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  • 昭和39年度|
  • 第3章 政府関係機関その他の団体の会計|
  • 第4節 改善の意見を表示した事項

ケーブル埋設工事における労務費の積算等について改善の意見を表示したもの


(1) ケーブル埋設工事における労務費の積算等について改善の意見を表示したもの (昭和40年11月12日付け40検第627号 日本国有鉄道総裁あて)

日本国有鉄道(以下「国鉄」という。)の各電気工事局、鉄道管理局が施行しているケーブル埋設工事は、電化の推進、信号の自動化および通信線路のケーブル化に伴って、逐年その工事量が増大しているが、その大部分を施行している各電気工事局においては、昭和39年度の工事費総額が15億円以上に上っている。また、主として鉄道管理局が施行する踏切警報機新設工事は、39年度において工事費の総額が44億円に及でいるが、これらの工事においても、制御ケーブルの敷設を行っているものである。

上記のうち、

(1) ケーブル埋設工事は、国鉄用地内を掘さくのうえ、主として深さ0.6メートルから1メートルの地下にがい装ケーブルを埋設するものであるが、予定価格の積算にあたっては、34年国鉄電気局の制定にかかる積算基準に基づき、掘さくおよび埋めもどし、ケーブル敷設等の基本歩掛りによるほか、地質、地勢、運転ひん度等の作業条件に応じ各種割増しを加算して所要人工を算定することとしている。しかして、

ア 掘さくおよび埋めもどしの基本歩掛りは、電柱その他の根掘り等をも考慮し、普通土について、深さ1メートルまでは立米当り土工所要数を掘さく0.49人、埋めもどし0.21人計0.7人と定めたものである。
 しかし、その後、電化、自動信号化等に伴うケーブル埋設工事が著増し、掘さくの内容も、みぞ掘りによる掘さくを主として行なうものとなってきているのに、実情に即した基準の改訂を行なっていないため、実施部局においてもこれをそのまま適用している状況であり、施行条件が同様と認められる国鉄他部局および他官庁等におけるこの種掘さくおよび埋めもどしの歩掛り等と比べても著しく過大となっている。

イ ケーブルの敷設歩掛りについては、信号ケーブルの場合、がい装ケーブルは同一形状の非がい装ケーブルの10割増し、通信ケーブルの場合、がい装ケーブルは非がい装ケーブルの2割増しとしている。
 しかして、信号ケーブルの敷設歩掛りについて、がい装ケーブルを非がい装ケーブルの10割増しとしたのは、基準制定当時、非がい装ケーブルの敷設区間長が相当長距離であったのに対し、がい装ケーブルは主として駅構内で軌道下を横断する場合に使用され、敷設区間が短かかったため、敷設延長当りの端末の処理を要する箇所の割合が多かったことを考慮して決定したものであるが、近時、自動信号方式等の推進に伴い、がい装ケーブルは駅間等の長距離の区間に敷設されることとなり、その結果、敷設延長当りの端末の処理を要する箇所の割合が減少してきているものである。

 しかるに、このような事情の変化を考慮することなく、現在においても、敷設歩掛りについて一律に非がい装ケーブルの10割増しとしている基準をそのまま適用しているのは、実情にそわないものと認められる。

ウ 通信、信号がい装ケーブルの敷設歩掛りの構成比率は、電工と人夫それぞれ同数を要することとしているが、施行の実態についてみると、大部分単純労務により行なわれている状況であり、現行の構成比率は実情にそわないものとなっている。

(2) 踏切警報機新設工事における制御ケーブルの敷設工事は、踏切箇所から上り、下り両方向に約800メートルの間架空、地下等に敷設するものであるが、工事施行の状況をみると、近接踏切箇所のケーブル敷設工事と調整する配慮が十分でなかったことなどのため、短期間に、同一箇所を重複して掘さくし、ケーブルを別途敷設している事例が少なくない。
 ついては、ケーブル埋設工事に関しては、近時工事量が著増している傾向にあることにかんがみ、労務費算定の基礎となる労務人工数等の積算基準について実情に即した改訂をはかるとともに、基準の適用については作業の実態を十分配慮することとして予定価格積算の適正を期し、また、踏切警報機新設工事のケーブルの敷設工事に関しては、関連のある同種ケーブル敷設工事との重複施行を避けるなど施行方法について十分連絡、調整のうえ実施することととし、もって、工事費予算の効率的使用をはかる必要があると認められる。

