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  • 昭和58年度|
  • 第2章 所管別又は団体別の検査結果|
  • 第1節 所管別の検査結果|
  • 第6 農林水産省|
  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

国営かんがい排水事業及びこれに附帯する道県営、団体営事業の施行について、事業効果の速やかな発現を図るよう意見を表示したもの


(1) 国営かんがい排水事業及びこれに附帯する道県営、団体営事業の施行について、事業効果の速やかな発現を図るよう意見を表示したもの

会計名及び科目 一般会計 (組織)農林水産本省
特定土地改良工事特別会計
(項)土地改良事業費
(項)北海道土地改良事業費
(項)土地改良事業費
部局等の名称 北海道開発局、東北、関東、北陸、東海、近畿、中国四国、九州各農政局 
事業 国営天塩川上流土地改良事業等40国営かんがい排水事業及びこれらの附帯事業
事業の概要 農業上の土地利用の高度化、水利用の安定と合理化を図ることを目的として、かんがい排水施設の整備を行う事業
事業費 6003億0574万余円(国営事業に係る昭和58年度末までの支出済額)

 上記の国営かんがい排水事業及び附帯事業において、次のとおり、事業効果の発現が遅延している事態が見受けられた。

(1) 予算規模に比べて採択事業数が多いなどのため、国営事業が長期化していて事業効果の発現が遅延しているもの23事業(昭和58年度末までの支出済額3980億1063万余円。うち3事業(同470億7418万余円)は(2)項と重複)

(2) 国営事業が完了又はほぼ完了しているのに、水田の区画整理及び畑地かんがい施設の整備等を行う附帯事業が進んでおらず、国営事業と附帯事業との間には行を生じていて国営事業の事業効果の発現が遅延しているもの又はそのおそれがあるもの14事業(同1564億9491万余円)

(3) 水源施設の建設に係る補償交渉等が難航し、国営事業が長期化して事業効果の発現が遅延しているもの又はそのおそれがあるもの6事業(同928億7438万余円)
 このため、国営事業によって建設された施設の有効利用が図られないばかりか、一部に遊休しているものもある状況である。
 したがって、農林水産省において、今後は国営事業及び附帯事業の実施の意義を十分に生かすよう、事業の実施に当たっては、事前の調査、検討を十分に行うとともに、事業効果の速やかな発現を期するため、効率的かつ重点的な予算配分、調和のとれた国営事業と附帯事業の実施、利害関係人との権利関係の迅速な調整について、各般の対策を講ずることが緊要である。

 上記に関し、昭和59年11月26日、農林水産大臣に対して意見を表示したが、その全文は以下のとおりである。

国営かんがい排水事業及びこれに附帯する道県営、団体営事業の施行について

 貴省では、土地改良法(昭和24年法律第195号)に基づき、農業生産の基盤の整備及び開発を図る土地改良事業の一つとして、土地利用の高度化や水利用の安定と合理化を図ることを目的とするダム、頭首工、揚排水機場、幹線用排水路等の基幹農業用用排水施設の整備を行う国営かんがい排水事業(以下「国営事業」という。)を施行しており、昭和22年度以降57年度末までに完了した110事業及び58年度現在事業継続中の110事業計220事業(国営造成土地改良施設整備事業等を除く。)の国営事業に対して58年度末までに投下された事業費は、総額1兆5804億余円の巨額に上っている。

 この国営事業は、受益農家等からの申請を受けて貴省において施行するもので、事業の着手に先立ち、事業の施行に伴う利害関係の調整を図るとともに、受益面積、総事業費、完了予定時期、主要工事及び関連事業等に関する事業計画を定めることとしている。国営事業は、原則として一般会計で施行するが、事業の早期完了が特に要請されるものについては、特定土地改良工事特別会計(事業費は一般会計からの繰入金及び資金運用部資金からの借入金を財源としている。以下「特定特会」という。)で施行することもできることになっており、また、国営事業の施行に伴い、国営幹線用排水路に接続する用排水路等の整備を行う都道府県営、団体営かんがい排水事業等が合わせて施行されるが、国営事業に附帯するこれらの都道府県営及び団体営の事業(以下「附帯事業」という。)は、そのほとんどが国庫補助事業として実施されている。そして、いずれの事業の場合も、受益農家は事業費(特定特会事業の場合は借入金利息を含む。)の一部を負担することとなっている。

