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  • 第2章 国の会計|
  • 第6節 各所管別の事項

農林省


 改善の意見を表示した事項

(1) 国営かんがい排水事業の施行について

(昭和41年7月30日付41検第210号)

 農林省で、土地改良法の規定に基づき昭和40年度に施行している国営かんがい排水事業(北海道における明きょ排水事業および内水排除事業を除く。)は、61地区、総事業費2272億8946万余円で、着工以来40年度までに支出した事業費は1192億3689万余円に上っている。
 しかして、本事業は、事業参加資格者からの申請により行なうもので、申請にあたっては、費用の概算、事業の効果等を公告して事業参加資格者の3分の2以上の同意を得ることを要するものとされ、また、国は、事業参加者等に事業費の一部を負担させることとし、事業の施行に伴う利害関係の調整を図るため、工事の着手に先立ち、受益面積、総事業費、完了予定時期、主要工事等に関する事業計画を定め、これについて公告縦覧等の手続をとらなければならないこととなっている。
 したがって、事業採択にあたっては、申請内容についてはもちろん事業の遂行に必要な事項についての調査を十分に行なうとともに、予算規模をもあわせ考慮したうえで慎重に決定すべきであり、決定後は、適確な事業計画を樹立し、公告縦覧等の手続を経て、事業を計画どおり完成させるよう配慮すべきものである。しかるに、事業の施行についてみると、その施行は全般的に遅延しており、前記61地区のうち当初の事業完了予定年度を経過しているのにまだ施行中のものが別表第1のとおり37地区(うち10年以上遅延する見込のものが12地区)、完了予定年度にはいたっていないが予定どおり完了できない見込のものが別表第2のとおり6地区となっており、また、総事業費も当初事業計画の1357億3706万余円が40年度末現在においては前記のとおり2272億8946万余円となっている状況である。このため、計画した事業効果の発現が遅れ、投資効率が低下し、事務費率が増加して不経済な結果をきたしているものが多数見受けられ、そのおもな事例を示すと下記のとおりである。
 このような事態を生じているのは、

〔1〕 予算規模に比べ採択地区数が多きに過ぎ、継続地区、とくに遅延地区にかかる事業に対して予算を重点的に配分し、事業効果を早期に発現させる配慮が不十分であったこと、

〔2〕 受益者負担金、水没地補償金等について利害関係人との調整が不十分なまま採択し、着工したため、反対が表面化しやむなく工事を中止するなどの処置をとったこと、

〔3〕 当初事業計画の樹立にあたり調査、設計が十分でなかったため、着工後しばしば設計変更を行なったり、当初計画しなかった大量の追加工事を組み入れたりする必要が生じ、これに伴う調査、変更計画の作成または地元民との利害関係の調整等に著しく年月を要したことなどによるものと認められる。

 ついては、現在施行中の事業については上記諸点を考慮のうえ再検討し、事業を早期に完成し、すみやかに事業効果を発現させるよう格段の配慮が必要であり、また、今後新たに採択する事業についても同様の配慮が必要であると認められる。

1 東北農政局で施行している西津軽農業水利事業は、昭和18年度に農地開発営団により着工し、22年度に農林省が引継を受け26年3月事業計画を定め公告縦覧等の手続を了したものであるが、この計画によると、米換算4,259トンを増産する目的で、用水源を小戸六ため池および岩木川等に求め、総事業費9億4000万円、完了予定を32年度としたものである。
 しかしながら、小戸六ため池のかさ上げにあたって堤体基礎地盤の調査が不十分であったためかさ上げすることが困難となり、同省において着工後間もなく工事を中止し、34年新たに新小戸六ため池を計画したことなどにより大幅に追加工事を組み入れた結果工期が延伸し、総事業費は、当初計画の9億4000万円(10アール当り9,914円)が28億6000万円(10アール当り30,131円)となっている。上記のように事業の施行が遅延しているため40年度末現在で事業の進ちょく率は62%にとどまり、事業効果の発現は計画増産高の14%程度にすぎず、事務費率は当初計画の3.7%が10.7%に増こうしている。