(2) ずい道工事における工事費の積算について改善の意見を表示したもの  (昭和40年11月19日付け40検第637号 日本国有鉄道総裁あて)

 日本国有鉄道が線路増設工事等に伴い施行しているずい道工事は、昭和39年度において、85箇所、延長約82キロメートル、工事費232億円に上っている。しかして、ずい道工事の予定価格は、各工事局が日本国有鉄道建設局、施設局等の制定した積算基準により作成するものであるが、その積算内容についてみると、覆工コンクリートにおける骨材の配合割合の決定、巻厚変更の場合の単価の算定、掘さく支保工の矢板および軌道分岐器の種類の選定が施行の実情にそわないため、積算が適正を欠いていると認められるものが下記のとおりある。
 このような事態を生じているのは、予定価格の積算にあたって、施行の実情にそわない積算基準をそのまま採用していること、施行の実態に即した経済的な積算を行なう配慮が十分でないことなどによるものと認められるが、線路増設工事の進ちょくに伴い、ずい道建設工事の工事量は今後ますます増加する傾向にあるので、その予定価格の積算にあたっては、施行の実情等を十分調査は握し、その適正を期する要があると認められる。

(1) 覆工コンクリート用骨材の所要量について

 覆工コンクリート用骨材の所要量は、コンクリートを人力で打設する場合における設計例により34年に日本国有鉄道建設局および施設局で決定した積算基準の数値をそのまま採用し、コンクリート立米当り砂利0.95立米、砂0.60立米としているものである。しかしながら、覆工コンクリートの打設は近年コンクリートポンプによるのが通例となっており、その場合の骨材等の配合割合については、一般に砂利より低価な砂の量が人力で施行する場合より多く、砂利の量は相対的に少ないのが通常であり、実績をみると、コンクリートポンプにより施行した信越本線碓氷ずい道(第9〜18)においては砂利0.78立米、砂0.65立米、北陸本線新深坂ずい道においては砂利0.83立米、砂0.65立米となっている。したがって、コンクリートポンプによりコンクリートを打設する場合前記積算基準によって積算しているのは実情にそわないものと認められる。

(2) 設計変更により覆工コンクリートの巻厚を変更する場合における単価について

 各工事局における覆工コンクリート工事費の算定についてみると、巻立てに必要なコンクリートの設計数量と余巻厚部分の数量との合計数量によりコンクリート工費を算出し、これに施行延長に応じて計算した鉄製型わく製作、組立て、撤去および移動、共通仮設費等の経費を加えてコンクリートの工事費を算出し、これを設計数量で除して立米当り単価を算定しており、施行途上において巻厚を変更しコンクリート打設量が増加する場合にも、この単価により増加工事費を計算しているものである。しかしながら、コンクリートの余巻厚は巻厚が増加しても変らないものであり、また、鉄製型わく等の固定費もずい道の施行延長が増加しない限り変らないものであるから、巻厚だけを変更してコンクリート数量が増加する場合に、余巻厚部分のコンクリート工費および前記の固定費を含めて算出した当初の単価をそのまま適用して巻厚増加分のコンクリート工事費を計算するのは妥当とは認められない。

(3) 掘さく支保工の矢板について

 ずい道の掘さくに鉄製支保工とともに使用する山留めの矢板については、積算基準により全量松矢板を使用するものとして積算している。しかしながら、施行の実態についてみると、掛矢板工法等を採用している荷重の小さい区間については、松矢板より価格が相当低価な雑矢板が使用されている状況であり、山留めの矢板全量を松矢板として積算しているのは実情にそわないものと認められる。