 しかして、国営事業及び附帯事業の施行については、附帯事業の施行が国営事業に比べて著しく遅延しているものが多数見受けられたので37年に、また、国営事業の施行が全般的に遅延し事業効果の発現が遅れるなどしているものが多数見受けられたので41年に、それぞれ貴省に対して改善の意見を表示しているところであり、貴省はこれらについて種々の対策を講じている。しかし、40年代後半以降、米、みかん等の生産調整、二度にわたる石油ショックによる経済の停滞などを経て、農業をとりまく社会経済情勢の変動は著しいものがあるので、その後における国営事業及び附帯事業の施行状況について、本院において再び総合的に調査した結果、以下に述べるとおり、以前の段階に比べて事態は深刻なものとなっている。

1 予算規模に比べて採択事業数が多いなどのため、国営事業が長期化していて事業効果の発現が遅延しているもの

 国営事業は、受益面積が広大で、必然的に事業規模も大きくなり、多額の事業費と相当の年月を費やすものであるから、その事業採択に当たっては、受益農家等からの申請内容はもちろん、当該事業の予定総事業費、必要工期等種々の事情を総合的に考慮した上で採択すべきであり、採択後は、計画どおり事業を完成させ、事業効果が早期に発現できるよう、効率的かつ重点的な予算配分に配慮すべきである。

 しかして、北海道開発局及び農政局(注) における40年度以降実施中の国営事業の推移をみると、

(1) 実施中の事業は、40年度においては北海道開発局20事業、農政局38事業であったが、その後の毎年度において前年度の完了事業数以上の新規事業が採択されており、このため実施中の事業は漸増していて、58年度において実施中の事業は北海道開発局35事業、農政局73事業と、40年度の2倍近くに増加している。

(2) 実施中の事業に係る総事業費、各年度の予算及び残事業費は、次表のとおりとなっていて、40年度以降において、予算の伸び以上に総事業費及び残事業費が増加しており、残事業消化率が低下している。特に、北海道開発局においては残事業費の増加及び残事業消化率の低下が著しくなっている。

年度 40 45 50 55 58 40年度を1とした時の58年度の指数
区分 単位





実施事業数
20 24 30 30 35
総事業費 百万円 46,950 86,516 265,181 518,034 789,900 16.8
残事業費(A) 百万円 24,967 57,288 200,124 386,243 566,405 22.7
年度予算(B) 百万円 5,444.50 6,839 14,202 30,540 34,640 6.4
残事業消化率(B)/(A) % 21.8 11.9 7.1 7.9 6.1


実施事業数
38 49 63 71 73
総事業費 百万円 148,747 281,307 824,920 1,409,010 1,822,370 12.3
残事業費(A) 百万円 87,173 191,871 593,277 882,992 1,078,113 12.4
年度予算(B) 百万円 16,522 27,650 55,978 102,940 109,180 6.6
残事業消化率(B)/(A) % 18.9 14.4 9.4 11.7 10.1

(3) 上記(1)、(2)から平均工期は、40年度においては北海道開発局11.9年、農政局13.3年であったものが、その年数が逐次延伸してきており、58年度においては北海道開発局24.6年、農政局19.3年となっている。

 上記のような事情から、58年度において実施中の 110事業は全般的に遅延しており、このうち、別表1のとおり、国営天塩川上流土地改良事業ほか22事業(58年度に予定した総事業費4831億2000万円、同年度末までの支出済額3980億1063万余円)については、当初予定工期の2倍以上の期間を既に要しているもの、若しくは要すると見込まれるものであり、また、投下される総事業費も当初予定総事業費の3倍以上に増こうしていて、事業効果の発現が遅延している事態となっている。

 このうちの主な事例を挙げると次のとおりである。

<事例1>

事業名 国営吉野川北岸土地改良事業
部局名 中国四国農政局
58年度に予定した総事業費 51,200,000千円
58年度末までの支出済額 38,194,187千円

 この事業は、徳島県三好郡池田町ほか11町にわたる水田4,587ha及び樹園地等2,767ha計7,354haの受益地を対象に、水田の用水補給と畑地かんがいなどを行うことを目的とし、幹線用水路、揚水機場等を建設することとして、昭和46年度に、予定工期7年、予定総事業費147億円で着工したものである。

