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  • 昭和40年度|
  • 第1章 総論

検査の結果の概要


第5節 検査の結果の概要

 昭和40年12月から41年11月までの間に、国および政府関係機関等の歳入、歳出等に関する計算書および証拠書類を検査したものは21万7千余冊、5689万余枚である。会計検査に伴い関係者に対し質問を発したものは7千余件である。

(不当事項)

 検査の結果、不当事項として記載するものを所管別または政府関係機関別にあげると次表のとおり合計372件である。

所管または政府関係機関 租税 工事 物件 保険 補助金 不正行為 その他

総理府

2

2
法務省           1   1
大蔵省 112             112
文部省         5     5
厚生省   1   3 9 1   14
農林省   21 1 14 120     156
通商産業省         1   6 7
運輸省   2     15     17
郵政省           6   6
労働省       3       3
建設省   3     40     43
日本国有鉄道   2 1         3
日本電信電話公社   2       1   3
112 31 4 20 190 9 6 372

 備考 件数は本検査報告の番号の数による。

これらの不当事項をその態様別にみると、

租税収入の徴収不足をきたしたものなど 112件 535百万円

工事施行の計画等が適切を欠いたため経費の使用が不経済となっていると認めたもの
4件 53百万円
工事費等の積算が適切を欠いたため契約額が高価にすぎたと認めたもの 7件 17百万円
工事の監督および検査が適切でなかったため支払が過大となっているもの 23件 76百万円
保険料の徴収不足をきたしまたは保険金等の支払が適正を欠いたものなど 20件 232百万円
補助事業の実施および経理が適切を欠いたもの 187件 183百万円
職員の不正行為により国または政府関係機関に損害を与えたもの 9件 67百万円
その他 7件 19百万円

また、

災害復旧事業費の査定額を減額是正させたもの 3件 436百万円

となっている。

 上記のうち、そのおもなものの概要を述べると次のとおりである。

 (租税収入について)

 税務署等において、課税資料の収集または活用が適確でなく、また、申告書等についての調査が十分でなかったことにより、源泉所得税において配当、賞与の性質を有する給与、申告所得税において譲渡所得、不動産所得、雑所得等、法人税において減価償却、退職給与引当金、同族会社の留保金額等に関する処理が適切でなかったためひいて租税の徴収不足をきたしたものなどである。

 (工事施行の計画等について)

 事業の着手にあたっては、十分な調査と準備を行ない、綿密な計画を策定し、適切な設計、仕様を決定することが必要であるのに、これらの配慮を欠いたため、不経済な結果となっているものであって、
 防衛庁で、トラクタ・ドーザ用部品の購入にあたり個々の単品を別々に購入して組み立てた方が廉価でありそのようにしても使用上支障がないのに組部品を購入することとしたもの、
 農林省で、土えん堤工事の施行にあたり盛土に使用する山土の採取場が工事現場の近くにあったのにそれに気付かず遠隔の地で採取することとしたもの、
 日本国有鉄道で、東海道新幹線保守用車両の開発が遅れているのにその実態を調査することなく保守用踏切舗装工事を施行したため、踏切舗装が活用されないばかりでなく、軌道保守作業に障害をきたし撤去を余儀なくされたもの、東海道新幹線電車線のちょう架線に巻きつけておくアーマーロッドの購入にあたり不必要な添加物を塗布させることとして購入したものである。

 (工事費等の積算について)

 積算は、単なる所要経費の見込計算であるにとどまらず、契約価額決定の基礎となる重要な経理処理であって、適正な積算なくしては適正な契約価額の決定は期しがたいものである。しかして、積算にあっては、施行現場の状況に最も適応した経済的な作業方法や機械等の能力等を検討し、新機種の機械設備を使用する場合はとくに他の先例を参考とし,また、業者の見積や既定の価格を参考とする場合にはその内容を十分審査して適切な価格を適用すべきであり、さらにこれら積算の作業にあたり計算誤り等の誤びゅうをおかすことは厳にこれを避けるべきであるのに、それらの配慮を欠いたため、結局、契約額が高価となったと認められるものであって、
 防衛庁で、航空路図誌の製版料の標準料金の適用が適切を欠いたもの、
 農林省で、土えん堤工事の盛土転圧に使用する機械の走行速度を低く見込んだもの、干拓工事に使用する作業船の整備費累計率や船価を先例より過大に見込んだもの、道路工事の敷砂利等や導水路工事のスパイラル溶接鋼管の見積価格の適用が適切を欠いたもの、
 日本国有鉄道で、貨物駅積卸場改良工事の施行にあたり経済的な機械施行が可能であるのに人力施行によることとし、また、資材価格の適用を誤つて高価としたもの、
 日本電信電話公社で、地下管路埋設工事の土留工の単金の適用を誤ったものである。

