農業協同組合に請け負わせた水路工事は、延長5,141メートルを施行するもので、うち2,456メートルの3面張コンクリートは1:3:6の配合で側壁上幅10センチメートルまたは12センチメートル、下幅10センチメートルまたは18センチメートル、底厚10センチメートルまたは12センチメートル総量602立米を施行したこととしているが、実際は粗悪なコンクリートで側壁は上幅だけを設計どおり施行し、下幅は10センチメートルまたは12センチメートル、底厚8センチメートル総量440立米を施行したにすぎず、また、延長2,685メートルのうち739メートルは1:3:6の配合で73立米を施行したこととしているが、実際は配合の悪いコンクリートに一部玉石を混入したもので67立米を施行したにすぎないなど3,220,424円が出来高不足となっている。
 なお、同組合は右のうち9,680,000円で請け負った工事を東礪波郡中村某ほか4名に7,282,474円で下請けさせ、残額2,397,526円はうち2,075,000円を設計外の工事費に充て322,526円を保有していた。(出来高不足)(965)