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  • 昭和44年度|
  • 第3章 政府関係機関その他の団体の会計|
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  • 第24 日本航空機製造株式会社|
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独占販売代理店契約の締結および解除の処置が不当なもの


(153) 独占販売代理店契約の締結および解除の処置が不当なもの

契約の概要 米国等におけるYS−11型航空機および同部品の独占販売(賃貸を含む。)代理店契約
契約の相手方 シャーロット・エアクラフト・コーポレーション(米国)
契約 当初の契約 41年4月
契約の変更 42年5月
契約の解除 44年2月
上記に対する手数料の支払 42年1月 18,000,000円 (50,000ドル)
42年10月 36,000,000円 (100,000ドル)
44年3月 179,075,000円 (500,000ドル)
45年3月 802,800,000円 (2,230,000ドル)
 計 1,035,875,000円 (2,880,000ドル)

 

 上記の手数料は、独占販売代理店契約の締結および解除にあたっての処置が適切でなかったため、YS−11型航空機および同部品の販売および賃貸の実績を全くあげなかった上記シャーロット・エアクラフト・コーポレーションに支払うことになったものである。

(説明)
 日本航空機製造株式会社(以下「日航製」という。)は、シャーロット・エアクラフト・コーポレーション(以下「シャーロット社」という。)との間に締結していたYS−11型航空機(以下「YS−11」という。)および同部品の独占販売代理店契約を昭和44年2月に解除したが、その結果として、日航製は、YS−11および同部品の販売および賃貸の実績を全くあげなかったシャーロット社に対して手数料として総額1,035,875,000円(2,880,000ドル)を支払うことを余儀なくされた。

 上記の手数料は、上記契約期間中に日本商社の販売努力によってシャーロット社の独占販売地域内で販売または賃貸されたYS−11および同部品について支払われたものであるが、これらの販売または賃貸の実績をあげるについて、日航製では、別途、日本商社に対する販売手数料(概算8億8千万円)等多額の費用を要している。
 このような結果を生じたのは、シャーロット社との契約の締結および解除にあたっての処置が適切でなかったことによるものであって、その経緯を記述すると次のとおりである。
 日航製は、昭和41年当時、同社の製造にかかわるYS−11の海外とくに米国等における販路の開拓を強く希望していた。そして、同年4月、シャーロット社との間に、同社をYS−11および同部品の独占販売代理店とする旨の契約を締結した。
 この契約の内容のおもな点は次のとおりである。

(1) 日航製は、アメリカ合衆国およびその属領を含む北アメリカ、南アメリカ、中央アメリカならびにスペイン地域においてYS−11とその部品を販売または賃貸する独占販売代理店としてシャーロット社を指定し、同社はYS−11以外の最大離陸重量が18t余から36t余までの新品航空機の販売をしない。
 日航製は、上記地域においてシャーロット社を通さないでYS−11の販売および賃貸をしない。

(2) シャーロット社との独占販売代理店契約は、契約書の調印とともに発効し、連邦航空局(FAA)からYS−11の改造型の型式証明書が発行された日から起算して1箇年間効力を有する。
 上記の証明書発行後1箇年以内に日航製が受け入れられるような最低5機の確定的注文があったときは、契約はさらに1箇年更新される。また、それ以降は、シャーロット社が1箇年に最低5機の日航製が受け入れられるような確定的購入注文をしたときは、契約はさらに1箇年更新され、以後も同様である。
 前記の型式証明書発行後、最初の1箇年以内にシャーロット社が10機を販売した場合は、本契約は発効期日から起算して20年間有効となる。

(3) 日航製は、前記地域内で販売または同地域内での使用のために販売されたすべてのYS−11につきシャーロット社に手数料を支払う。

(4) 日航製は、シャーロット社が販売したすべての日本製部品についてシャーロット社に手数料を支払う。日航製は、前記地域内でシャーロット社を通さないでこれらの部品を販売しない。
上記のように、この契約は、シャーロット社の権利に関する条項が詳細に定められているのに対し、シャーロット社の履行すべき義務については単にYS−11級の新品航空機の販売をしないということだけで、その他なんらの具体的規定も設けられていないものであった。
 しかし、本件契約当時、シャーロット社は、授権資本金50万ドル、従業員120人余、年商約500万ドルで、軍関係等の航空機余剰部品の購入、中古部品の修理、販売および中古航空機の購入、販売をしており、同社がYS−11級の新品航空機の販売についての経験を有していなかったこと、財政状態が良好でなかったことは、日航製においても調査の結果明らかになっていたのである。したがって、日航製がシャーロット社を独占販売代理店とするにあたっては、契約上、日航製が一方的に不利にならないよう、シャーロット社が期待どおりの販売活動をしない場合の対応策などについて特段の配慮を払うべきであったと認められる。