 しかして、事業の施行状況についてみると、51年度に特定特会事業に移行して事業の促進を図っているが、毎年度の予算が物価上昇や工法変更等による総事業費増に見合ったものとなっておらず、事業完了予定年度としていた52年度末までの支出済額は、この時点における総事業費332億8000万円に対して101億3681万余円で、その率は30.5%にすぎず、58年度においても60年度を完了予定年度として事業施行中であり、58年度末までの支出済額は、この時点における総事業費512億円に対して381億9418万余円で、その率は74.6%となっている。このように総事業費は46年度の当初予定総事業費の3.5倍に増こうしており、工期も、当初予定工期の2倍以上の15年と見込まれていて、事業効果の発現が遅延している状況である。

 以上のように、農業生産の基盤としての重要な役割を果たしている国営事業が長期化することは、農業の生産性の向上を目指している受益農家の期待に反し、また、情勢変化に即応した農業政策の推進にも支障が生じることとなり、さらに、事業の遅れによる事業効率の低下と総事業費の増こうを招くこととなるばかりでなく、特定特会事業では、借入金利息が増加することとなる。このように事業の長期化と総事業費の増こうは、受益者の負担を増加させ、また、国の負担も増加させる要因であると認められる。

 このような事態を生じているのは、近年農業基盤整備のための国営事業は、農業の近代化と生産性の向上を目指して多数の地区で実施されており、また、事業によって整備される施設の内容が高度化して、実施する事業ごとの規模も従来より大きくなっているなどの実情があるにもかかわらず、これに対して、事業の早期完了、事業効果の早期発現に関する配慮が十分でなかったこと、特に、近年国の財政事情は一変しており、この中にあって国営事業においても各事業の重要度、緊急度を勘案した予算の配分を行い、限られた予算に対応した効率的かつ重点的な事業の推進が図られるべきであったのに、このことについての配慮がなお十分でなかったことによると認められる。

2 国営事業と附帯事業との間には行を生じているもの又はそのおそれがあるもの

 かんがい排水事業は、国営事業及び附帯事業が相互に整合性を保ちながら施行されることにより初めて総合的な事業効果が発現されることとなるものである。すなわち、国営事業によるダム、頭首工、幹線用排水路等の基幹施設の建設と、附帯事業による受益水田までの用水路の整備、水田の区画整理、畑地かんがい施設の整備等とが相まって、農産物の増産と品質向上、営農労力節減等の事業効果の発現が期待できるものである。
 したがって、国営事業及び附帯事業相互間において、事業の計画及び施行に一貫性を持たせることが必要である。そして、附帯事業は、ほとんどが貴省の国庫補助事業として実施されるのであるから、附帯事業の実施に当たっては、国営事業やその他の附帯事業の進ちょくの度合を勘案しながら、その事業内容、施行時期等を決定する要があり、同時にその予算措置についても的確な配慮を要すると認められる。

 しかして、国営事業及び附帯事業の実施並びに事業効果についてみると、別表2のとおり、国営大野土地改良事業ほか13事業(完了時の総事業費及び58年度に予定した総事業費1615億4764万余円、同年度末までの支出済額1564億9491万余円)及び附帯事業において、水田の区画整理及び畑地かんがい施設の整備等の附帯事業が進んでいないため、国営事業と附帯事業との間には行が生じていて事業効果の発現が遅延しており、また、そのおそれがある事態が見受けられた。なかには、国営事業により建設した揚水機場、ファームポンド等の基幹施設が遊休しているものもある状況である。

 これらのうち、主な事例を挙げると次のとおりである。

(1) 水田の区画整理等を実施する附帯事業が進ちょくしていないもの

事業数 国営大野土地改良事業ほか7事業
完了時の総事業費及び58年度に予定した総事業費 108,612,790千円
58年度末までの支出済額 105,588,320千円

