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  • 昭和60年度|
  • 第2章 所管別又は団体別の検査結果|
  • 第1節 所管別の検査結果|
  • 第5 厚生省|
  • 不当事項|
  • 保険給付

厚生年金保険及び船員保険の老齢年金等の支給が適正でなかったもの


(16) 厚生年金保険及び船員保険の老齢年金等の支給が適正でなかったもの

会計名及び科目 (1) 厚生保険特別会計 (年金勘定) (項)保険給付費
(2) 船員保険特別会計 (項)保険給付費
部局等の名称 社会保険庁
支給の相手方 (1) 厚生年金保険  54人
(2) 船員保険 7人
老齢年金等の支給額の合計 (1) 厚生年金保険 74,356,967円
(2) 船員保険 12,008,927円

 厚生年金保険では上記の54人に老齢年金等74,356,967円を、また、船員保険では上記の7人に老齢年金等12,008,927円を支給しているが、審査に当たる都道府県の保険課及び社会保険事務所(注1) において、年金の受給権者が被保険者資格を取得した場合の届出等に対する調査確認が十分でなかったり、事務処理が適切でなかったりしたため、厚生年金保険で33,092,674円(老齢年金24,830,567円、通算老齢年金8,262,107円)、船員保険で5,581,568円(老齢年金)が不適正に支給されていた。これらについては、本院の注意によりすべて返還の処置が執られた。
 これは、厚生年金保険では社会保険庁及び北海道ほか27都府県の69社会保険事務所において被保険者7,945人、また、船員保険では同庁並びに青森県ほか4県の3保険課及び2社会保険事務所において被保険者168人について本院が調査した結果である。

(説明)

 厚生年金保険(前掲の「健康保険及び厚生年金保険の保険料の徴収に当たり、徴収額が不足していたもの」の説明参照 )及び船員保険(前掲の「船員保険の保険料の徴収に当たり、徴収額が不足していたもの」の説明参照 )において給付を行う年金のうち、老齢年金は、所定の被保険者期間を満たしている者が一定の年齢に達したときに受給権者となるもので、その給付額は、受給権者の被保険者期間及びその期間における報酬を基に算定される基本年金額と配偶者等についての加給年金額との合計額となっており、また、通算老齢年金は、老齢年金を受けるのに必要な被保険者期間を満たしていない者で、他の公的年金制度の被保険者期間又は組合員期間と通算することにより所定の被保険者期間を満たすことになる者等が一定の年齢に達したときに受給権者となるもので、その給付額は、上記の基本年金額に相当する額となっている。

 しかして、これらの年金の受給権者が厚生年金保険又は船員保険の適用事業所等に使用され、被保険者となっている間は、〔1〕 受給権者が60歳以上65歳未満である場合は、その者が現に受けている報酬月額の標準報酬等級(注2) の区分に応じ、基本年金額の100分の20、100分の50若しくは100分の80に相当する部分又は全額(加給年金額を含む。)について、また、〔2〕 受給権者が65歳以上でその者が現に受けている報酬月額が一定の標準報酬等級以上である場合は、基本年金額の100分の20に相当する部分について支給を停止することとなっている。
 そして、その停止の手続についてみると、

(ア) 厚生年金保険又は船員保険の適用事業所等の事業主等は、新たに使用した者が受給権者であるときは、その者の生年月日、資格取得年月日、報酬月額、受給権を有すること等を記載した被保険者資格取得届に、その者から提出を受けた年金手帳及び年金証書を添えて所轄の社会保険事務所等に提出し、さらに、同事務所等では、これを調査確認のうえ、老齢年金等受給権者の被保険者資格取得報告書を作成して社会保険庁に報告すること、

(イ) 現に被保険者である者が年金の受給要件を満たして年金を受けようとするときは、現に使用されている事業所の名称、所在地等を記載した年金裁定請求書を社会保険事務所等に提出し、さらに、同事務所等では、これを調査確認のうえ社会保険庁に進達すること
となっており、同庁では、これに基づいて受給権者に係る年金の支給停止額を算定のうえ、支給額を決定して支給することとなっている。
 しかして、厚生年金保険及び船員保険の年金受給権者で被保険者となっている者に対する老齢年金及び通算老齢年金の支給の適否について検査したところ、

1 厚生年金保険については、

(1) 受給権者又は事業主が誠実でなかったなどのため、事業主が被保険者資格取得届の提出に当たって受給権がないと表示していたり、資格取得届の提出を怠っていたり、被保険者が年金裁定請求書を提出するに当たって現に使用されている事業所等を記載していなかったりしていたものなどがあったのに、これに対する社会保険事務所の調査確認等が十分でなかったこと、

(2) 事業主から適正な被保険者資格取得届が提出されているのに、社会保険事務所が被保険者資格取得報告書の作成、報告をしていなかったこと

などのため、社会保険庁では、年金の全部又は一部について支給停止をすることなく受給権者54人について74,356,967円を支給し、このうち33,092,674円(老齢年金24,830,567円、通算老齢年金8,262,107円)が不適正に支給されていた。

2 船員保険については、

(1) 受給権者又は船舶所有者が誠実でなかったため、船舶所有者が被保険者資格取得届の提出に当たって受給権がないと表示していたり、資格取得届の提出を怠っていたりしていたものがあったのに、これに対する保険課又は社会保険事務所の調査確認が十分でなかったこと、

(2) 船舶所有者から適正な被保険者資格取得届が提出されているのに、保険課が被保険者資格取得報告書の作成、報告をしていなかったこと

のため、社会保険庁では、年金の全部又は一部について支給停止をすることなく受給権者7人について12,008,927円を支給し、このうち5,581,568円(老齢年金)が不適正に支給されていた。

 (注1)  都道府県の保険課及び社会保険事務所 (北海道)札幌東社会保険事務所、(青森県)青森、弘前両社会保険事務所、(岩手県)一関社会保険事務所、(宮城県)保険課、古川社会保険事務所、(茨城県)下館社会保険事務所、(埼玉県)川越社会保険事務所、(東京都)麹町、日本橋、京橋、渋谷、目黒、池袋、葛飾各社会保険事務所、(神奈川県)神奈川、平塚両社会保険事務所、(新潟県)新潟西、上越両社会保険事務所、(富山県)富山社会保険事務所、(石川県)保険課、(静岡県)島田社会保険事務所、(愛知県)名古屋北社会保険事務所、(三重県)松阪、尾鷲両社会保険事務所、(大阪府)豊中、平野、守口各社会保険事務所、(兵庫県)三宮、東灘両社会保険事務所、(福岡県)南福岡社会保険事務所、(熊本県)熊本東、本渡両社会保険事務所、(鹿児島県)保険課、鹿児島南、川内両社会保険事務所、(沖縄県)コザ社会保険事務所の3保険課、34社会保険事務所

 (注2)  標準報酬等級 厚生年金保険では第1級68,000円から第31級470,000円(60年9月までは第1級45,000円から第35級410,000円)まで、船員保険(年金部門)では第1級68,000円から第31級470,000円(60年9月までは第1級45,000円から第36級440,000円)までの等級にそれぞれ区分されているもので、被保険者に実際に支給される報酬月額はこの等級のいずれかに当てはめられる。