(4) ずり運搬等軌道用の移動式分岐器について

 ずり運搬等に使用する移動式分岐器については、22キロレールまたは30キロレール、その長さはX型23メートルから60メートル、Y型22メートルから40メートルと各工事ごとに区々のものを使用することとして積算している。しかしながら、使用の実態をみると、ずり積み機械のうち最大のコンウェイ100型を使用し、6立米積みの鉄製トロを走行させている場合でも、分岐器は大部分22キロレールで、その長さもY型21メートルから27メートル程度となっており、前記のように積算しているのは実情にそわないものと認められる。

(3) 道路と鉄道との立体交差化工事について改善の意見を表示したもの  (昭和40年11月25日付け40検第647号 日本国有鉄道総裁あて)

 日本国有鉄道(以下「国鉄」という。)においては、昭和36年度を初年度として踏切の立体交差化および保安設備の改良整備を目的とする踏切改良5箇年計画(以下「5箇年計画」という。)を策定し、40年度までに工事費60億円で279箇所の踏切道を立体交差化することとし、39年度までに20億6872万余円を支出して工事を実施している。
 しかして、道路法(昭和27年法律第180号)、踏切道改良促進法(昭和36年法律第195号)等に基づく立体交差化工事等の実施については、建設省との間に道路と鉄道との交差に関する建設省、日本国有鉄道協定(31年12月締結、以下「基本協定」という。)等の取決めがあり、交差方式、構造、費用負担等の協議に関する基準を定めており、両者において当該交差等に関する計画協議および設計協議を行ない、これらの協議が成立したとき協定を締結して工事を実施しているものである。

 前記5箇年計画に対する工事の進ちょく状況についてみると、計画額60億円のうち36年度から39年度までの4箇年間に予算化したものは32億9800万円、これに対する支出実績は20億6872万余円で、この進ちょく率は全体計画に対して34%、予算化した額に対して63%となっており、また、踏切道改良促進法の規定に基づき早期に立体交差化する必要があるとして指定された踏切道については、総数242箇所のうち39年度までにしゅん功したものは64箇所で、なかでも交通量の多いものとして指定された108箇所については8箇所がしゅん功したにすぎない状況で計画に対し著しく遅延しており、その一因は基本協定による協議が渋滞していることにあるものと思料される。
 すなわち、計画協議開始から協定締結までの所要期間を、たとえば1級国道と交差する場合についてみると、39年度末までに協議の成立したもののうち98箇所については平均26箇月を要しており、また、未協定となっているもののうちには計画協議を開始してから3年有余を経過しているものが12箇所にも達している状況で、計画協議開始から協定締結まで著しく長期間を要していて踏切事故防止の目的を早期に達することが困難となっており、道路側においても交差箇所前後の道路改良工事の進ちょく状況に比べて立体交差化工事または既設立体交差施設の改良工事が遅延し、ひいては改良済道路が未供用となるなどの不経済な事態を生じている。
 このような事態を生じているのは、国鉄において関連工事の計画が確定しないなど設計上の理由による場合もあるが、個々の踏切道の立体交差化について、道路側と国鉄側との施行時期等についての考え方に差異があること、道路側と独立採算を建前とする国鉄側との間で予算または資金事情に差異があることなど、両者の立場の相違が考えられるのに、総合的な計画調整を行なうことなく、個々の工事について実施部局ごとに協議しているため、事業計画や費用負担等事業の実施に必要な事項について両者の意見が容易に合致せず、その調整に時間を要していることによるものと認められる。
 ついては、

(1) 事業計画および事業実施計画を相互に調整のうえ、年度開始に先だって相互に予算措置を講じ、必要に応じて現行基本協定における費用負担の割合および負担方法を検討するとともに、実施部局においては相互に連絡調整の緊密化をはかり、現地で協議が難航する場合はすみやかに中央において早期解決をはかるよう処置するなど協定の締結を促進し、ひいては立体交差化工事等の促進に努める要があると認められる。

(2) 地方公共団体が管理する道路との立体交差化にかかるものについては、踏切道改良促進法に基づき交通量の多いことにより立体交差化の指定を受けたものの遅れが目立っているが、費用を分担する地方公共団体の財政事情に起因する場合が少なくないので、これが対策について関係各省とも十分協議を行なうとともに、地方公共団体との協議の体制を整備して、本事業の円滑な実施をはかる要があると認められる。