<事例2>

事業名 国営河南土地改良事業
部局名 東北農政局
事業完了時(56年度)の総事業費 9,316,433千円

 この事業は、昭和46年度から56年度までの間に、宮城県石巻市ほか4町にわたる水田5,395haの受益地を対象に、農業用水の確保と湿田の解消を目的として、総事業費93億1643万余円で、揚排水機場6箇所、幹線水路延長21,238m等を建設したものである。そして、附帯事業として宮城県営かんがい排水事業及び同県営ほ場整備事業等により末端の用排水路の整備、水田の区画整理等を実施することとしている。
 しかして、上記国営事業及び附帯事業の実施並びに事業効果についてみると、次表のとおり、国営事業は56年度に完了しているのに、県営かんがい排水事業は、49年度から5,016haの受益地を対象に用排水路延長52,174mの整備を施行中であって、58年度末現在、33,549mが完成しただけで総事業費からみた進ちょく率は42.6%に止まっており、また、同県営ほ場整備事業にいたっては、受益面積4,722haを対象に水田の区画整理等を施行することになっているが、58年度末現在、受益農家からはいまだ事業採択の申請も行われていない状態であり、事業効果の発現が著しく遅延している状況となっている。

区分 事業名 受益面積 58年度に予定した総事業費
(A)
58年度末までの支出済額
(B)
進ちょく率
(B)/(A)
主要工事 数量
(C)
58年度末までの進ちょく状況
(D)
整備率
(D)/(C)

東北農政局

国営河南土地改良事業
ha
5,395
千円
9,316,433
(事業完了時)
千円
9,316,433
(56年度まで)

100

揚排水機場

6箇所

6箇所

100
幹線水路 21,238m 21,238m 100
用水管理施設 1式 1式 100
宮城県 かんがい排水事業 5,016 7,059,000 3,004,400 42.6 用排水路 52,174m 33,549m 64.3
ほ場整備事業 4,722 39,085,000 0 0 区画整理等 4,722ha 0ha 0
土地改良区等 かんがい排水事業 830 846,900 374,400 44.2 用排水路 19,611m 9,626m 49.1
ほ場整備事業 144 406,478 267,878 65.9 区画整理等 144ha 130ha 90.3
農業構造改善事業 68 49,850 49,850 100 同上 68ha 68ha 100
新農業構造改善事業 22 178,000 178,000 100 同上 22ha 22ha 100

(2) 樹園地、普通畑等の畑地かんがい施設の整備等を実施する附帯事業が進ちょくしていないもの

事業数 国営山部土地改良事業ほか5事業
完了時の総事業費及び58年度に予定した総事業費  52,934,854千円
58年度末までの支出済額  50,906,594千円

<事例3>

事業名 国営紀の川用水土地改良事業
部局名 近畿農政局
58年度に予定した総事業費 11,340,000千円
58年度末までの支出済額 10,898,525千円

 この事業は、昭和39年度に着手し、和歌山県橋本市ほか8市町にわたる水田2,391ha及び樹園地2,051ha計4,442haの受益地を対象に、水田の用水補給と樹園地の畑地かんがいを行うことを目的とし、完了年度を59年度(当初完了予定年度45年度)と予定して総事業費113億4000万円で、頭首工1箇所、幹線水路延長35,291m、揚水機場1箇所等を建設することとしているものである。そして、附帯事業として、和歌山県営かんがい排水事業及び団体営かんがい排水事業により、末端の用水路及び送水管、スプリンクラー等畑地かんがい施設の整備を施行することとしている。

 しかして、上記国営事業及び附帯事業の実施並びに事業効果についてみると、次表のとおり、国営事業による基幹施設はすべて完成しているのに、県営かんがい排水事業は45年度から水田1,199ha、樹園地2,051haを対象に、用水路延長20,631m、揚水機場50箇所、送水管延長81,011mの整備を施行中であって、58年度末現在、総事業費からみた進ちょく率は30.8%に止まっている。特に、樹園地にかかる畑地かんがい施設の整備が遅延していて、用水路延長775m及び揚水機場48箇所が未着工となっており、送水管も延長81,011mのうち2,711mを施工したにすぎない。また、団体営かんがい排水事業は、3,382haの受益地を対象に、水田の用水補給並びに畑地かんがいのための園内配管及びスプリンクラーの整備を行うこととしているが、水田の用水補給を行う事業の総事業費からみた進ちょく率は7.8%に止まっており、また、園内配管及びスプリンクラーを整備することとしている事業については、受益農家からいまだ事業採択の申請も行われていない。このため、畑地かんがいのために国営事業で建設した揚水機場1箇所及び送水管延長1,866m(工事費相当額3億3085万円)が遊休している状態であり、事業効果の発現が著しく遅延している状況となっている。

