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  • 昭和37年度|
  • 第2章 国の会計

是正改善の処置を要求しまたは改善の意見を表示した事項


第8節 是正改善の処置を要求しまたは改善の意見を表示した事項

 昭和37年12月から38年11月までの間に、会計検査院法第34条または第36条の規定に基づき、主務大臣に対し、不当と認めた事項につき是正改善の処置を要求し、または法令、制度もしくは行政に関して改善の意見を表示したものは次のとおり7件である。

(1) 陸上、海上、航空各自衛隊間における共通器材の融通および調達の調整について改善の意見を表示したもの  (昭和38年11月19日付け38検第539号 防衛庁長官あて)

 防衛庁において物品の在庫状況の調査等が不十分なため不急不用の物品を調達している事例については、従来機会あるごとに注意を促してきたところであり、同庁においても陸上、海上、航空各自衛隊に調達要求および在庫管理の事務を行なう統制機関を設けてこれら事態の改善に努力してきたところであるが、昭和38年中の検査の結果によると、なお、各自衛隊で共通して使用することができる航空機用部品、通信電子機器等の調達にあたり各自衛隊間で相互の連絡調整を十分に行ない管理換の処置をとれば取急ぎ調達する要がなかったのにこれをしなかったため不経済となっているものがあり、そのおもな事例をあげると下記のとおりである。
 このような事態を生じているのは、自衛隊ごとに調達要求および在庫管理の事務を行なう統制機関が設けられていてもこれらを調整する制度、機構が確立されていないため、自衛隊ごとに調達補給の調整をはかるための在庫調査を実施しても、これを効率的に活用し他の自衛隊の調達に反映させる処置が積極的にとられていないことによるほか、自衛隊間において物品整理番号が統一されていないことにもよるものと認められる。
 しかして、物品整理番号の統一事務については、36年6月から内部部局に類別管理官が設けられてはいるが、その進ちょく状況は十分とは認められないので、これが処理を促進し、また、各自衛隊で共通して使用することができる器材の融通および調達の調整を効果的に実施する機構の確立をはかるなど適切な処置をとり、この種器材の調達、管理に万全を期する要があると認められる。

(1) 海上、航空両自衛隊で共通して使用することができるレシプロ練習機部品についてみると、両自衛隊相互間で連絡を密にし、航空自衛隊で使用する見込みがないと認められる余剰品を海上自衛隊に管理換する方途を講ずれば調達する要がなかったと認められるものが海上自衛隊の36年度調達分252品目のうち177品目約710万円ある。

(2) 陸上、海上、航空各自衛隊で共通して使用することができるヘリコプター部品で、36、37両年度中に調達したもののうち142品目についてみると、各自衛隊が基準量をこえて保有しているものを相互に管理換する方途を講ずれば取急ぎ調達する要がなかったと認められるものが陸上自衛隊で22品目約1960万円、海上自衛隊で23品目約2820万円、航空自衛隊で18品目約2590万円ある。

(3) 海上、航空両自衛隊で共通して使用することができる航空機塔載用タカン(戦術用航法装置)AN/ARN−21についてみると、航空自衛隊で37年7月末において未使用のまま保管している318台のうちから海上自衛隊に管理換する方途を講ずれば取急ぎ調達する要がなかったと認められるものが海上自衛隊の37年度調達分9台約1440万円ある。

(4) 陸上、海上、航空各自衛隊で共通して使用することができる電子管5J26についてみると、陸上自衛隊で37年6月末において基準量をこえて保有しているものを海上自衛隊に管理換する方途を講ずれば取急ぎ調達する要がなかったと認められるものが海上自衛隊の37年度調達分45個のうち33個約1150万円ある。

(2) 刑務作業における契約賃金等の決定について是正改善の処置を要求したもの  (昭和38年10月22日付け38検第473号 法務大臣あて)

