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  • 昭和56年度|
  • 第2章 所管別又は団体別の検査結果|
  • 第2節 団体別の検査結果|
  • 第14 日本原子力研究所|
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  • 工事

核融合研究装置「JT−60」実験棟建家等建設工事の施行に当たり、鉄筋コンクリート用棒鋼の仕様が適切でなかったため、工事費が不経済になったもの


(181) 核融合研究装置「JT−60」実験棟建家等建設工事の施行に当たり、鉄筋コンクリート用棒鋼の仕様が適切でなかったため、工事費が不経済になったもの

科目 (款)核融合研究費 (項)核融合研究費
部局等の名称 日本原子力研究所本部
工事名 (1) 54核融合(研)JT-60実験棟新築工事
(2) 55核融合(研)JT-60実験棟第II期工事
(3) 55核融合(研)JT-60電源棟第II期工事
工事の概要
核融合研究施設・臨界プラズマ試験装置JT-60の関連施設の実験棟、実験棟と電源棟との間の地下ダクト等を新設する工事

工事費 (1) 8,368,099,564円(当初契約額8,420,000,000円)
(2) 2,735,000,000円
(3)  936,052,918円(当初契約額931,000,000円)
請負人
(1)、(2)鹿島・清水・竹中建設共同企業体(3)大成・戸田・フジタ建設共同企業体

契約 (1) 昭和55年2月指名競争後の随意契約
(2) 昭和56年3月同
(3) 昭和56年3月同
しゅん功検査 (3) 昭和57年6月(電源棟第II期工事)
支払 (1) 昭和55年2月〜57年4月12回 6,979,996,199円
(2) 昭和56年4月〜57年2月2回 628,328,000円
(3) 昭和56年4月〜57年6月7回 936,052,918円

 この工事は、核融合研究装置「JT−60」実験棟建家等に使用する鉄筋コンクリート用棒鋼の仕様が適切でなかったため、工事費約7470万円が不経済になったと認められる。

(説明)

 この工事は、茨城県那珂郡那珂町向山に製作中の「核融合研究施設・臨界プラズマ試験装置JT−60(注1) 」を収容する実験棟建家及び地下ダクト等その関連施設を建設(工事費総額12,039,152,482円)するもので、(1)の実験棟新築工事として、実験棟(延べ面積22,199m2 )、実験準備室(延べ面積2,499m2 )及び実験棟と電源棟との間のケーブルを収容する地下ダクト(延べ面積6,933m2 )等を、(2)の実験棟第II期工事として、実験棟の屋根部(面積3,108m2 )及び地下ダクト(延べ面積772m2 )等を、(3)の電源棟第II期工事として、電源棟周辺の地下ダクト(延べ面積2,892m2 )等をそれぞれ施工することとしている。

 しかして、この工事の設計についてみると、上記実験棟、地下ダクト等の基礎・床版部、壁部、屋根部等に建て込む鉄筋コンクリート用棒鋼(材料所要量19,190.5t)は、建設省監修の「建築工事共通仕様書」等により、いずれも日本工業規格JIS−G−3112(以下「JIS」という。)の規格品を使用することとし、このうち、異形棒鋼SD35(注2) のD19、D22、D25、D29及びD32の5種類(材料所要量11,277.7t)については主筋等に使用することとしていた。そして、特記仕様書により、これら棒鋼を接合するための継手方法としては、D19からD29の4種類については重ね継手法(注3) で行う実験準備室を除きすべてガス圧接法(注4) を、D32についてはメカニカルジョイント法(注5) を採用することとし、接合に際しての圧接性を考慮して実験準備室を除くすべての施設に使用する棒鋼は高炉メーカー(注6) の製造する製品を使用することと指定していた。

 そして、実験準備室分60.5tを除く11,217.2tについてはこの製品指定に基づいて材料費を積算することとし、各工事の積算時点における高炉メーカー月積み契約鉄鋼販売価格によりSD35の1t当たりの単価を78,700円から89,280円として、材料費を計906,415,029円と算定していた。