 (工事の監督および検査について)

 契約は、適切な監督により適正な履行が確保され、給付の完了を確認する検査の結果に基づいて支払をすることとなっているものである。しかしながら、工事現場における監督が必ずしも十分に行き届かず、施行が不良となっていて設計に比べて強度が低下しまたは出来高が不足しているのに、検査にあたりそれに気付かず、契約どおり給付が完了したものとして検収を了しているものであって、
 農林省の治山えん堤等工事、運輸省の防波堤工事、建設省の道路擁壁や河川護岸工事におけるコンクリート工事や玉石コンクリート工事で、コンクリートの練混ぜやつき固め、玉石の配列が粗雑であったため内部に空げきを生じているもの、
 運輸省の空港周辺排水路護岸コンクリートブロック積工事で、護岸背後の地山を余分に切り取り、しかもその埋めもどしも不十分であったため不安定となっているもの、
 建設省の道路法面保護工事で、竹しがらを組むくいの径や長さが不足しているもの、
 日本電信電話公社のケーブル埋設工事で、道路復旧の土砂入替が設計と相違しているもの
などであって、とくに、農林省の治山えん堤等工事の施行が不良なものが多数に上っている。

 (保険について)

 国が特別会計を設けて経営する保険事業に関するもので、
 厚生省の健康保険、厚生年金保険、船員保険、労働省の労働者災害補償保険、失業保険において、保険料算定の基礎となる被保険者の報酬についての調査が十分でなかったため保険料の徴収不足をきたしたもの、
 厚生省の健康保険、労働省の失業保険、農林省の漁船再保険において、保険給付の原因となる事実の調査が十分でなかったため保険金等の支払が適正を欠いたもの、
 農林省の農業共済再保険において、農業共済組合が共済金の一部を組合員に支払わず、または補償対象外のものを含めて共済金を配分するなど共済事業の運営が適切でないものである。

 (補助金について)

 農林、建設、運輸各省所管の公共事業関係国庫補助工事については、十数年来毎年不当な事例を検査報告に掲記して注意を促し、とくに、農林、建設両省所管のものについては、40年、改善の意見をも表示したところであるが、41年中の検査の結果は、関係当局の努力の跡が見受けられ、不当な事例が相当数減少している。しかしながら、なお、工事の施行が不良となっているものなど多数の不当な事例が絶えない状況にかんがみ、今後一層指導監督の強化徹底を図るなど工事の適正な施行について配慮の要があるものと認められる。
 その他の国庫補助事業については、その種類も多く態様も多岐にわたっており、たとえば、厚生省の簡易水道事業、農林省の農業構造改善事業等において工事の施行が不良なものや事業費の精算が過大なものなどが多数見受けられたほか、農林省の農業改良資金助成補助金等を財源とする都道府県の貸付金の運営が適切を欠きひいて補助金が所期の目的に反して使用されていると認められる事例が多数見受けられた。

 (職員の不正行為について)

 職員の不正行為により国または政府関係機関に損害を与えた事例は、とくに、郵便局において毎年見受けられてきたところであるが、依然として郵便局で多数の事例が見受けられたほか、地方法務局の出張所長、船員保険保険料を収納するため県保険課から魚市場に配置されている駐在員等地方の小規模官署に勤務する職員により現金等を領得されたものがあり、また、特定郵便局長および同局長代理が地方公共団体の収入役と共謀して簡易生命保険及び郵便年金積立金の短期貸付に関する書類を偽造して貸付の認可を受け貸付金相当額を領得するという新たな事態が見受けられた。

 (改善の意見を表示した事項)