 刑務所等収容施設においては、収容者に対し物品製作、加工修繕および労務提供を主とする作業を賦課しているが、これらの作業には商社等との契約を伴うものが多く、これによる収入は昭和37年度の刑務所作業収入徴収決定済額36億5098万余円の大部分を占めている。
 刑務作業は、行刑目的を主眼とするものであるが、作業の収支に関する経済的考慮も重視を要するものと認められ、製作物品の売渡価格、加工修繕の加工賃および労務提供の際の賃金については収容者労務等に対応する適正な対価を徴収するよう決定すべきものである。しかして、法務省においても、刑務作業規程(昭和28年法務大臣訓令矯正甲第461号。以下「規程」という。)により、物品製作作業および加工修繕作業の場合は市場価格を基準とし、原価をしんしゃくして定め、また、労務提供作業の場合は、昭和22年労働省告示第8号一般職種別賃金を基準として定めることとしているものである。
 38年中、上記の価格、賃金等の決定につき、小菅ほか35刑務所について実地に検査したところ、構内における労務提供契約、物品製作および加工修繕契約については、作業時間、労務の質を勘案しても、なお賃金、価格等が低価に失すると認められるものがあり、そのおもな事例は別表のとおりである。
 このような事態を生じたのは、

(ア) 構内の労務提供作業においては、その職種が前記一般職種別賃金に直接該当するものがほとんどなく、しかも、この場合の取扱いについて明確な規定がないため、過去の実績等を基準として作成された当該年度の実収目標額等によって適宜賃金を決定していること、

(イ) 物品製作作業等においては、市場価格を基準として決定すべきであるのに、規程第41条の規定により計算される労務費が1人1日110円となるためきわめて低価となっている原価および当該年度の実収目標額を基準として価格を決定していることによるものと認められる。
 以上の実情にかんがみ、規程を改訂、整備するとともに、その趣旨の徹底をはかる必要があると認められる。

別表

1 刑務所構内における労務提供契約の賃金が低価に失すると認められるもの

  施設名 作業内容 徴収決定済額 職種 1人1日当り契約賃金(または契約単価)
         
(1) 宇都宮刑務所 コイルバネ等の加工および製作 7,692,417 金属工 37年4月から5月まで
 見習工 140
 本工 160
 特殊工 200
6月以降  
 見習工 170
 本工 190
 特殊工 300
  管区実収目標額を基準として決定したものであるが、県下中学校男子卒業者の初任給をみても325円となっている。
(2) 甲府刑務所 電気抵抗加工バリコン組立て 4,948,463 金属工 電気抵抗加工 170
200
バリコン組立 180
検査工 200
  決定の具体的な根拠は明らかでないが、県下中学校女子卒業者の初任給をみても243円となっている。
(3) 尾道刑務支所 チップ製造および皮はぎ 1,936,950 製紙工 製紙工 250
パネル製作 1,955,925 木工 製箱工 250
  36年度の契約賃金190円を基準として決定したものであるが、県下中学校男子卒業者の初任給をみても344円となっている。
(4) 徳島刑務所 パネル製作 1,206,760 木工   200
  同一業者が尾道刑務支所と締結している同種契約の36年度分を参考として決定したものであるが、県下中学校男子卒業者の初任給をみても293円となっている。
(5) 札幌刑務所 ビール箱打立 3,224,848 木工 1個当り  
特大 3.8
大型その他 3.5
  実収目標額を基準として決定したものであるが、一般業者の契約単価を基準とすると特大7円35、大型6円35、その他5円85となる。

2 物品製作および加工修繕契約の製品売渡価格等が低価に失すると認められるもの

施設名 作業内容 徴収決定済額 職種 契約 単価
(物品製作)
(1) 小菅刑務所 学童生徒机および腰掛の製作 6,200,000 木工 1組当り 1,550
原価および実収目標額を基準として決定したものであるが、東京都に対する同一業者の納入価格は2,010円および2,170円となっている。
(2) 府中刑務所 学童生徒机および腰掛の製作 12,000,000 木工 1組当り 1,500
原価および実収目標額を基準として決定したものであるが、東京都に対する同一業者の納入価格は2,170円となっている。
(加工修繕)
(3) 水戸少年刑務所 作業服の加工 1,380,590 洋裁工 1着当り
上衣 50
ズボン 40〜55
上下 80〜120
続服 80〜85
決定の具体的な根拠は明らかでないが、同一業者の受注加工単価を基準とすると上衣102円、ズボン67円、上下172円、続服137円となる。
(4) 大阪刑務所 作業服(続服)の加工 4,454,120 洋裁工 1着当り 78
80
実収目標額を基準として決定したものであるが、府下作業服関係組合に所属する業者の加工単価は1,000着以上の場合110円から120円となっている。

(3) 海外移住者受入事業に関する補助金の経理について是正改善の処置を要求したもの  (昭和38年10月1日付け38検第456号 外務大臣あて)

