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  • 昭和61年度|
  • 第2章 所管別又は団体別の検査結果|
  • 第1節 所管別の検査結果|
  • 第5 厚生省|
  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

国民年金保険料の免除に係る事務処理の適正化を図るよう是正改善の処置を要求したもの


(3) 国民年金保険料の免除に係る事務処理の適正化を図るよう是正改善の処置を要求したもの

会計名及び科目 国民年金特別会計(国民年金勘定) (款)保険収入 (項)保険料収入
部局等の名称 社会保険庁、北海道ほか19都県(80社会保険事務所)
保険料免除の概要 国民年金法(昭和34年法律第141号)等の規定に基づき、都道府県知事が、経済的理由等のため保険料の免除を受けようとする被保険者の申請に基づき、その免除をするもの
保険料免除者数 2,748人
上記に対する保険料免除額 230,529,900円

 上記の保険料の免除において、前年分の所得税が賦課されているなどしていて保険料の負担能力があると認められる者について免除していた不適切な事態が多数見受けられた。
 このような事態を生じているのは、被保険者が、国民年金制度及び免除制度についての理解と認識が十分でないこと、社会保険事務所において、管内の市町村に対する審査等についての指導が十分でなかったり、申請書の内容についての調査を十分行っていなかったりしていることなどによると認められる。

 したがって、社会保険庁において、被保険者に対して国民年金制度及び免除制度の趣旨を周知徹底させるようにすること、社会保険事務所に対して管内の市町村の免除状況等を十分把握させるなどして審査を充実させるようにすること、免除基準の運用に当たり通達等を整備し都道府県等に対して国民年金制度及び免除制度の趣旨を徹底させるようにすることなどの措置を講じ、申請に基づく免除に係る事務の適正化を図り、もって年金給付財源の確保と国民年金法の適正な運用を図る要がある。

 上記に関し、昭和62年12月1日に社会保険庁長官に対して是正改善の処置を要求したが、その全文は以下のとおりである。

国民年金保険料の免除に係る事務処理の適正化について

 貴庁では、国民年金法(昭和34年法律第141号)の規定に基づき、老齢、障害又は死亡によって国民生活の安定が損なわれることを国民の共同連帯によって防止し、健全な国民生活の維持と向上に寄与することを目的として、国民の老齢、障害又は死亡に関して必要な給付を行う国民年金事業を運営している。この事業は、日本国内に住所を有する20歳以上60歳未満の自営業者等(以下「第1号被保険者」という。)が負担する保険料、被用者年金各制度からの基礎年金拠出金、国庫負担金等を財源として運営されている。その被保険者は、第1号被保険者、厚生年金保険等の被用者年金各法の被保険者等(以下「第2号被保険者」という。)、第2号被保険者の配偶者であって主として第2号被保険者の収入により生計を維持するもののうち20歳以上60歳未満のもの(第3号被保険者)等で、このうち61年度末における第1号被保険者数は1895万余人、その保険料の収納額は1兆2126億6578万余円となっている。

 国民年金の第1号被保険者等は、国民年金法の規定に基づいて、原則として、毎月の保険料を翌月末日までに納付しなければならないこととなっているが、被保険者が、障害基礎年金等の受給権者であるとき、生活保護法(昭和25年法律第144号)による生活扶助を受けるときなどの場合には、保険料を納付する要がないこととなっており(以下「法定免除」という。)、被保険者が所得がないとき、保険料を納付することが著しく困難であると認められるときなどの場合には、都道府県知事に国民年金保険料免除申請書を提出し、都道府県知事が承認することによって保険料が免除されることとなっている(以下「申請免除」という。)。また、免除された期間は、老齢基礎年金等の受給資格期間とされるが、老齢基礎年金の年金額の算出上、その期間は3分の1と計算されることとなっており、この免除期間は、月を単位とし、法定免除は当該法定要件の該当月の前月から非該当月までの期間、また、申請免除は申請した月の前月から都道府県知事の指定する月までとなっており、免除された保険料は、将来の年金受給時に不利にならないように、都道府県知事の承認を受け、その承認の日の属する月前10年以内の期間に係るものを追納することができることとなっている。