区分 事業名 受益面積 58年度に予定した総事業費
(A)
58年度末までの支出済額
(B)
進ちょく率
(B)/(A)
主要工事 数量
(C)
58年度末までの進ちょく状況
(D)
整備率
(D)/(C)

近畿農政局

国営紀の川用水土地改良事業
ha
4,442
千円
111,340,000
千円
10,898,525

96.1

頭首工

1箇所

1箇所

100
幹線水路 35,291m 35,291m 100
揚水機場 1箇所 1箇所 100
送水管 1,866m 1,866m 100
和歌山県 かんがい排水事業 3,250 10,727,200 3,308,569 30.8 用水路 20,631m 18,429m 89.3
揚水機場 50個所 2箇所 4
送水管 81,011m 2,711m 3.3
水田分 1,199 3,360,236 3,189,135 94.9 用水路 19,856m 18,429m 92.8
揚水機場 2箇所 2箇所 100
樹園地分 2,051 7,366,964 119,434 1.6 用水路 775m 0m 0
揚水機場 48箇所 0箇所 0
送水管 81,011m 2,711m 3.3
土地改良区等 かんがい排水事業 3,382 6,738,000 73,326 1.1
水田分 1,331 941,000 73,326 7.8 用水路 11,312m 1,671m 14.8
揚水機場 34箇所 7箇所 20.6
樹園地分 2,051 5,797,000 0 0 園内配管 2,051ha 0ha 0
スプリンクラー 2,051ha 0ha 0

 このような事態を生じているのは、農業をとりまく客観情勢がそれぞれの国営事業着手時と比べて大きく変化しているのに営農計画の見直し等を含めた適切な対応策が講じられないまま事業が進められてきたこと、附帯事業はほとんどが国庫補助事業であるにもかかわらず国営事業との調整が十分でなかったこと、また、受益農家の中には事業の実施に消極的な者もあり事業採択申請に至らない附帯事業もあることなどによると認められる。

3 水源施設の建設に係る補償交渉等が難航し、事業が長期化して事業効果の発現が遅延しているもの又はそのおそれがあるもの

 国営事業により新たに農業用水を確保するには、貴省が直轄事業によりダム、頭首工等の水源施設を建設する場合と他機関が建設する多目的ダム、河口堰等の水源施設に依存する場合とがある。そして、国営事業の計画に当たっては、調査、計画の段階においてダム、頭首工等の水源施設建設に対する関係地元住民の意向の握把、水源となる河川にかかる農業用水、水道用水等の既得水利権者の同意取得の見通し及び漁業権等に対する補償の見通しを、また、他機関が建設する水源施設に取水源を依存する場合には、その施設の着工、完成、利用可能時期の見通しなどを総合的に検討して、国営事業の計画を策定することになっている。
 しかして、その実態についてみると、別表3のとおり、国営牧之原土地改良事業ほか5事業(58年度に予定した総事業費1622億3756万円、同年度末までの支出済額928億7438万余円)において、事前の調査、検討が十分でなかったなどのため、利害関係人との用地買収、物件補償、漁業補償等の権利関係の調整が難航し、事業が長期化しているため事業効果の発現が遅延しており、なかには、国営事業により建設した施設が遊休しているものがある状況である。
 これらのうち、主な事例を挙げると次のとおりである。

<事例4>

事業名 国営筑後川下流白石土地改良事業
部局名 九州農政局
58年度に予定した総事業費 20,907,560千円
58年度末までの支出済額 9,068,562千円

 この事業は、佐賀県杵島郡白石町ほか6町にわたる水田7,680ha及び普通畑630ha計8,310haの受益地を対象に、用水不足の解消と排水機能の整備などを行うことを目的とし、昭和63年度を完了予定年度として、総事業費209億0756万円で、導水路及び揚水機場等を建設するものである。そして、本件事業の取水計画についてみると、その水源を他機関施行の六角川河口堰及び嘉瀬川ダムに求め、4箇所の揚水機場で取水することとしている。