 海外における移住者の現地受入事業は、現在昭和38年7月に成立した海外移住事業団(以下「事業団」という。)の存外各支部が行なっているが、事業団の成立するまでは、29年1月に設立され事業団の成立と同時に解散した財団法人日本海外協会連合会(以下「連合会」という。)が行なってきたものである。しかして、連合会はその存立期間中本部を東京に、支部をアメリカ合衆国、ブラジル、アルゼンティン、ドミニカ、コロンビア、ボリヴィアおよびパラグァイの各国に置き、これら在外各支部はその経費の全額を30年度までは委託費として、31年度以降は補助金として外務省から交付を受け、受入事業として移住者の事業、職業その他移住者の生活一般について相談および指導を行ない、ならびに移住者の定着のために必要な福祉施設の整備その他の援助を行なってきたもので、37年度に在外各支部に交付された補助金は総額379,137,000円に達している。

 これらの在外各支部のうち、アマゾン、リオ・デ・ジャネイロ、サンパウロ、パラグァイ、アルゼンティンおよびボリヴィアの各支部につき、38年5月および6月、国庫補助金の使用状況を実地に検査したところ、補助金を交付決定の内容に定められた使途以外に使用したもの、補助金を長期間未使用のまま保留しているもの、補助事業遂行上生ずる収入を一切決算に計上することなく別途にこれを経費として使用しているものが過去数年度にわたって見受けられ、うちおもな事例をあげると下記のとおりであるが、このほかにも事業が年度内に完成しないのに完成したこととして決算書を作成し、当該金額を別途保留し翌年度において使用する事例が数多くあり、補助事業実施の結果が決算に正しく表示されていない状況で、補助金の経理が適切を欠いているものと認められた。
 このような事態を生じたのは、

(ア) 補助事業を実施する現地各支部において、一般に会計経理事務を軽視する風潮があって、会計事務職員の配置が適切でなく、また、交付決定の内容に従って経理を行なう意欲に乏しいこと、

(イ) 現地各支部を統轄する連合会本部においては、各支部に対し資金を交付する際わずかに注意を与えるほかは、会計経理に関しては、その基本となる経理規程さえ作成することもなく、一切各支部の任意としているばかりでなく、事業実施後の監査においても37年度にいたりようやく各支部から証拠書類の提出を求めた状況で、結局、会計実地検査当時までは書面による監査は一切行なうこともなく、さらに実地監査もほとんど実施していないなど補助金交付決定の内容に従い補助事業を遂行する心構えが十分でなかったこと、

(ウ) 補助金を交付する外務省において、支出負担行為実施計画の作成、交付決定、額の確定等補助金交付の一連の事務を通じて、現地の実情をは握して適正な会計経理を確保するために、少なくとも現地在外公館を通じて指導および監査を行なうべきものと認められるのにその配意を欠いていたため、事業実施の見通しもつかないのに事業費を交付するなど同省において補助事業を適正に執行させようとする努力に欠けていたことによるもので、要するに補助金を交付する側と補助金を受ける側の双方が適正な補助事業執行の意欲に欠け、相互の連関が密接でなかったことによるものと認められる。
 連合会の事業は、前記のように事業団が引き継いで行なっているが、この事業に対しては国から交付金が交付されることとなっており、事業団がこれらの事業を行なうにあたっても上記の点は厳に留意を要するところであるから、外務省において、事業の執行については事業団の本部が在外各支部の会計経理の統制を十分に行なうよう指導するとともに、自らも現地在外公館を通じ指導監査を行ない、もって交付金の経理を適正にさせるよう特段の努力をすることが緊要である。

 なお、施設の建設、物件の購入等事業費の使用にあたっては、使用の目的に即した事前の調査を行ない、詳細な設計や仕様を作成したうえで予定価格を積算し、契約を締結するのが当然であるが、現地にこのような事務に熟達した職員が乏しく、しかも本部において設計、仕様等につき各支部を指導することもないため、各支部で施設を建設するにあたり、きわめて簡単な見取図程度を作るだけで交付決定の内訳明細に計上されている金額でそのまま契約している例が多く、したがって、出来形の当否さえもは握することが困難な状況となっており、また、物件の購入にあたっても、現地の実情を調査しないで漫然と購入したため、利用できないままとなっている事例も見受けられるので、今後は事業費の支出については、各支部職員の従うべき準則を明らかにするなど適切な指導を行ない交付金交付の効果を高めることができるよう配慮すべきものと認められる。