(4)  中高層耐火建築物等の住宅部分の無断用途変更の防止について改善の意見を表示したもの  (昭和40年11月16日付け40検第628号 住宅金融公庫総裁あて)

 住宅金融公庫で行なっている中高層耐火建築物および防災建築物の建設資金の貸付けは、相当の住宅部分を有する建築物で土地の合理的利用および災害の防止に寄与するものの建設に必要な資金を貸し付けることを目的としているものであり、当該建築物の住宅部分および住宅部分面積に対する一定割合の面積の非住宅部分を貸付けの対象とするものであって、これら貸付けの昭和40年3月末の残高は556億2089万余円となっている。
 しかして、従来本院でこれらの貸付けにかかる建築物の使用状況について調査した結果によると、貸付契約の条件に違反して、同公庫の承認を受けることなく住宅部分を事務所、倉庫等非住宅に用途変更している事例が多かったが、40年中に本院で実地に調査した結果をみても、調査した融資対象建築物249件のうちその26.5%に当たる66件において、住宅部分面積34,277平米のうちその26.2%に当たる8,986平米について同様の違反事例があった状況である。
 同公庫においても従来実態調査等を行ない契約条件違反の防止には留意しているところであるが、なお上記のような事例が跡を絶たないので、次の諸点を改善するなどして住宅部分の無断用途変更の防止をはかる要があると認められる。

(1) 貸付先から定期的な報告を徴することを制度化するなどして、融資対象建築物の使用状況を十分は握すること。

(2) 融資対象建築物内における住宅部分が無断で用途変更される場合に対処して、次のような処置を講ずること。

ア 公庫の融資が長期かつ低利であることにかんがみ、公庫の承認を受けずに用途変更していた期間について約定利率以上の金利または違約金等を徴することとする。

イ 建築物内における住宅部分が用途変更された場合には、用途変更された住宅にかかる貸付金についてだけ繰上償還を請求し、非住宅部分にかかる貸付金には及ぼさないこととなっているが、非住宅部分については住宅部分の床面積と等しい床面積の部分の建設費を基準として貸付金額の限度を定めることとしている住宅金融公庫法(昭和25年法律第156号)第20条第5項の規定の趣旨にかんがみ、違反の状況により、住宅部分の床面積の減少に対応して非住宅部分にかかる貸付金についても繰上償還を請求することができる途を開くよう努めることとする。

(5)  高速自動車国道建設工事における土工量の精算について改善の意見を表示したもの  (昭和40年11月18日付け40検第636号 日本道路公団総裁あて)

 日本道路公団において、高速自動車国道の建設工事については、一般の道路工事と異なり全線立体交差の設計となっているなどのため盛土量が著しく多量となるので、高速自動車国道土木工事共通仕様書の定めるところにより、原則として地山における切土量を計算して土工量の精算を行なう(以下「地山検測」という。)こととしており、一般有料道路等におけるこの種工事の検測方法として採用されている出来高による検測方法とは異なる方法をとっている。
 すなわち、地山検測による場合においては、盛土等に要した切土量を測定し、この数量を基礎として盛土等の数量を計算することとなるので、工事着手前に切取りの対象となる地山の地形等を測量しておき、盛土等の仕上り後切取跡地を検測して切土量を計算し、切取総土量から盛土材料としては不適格な表土等および剰余土の切取捨土量を差し引いて盛土の土量を算定しているものである。
 しかして、昭和40年中、本院において、名神高速道路建設工事のうち大垣工事ほか3工事につき実地に調査したところ、

(1) 広域の土取場等においては、わずかな測量誤差によっても土量の開差は著しいものとなるので、精度の高い測量方法によることが必要であると認められるのに、幅員方向よりも延長方向について精度が高い測量方法で、道路等狭長な地形の測量に通常用いられ、このような広域の箇所の測量には適合しない方法をそのまま採用している状況である。したがって、測量の基準として設定した基線上の地盤高は精密に測量されるとしても、これに直交して設定した横断測線上の地盤高は精度が低くなり、ひいては総切土量の正確性が期待できないものとなっている。

