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  • 昭和52年度|
  • 第3章 所管別又は団体別の検査結果|
  • 第1節 所管別の検査結果|
  • 第9 労働省|
  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

失業給付金の不正受給金返納金債権に係る延滞金債権の取扱いについて処置を要求したもの


失業給付金の不正受給金返納金債権に係る延滞金債権の取扱いについて処置を要求したもの

(昭和53年11月27日付け53検第424号 労働大臣あて)

 労働省で所管する雇用保険の失業給付金を、偽りその他不正の手段によって受けたもの(以下「不正受給」という。)の額は、毎年多額に上っており、同省が昭和52年度中に内部監査により発見したものは22,617件23億3400万余円となっている。また、同省が同年度中に調査決定した不正受給金返納金債権に係る延滞金は4253万余円となっている。

 しかして、この不正受給金返納金債権について本院が調査した結果、次のとおり延滞金債権の取扱いが適切でないと認められた。

 すなわち、この不正受給金返納金債権に係る延滞金債権については、この不正受給が民法第704条に定める悪意の不当利得に当たり、この場合の不当利得返還金債権は不当利得の日の翌日から遅延利息が附されるものとされていることから、国の債権の管理等に関する法律(昭和31年法律第114号)及び国の債権の管理等に関する法律施行令(昭和31年政令第337号)においても、延滞金債権については、今後発生するものだけでなく既に発生しているものも含めて、元本債権を請求するときに調査確認すべきこととされており、これを受けてこのような不正受給金返納金債権に対する納入の告知については、「国の債権の管理等に関する法律及びこれに基く命令の実施について」(昭和32年1月10日付け大蔵大臣通達蔵計第105号)により不正に支給を受けた日を履行期限として納入の告知を行うこととされていて、本件不正受給金返納金債権に係る延滞金については、その計算に当たっては不正受給の日の翌日を起算日とすべきものと認められる。

 しかしながら、同省では、失業給付金の不正受給の現状、すなわち、失業給付金の不正受給者は発見されるまでには繰り返し不正受給を重ねている場合が多く、この異なる不正受給日ごとに元本債権に併せて延滞金を計算して債権確保の措置を講ずるとすれば、実際にこの事務を担当している公共職業安定所の事務量が増大し、事務処理に支障をきたすとして、昭和32年5月、上記不正受給金返納金債権に係る延滞金の計算に当たっては、公共職業安定所において十分な事務処理体制が整備されるまでの間、債権管理事務取扱要領(昭和32年5月13日付け労働省職業安定局長通達職発第114号。最終改正昭和49年3月20日付け労働省職業安定局長通達職発第86号。以下「取扱要領」という。)により、納入告知の日の翌日を起算日とし、不正受給の日の翌日から納入告知の日までの延滞金は徴収しないこととして今日に至っている。

 しかし、この取扱要領が定められた32年当時は失業給付金(当時は失業保険金)を1週間ごとに現金で支給していたが、50年度からは4週間ごとに支給することになったこと、また、最近において小型電子式計算機が普及したことにより計算の事務が当時に比べて能率的に行うことができるようになったことなどからみて、延滞金の計算を正規に行って徴収することは容易になったものと認められる。

 したがって、延滞金を不正受給の日の翌日から納入告知の日まで附することとすれば、52年度中に同省が発見した前記不正受給金については、仮に同省の抽出調査による不正受給者の最終の不正受給の日の翌日から納入告知の日までの間の平均日数72.4日をとり、民法の法定利率年5分で計算したとしても前記延滞金額は約2310万円増加することとなり、正規に不正受給の日ごとにその翌日から納入告知の日までの日数で計算すると更に多額になると認められる。また、本院が53年中の検査により発見した不正受給金1億4285万余円(参照) については、不正受給の日ごとにその翌日から納入告知の日までの日数を本院において抽出調査した平均日数326日をとって計算すると、延滞金額は約630万円となる。

 ついては、不正受給金返納金債権に係る延滞金債権に関し、法令に違反した現在の取扱いを改め、不正受給の日の翌日から延滞金を附することとする要があると認められる。