1 補助金を交付決定の内容に定められた使途以外に使用しているもの

(1) ボリヴィア支部で、37年度中に、人件費および旅費計474,275円を正規に職員に支給することなく、定員外職員の人件費および旅費に充てていた。なお、36年度中においても、機械購入にあたり正当金額に付増しするなどしてねん出した資金を庁費、道路費等に充てたものがあるほか、34年度から36年度までの間に、収容所兼校舎、診療所等の建築費として交付を受けた資金を製材所、発電所等の建築費に充てたものがある。

(2) パラグァイ支部で、37年8月27日から38年4月30日までの間に、法定為替換算レートをこえる為替差益1,576,443.76ガラニ(4,503,899円)を受入処理することなく別途に保留しこれを庁費に充て、38年5月末現在残額331,704.44ガラニ(947,679円)を保管していた。なお、34年度においても、小学校建築費として交付を受けた資金を収容所建築費に充てたものがある。

(3) アマゾン支部で、37年度中に、第2トメアス移住地の教師に対する謝金として、220,481.14クルゼイロ(約152,000円)を支出したこととしているが、実際は教師に支払ったのは20,481.14クルゼイロ(約14,000円)にすぎず、残額200,000クルゼイロ(約138,000円)を教師宿舎建築用に充てることとして第2トメアス駐在員が保管していた。

2 補助金を長期間未使用のまま保留しているもの

(1) パラグァイ支部で、34年度から36年度までの間に、共同販売所等の施設を建築したり、物品購入の際の通関諸掛り等を支払ったこととしたりして計1,676,293.35ガラニ(4,789,170円)の資金をねん出し、うち一部を施設の改造費等に充て、38年5月末現在1,543,944.21ガラニ(4,411,048円)を保管していた。なお、このほか、すでに完成している施設のうちにも、経費が決算された年度には現実に建設されず資金を長期間保管した後はじめて建設されたものが数多くある。

(2) アマゾン支部で、35、36両年度中に、土地購入の見通しのないまま収容所兼校舎建築費として4,038,736.99クルゼイロ(約6,116,000円)の交付を受け、当該年度中に施設を建築したこととしてこれをそのままクルゼイロ貨をもって保留し、37年7月ごろから上記建物を建築しはじめたが、その間クルゼイロ貨の価値が下ったため、35年度分1,739,385.17クルゼイロ(約3,122,000円)、36年度分1,215,361.84クルゼイロ(約1,441,000円)の差損を生じている。また、35年度中に、診療所用医療器具を776,933クルゼイロ(約1,394,000円)で購入したこととしているが、実際は上記金額は同年度中に支出することなくこれをそのまま37年5月まで連合会本部が円貨で保管していた。

3 補助事業遂行上生ずる収入を決算に計上することなく別途にこれを経費として使用しているもの

(1) ボリヴィア支部で、37年度中に、指導農場、診療所、高等学校、製材所の事業収入、物件売却収入等の収入が計17,879,293円あったのに、これを一切補助事業外であるとして別途に保留し、庁費、指導農場費、診療所費、子弟教育費、製材所費、放送局費に充てていた。

(2) パラグァイ支部で、37年度中に、フラムおよびアルトパラナ両指導農場の事業収入がそれぞれ380,928ガラニ(1,088,311円)、9,480ガラニ(27,084円)あったのに、これを補助事業外であるとして別途に保留し、農場の経費に充て、38年5月末現在43,128ガラニ(123,216円)を保管していた。

(4) 都道府県の事務費に対する補助金の経理の適正化について是正改善の処置を要求したもの  (昭和38年10月1日付け38検第457号 農林大臣あて)

 農林省所管国庫補助金については、検査の結果不当と認めた事項を毎年度の検査報告に掲記してその是正方につき注意を喚起してきたところであるが、昭和38年中の検査の結果、とくに都道府県の各種補助事業等を施行するための事務費に対する国庫補助金の経理について次のとおり適切を欠いていると認められるものがある。