(2) 切土に先だって実施される伐開除根に伴う表士の切取りについては、ブルドーザ等の土工機械によって施行されているため、その切取深度は、草原、畑等でも30センチメートル前後、抜根作業を伴う箇所では30センチメートル以上となるのが通常であり、その程度については現地の状況によって大きな開差が見受けられるのに、仕様書によれば、水平面に対し垂直15センチメートル(東名高速道路建設工事等では水平面に対し垂直30センチメートル)の深さで切り取られるものとして一律に計算することとしている。したがって、実際切取深度と仕様書記載の深度との差に相当する土量は、伐開除根によって捨土されているのに、単価の高い盛土用に使用されたものとして計算される結果となっている。

(3) 盛土等に使用された切土量を算出するため総切土量から差し引く捨土量は、実際の捨土量を検測して地山量に換算することとなっているが、捨土と盛土との単価には相当の開差があるから、地山検測における捨土量についてはとくに正確には握する要があるのに、捨土場所の事前調査、捨土量の測定方法等が適確でなく、捨土量のは握が正確を欠くと認められるものがある。

 このような事態を生じているのは、地山検測の採用に対応する適正な基準が定められていなかったり、仕様書等の規定が不備であったり、現場の施行管理が不十分であったりしているなど精算に関する配慮が十分でなかったことによるものと認められる。
 ついては、日本道路公団においては高速道路の建設にあたり将来とも地山検測方式を採用することとしているものであるから、すみやかに、基準、仕様書等を整備改善し、現場の施行管理の徹底をはかるなどして、地山検測における土工量の精算および工事費支払いの適正を期するよう努力する必要があると認められる。

(6)  発電所建設工事の請負人の決定について改善の意見を表示したもの  (昭和40年8月12日付け40検第490号 電源開発株式会社総裁あて)

 電源開発株式会社におけるダム本体等の建設工事については、工事請負規程(昭和35年社規第145号)の「請負人の決定は、指名競争見積合せの方法により行なうものとする」(第7条)、「請負人は、施工計画および設計内容等見積内容が適正であり、かつ、見積額が目途額以内の者のうち、最低額の者を選ぶものとする」(第14条)の規定および指名業者に対する当該工事の見積要領説明書の「会社は見積書類を技術審査し、見積金額を検討した結果、見積内容が適正妥当であり、かつ見積金額が最低であると認めたものを請負人と決定する」、「見積金額が最低であっても、当社予算額に対し一定率以下の見積は内容が適正妥当でないものと認めてこれを除外する」の定めにより請負人を決定することとしている。しかして、昭和40年中、長野発電所新設工事第1工区および同第2工区について検査した結果、請負人の決定にあたり、技術審査の方法および見積書の取扱いが適切でなかったり、見積制限価格を下回る見積りを無条件に排除したりなどして適正を欠くと認められるものが下記のとおりある。
 このような事態を生じているのは、同会社の指名競争見積合せにおいて、見積書と技術審査資料とを同時に提出させ技術審査終了後はじめて見積書を開封したり、技術審査資料の記載内容について明確な指示を欠いたり、見積制限価格に対する考え方が不十分であったりしていることなどによるものと認められるが、請負人の決定にあたっては、競争の実を失するおそれのないようにする要があり、また、ダム本体等の建設工事はその規模が大で工事費も多額に上るので、見積制限価格を設けた場合は結果的に同会社にとって不利な事態を招くこともありうるのであるから、技術審査の方法を再検討するほか契約審査制度を設けるなど請負人の決定に関する事務処理手続きについて検討し、建設費の効率的使用をはかる必要があると認められる。