 そして、免除者数及び免除率は、60年度、61年度は前年度に比べて減少しているものの、61年度末現在、第1号被保険者18,954千人に対して、法定免除者868,296人(4.6%)、申請免除者1,390,453人(7.3%)、計2,258,749人(11.9%)となっている。
 そして、貴庁では、申請免除の認定をするに当たっての基準として、保険料免除基準(昭和49年庁保発第2号。以下「免除基準」という。)を定めているが、これによれば、(1)被保険者等に前年分の所得税が賦課されているときは、保険料を免除しないこととし、(2)被保険者等にその年度分の市町村民税が賦課されていないときは、保険料を免除することとし、(3)(1)(2)によって免除又は非免除の決定をすることができないときは、被保険者を含む世帯員全員の前年の所得額の合計額を千円単位で換算して得た数値に、世帯員が所有する固定資産の評価額の合計額及び生命保険料等の支払額の合計額を所定の方法により数値化したものを加算したうえ、世帯員全員の前年の給与所得の合計額、18歳未満の被扶養者数及び地方税法(昭和25年法律第226号)上の障害者数などを所定の方法により数値化したものを減じて得られた数値(以下「換算数値」という。)と、厚生省告示(昭和38年厚生省告示第158号)による1級地から3級地までの級地区分(下表参照) ごとに定められた免除基準の数値とを照合して判定することになっている。

級地区分 第1欄 第2欄 第3欄
1級地 800未満 800以上930未満 930以上
2級地 740 〃 740 〃 865 〃 865 〃
3級地 660 〃 660 〃 770 〃 770 〃

 例えば1級地の場合、換算数値が800未満(以下「第1欄数値」という。)に該当すれば免除とし、930以上(以下「第3欄数値」という。)に該当すれば非免除とし、第1欄数値と第3欄数値との間の数値(第2欄数値)に該当するときは、世帯員の生活状況・身体状況等につき他の世帯との均衡を考慮して、免除、非免除を決定することとなっている。また、上記(1)又は(3)によれば非免除となる場合であっても、前年度又は申請日の属する年度において火災、風水害等の特異な事故により住宅又は家財に著しい損害を受けたり、営業不振等により申請時の所得状況が前年度の所得状況と著しく異なったりしているなどのため、保険料の納付が困難と認められるときは免除することができることとなっている(以下「特例免除」という。)。

 貴庁では、都道府県知事が保険料の免除の承認をするに当たり、市町村(特別区を含む。以下同じ。)において免除申請書の記載内容を審査させるため、国民年金市町村事務取扱準則(昭和42年庁保発第4号)を定め、市町村では、被保険者等の所得額、所得税額、市町村民税額、固定資産の価格等の事項を住民票、市町村民税課税台帳等により確認し、審査の結果及び当該申請についての意見を記入し、市町村長(特別区の区長を含む。以下同じ。)が証明して社会保険事務所に進達し、社会保険事務所では、免除申請書の記載内容を審査し、必要と認めるときは申請者等について調査を行うこととなっている。

 しかして、北海道ほか19都県(注) の札幌東ほか79社会保険事務所において、61年度中に国民年金の保険料の申請免除の承認を受けた被保険者5,099人について、免除申請の審査事務及び免除基準の運用状況を調査したところ、次のとおり、適切とは認められない事態が多数見受けられた。

1 社会保険事務所及び市町村における審査について

 北海道ほか10都県の北見ほか17社会保険事務所管内の19市区町における申請免除者1,517人について調査したところ、免除申請書の審査、所得税額の確認及び固定資産の評価額の確認を十分行っていなかったり、同一世帯員の所得を合算していなかったりなどしていて市町村の審査並びに社会保険事務所の指導及び審査が適切でなかったと認められるものが、次のとおり622人見受けられた。

 すなわち、

(1)