 農林省で、都道府県が市町村、各種組合等の行なう公共事業関係以外の間接補助事業に関する指導、監督、調査等に要する事務費に対して補助金を交付しているものが37年度において62費目17億9819万余円あるが、38年中、北海道ほか26府県の農業協同組合検査指導費補助金ほか33費目の事務費補助金についてその経理内容を実地に検査したところ、数種の国庫補助事業費を、またはこれらと道府県の単独事業費とを一括経理し、費目ごとの区分経理を行なっていないものがきわめて多く、これらの実績報告書には補助金交付申請書に記載した金額または道府県予算編成のときの積算内訳金額をそのまま転記したり、国庫補助金に見合う適宜の金額を計上したりなどしていて、その内容が帳簿または証拠書類その他の関係資料と遊離しているものがきわめて多い状況であって、その経理は補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律(昭和30年法律第179号)の趣旨に従って行なわれているものとは認め難い。

 このような事態を生じたのは、道府県において、指導、監督、調査等の事業に使用した経費が補助対象事業費を上回っているという安易な考えをもっていること、国の事務費補助金が多費目であるため区分経理の煩雑さを避けようとしていること、さらに事務費の内容のうち消耗品費、通信運搬費、光熱水料等については国庫補助費目ごとの使用額を区分することが困難であることを理由に区分経理の可能なものについても区分を行なわず適宜の経理を行なっていることなどによるものと認められるが、一方、農林省においても、事務費補助金の経理についてとくに指導した実績もみられず、上記のような実績報告書についてそのまま補助金の額の確定を行なってきたことにも一因があるものと認められる。

 ついては、事務費補助金の経理について国庫補助費目ごとの区分を明確にすることとし、消耗品費、通信運搬費、光熱水料等比較的国庫補助費目ごとの区分経理が困難と認められる部分については妥当な配分方法を考慮するなど区分経理の具体的方法について再検討するほか、類似の補助費目の整理統合についても検討を加えるなどすみやかに適切な処置を講ずる必要があると認められる。

(5) 消費者米価の値上げに伴う販売業者の差益について改善の意見を表示したもの  (昭和38年11月26日付け38検第555号 農林大臣あて)

 農林省で米穀の販売業者(食糧管理法(昭和17年法律第40号)第8条ノ2第2項の販売業者をいう。以下同じ。)に売り渡した米穀を販売業者が販売する場合の価格は、物価統制令(昭和21年勅令第118号)第4条の規定に基づき、農林大臣がその統制額を指定することができることとなっており、これによりこの統制額を改定した場合において、販売業者が改定時に手持ちしていた米穀については、新旧価格の間の開差だけ差益または差損が生ずることとなるのに、その差益または差損についてなんらの処置が講じられていない。
 このことについて、本院においては、昭和29年12月、食糧庁に対し、米穀のような統制額のあるものの価格改定により生じた差益はこれを販売業者の利得としないよう注意し、その改善を期待したが、なおその後も適切な処置がとられていない。

 しかして、農林省で、37年産米穀の政府買入価格の決定に伴い、食糧管理特別会計の損失を補うため、37年12月1日、販売業者に対する政府売渡価格を最低12%から 最高29%値上げし、同日、販売業者が販売する米穀の販売価格も値上げしたものであるが、37年11月30日現在、販売業者が手持ちしていた米穀は154,813精米トンあり、販売業者はこれを新価格で売り渡すこととなったため、新旧価格との間の差益は卸売販売業者396業者で11億8331万余円、小売販売業者57,059業者で4億8795万余円計16億7126万余円と計算されるものであり、これをそのまま販売業者に帰属させる結果となっている。

 しかしながら、米穀は食糧管理法によってその売買が規制され、販売業者の販売価格についてもその販売手数料が考慮されて、農林大臣が物価統制令に基づき販売価格を指定しているものであるから、その改定によって販売業者が差益または差損を受けるものであり、専売品である塩等の例によると、販売人の売渡価格が改定された場合、その差益および差損につき全部または一部を販売人に納付させ、または販売人に対し払いもどすこととしていることなどからみて、米穀の販売価格の統制額の改定によって生ずる差益または差損を販売業者に帰属させる結果となっているのは適当でないと認められる。ついては、検討のうえ適切な処置を講ずる必要があると認められる。

(6) 国有林野事業特別会計に所属する国有財産の管理について改善の意見を表示したもの  (昭和38年10月1日付け38検第458号 農林大臣あて)

