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  • 昭和56年度|
  • 第2章 所管別又は団体別の検査結果|
  • 第1節 所管別の検査結果|
  • 第4 農林水産省|
  • 特に掲記を要すると認めた事項

団体営草地開発整備事業によって開発した草地について


 団体営草地開発整備事業によって開発した草地について

 農林水産省で実施している団体営草地開発整備事業は、畜産経営の合理化を図るため、草地の造成改良、既耕地の飼料基盤としての整備改良、野草資源の有効利用を図るための施設整備等を個別に又は一体的に行うものであって、未墾地等を所有している者などの申請に基づいて、国庫補助事業により地方公共団体、農業協同組合等の団体が事業主体となって実施しており、国営、都道府県営を含めた全草地開発事業の面積236,923ha、事業費1806億3692万余円の中で面積212,768ha(全体の約90%)、事業費1436億7656万余円(全体の約80%)と高い比率を占めている。また、本事業で開発された草地の経営、管理は、国営、都道府県営事業で開発された草地の経営、管理が地方公共団体や農業協同組合等によって行われているのに対し、農業者個人等によって行われているものが多く、比較的小規模の地区で実施されており、しかも、地区内は多くの狭小な団地に分散していたり、関係農家から遠隔な山林原野等立地条件の悪い地域で実施されていたりしている例が多い。そして、農林水産省においては、畜産物に対する需要の安定的な増加を見込み、その生産基盤を整備するため、限られた土地資源を有効に利用し地域畜産の振興を図るために、地域の実態に即した比較的小規模での開発整備が必要であるとして今後も本事業を継続して実施することとしている。

 しかして、昭和45年度以降56年度までの間に本事業が完了した青森県ほか24県における地区数1,142地区、その草地面積17,491ha、総事業費312億6439万余円(国庫補助金相当額139億6581万余円)について、本院でその利用状況を調査したところ、開発された草地が目的に沿って利用されずに荒廃していたり、目的外に使用されていたりしていて事業効果の発現が十分でないと認められるものが、青森県ほか19県(注) 145地区において草地面積742ha、事業費約10億9000万円(国庫補助金相当額約4億7800万円)見受けられた。

 このような状態となっているのは、(1)最近における生乳の生産調整等畜産をめぐる情勢の変化(2)畜産経営者の高齢化と他産業への転出等による後継者の確保難(3)自然災害、放牧牛の疾病等突発的事故の発生(4)混住化の進行等に伴う地域環境の変化による畜産公害の発生(5)生産資材価格の高騰及び畜産物価格の低迷などにより営農意欲が減退したりして畜産経営の継続が困難となったことによると認められ、更に、その背景として、我が国の畜産経営は、規模が零細で飼料の海外依存度が高いため、国際的要因による影響を直接受けやすいぜい弱な経営体質であることや畜産物の需要の伸びが鈍化していることに加え、海外から取引の自由化を強く望まれていることなどの社会経済事情がある。

 しかして、本事業は、国民に供給する畜産物の生産基盤を整備する事業として主要な地位を占めているが、本事業によって開発された草地が、上記のような直接的な要因あるいは社会経済的要因により、利用されずに荒廃していたり、目的外に使用されたりしている事態は本院で調査を実施しなかった地区においても相当数あるものと思料され、また、今後とも少なからず発生するおそれがあると認められる状況にかんがみ、事業の実施済地区について十分な見直しを行い、これらの事態を招いた構造的要因を究明の上、抜本的な対応策を講じなければ投下した多額の事業費がその効果を発現しない状態が依然として継続するばかりでなく、今後引き続いて事業を実施する地区においても同様の事態の発生を回避することが困難である。

(注)  青森県ほか19県 青森、宮城、福島、茨城、千葉、新潟、岐阜、静岡、三重、兵庫、岡山、山口、香川、愛媛、高知、佐賀、長崎、熊本、宮崎、鹿児島各県