 ところで、鉄筋コンクリート用棒鋼には前記高炉メーカー製品のほか電炉メーカー製品(注7) があり、JIS規格品の電炉メーカー製品は、その品質が高炉メーカー製品に遜(そん)色がないことから一般の建設工事に多く使用され、しかも、D32以下の棒鋼は通常高炉メーカー製品に比べて価格が低廉であるのに、前記の設計において特記仕様書で高炉メーカー製品と特定したのは、電炉メーカー製品には圧接性が良好でないものが見受けられるので工事の信頼性を確保する意味から電炉メーカー製品を避けたとしているものである。

 しかしながら、高炉、電炉のいずれのメーカー製品であっても、JIS規格品であれば、両者の間に品質上の優劣はないものであって、あえて高炉メーカー製品としなければならない理由は認められない。すなわち、JISに示されている内容等によれば、

(1) 鉄筋コンクリート用棒鋼は製造履歴のはっきりした鋼塊から製造することとしていて、製造には転炉(高炉から出た溶解状の銑鉄を製鋼する炉)又は電炉のいずれかとすることになっていること
(2) 化学成分(炭素、マンガン等の含有量)は機械的性質((3)参照)を満足させるため必要最少限の成分規制値を定めていること。そして、継手としてのガス圧接性が良好なものでなければならないとしていること
(3) 機械的性質として、降伏点強度(引張力を加えてその力を除いても元の形状に戻らなくなる限界の強度)、引張強さ、伸びが規定されていて、品質上のばらつきが少ないものであることとされており、特に圧接については各種団体が実際に施工した電炉メーカー製品のガス圧接テスト等においても適格性が認められている。

 以上の理由から、本件工事に使用したSD35の棒鋼(ガス圧接法によるとしたD19からD29までのもの及びメカニカルジョイント法によるとしたD32のもの)は、そのすべてを高炉メーカー製品として特に指定する必要はなく、工事費の積算において経済的な選択ができるようにすべきであったと認められる。

 現に、本件工事と同時期に施行した他の研究関連施設の建設工事においては鉄筋コンクリート用棒鋼のSD35について仕様書に製品の指定をしておらず、経済的な電炉メーカー製品を使用しているものについては、その圧接箇所の抜取り検査の成績も良好であった。

 いま、仮に本件工事の設計に当たり製品指定を行わなかったとすれば、本件工事積算時における棒鋼販売価格は高炉メーカー製品より電炉メーカー製品が低廉であるので、1t当たりの単価は57,861円から77,162円となり、本件棒鋼の材料費は計835,975,338円で足り、これに諸経費等を考慮して再計算すると工事費は総額11,964,354,129円となり、本件工事費はこれに比べて約7470万円が不経済になっていると認められる。

(注1) 「核融合研究施設・臨界プラズマ試験装置JT−60」  核融合(水素のような軽い元素の原子核同士を衝突融合させること。多量の熱エネルギーが発生する。)を起こせるために必要なエネルギーと核融合反応で発生するエネルギーとが等しくなる条件を研究するため日本原子力研究所(JAERI)が開発中のトカマク方式(Tokamak;プラズマに電流を流すことにより、これをドーナツ状に磁場の中に閉じ込める方式)の試験装置で、プラズマの容積が約60m3 であることからJT−60と名づけられた。
(注2) 異形棒鋼SD35 棒鋼の表面に特殊の形状突起をもつ降伏点強度が35kgf/mm2 の棒鋼(鉄筋)をいう。その呼び名はD19、D22、D25、D29、D32など径で表わす。
(注3) 重ね継手法 棒鋼の接合方法の一種で、2つの鉄筋端部を重ね合わせて接合するもの
(注4) ガス圧接法 棒鋼の接合方法の一種で、2つの鉄筋を突き合わせて相互の端面間に軸方向の圧縮力を加え、その接合部をガス炎で加熱して接合するもの
(注5) メカニカルジョイント法 棒鋼の接合方法の一種で、2つの鉄筋の接合部にスリーブをかぶせて圧着したりネジで接合したりするなど機械的手段を用いて接合するもの
(注6) 高炉メーカー 溶鉱炉を持ち鉄鋼一貫生産を行っているメーカー。異形棒鋼については径35mm以上の太径のものを生産しているところが多い。
(注7) 電炉メーカー 鋼塊を電気炉で製鋼するメーカー。主として径32mm以下の異形棒鋼あるいは形鋼を製造している。