2 関東農政局で施行している鏑川農業水利事業は、33年度に着工し、34年8月、事業計画の公告縦覧等の手続を了したものであるが、この計画によると、米換算6,302トンを増産する目的で、用水源を南牧川および鏑川の南牧ほか4箇所の頭首工ならびに竹沼ほか4箇所の貯水池に求め、受益面積を4,322ヘクタール総事業費を24億4000万円、完了予定を39年度としたものである。
 しかしながら、用水補給をとくに必要としない既成田、桑園および工業予定地を受益地に含めるなど受益地決定についての検討が不十分のまま着工したため、35年9月にいたり、関係地元民から除外の要望が起こり、36年度から工事を中止し、39年11月にいたり、ようやく受益地の一部を除外し2,577ヘクタールに縮小するなどして工事を再開したもので、これにより工事が遅延し、総事業費は事業縮小の結果23億3000万円に減少したが、10アール当り事業費は当初計画の56,448円に対して90,401円となっている。上記のように事業の施行が遅延しているため40年度末現在で事業の進ちょく率は33%にとどまり、事業効果が全く発現しておらず、事務費率は当初計画の3.4%が10.1%に増こうしている。

3 北陸農政局で施行している手取川農業水利事業は、27年度に着工し、28年3月、事業計画の公告縦覧の手続をとったところ、水没住民の反対があったため、所要の手続を了したのは31年1月となったものであるが、この計画によると、米換算9,376トンを増産するとともに、上水道事業もあわせ金沢市に411万立方メートルの飲料水を補給する目的で、用水源を大日川上流の新設大日川ダムに求め、総事業費を22億3000万円、完了予定を32年度としたものである。
 しかしながら、前記水没住民との調整がつかなかったため、34年2月まで本格的な工事の施行ができなかったこと、この間、29年度には、金沢市における飲料水の需要ひっぱく等のため上水道事業が同市単独事業に切り替えられ本事業から離脱したこと、石川県営2発電所計画ならびに木場潟干拓および周辺の用水補給の計画を追加して事業計画に組み入れるなど計画変更を行ないその最終決定をみたのは40年12月であったことなどのため工事が遅延し、総事業費は当初計画の22億3000万円(10アール当り17,779円)が63億3500万円(10アール当り46,708円)となっている。上記のように事業の施行が遅延しているため、40年度末現在で事業の進ちょく率は55%にとどまり、事業効果が全く発現しておらず、事務費率は当初計画の2.9%が4.0%に増こうしている。

4 近畿農政局で施行している愛知川農業水利事業は、27年度に着工し、31年3月、事業計画の公告縦覧等の手続を了したものであるが、この計画によると、米換算12,245トンを増産する目的で、用水源を愛知川上流の新設永源寺ダムに求め、総事業費を31億6500万円、完了予定を35年度としたものである。
 しかしながら、水没住民との折衝に長年月を要し、37年度にいたるまで本格的な工事の施行ができず、工事が遅延し、総事業費は当初計画の31億6500万円(10アール当り40,314円)が63億5600万円(10アール当り80,959円)となっている。上記のように事業の施行が遅延しているため、40年度末現在で事業の進ちょく率は45%にとどまり、事業効果が全く発現しておらず、事務費率は当初計画の1.8%が3.5%に増こうしている。

5 九州農政局で施行している綾川農業水利事業は、33年度に着工し、34年3月、事業計画の公告縦覧等の手続を了したものであるが、この計画によると、米換算4,436トンを増産する目的で、用水源を綾北川宮崎県営第2発電所放流口に求め、総事業費を11億3500万円、完了予定を38年度としたものである。
 しかしながら、地元受益者に負担金が多額であることを理由に反対する者が多く、土地改良区の設立もできない状況であったにもかかわらず、これらの事情を十分検討しないで着工したので、その後、地元受益者の反対が表面化し、用水路敷の買収に応じないなどのため38年度工事を中止したこと、この解決のため当初計画では県営事業としていた末端工事を大幅に本事業に組み入れるなどの負担金軽減についての処置がとられた40年8月までの間本格的な工事の施行ができなかったこと、上記組入れに伴い事業量が増加したことなどのため工事が遅延し、総事業費は当初計画の11億3500万円(10アール当り36,328円)が20億1000万円(10アール当り64,334円)となっている。上記のように事業の施行が遅延しているため、40年度末現在事で事業の進ょく率は49%にとどまり、事業効果が全く発現しておらず、事務費率は、当初計画の4.6%が12.5%に増こうしている。

別表第1

局別 地区 着工年度 当初事業計画 40年度末現在事業計画 40年度まで施工済額 進ちょく率 40年度末現在増産効果発現率
完了予定年度 総事業費 増産トン数 完了見込年度 総事業費 増産トン数 (40年度は見込額) 完了予定年度末(注) 40年度末

