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  • 昭和35年度|
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盛土工事の施行が適切を欠いたため漁業補償を行なうこととなり不経済となったもの


(132) 盛土工事の施行が適切を欠いたため漁業補償を行なうこととなり不経済となったもの

 (特定土地改良工事特別会計) (項)土地改良事業費

 熊本農地事務局で、昭和35年5月、出水市溝内某ほか152名に対し、34年度に施行した出水干拓東地区堤防盛土工事の排泥によってのりに被害を与えた補償として10,840,000円を支払っているが、工事の施行にあたりのりの種付期間(10月上旬から11月中旬まで)を避けて施行すればのりに被害を与えることはなかったものと認められ、設計変更に伴う工事費の増加分約180万円を差し引いてもなお約900万円は節減することができたものと認められる。

 本件補償は、34年6月株式会社水野組に前記工事を28,150,000円で工期を6月20日から35年3月30日までとして請け負わせ、堤防延長2,558メートルにポンプ式しゅんせつ船による盛土94,412立米および土留コンクリート柵工2,481メートル等を施行した際、しゅんせつ船の操業により、海中のけいそうがのり種ひびおよび養殖ひびに付着しひび14,342枚分に被害を与えたのでこの損失に対し支払ったものである。

 しかして、前記しゅんせつ盛土を行なうにあたり、ひびに付着してのり胞子に悪影響を与えると認められる粒径0.05ミリメートル以下の微細土の含有率を調査したところ7%であり、三池、横島両干拓建設事業のしゅんせつ工事において、のり胞子に悪影響があるとして工事を中止することとした際の含有率が59%または25.5%であったのに比べてきわめて低率であったので、のり種ひびおよび養殖ひびに被害を与えることはないとして工事を施行したものである。しかしながら、工事の施行箇所付近一帯は出水漁業協同組合ののり漁場であり、この漁場におけるのり種付期間は、海水温が摂氏23度以下に下降し海水流動が激しくなる海況のころが最適で、もし、この期間にしゅんせつ船の操業により浮遊泥土を生ぜしめるときは微細土の含有率の多少にかかわらずけいそうが微細土とともにひびに付着し、のり胞子に悪影響を及ぼすことは他の事例に徴しても明らかであるから本件しゅんせつ盛土工事はのり種付期間を避けて施行することが適当であったものと認められる。

 本件工事の採土に伴う漁業補償の交渉は33年末に開始し、34年6月にいたり解決の見通しがついたので、設計にあたっては250馬力ポンプ式しゅんせつ船により1日2交替552立米、月11,040立米の工程で35年3月までに施行することとしたものであるが、しゅんせつ船は7月末回航され9月9日からか働している状況であるから工程を1日3交替883立米とすれば、種付期間を避けた設計に改めても、盛土の大部分は34年度内に施行することができ、残りの部分については、本件干拓建設事業において35年度以降引続きしゅんせつ工事を施行するのであるから同年度において施行してもさしつかえなかったものと認められる。
 いま、仮にこのように設計変更して工事を施行したとすればこの設計変更により増加する工事費約180万円を見込んでも約900万円は節減することができたと認められる。