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  • 昭和61年度|
  • 第2章 所管別又は団体別の検査結果|
  • 第1節 所管別の検査結果|
  • 第5 厚生省|
  • 不当事項|
  • 保険給付

厚生年金保険及び船員保険の老齢年金等の支給が適正でなかったもの


(19) 厚生年金保険及び船員保険の老齢年金等の支給が適正でなかったもの

会計名及び科目 厚生保険特別会計 (年金勘定) (項)保険給付費
部局等の名称 社会保険庁
支給の相手方 (1) 厚生年金保険 40人
(2) 船員保険 4人
老齢年金等の支給額の合計 (1) 厚生年金保険 37,200,356円
(2) 船員保険 10,485,531円

  厚生年金保険では上記の40人に老齢年金等37,200,356円を、また、船員保険では上記の4人に老齢年金10,485,531円を支給している(注1) が、審査に当たる都府県の保険課及び社会保険事務所(注2) 並びに社会保険庁において、年金の受給権者が被保険者資格を取得した場合の届出等に対する調査確認が十分でなかったり、事務処理が適切でなかったりしたため、厚生年金保険で23,771,359円(老齢年金18,883,113円、通算老齢年金3,721,276円、老齢厚生年金1,166,970円)、船員保険で8,535,198円(老齢年金)が不適正に支給されていた。これらについては、本院の注意により、すべて返還の処置が執られた。
 これは、厚生年金保険では社会保険庁及び北海道ほか25都府県の68社会保険事務所において被保険者2,247人、また、船員保険では同庁並びに宮城県ほか3県の2保険課及び2社会保険事務所において被保険者132人について本院が調査した結果である。

(説明)
 厚生年金保険(前掲の「健康保険及び厚生年金保険の保険料の徴収に当たり、徴収額が不足していたもの」の説明参照 )及び船員保険(前掲の「船員保険の保険料の徴収に当たり、徴収額が不足していたもの」の説明参照 )において給付を行う年金のうち、老齢年金及び老齢厚生年金は、所定の被保険者期間を満たしている者が一定の年齢に達したときに受給権者となるもので、その給付額は、受給権者の被保険者期間及びその期間における報酬を基に算定される額(以下「基本年金額」という。)と配偶者等について加算される額(以下「加給年金額」という。)との合計額となっており、また、通算老齢年金は、老齢年金を受けるのに必要な被保険者期間を満たしていない者で、他の公的年金制度の被保険者期間又は組合員期間と通算することにより所定の被保険者期間を満たすことになる者等が一定の年齢に達したときに受給権者となるもので、その給付額は、上記の基本年金額に相当する額となっている。

 しかして、これらの年金の受給権者が厚生年金保険又は船員保険の適用事業所等に使用され、被保険者となっている間は、〔1〕 受給権者が60歳未満である場合は全額(加給年金額を含む。)、〔2〕 受給権者が60歳以上65歳未満である場合は、その者が現に受けている報酬月額の標準報酬等級(注3) の区分に応じ、基本年金額の100分の20、100分の50若しくは100分の80に相当する部分又は全額(加給年金額を含む。)について支給を停止することとなっている。

 そして、その停止の手続についてみると、

(ア) 厚生年金保険又は船員保険の適用事業所等の事業主等は、新たに使用した者が受給権者であるときは、その者の生年月日、資格取得年月日、報酬月額等のほか、受給権を有することを記載した被保険者資格取得届に、その者から提出を受けた年金手帳及び年金証書を添えて所轄の社会保険事務所等に提出し、さらに、同事務所等では、これを調査確認のうえ、老齢年金等受給権者の被保険者資格取得報告書を作成して社会保険庁に報告すること、

(イ) 現に被保険者である者が年金の受給要件を満たして年金を受けようとするときは、現に使用されている事業所の名称、所在地等を記載した年金裁定請求書を社会保険事務所等に提出し、さらに、同事務所等では、これを調査確認のうえ社会保険庁に進達すること
となっており、同庁では、これに基づいて受給権者に係る年金の支給停止額を算定のうえ、支給額を決定して支給することとなっている。
 しかして、厚生年金保険及び船員保険の年金受給権者で被保険者となっている者に対する老齢年金、通算老齢年金及び老齢厚生年金の支給の適否について検査したところ、

1 厚生年金保険については、

(1) 受給権者又は事業主が制度の理解が十分でなかったなどのため、事業主が被保険者資格取得届の提出に当たって受給権がないと表示していたり、資格取得届の提出を怠っていたり、被保険者が年金裁定請求書を提出するに当たって現に使用されている事業所等を記載していなかったりしていたものなどがあったのに、これに対する社会保険事務所の調査確認等が十分でなかったこと、

(2) 事業主から適正な被保険者資格取得届が提出されているのに、社会保険事務所が被保険者資格取得報告書の作成、報告をしていなかったこと
などのため、社会保険庁では、受給権者40人について年金の全部又は一部の支給を停止すべき期間について停止することなく37,200,356円を支給し、このうち23,771,359円(老齢年金18,883,113円、通算老齢年金3,721,276円、老齢厚生年金1,166,970円)が不適正に支給されていた。

2 船員保険については、

(1) 受給権者又は船舶所有者が誠実でなかったなどのため、舶船所有者が被保険者資格取得届の提出を怠っていたり、資格取得届の提出に当たって受給権がないと表示していたりしていたものがあったのに、これに対する保険課の調査確認が十分でなかったこと、

(2) 船舶所有者から適正な被保険者資格取得届が提出されているのに、社会保険事務所が被保険者資格取得報告書の作成、報告をしていなかったこと
のため、社会保険庁では、受給権者4人について年金の全部の支給を停止すべき期間について停止することなく10,485,531円を支給し、このうち8,535,198円(老齢年金)が不適正に支給されていた。

(注1)  船員保険の老齢年金については、船員保険特別会計で経理されていたが、昭和61年4月から厚生保険特別会計で経理されることになった。

(注2)  都府県の保険課及び社会保険事務所 (宮城県)保険課、(秋田県)秋田、大曲両社会保険事務所、(福島県)東北福島社会保険事務所、(栃木県)宇都宮、大田原両社会保険事務所、(群馬県)前橋、渋川両社会保険事務所、(東京都)新宿、上野、文京各社会保険事務所、(神奈川県)高津、小田原両社会保険事務所、(岐阜県)大垣、美濃加茂両社会保険事務所、(愛知県)鶴舞、岡崎両社会保険事務所、(京都府)上京社会保険事務所、(奈良県)大和高田社会保険事務所、(島根県)浜田社会保険事務所、(岡山県)保険課、(福岡県)東福岡、八幡両社会保険事務所、(長崎県)長崎南社会保険事務所、(大分県)大分社会保険事務所、(宮崎県)宮崎社会保険事務所の2保険課及び24社会保険事務所

(注3)  標準報酬等級 第1級68,000円から第31級470,000円までの等級にそれぞれ区分されているもので、被保険者に実際に支給される報酬月額はこの等級のいずれかに当てはめられる。