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  • 昭和56年度|
  • 第2章 所管別又は団体別の検査結果|
  • 第2節 団体別の検査結果|
  • 第1 日本国有鉄道|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

トンネル工事における労務費の積算について


(2)  トンネル工事における労務費の積算について

 日本国有鉄道(以下「国鉄」という。)では、線路増設等に伴いトンネル工事を毎年多数施行しており、これら工事費の積算については、国鉄が定めたトンネル関係の積算要領(注1) により材料費、労務費等を算定しているが、このうち昭和56年度に大阪工事局ほか6工事局等(注2) が施行している福知山線第1名塩T西2工事ほか24工事(工事費総額157億6441万余円)について検査したところ、次のとおり、トンネル工事における労務費の積算が適切でないと認められる点が見受けられた。

1 トンネル内作業の労務費について

 上記25工事のうち、福知山線第3道場T2工事ほか10工事(工事費総額44億2057万余円)におけるトンネル内作業の労務費の積算についてみると、1方(ひとかた)当たり(注3) の拘束時間を坑外での準備、整理等に30分、坑内での実作業に8時間40分、人出坑に20分、坑内での休憩時間1時間、計10時間30分とし、このうち坑外での準備、整理等の30分を除いた10時間を賃金の対象時間として、労務費を総額12億1327万余円と積算していた。
 しかして、賃金対象時間の中に、坑内での休憩時間1時間を含めているのは、労働基準法(昭和22年法律第49号)第38条第2項の「坑内労働については、労働者が坑口に入った時刻から坑口を出た時刻までの時間を、休憩時間を含め労働時間とみなす」という規定に基づいたものとしている。
 しかしながら、国鉄で施行しているトンネル工事の実情は、作業員が休憩を坑外でとっており、前記11工事においても、作業員はすべて坑外において休憩(食事を含む。)している状況で、また、延長がすべて500m未満であることから人出坑の所要時分も往復10分程度で足りていた。

 上記のようなことから、坑内において休憩するものとして1時間の休憩時間を賃金の対象とするのは適切を欠くものと認められた。現に、他団体においてはこの種トンネル工事における作業員の休憩時間については、これを賃金の対象にしていない状況である。
 一方、拘束時間のうち坑外での準備、整理等の30分については賃金の対象としていないが、通常この種の時間は労働時間として賃金の対象に含まれるものと認められた。
 したがって、賃金の対象時間としては、坑外での準備、整理等の30分、坑内での実作業時間8時間40分、人出坑2回分20分計9時間30分を見込めば足りると認められた。
 いま、前記11工事について、上記により労務費を積算したとすれば、積算額を約7400万円程度低減できたと認められた。

2 コンプレッサの運転労務費について

 上記25工事では、掘削、コンクリート吹付け等の作業に削岩機、コンクリート吹付け機等を使用しているが、その動力用の圧縮空気を供給するコンプレッサの運転労務費の積算についてみると、コンプレッサの運転状態を常時監視する必要があるとして、1方当たり特殊運転手1人、その補助者として普通作業員0.5人を見込んで運転労務費を総額2億6075万余円と積算していた。
 しかしながら、近年、この種工事に使用されているコンプレッサは、自動制御ができるものがほとんどであって、機械損料の算定に当たってもこの機種が対象となっているものであり、従来のコンプレッサに比べて運転保守に人手を必要とせず、現に、本件工事においてその実態を調査した結果でもコンプレッサの始動後は点検、巡回の作業程度であるから、補助者としての普通作業員は積算額に計上する要はないと認められた。
 また、コンプレッサの運転手の労務単価については、公共事業労務費の調査を実施している三省(農林水産、運輸、建設の各省)連絡協議会が定めている特殊運転手の単価を用いているが、同協議会が定めている特殊運転手はブルドーザ、パワーショベル等の重機械を運転操作するものであり、コンプレッサ運転手は、特殊運転手より労務単価が低い特殊作業員となっているのであるから、その賃金を適用すれば足りると認められた。

 いま、本件各工事についてコンプレッサの運転操作を1方当たり特殊作業員1人によることとして、コンプレッサの運転労務費を積算したとすれば、積算額を約8500万円程度低減できたと認められた。