 検査の結果、会計検査院法第36条の規定に基づき、主務大臣等の責任者に対し法令、制度または行政に関して改善の意見を表示したものが9件あり、これらはそれぞれ各所管別または機関別に掲記した。その内訳は、

 国の機関については、
 農林省の国営かんがい排水事業の施行に関するもの、
 国営干拓建設事業の施行に関するもの、国有林野の交換に関するもの、
 郵政省の小包配達業務の運営に関するもの、
 労働省の都道府県労働基準局および労働基準監督署における経理に関するもの、
 政府関係機関その他の団体については、
 日本国有鉄道の自動信号化等工事に伴う撤去機械信号機器の活用に関するもの、
 日本電信電話公社の工事用図面等のトレース、青写真朱入れおよび青写真焼付の請負契約に関するもの、
 日本住宅公団の土地買収予定価格の評定に関するもの、
 日本道路公団の高速自動車国道建設工事の予定価格の積算等に関するものである。

 上記の不当事項または改善の意見を表示した事項のほか、検査の結果、今後予算の執行等にあたり留意を要すると認めたものを各所管別または機関別に掲記した。いまその概要を述べると次のとおりである。すなわち、
 事業計画樹立の段階におけるものとしては、
 農林省で食糧庁が外国麦類を購入する際包装させている麻袋について、需給事情を適確には握してなるべく経済的な麻袋を使用するよう配慮する要があること、国内米の運送について、俵、かますより軽量な麻袋包装のものが逐年増加していることに即応して適切な運送諸掛を算定するよう配慮する要があること、
 建設省で施行しているバイパス造成工事について、予算の配分を重点的に行なって予算使用の効果が早期に発揮されるよう努める要があること、
 東北開発株式会社のセメント生産計画策定またはセメントサービスステーション建設について、過去の実績等について十分な調査を行なって将来の見通しを誤らないよう配慮する要があること、
 事業実施の段階におけるものとしては、
 防衛庁の航空機の修理、文部省の観測ロケットの製造、日本国有鉄道の交流電化に 伴う通信設備の誘導支障補償および雇用促進事業団の移転就職者用宿舎の建設について、関係者相互間の連絡調整を密にし、不経済な事態などをきたしたり、経理処理が適切を欠いたりすることがないよう配慮する要があること、
 日本道路公団の高速道路建設工事について、基礎に使用している既製品のくいに仕様と異なるものが相当数見受けられたが、この種のものは工事完成後検査や手直しを行なうことは不可能であるから、監督および検査を入念に行なう要があること、
事業実施後の管理の段階におけるものとしては、
 農林省の農業構造改善事業等の補助事業により取得した施設、機械について、取得後の管理活用にも十分注意し事業効果が発揮されるよう配慮する要があること
などである。

 また、留意を要すると認めたもので関係省庁が多数にわたる次のようなものがある。

(ア) <都道府県の市町村等に対する補助金等の交付について> 国が都道府県を経由して市町村等に交付する補助金および委託費は多額に上っているが、41年中、秋田県ほか19都府県を選び総理府および厚生、農林、自治各省所管の87費目226億余円について調査したところ、国が都道府県に交付してから60日以上を経過した後ようやく市町村等に交付されたものが37億余円あり、都道府県における市町村等に対する補助金等の交付が必ずしも円滑に行なわれているとは認めがたい状況であるので、今後、交付事務の促進について、国においても十分検討するとともに、都道府県に対し適切な指導を行なう要があると認められる。

(イ) <公共の用に供しなくなった公共用財産の処理について> 農林、運輸、建設各省が所管する公共用財産のうち都道府県知事が管理するものは、公共の用に供しなくなり行政財産として存置の要がなくなったときは国有財産法の規定により大蔵大臣に引き継ぐなどの処置をとることとなっているが、41年中、福島県ほか6都県を選び建設省所管の分について調査したこところ、引継等の処置を要することが判明しているのに処置未済となっているものが2千余箇所318万平方メートルあり、なかには、引継等の処置を要する状態となってから長期間放置されていたり、無断で使用されたりしているものが多数見受けられ、処置が適切を欠いていると認められたので、今後、処理の促進について配慮の要があると認められる。