 国有林野事業特別会計に所属する行政財産のうちその用途または目的を妨げないものとして地方公共団体等に貸し付けているものについて、昭和38年中、旭川ほか12営林局につきこれらのものを検査したところ、行政財産としてその使用目的にそわない恒久建物敷または鉱業用地等に使用させていて、将来においても長期間にわたり国有林野経営の用に供される見込みがなく、その用途を廃止したとしてもなんら支障がないと認められるものが、検査の結果判明したものだけで513件約8,461,000坪あり、そのうちおもな事例は下記1のとおりである。このように行政財産のままその用途または目的を妨げないものとして貸し付けているのは、国において森林経営の用に供することとなっている行政財産の用途および目的からみて適切でなく、すみやかに行政財産としての用途を廃止するなど適切な処置を講ずる必要があると認められる。
 また、本特別会計に所属する普通財産のうち地方公共団体等に貸し付けているものについて、前記行政財産と同様検査したところ、恒久建物敷等に使用させており、したがって将来とも本特別会計において使用される見込みがなく、仮にこれを処分したとしてもなんら支障がないと認められるものが、判明したものだけで470件約2,208,000坪あり、そのうちおもな事例は下記2のとおりである。これらの財産は、前項のものとあわせ、売払い、所管換等適切な処置を促進する要があるものと認められる。

1 行政財産

(1) 旭川営林局一の橋営林署管内北海道上川郡下川町所在の土地34,174坪は、大正10年ごろから鉄道線路敷として旭川鉄道管理局に貸し付けている。

(2) 青森営林局岩手営林署管内岩手県岩手郡松尾村所在の土地1,868,619坪は、大正3年ごろから製錬所敷、鉱業従業員住宅敷、ずり捨場等として松尾鉱業株式会社に貸し付けている。

(3) 秋田営林局生保内営林署管内秋田県仙北郡田沢湖町所在の土地10,450坪は、昭和20年4月から製材工場敷として秋木工業株式会社に貸し付けている。

(4) 東京営林局千葉営林署管内銚子市所在の土地13,773坪は、昭和26年4月から市営住宅敷および小学校用地として銚子市に貸し付けている。

(5) 長野営林局王滝営林署管内長野県西筑摩郡王滝村所在の土地930,000坪は、昭和10年10月から発電用たん水敷等として関西電力株式会社に貸し付けている。

(6) 名古屋営林局神岡営林署管内岐阜県吉城郡神岡町所在の土地112,989坪は、昭和6年4月から鉱業従業員住宅敷、ずり捨場等として三井金属鉱業株式会社に貸し付けている。

(7) 大阪営林局西条営林署管内広島県賀茂郡黒瀬町所在の土地8,849坪は、昭和23年4月から建物敷等として国立賀茂療養所に貸し付けている。

(8) 熊本営林局延岡営林署管内延岡市所在の土地20,463坪は、昭和25年4月から高等学校用地として宮崎県に貸し付けている。

2 普通財産

(1) 帯広営林局帯広営林署管内北海道河西郡芽室町所在の土地5,105坪は、昭和34年6月から町営住宅敷として芽室町に貸し付けている。

(2) 札幌営林局白老営林署管内北海道白老郡白老町所在の土地36,720坪は、昭和35年5月からパルプ工場敷として大昭和製紙株式会社に貸し付けている。

(3) 函館営林局室蘭営林署管内北海道幌別郡登別町所在の土地2,526坪は、昭和8年9月から建物敷として株式会社第一滝本館に貸し付けている。

(4) 東京営林局高萩営林署管内日立市所在の土地22,053坪は、昭和13年から工場敷および工場従業員住宅敷として株式会社日立製作所に貸し付けている。

(7) 道路整備、治水両特別会計の経理および直轄公共事業に対する都府県等の負担金について改善の意見を表示したもの  (昭和38年11月19日付け38検第538号 建設大臣あて)

 建設大臣が直轄で施行する公共事業は、道路、河川、砂防、ダム各事業については道路整備特別会計または治水特別会計で、海岸事業および災害復旧事業については一般会計でそれぞれその事業費を経理するものとされており、また、これら各事業に要した費用は道路法(昭和27年法律第180号)、河川法(明治29年法律第71号)等の規定に基づきそれぞれ一定の割合でその一部を都府県等が負担することとなっていて、昭和37年度におけるその負担金の収納済歳入額は一般会計9億9162万余円、道路整備特別会計158億8401万余円、治水特別会計114億6287万余円計283億3851万余円となっている。
 しかして、38年中、上記両特別会計の経理および直轄公共事業に対する都府県等の負担金につき検査した結果、是正または検討を要すると認められるものが次のとおりある。