北海道開発局

大夕張

28

32
千円
5,042,142
トン
13,427

42
千円
9,430,000
トン
19,763
千円
8,343,916

21

88

65
夕張 26 34 1,093,371 8,547 41 1,364,764 8,089 1,357,516 76 99 100
長都 26 33 766,180 9,050 42 1,127,000 12,332 836,247 44 74 85
美唄 32 39 6,770,000 30,071 43 10,150,000 30,071 4,421,348 35 44 55
富良野第1 27 35 500,000 1,799 42 978,040 1,973 670,787 42 69 48
中士幌 34 40 1,377,000 6,664 42 2,283,000 6,664 1,393,625 61 61 46
秩父別 26 31 420,000 2,684 43 1,075,000 3,040 661,670 18 62 91
新十津川 27 32 435,000 1,645 42 1,029,000 2,396 921,399 31 90 82
尾白利加 28 34 700,000 3,283 42 1,865,000 3,570 1,443,142 27 77 0
恵岱別 28 34 700,000 2,755 42 1,838,000 3,012 1,231,359 14 67 0
羽幌 28 32 304,000 833 41 654,294 833 589,718 7 90 0
篠津 30 35 5,117,294 28,622 44 13,097,000 29,173 11,024,886 52 84 74
東北農政局 雫石川沿岸 34 40 1,300,000 1,871 42 2,090,000 1,871 1,116,487 53 53 53
西津軽 18 32 940,000 4,259 43 2,860,000 5,537 1,771,423 28 62 14
雄物川筋 19 30 888,400 3,940 44 5,856,000 7,647 2,477,594 11 42 31
泉田川 27 32 830,000 3,344 41 2,576,840 5,110 2,232,840 14 87 0
定川 22 32 764,500 5,423 43 3,150,000 5,333 1,967,749 19 62 72
亘理 34 38 800,000 2,418 43 2,005,000 2,418 927,925 25 46 45
最上川下流右岸 33 39 2,100,000 4,321 43 5,160,000 2,956 2,906,128 42 56 0
関東農政局 鏑川 33 39 2,444,000 6,302 43 2,330,000 2,224 762,430 18 33 0
荒川中部 34 39 1,500,000 18,494 41 1,697,000 18,494 1,677,000 93 99 14
大井川 22 29 1,455,000 5,680 42 4,680,000 5,680 4,279,025 29 91 79
鬼怒川中部 32 38 2,600,000 2,613 41 3,394,957 2,613 3,345,238 50 99 100
北陸農政局 阿賀野川 16 30 2,739,000 14,663 42 6,075,000 14,647 4,574,012 34 75 66
第2九頭龍川 39 40 360,000 2,749 41 418,976 2,949 408,976 98 98 100
新川 20 30 1,742,500 25,634 43 5,873,000 15,024 4,047,319 23 69 55
小矢部川 34 40 3,170,000 3,040 42 4,400,000 3,040 3,919,119 89 89 0
手取川 27 32 2,230,000 9,376 42 6,335,000 12,837 3,502,713 21 55 0
東海農政局 宮川用水 32 38 2,350,000 7,210 40 3,947,676 5,077 3,906,676 64 99 51
濃尾用水 32 38 3,250,000 3,773 41 5,050,160 2,220 4,689,160 70 93 100
近畿農政局 十津川紀の川 25 32 2,856,000 10,399 44 9,340,000 10,081 4,661,764 38 50 53
愛知川 27 35 3,165,000 12,245 43 6,356,000 10,767 2,861,991 14 45 0
大和平野 33 39 1,421,821 5,921 43 3,355,000 5,921 2,065,812 55 62 39
中国四国農政局 道前道後平野 32 38 5,060,000 6,091 42 10,800,000 7,435 10,047,274 78 93 74
九州農政局 嘉瀬川 24 30 1,300,000 5,485 44 4,610,000 5,485 3,160,304 51 69 50
笠野原 33 37 1,950,000 9,477 42 4,242,000 9,478 2,192,990 13 52 0
綾川 33 38 1,135,000 4,436 43 2,010,000 4,436 982,145 44 49 0

農林省の図3

別表第2

局別 地区 着工年度 当初事業計画 40年度末現在事業計画 40年度まで施工済額 40年度末進ちょく率
完了予定年度 総事業費 増産トン数 完了見込年度 総事業費 増産トン数 (40年度は見込額)

北海道開発局

美瑛川

37

44
千円
1,940,000
トン
2,263

45
千円
2,625,000
トン
2,263
千円
665,094

25
大野 36 42 1,529,667 4,198 43 2,686,000 4,198 1,844,162 69
富良野第2 38 41 241,000 565 42 294,960 565 65,105 22
厚真 37 44 1,657,363 3,851 45 2,274,000 3,851 741,006 33
北陸農政局 阿賀野川用水 36 43 6,690,000 10,883 45 8,892,000 10,883 2,053,779 23
近畿農政局 紀の川用水 39 45 2,800,000 3,985 46 3,074,000 3,985 209,467 7

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