 上記契約を締結した後、日航製は米国および南米ヘデモフライトを実施したが、シャーロット社がYS−11およびその部品の販売をした実績はなく、日航製は、シャーロット社の販売活動に期待できないので日本商社と協力して販売の促進を図るとともに、シャ−ロット社に支払う手数料の料率改定を企図し、同社と協議の結果、42年5月、当初契約の一部を変更した。
 この変更の際、手数料計算の料率に関する事項を改定したほか、次のように契約条項が一部改定されまたは新たに付加された。

(1) 日航製は、シャーロット社が独占販売権を有している地域内で販売もしくは賃貸されまたは同地域内での使用のため販売もしくは賃貸されたYS−11全部について、シャーロット社に対し手数料を支払う。

(2) 日航製は、YS−11の購入者または賃借者への最初の供給のため販売または賃貸された日本製の部品のすべてについてシャーロット社に対しYS−11に対する手数料と同率の手数料を支払う。前記地域内で販売または賃貸されたその他の部品(維持部品)についても、所定の手数料を支払う。さらに、日本製でない部品については販売したたびに手数料率を協議することとする。
 日航製は前記の地域内でシャーロット社を通さないで日本製の部品を販売しない。

(3) 上記(1)、(2)の手数料の支払期限は、航空機または部品を販売した場合には航空機または部品を引き渡してから30日以内、また、賃貸の場合には日航製が使用料を受け取ってから30日以内とする。

 上記のように契約の内容を改定した結果、手数料を支払う範囲が拡大されたばかりでなく、当初契約に定めがなかった手数料支払期限が設定されるなど、日航製の義務に関する規定が追加されたのに反し、当初契約の不備の補正は行なわれなかった。

 上記の契約変更後も、シャ−ロット社は、YS−11の販売実績をあげなかったばかりか、契約に反して日航製以外の他社の航空機の売込みを行なうなど日航製の独占販売代理店としての業務を誠実に行なわなかった。
 日航製は、シャーロット社を独占販売代理店としている間も、日本商社の取扱いによって、販売38機、賃貸12機の実績をあげていた。この間、日航製は42年1月および10月、手数料の前金としてシャーロット社に対して計54,000,000円(15万ドル)を支払っただけであったので、シャーロット社は契約に基づく手数料の支払を強硬に要求してきた。

 以上のような状況であったので、日航製は、独占販売代理店としての機能を果さないシャーロット社との独占販売代理店契約を早急に解除する方針で数次にわたり折衝を重ねたが、容易に進展せず、他方、シャ−ロット社は、仲裁機関に裁定を求める態度を示していたが、44年2月に至って、現金50万ドル(179,075,000円)の支払および日航製がYS−11販売の際下取りした中古航空機33機の引渡しを条件に契約の解除に応ずる旨申し出てきた。
 これに対し、日航製は、契約所定の手数料(概算12億1442万円(337万ドル))を下回る額で契約を解除することができれば得策であるという観点から、また、前記の中古航空機を充当することによりその販売の手数を省くことができる利点等をも考慮して、上記の申出を受け入れることにし、同月、独占販売代理店契約を解除する契約、現金50万ドル支払の契約ならびに中古航空機のシャーロット社への売渡しおよびその代金と手数料とを相殺する契約(同年4月その内容に一部変更があった。)をそれぞれ締結した。

 本件解除にあたって、日航製では、解決の手段として仲裁裁定を求める方策を講ずるなどの処置をとっていない。
 なお、その際、シャーロット社の要求にかかわる現金179,075,000円(50万ドル)を支払うにあたって、前記の42年に支払った54,000,000円(15万ドル)の処理についてこれが179,075,000円(50万ドル)の一部であるかどうかを確認する処置をとっていない。また、手数料に充当するためシャーロット社に売り渡した中古航空機33機の売渡価額を44年2月には1,379,160,000円(3,831,000ドル)としていたものを、同年4月に至って802,800,000円(2,230,000ドル)に減額処理しているが、その価格決定の基礎が明らかでない。