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  • 昭和50年度|
  • 第3章 政府関係機関その他の団体の会計|
  • 第2節 政府関係機関その他の団体別の事項|
  • 第19 日本原子力船開発事業団|
  • 特に掲記を要すると認めた事項

原子力船「むつ」の開発について


 原子力船「むつ」の開発について

 原子力船「むつ」は、我が国最初の原子力船であって、日本原子力船開発事業団(以下「事業団」という。)が、原子力開発利用長期計画(昭和36年2月原子力委員会決定)に従い内閣総理大臣及び運輸大臣が38年10月に定めた原子力第1船開発基本計画(42年3月及び46年7月改訂)に基づき、原子力船の建造技術の確立、運航技術の習熟、技術者及び乗組員の訓練等を目的として、原子力船を建造することとし、47年度末までに出力試験等を行って完成し、以後約2年間の実験航海等を行って50年度末までにすべての開発業務を終了することとしていたものである。

 そして、事業団では、38事業年度に研究開発を開始し、「むつ」本体については、42年11月に建造に着手して47年8月に原子炉のぎ装を了し、9月に核燃料を装荷しており、また、「むつ」の係留、核燃料の交換、廃棄物の陸揚げ等を行うために必要な定係港施設等については、42年11月に青森県及びむつ市の同意を得て、むつ市に建設することに決定し、43年3月から建設に着手し、47年7月までに主要施設を、51年3月までにその他の施設をそれぞれ完成している。

 上記に要した事業費として、事業団は、38事業年度から50事業年度までに、政府出資金109億6900万円、民間出資金10億7788万円、寄附金10億7745万円、国庫補助金43億0998万余円を財源とし、総額174億3431万余円(「むつ」本体74億2451万余円、定係港施設等30億5694万余円、一般管理費等69億5286万余円)を投入している。

 しかして、「むつ」は、49年8月に初めての出力試験を実施するために定係港を出港したものの、試験海域における出力上昇試験の初期段階において放射線漏れを生じたため試験を中止し、その後原子炉を停止の状態にしたまま定係港岸壁に係留されている状況であるが、放射線漏れを契機として国及び事業団が講じた措置についてみると、放射線漏れ後の同年10月に政府代表、青森県漁業協同組合連合会長、青森県知事及びむつ市長の関係4者の協議により、原子力船「むつ」の定係港入港及び定係港撤去に関する合意協定を締結し、この協定に従って、国は青森県漁業協同組合連合会等が実施した漁業振興対策に対して12億1708万円を補助し、事業団は、むつ市における体育館の建設及び放送施設の整備に対して1億7000万円を助成し、「むつ」の原子炉の凍結、使用済み燃料貯蔵池の埋立て、使用済み燃料交換用キャスクの青森県外への搬出等を実施済みであるが、新定係港はいまだに決定されず、また、52年4月を目途とした現定係港の撤去も完了の見込みが立っていない状況である。

 一方、放射線漏れの直接の原因となった放射線しゃへい構造の不備に関しては、国は「むつ」放射線漏れ問題調査委員会において放射線漏れの原因究明を行うとともに、原子力委員会に原子力船懇談会を設けて今後の原子力船開発の在り方について抜本的見直しを行い、また、「むつ」のしゃへい改修、安全性総点検を行うこととし、そのための修理港の選定に努めているがまだ決定をみていない状況で、このためしゃへい改修はもとより安全性総点検もほとんど実施されないまま、51年11月現在なお岸壁に係留されている。

 このように、「むつ」の研究開発は、38事業年度以降総額174億3431万余円に上る多額の国費等を投じて遂行してきたにもかかわらず、現在においても上記のような状況となっており、また、「むつ」を岸壁に係留したままで推移した50事業年度においても事業団の支出額が13億5202万余円に上っている状況であり、「むつ」に関する前記のような状態がこのまま推移するとすれば、開発の成果が確認されないまま更に相当額の国庫負担を要することとなると認められる。