1 道路整備、治水両特別会計の経理について

 道路整備、治水両特別会計は、道路、河川等の事業に要する経費を他の経費と明確に区分するため設けられたもので、その歳出予算には、事業に要する費用として、工事費のほか事業の実施部局である工事事務所等で必要とする事務費が計上されているものである。
 しかして、両特別会計の37年度決算についてみると、実際は地方建設局に勤務してもっぱらその業務に従事している職員を管下の工事事務所に在籍させ、その給与を道路整備特別会計の道路事業工事事務費の項または治水特別会計の治水事業工事事務費の項から支出しているものが、東北ほか7地方建設局で329名分67,509,487円、上記両費目の一部を管下工事事務所に配分することなく地方建設局に留置きし、地方建設局が使用した通信運搬費、光熱水料等の一部に充当しているものが、東北ほか6地方建設局で19,935,365円あり、また、事業費の項の予算で建設した特別会計所属の宿舎に地方建設局の職員を建設当初から入居させているものが、東北ほか6地方建設局で50戸(建設費38,850,168円)ある。
 これらは、いずれも地方建設局における一般行政事務に要した経費であり、これを両特別会計の歳出予算から支出することは予算の制をみだすもので妥当とは認められない。

2 直轄公共事業費負担金について

 建設省における負担金の計算方法は、各事業に要した工事費と、道路整備特別会計または治水特別会計の事務費の決算額を一定の計算方式に従って当該年度に施行した各工事ごとに区分計算したものとの合計額に、上記両特別会計の建設機械整備費の項で購入した機械の当該事業における費消額(減価償却費、定期整備費等を基礎として計算した使用料相当額)を加算した額をもって負担の基本額とし、これにそれぞれの負担割合を乗じて負担金を算出しているものであるが、前記1記載のように両特別会計の決算額のうちには地方建設局の事務に要した経費が含まれているので、負担金の基本となる事業費の額がそれだけ過大となる結果をきたしている。

 つぎに、一般会計および前記両特別会計の工事費支弁で取得した庁舎、宿舎および建設機械(37年度における取得額は合計約38億円)に対する負担金についてみると、これら資産の取得年度に施行した事業により受益する都府県等に対し、その取得価格の全額について取得年度の負担割合により一時に負担金を賦課し、その後は、負担割合、資産の供用態様が変っても、また、事業が終了した場合においても、当初賦課した負担金額を調整するなどの考慮が払われていない。

 しかしながら、都府県等のうちには年度により負担割合を異にするものがあり、また、これらの資産は、その性質上負担割合を異にする他の事業や、当該資産について負担金を負担していない他の都府県等が受益する事業に供用される場合もあるほか、負担金を賦課された事業が終了した場合に残存価値を有する場合も少なくなく、事業に要した費用を基として負担金を賦課する建前から上記のような扱いは合理性を欠くものと認められる。

 たとえば、関東地方建設局で28年度から37年度までの間に施行した荒川二瀬ダム建設事業の負担金として、その建設費53億0505万余円について埼玉県に対し15億4590万余円を賦課しているが、負担金の対象となった資産についてみると、しゅん功までにケーブルクレーン、バッチャープラント、事務所、庁舎等を売却して4144万余円の収入をあげたり、モーターグレーダー等(転用時における残存価額4820万余円)を他県所在のダム事業等に転用したり、またはしゅん功時にダンプトラック等(残存価額280万余円)が残存したりしているのに、これらの収入金等により同県に対する負担金を調整するなどの考慮をしていない。また、中部地方建設局で35、36両年度に伊勢湾高潮対策事業費で建設した愛知工事事務所の職員宿舎32むね2608万余円については、同事業の負担率により愛知、三重両県に400万余円を負担させているが、同事業は37年度にしゅん功し、これら資産はその後上記両県のほか岐阜県および名古屋市をも受益団体とする道路、河川等の事業に供用しているのに、愛知、三重両県の負担金の修正、またはこれに岐阜県、名古屋市を加えた4受益団体相互間の負担金の調整等を講じていない。

 以上のように建設省における両特別会計の経理および負担金の扱いには是正または検討を要する点があると認められる。