 しかし、六角川河口堰は57年度に完成しているものの、これに係る地元漁業者との漁業補償交渉が難航していて、ゲート閉切りができないことから、農業用水の取水の見通しが立たず、51年度から58年度末までに国営事業で建設した揚水機場及びこれらに接続する導水路(工事費相当額49億3955万余円)が全く使用されていない状況であり、また、嘉瀬川ダムについても関係地元住民のダム建設反対により現地調査が遅れていて、着工の目途が立っていない状況となっている。

 上記のような事態は、国営事業の実施及び国営事業により建設した施設の利用に多大の影響を及ぼし、事業の長期化と事業費の増こうを招くこととなる。

 このような事態を生じているのは、地元住民等の意向の把握が十分でなく問題解決までに長期間を要していること、既得水利権者の同意を得るために長い時日を要していることなどによるものと認められる。

 以上の各項において指摘したとおり、事業の施行において、貴省が設定した予定工期を大幅に超過している事例、国営、道県営、団体営の各事業相互間において事業実施面では行の状態が生じている事例、補償交渉等権利関係の調整が難航している事例が多数あり、事業の長期化と総事業費の増こうを招いており、国営事業によって建設された基幹施設の有効利用が図られないばかりか、一部に遊休しているものもあるなど、適切とは認められない。

 ついては、多額の費用を投入して実施する国営かんがい排水事業及びこれに附帯する都道府県営、団体営事業は、農業生産のための基盤整備事業として、国民に良質な食糧を安定供給するために行われるものであり、貴省の重要な施策として引き続いて実施しなければならない事業であるから、今後は国営事業及び附帯事業の実施の意義を十分に生かすよう、事業の実施に当たっては、事前の調査、検討を十分に行うとともに、事業効果の速やかな発現を期するため、効率的かつ重点的な予算配分、調和のとれた国営事業と附帯事業の実施、利害関係人との権利関係の迅速な調整について、各般の対策を講ずることが緊要である。

 よって、会計検査院法第36条の規定により上記の意見を表示する。

(注)  農政局 東北、関東、北陸、東海、近畿、中国四国、九州各農政局

別表1

区分 国営の土地改良事業名 受益面積 着工年度 当初予定工期
(A)
58年度に予定した工期
(B)
58年度に予定した完了年度 工期延伸率
(B)/(A)
当初予定総事業費
(C)
58年度に予定した総事業費
(D)
総事業費増加率
(D)/(C)
58年度までの支出済額
(E)
進ちょく率
(E)/(D)







天塩川上流
ha
15,800

42

9

19

60

2.1
千円
10,700,000
千円
32,290,000

3.0

30,702,008,441

95.1
北桧山右岸 2,290 43 9 18 60 2.0 3,900,000 13,810,000 3.5 9,083,893,617 65.8
風連 1,297 44 7 17 60 2.4 2,205,000 8,760,000 3.9 7,741,157,113 88.4
厚沢部川 2,880 45 10 21 65 2.1 4,460,000 15,290,000 3.4 8,149,804,162 53.3
三石 1,327 46 7 15 60 2.1 2,291,000 10,940,000 4.8 8,557,537,950 78.2
上磯 1,210 47 6 14 60 2.3 2,470,000 7,840,000 3.1 5,378,380,000 68.6
6事業               88,930,000   69,612,781,283 78.3