 長野発電所新設工事を施行するにあたり、39年10月、第1工区については鹿島建設株式会社、第2工区については佐藤工業株式会社を請負人と決定し、11月、両会社と4,138,000,000円および2,419,300,000円でそれぞれ工事請負契約を締結しているが、請負人決定の事務処理についてみると、電源開発株式会社の作成した目途額は第1工区4,490,000,000円、第2工区2,544,000,000円で、その見積制限価格を目途額の−8.5%の4,108,350,000円および2,327,760,000円とし、第1工区については鹿島建設株式会社ほか4会社、第2工区については佐藤工業株式会社ほか4会社の指名業者から提出された見積書類により工事施行計画等を技術審査した結果、第1工区についてはロック、土質遮水壁およびフィルタの盛立計画等の記載が不備であるとして2会社を失格とし、他の3会社について見積金額を検討し、また、第2工区については仮排水トンネルの施行方法が妥当でないなどのため1会社を失格とし、他の4会社について見積金額を検討した結果、第1工区については鹿島建設株式会社、第2工区については佐藤工業株式会社の見積金額が最高であるのに、両会社だけが見積制限価格以上であったため、これらを請負人と決定している。
 しかして、

1 技術審査について

 請負人の決定にあたっては、指名業者から見積書類として見積書(金額を記載したもの)と技術審査資料である見積付属図書(工事施行計画書、主要直接工事工程表、仮設備計画図、工事用電力量使用明細書、工事別主要使用機械一覧表および技術者名簿)とを同時にそれぞれ別封にして提出させ、見積書を開封する前に、まず見積付属図書によって工事施行計画等が適正であるかどうかを7日間にわたり技術審査したうえ、審査に合格したものについてだけ見積金額を検討して請負人を決定している。しかして、技術審査および見積金額検討の結果は、いずれも業者に示さない取扱いとしている。

 しかしながら、電源開発株式会社において業者を指名するにあたっては、あらかじめ資産、信用、能力等を勘案して選定しているもので、このような場合、一般には同会社が行なっているような技術審査を行なわないのが通例であるが、発電所工事はその規模が大であり、かつ、その安全性を確保する要があることなどから技術審査をするとしても、本件のように見積書類提出後技術審査のため7日間にわたり見積書をそのまま保管していることは請負人の決定にあたり処理の公正を失するおそれがあると認められるので、今後は、まず技術審査を行ない、これに合格した業者から見積書を提出させ、直ちに開封してその結果を業者に示し、請負人を決定する取扱いとするよう検討の要があると認められる。
 なお、本件工事の技術審査の結果をみると、第2工区の1会社については、仮排水トンネルの施行方法等が妥当でないとして不適格としているが、第1工区の2会社については、いずれもダム盛立計画等がほとんど記載されていないため、詳細な施行計画が不明であるとして不適格としているものである。このように工事施行計画書の記載が不備であるのは、その記載すべき内容を明確に指示していないことによると認められるのに、直ちにこれを不適格としたのは妥当でなく、工事施行計画書に記載する内容について主要点を具体的に指示し、その具体的内容によって審査するよう検討の要があると認められる。

2 見積制限価格について

 電源開発株式会社においては、業者の不当に低い金額による受注の結果契約の内容に適合した履行がなされないことを防止する目的で、見積制限価格を設け、これを下回る見積りは前記の技術審査に合格したものであってもすべて無条件に排除することとしており、本件工事については、見積制限価格を目途額の−7%から−9%までとすることとし、この範囲内の5種類の数値を作成して抽選の結果−8.5%と決定したものである。しかして、7%および9%は、業者の企業努力を2%と見込み、これに前記指名業者の財務諸表により調査した完成工事高に対する一般管理費の割合平均4.93 %、利潤の割合平均4.24 %のそれぞれ半分を加えた場合を7%、一般管理費の半分および利潤の全部を加えた場合を9%としたものである。