3 転倒機の運転労務費について

 上記25工事のうち、福知山線第2名塩T4工事ほか5工事(工事費総額36億0334万余円)において、トンネルの掘削ずりをずり鋼車に積み込み、これを坑外のずり置場まで搬出し、転倒機を使用してずり鋼車を横転させてずりを取り卸すこととしているが、ずり置場における転倒機の運転労務費の積算についてみると、その運転手として1方当たり特殊作業員を1人と見込んでその労務費を総額4270万余円と積算していた。
 しかしながら、これらの工事に使用する転倒機は油圧自走式のもので、その操作は簡単であるばかりでなく、操作時分も極めて短いものであり、一方、ずり鋼車をけん引する機関車の運転手としてトンネル特殊工1人、助手としてトンネル作業員1人計2人が見込まれており、しかも、ずり鋼車を転倒させるときは、この機関車は停止しているものであるから、機関車の運転手又は助手が転倒機の操作を行うこととすれば、転倒機の運転手として別途1人を見込む要はないと認められた。現に、本件工事における転倒機の操作の実態について調査したところ、機関車の運転手又は助手が行っている状況であった。
 いま、前記6工事について転倒機の操作を機関車の運転手又は助手が行うこととすれば、前記転倒機の運転労務費約4200万円は積算の要がなかったと認められた。

 上記各項についての本院の指摘に基づき、日本国有鉄道では、1、2、3の労務費の積算についてトンネル関係の積算要領を改定し、トンネル内作業の労務費については57年10月、コンプレッサの運転労務費については同年9月、転倒機の運転労務費については同年8月以降契約を締結する工事から適用する処置を講じた。

 なお、前記25工事のうち福知山線第1名塩T西2工事ほか11工事(工事費総額78億5339万余円)は、いずれもNATM(注4) により施工しており、地山に打ち込むロックボルトの仕様についてはSNアンカーボルト(注5) (径24mm、長さ2mから4mもの計59,092本)を使用することとし、また、ロックボルトを地山に固定させるためのてん充材については、工法特許であるSNアンカーボルト用モルタルと急結用カプセルを組み合わせて使用することとし、これらの材料費を2億2000万余円と積算していた。
 しかしながら、近年、この種工法において使用するロックボルトは、異形棒鋼の末端を単にネジ切り加工したものや棒鋼全体がネジになっているネジ節異形棒鋼がSNアンカーボルトと同程度の強度を有し、しかも価格が低廉であることから、他団体において多く使用されており、また、てん充材についても割安な超速硬モルタルが開発されていることから同様に多く使用され、経済的な施工が行われているのが実情である。
 そこで、国鉄が施行するNATMによるトンネル工事においても、ロックボルトには異形棒鋼又はネジ節異形棒鋼を、また、てん充材には超速硬モルタルを使用する仕様に改め、経済的な施行を図る要があると認められたので指摘したところ、国鉄では、現在施行中の6工事について設計変更等の処置を講ずるとともに、本年度末までに制定を目途にしている「NATM設計施工指針」に指摘の趣旨に沿った内容を折り込むこととして検討を進めている。

(注1)  トンネル関係の積算要領 単線トンネル導坑先進上半工法積算要領、複線トンネル導坑先進上半工法積算要領、単線トンネルNATM積算要領、新幹線トンネル上半先進工法(タイヤ方式)積算要領、新幹線トンネル掘さく導坑先進上半工法積算要領(以上本社制定)、複線トンネルNATM積算要領試案(大阪工事局制定) 

(注2)  大阪工事局ほか6工事局等 大阪工事局、信濃川工事局、東京第一工事局、下関工事局、岐阜工事局長野工事事務所、大阪工事局岡山工事事務所、下関工事局、福岡工事事務所

(注3)  1方 トンネル工事のように掘削作業を1日当たり2交替又は3交替で連続して施工するときの1勤務単位のこと

(注4)  NATM  New Austrian Tunnelling Method の略でナトムと呼ばれる。トンネルを掘削した後、支保工、吹付けコンクリート、ロックボルトなどを適宜組み合わせ、覆工コンクリートを施工して、地山を支持し、地山の持っている保持力を最大限に生かす工法

(注5)  SNアンカーボルト ロックボルトの一つで、このボルトを初めて使用したスウェーデンのStore Norfors水力発電所の頭文字からSNと名づけられている。