小田川 4,325 41 7 20 60 2.9 2,500,000 16,190,000 6.5 12,635,502,339 76.4
浪岡川 3,130 46 7 15 60 2.1 3,200,000 13,200,000 4.1 11,105,342,493 84.1
白川 4,990 44 7 16 59 2.3 2,800,000 10,590,000 3.8 9,597,389,479 90.6
名取川 4,450 42 7 18 59 2.6 3,110,000 18,660,000 6.0 16,964,296,484 90.9
仙北平野 9,664 44 7 16 59 2.3 5,900,000 20,240,000 3.4 19,211,361,837 94.9
最上川中流 4,975 47 7 14 60 2.0 6,100,000 22,700,000 3.7 20,799,192,856 91.6
渡良瀬川沿岸 9,620 46 7 14 59 2.0 6,000,000 19,300,000 3.2 18,877,035,600 97.8
笛吹川 5,420 46 7 15 60 2.1 7,700,000 25,000,000 3.2 19,137,356,655 76.5
天竜川下流 12,028 42 7 18 59 2.6 8,591,000 29,250,000 3.4 28,091,514,164 96.0
刈谷田川右岸 4,560 45 7 17 61 2.4 6,800,000 24,570,000 3.6 21,214,214,936 86.3
濃尾用水第二期 9,750 44 7 17 60 2.4 8,000,000 29,820,000 3.7 27,704,038,961 92.9
矢作川総合 10,190 45 7 15 59 2.1 5,700,000 20,910,000 3.7 18,989,654,723 90.8
湖北 5,050 40 7 20 59 2.9 2,200,000 12,620,000 5.7 11,571,389,971 91.7
紀の川用水 4,442 39 7 21 59 3.0 2,800,000 11,340,000 4.1 10,898,525,845 96.1
吉井川 6,930 45 7 16 60 2.3 5,800,000 29,000,000 5 21,737,744,077 75
吉野川北岸 7,354 46 7 15 60 2.1 14,700,000 51,200,000 3.5 38,194,187,004 74.6
耳納山麓 4,557 47 7 14 60 2.0 11,088,000 39,600,000 3.6 21,939,108,060 55.4
17事業               394,190,000   328,397,855,484 83.3
23事業               483,120,000   398,010,636,767 82.4

(注) 国営名取川、仙北平野、紀の川用水各土地改良事業は、別表2にも掲記してある。

 

別表2

(1) 水田の区画整理等を実施する附帯事業が進ちょくしていないもの

区分
部局名
完了事業、継続事業の別 事業名 工期 完了時の総事業費又は58年度に予定した総事業費(A) 58年度末までの支出済額(B) 進ちょく率(B)/(A) 国営事業で建設した施設のうち遊休しているもの

北海道開発局

完了

国営大野土地改良事業
年度
33〜53
千円
5,518,709
千円
5,518,709

100
 
附帯北海道営事業 39〜未定 22,947,592 2,674,139 11.7
〃団体営事業 45〜55 100,100 100,100 100
東北農政局 完了 国営和賀中央土地改良事業 43〜54 4,879,516 4,879,516 100  
附帯岩手県営事業 45〜未定 22,776,000 11,358,646 49.9
〃団体営事業 38〜47 1,249,456 1,249,456 100
国営河南土地改良事業 45〜56 9,316,433 9,316,433 100  
附帯宮城県営事業 49〜未定 46,144,000 3,004,400 6.5
〃団体営事業 41〜(64) 1,481,228 870,128 58.7
継続 国営名取川土地改良事業 42〜(59) 18,660,000 16,964,296 90.9  
附帯宮城県営事業 45〜未定 34,570,500 6,404,187 18.5
〃団体営事業 40〜(61) 1,441,190 920,190 63.8
国営仙北平野土地改良事業 44〜(59) 20,240,000 19,211,361 94.9  
附帯秋田県営事業 41〜未定 68,945,180 17,880,791 25.9
〃団体営事業 40〜(59) 618,896 614,596 99.3
北陸農政局 完了 国営加治川土地改良事業 39〜49 8,998,132 8,998,132 100  
附帯新潟県営事業 44〜(61) 5,790,934 5,339,199 92.2
〃団体営事業 31〜未定 6,513,665 1,861,761 28.6
継続 国営阿賀野川用水土地改良事業 36〜58 24,250,000 23,985,860 98.9  
附帯新潟県営事業 42〜未定 38,452,931 23,130,016 60.2
〃団体営事業 40〜〃 19,823,740 3,605,767 18.2
国営関川土地改良事業 43〜58 16,750,000 16,714,011 99.8  
附帯新潟県営事業 40〜未定 19,736,025 14,553,350 73.7
〃団体営事業 41〜〃 5,217,016 2,352,834 45.1
  国営土地改良事業(8事業)   108,612,790 105,588,320    

(2) 樹園地、普通畑等の畑地かんがい施設の整備等を実施する附帯事業が進ちょくしていないもの

区分
部署名
完了事業、継続事業の別 事業名 工期 完了時の総事業費又は58年度に予定した総事業費(A) 58年度末までの支出済額(B) 進ちょく率(B)/(A) 国営事業で建設した施設のうち遊休しているもの