 しかしながら、業者によっては廉価に入手することができた資材を使用したり、または現場付近ですでに仮設備を保有していたりするなどの特殊事情が考えられ、また、機械の減価償却費等については弾力的な考慮を払うことも可能であり、一方、目途額は一般に必ずしも完全なものではなく、また、資産、信用、能力等を勘案して業者を指名し、さらに技術審査も行なっているのであるから、目途額の−8.5%程度以下の額で契約しても契約の内容に適合した履行が可能な場合が当然考えられるので、目途額の一定率を下回る見積りを無条件に排除する見積制限価格制度を採用することは、競争の利益が著しく減殺されるなどの欠陥を有し、適当とは認められない。したがって、業者の不当に低価な見積金額を排除する要があると認められる場合には、現行の見積制限価格制度に代えて契約審査制度を設け、最低金額の見積りであってもその者の申込みにかかる金額によっては契約の内容に適合した履行がされないおそれがあると認められる場合の基準を作成しておき、この基準に該当する見積りがあった場合には、その内容を審査してこれを排除するかどうかを最終的に決定する取扱いとするよう検討の要があると認められる。
 なお、本件見積制限価格については、機密漏えい防止のため抽選でその目途額に対する率を−8.5%と決定したとしているが、−7%から−9%の範囲内が妥当であると定めた場合は、仮に−9%に相当する見積りがあっても適正妥当なものと認められるのであるから、経済性の配慮をすることなく抽選によって見積制限価格の率を決定したことは適当と認められない。

(7)  工事用貸与鋼材の調達および運用について改善の意見を表示したもの  (昭和40年11月18日付け40検第635号 帝都高速度交通営団総裁あて)

 帝都高速度交通営団においては、ずい道掘さく等の工事を請け負わせ施行する場合、土留めぐいまたは路面覆工用仮設材として使用する形鋼および鋼矢板(以下「貸与鋼材」という。)については、これを請負業者に貸与する扱いとしている。これらの貸与鋼材は、新規購入品と再用品とをあわせ運用するものであるが、このうち、新規購入品の昭和39年度における受払いについてみると、38年度からの繰越し10,503トン価額5億5542万余円、39年度中の受入れ19,794トン価額10億1844万余円、貸与のための払出し15,980トン価額8億3494万余円で、年度末の残高は14,317トン価額7億 3892万余円となっており、また、各月末の平均在庫数量は、月平均払出数量の約6.9箇月分に相当する数量となっている。
 しかして、本院において、40年中、前記在庫品のうち11,593トンについて調査したところ、在庫期間が3箇月以上となっているものが約6,000トンあり、そのうち約半数は6箇月以上在庫している状況であり、また、前記39年度中に払い出された数量のうち5,400トンについて調査したところ、払出しまでの在庫期間が3箇月以上のものが約3,500トンあり、そのうち約半数は6箇月以上在庫した後払い出されている状況であって、調達してから使用するまでの在庫期間が相当長期間にわたっているものが少なくない。

 しかしながら、本件貸与鋼材は、その大部分が規格品で、同種品が市販されているものであり、しかも一時に調達を要する数量もさほど多量ではないから、随時容易に入手することができるものと認められ、かつ、同営団における調達の実際をみても、大部分は問屋倉庫に在庫しているものを購入し、しかも、使用するまでの間現品をそのまま寄託している状況であるから、工事工程の必要に応じて調達すれば足りるものと認められるのに、いたずらに早期に調達して長期間資金を固定化しているのは、著しく不経済なものと認められる。
 このような事態を生じているのは、工事実施部局の資材調達部局に対する準備要求が所要時期および所要数量の確定しない時期に見込みによって行なわれ、とくに、所要時期の指定にあたって工事工程上の現品所要期を十分考慮していないこと、工事計画の改訂等により所要時期、数量等の変更があった場合準備要求の取消し、変更等の処置が適確に行なわれていないこと、調達部局において、在庫品の管理が十分でなく、在庫品があるのに同種品を調達したり、利用可能なI形鋼の再用を十分考慮しないでH形鋼を調達したりして在庫品に対する利活用が十分でないことなど工事実施部局、資材調達部局の双方に資金の効率的使用についての配意が欠けていることによるものと認められる。
 ついては、工事量の増加に伴い、今後貸与鋼材の取扱高がさらに増大する状況にかんがみ、準備要求における所要時期の指定、関係部局間の連絡、調整の緊密化、在庫品の効率的運用等について検討のうえ、資材の調達、管理についての体制を整備改善し、もって資金の効率的使用をはかる必要があると認められる。