北海道開発局

完了

国営山部土地改良事業
年度
40〜54
千円
4,070,321
千円
4,070,321

100
 
附帯北海道営事業 44〜未定 10,024,730 6,194,730 61.8
〃団体営事業 (65)〜〃 716,000 0 0
国営南月形土地改良事業 40〜51 2,327,972 2,327,972 100 ファームポンド3箇所(工事費相当額53,572千円)
附帯北海道営事業 51〜未定 4,858,500 3,294,700 67.8
〃団体営事業 55〜〃 1,359,856 559,856 41.2
関東農政局 完了 国営埼玉北部土地改良事業 42〜55 5,499,861 5,499,861 100  
附帯埼玉県営事業 47〜未定 29,340,700 11,232,790 38.3
〃団体営事業 46〜52 1,196,453 1,196,453 100
近畿農政局 継続 国営紀の川用水土地改良事業 39〜(59) 11,340,000 10,898,525 96.1 揚水機場1箇所、送水管延長1,866m(工事費相当額330,850千円)
附帯和歌山県営事業 45〜(67) 10,727,200 3,308,569 30.8
〃団体営事業 56〜(70) 6,738,000 73,326 1.1
中国四国農政局 完了 国営香川用水土地改良事業 43〜55 12,746,700 12,746,700 100  
附帯香川県営事業 45〜未定 41,720,965 24,263,157 58.2
〃団体営事業 44〜〃 13,717,875 7,827,099 57.1
九州農政局 継続 国営一ツ瀬川土地改良事業 47〜(59) 17,000,000 15,413,214 90.7  
附帯宮崎県営事業 48〜(67) 16,462,261 7,749,748 47.1
〃団体営事業
  国営土地改良事業(6事業)   52,934,854 50,906,594    

(注) 国営香川用水土地改良事業の附帯事業は、表中に表示した総事業費に係る事業以外に、県営かんがい排水事業(揚水機場14箇所、ポンプ46台、送水管延長44,923m)、県営畑地帯総合土地改良事業(2,150haの受益地を対象とした畑地かんがい施設)及び団体営ほ場整備事業(614.7haの受益地を対象とした区画整理等)が計画中であるが、その総事業費は未定である。

合計
国営土地改良事業(14事業)
161,547,644 156,494,914

別表3

区分
部局名
事業名 着工年度 58年度に予定した総事業費(A) 58年度末までの支出済額(B) 進ちょく率(B)/(A) 当初予定工期(C) 58年度に予定した工期(D) 工期延伸率(D)/(C) 事業が長期化したり又はそのおそれがあったりしている事態を生じている理由 国営事業で建設した施設で遊休しているもの
関東農政局
国営牧之原土地改良事業

53
千円
17,190,000
千円
4,134,197

24.1

10

10

1.0

1ダムの用地買収等の難航
2付替鉄道のルート変更の未解決
 
東海農政局 国営中勢用水土地改良事業 47 26,560,000 16,026,684 60.3 7 15 2.1 1ダムの用地買収等の難航
2付替道路工事の長期化
3水利権取得の遅れ
 
近畿農政局 国営東播用水土地改良事業 45 49,660,000 40,481,312 81.5 8 16 2.0 1ダムの用地買収等の難航
2水利権取得の遅れ
3ダムの設計変更
 
近畿農政局 国営加古川西部土地改良事業 42 27,600,000 19,081,607 69.1 7 19 2.7 1ダムの用地買収等の難航
2水利権取得の遅れ
 
国営南紀用水土地改良事業 49 20,320,000 4,082,016 20.1 10 15 1.5 1ダムの用地買収等の難航
2水利権取得の遅れ
 
九州農政局 国営筑後川下流白石土地改良事業 54 20,907,560 9,068,562 43.4 10 10 1.0 1ダムの用地買収等の難航
2河口堰にかかる漁業補償交渉の難航
揚水機場2箇所
(上屋のみ)、導水
路延長15,112m
(工事費相当額4,939,551千円)
国営土地改良事業(6事業)   162,237,560 92,874,381            

(注) 国営牧之原、筑後川下流白石両土地改良事業は、58年度に予定した工期が当初予定工期と同様10年となっているが、事業の施行状況からみて、事業効果の発現が著しく遅延するおそれがあると認められる。