 ア 60年分の所得税額及び61年度の市町村民税額がないとして免除されていたにもかかわらず、実際は60年分の所得税及び61年度の市町村民税が賦課されていた者が218人見受けられた。

 イ 61年度の市町村民税は賦課されているが60年分の所得税額はなく所得額等も少ないなど第2欄又は第1欄に該当するとして免除されていたにもかかわらず、実際は61年度の市町村民税ばかりでなく60年分の所得税も賦課されていた者が173人見受けられた。

(2) (1)に該当しない231人を調査したところ、60年分の実際の所得額等により計算した換算数値は免除の対象とならない第3欄の最小数値(1級地の場合930)以上であった。

 したがって、前記622人は、前年分の所得税額があったり、所得額が多かったりして保険料の負担能力が十分あったにもかかわらず、市町村及び社会保険事務所において免除申請者に対する審査が適切でなかったため免除されていたもので、これに係る61年度分の保険料を計算すると5121万余円になる。

2 免除基準の運用について

(1) 特例免除について

 北海道ほか15都県の札幌東ほか42社会保険事務所管内の48市区町において、営業不振等の理由により、保険料の納付が困難と認められるとして、特例免除を受けていた2,037人の免除を受けていた期間についてみると営業不振等で所得が著しく減少するとして特例免除を受けていたにもかかわらず実際の所得額等から算定された61年度における換算数値は免除の対象とならない第3欄の数値になるものが1,708人(83.8%)見受けられた。しかも、このうち、1,226人(71.8%)の換算数値は申請による60年分の所得を基にした換算数値を上回っている状況であった。
 したがって、上記1,708人は、実際は免除の対象とならない者であり、保険料の負担能力があったと認められるにもかかわらず審査が十分でなかったなどのため特例により免除を受けていたもので、これに係る61年度分の保険料を計算すると1億4527万余円になる。

(2) 農業者年金の被保険者に対する免除について

 農業者年金は、農業者年金基金法(昭和45年法律第78号)の規定に基づき、農業者の経営移譲及び老齢について必要な年金等の給付を行い、国民年金の給付と相まって農業者の老後の生活の安定を図るもので、この制度に加入している者は国民年金の加入者であると同時に農業者年金の加入者である。
 しかして、北海道ほか14都県の札幌東ほか51社会保険事務所管内の101市区町における国民年金の申請免除を受けた農業者年金の被保険者739人について調査したところ、農業者年金保険料(61年月額7,340円、62年月額8,300円)を納付しているにもかかわらず、国民年金保険料(61年度月額7,100円)を免除されている者が418人見受けられ、これに係る61年度分の保険料を計算すると3404万余円になる。

 上記のほか、生命保険料については、その生命保険料支払額は前記換算数値算定に使用されるほか、特例免除の認定に当たり、当該被保険者の属する世帯が高額な生命保険料(70,000円以上)を支払っているときは、国民年金保険料を負担する能力があるとされており、また、被保険者等にその年度分の市町村民税が賦課されていないなどにより免除される場合でも、当該被保険者の属する世帯が著しく高額な生命保険料(上記の高額な生命保険料の額の概ね2倍程度)を支払っているときは、当該被保険者の保険料を免除しないことができることとされており、このように生命保険料の支払額は免除基準運用に当たっての重要な要素とされている。

 しかして、北海道ほか11都県の札幌東ほか26社会保険事務所管内の28市区町における被保険者806人について調査したところ、生命保険料を支払っていないとして調査を行っていなかったり、実支払額の把握をしていなかったりなどしている状況であった。
 また、実際の生命保険料の支払額を調査したところ、806人のうち775人は、前記高額な生命保険料を支払っていた。そして、このうち383人は前記著しく高額な生命保険料を支払っていた。
 このように、高額な生命保険料を支払っている者が多数いるにもかかわらずこれを十分把握していないのは、免除基準の運用が適切でないと認められる。

上記1、2−(1)、2−(2)に係る61年度分の保険料を合計すると2億3052万余円となる。
このような事態を生じているのは、

(1) 第1号被保険者において、国民年金の加入者として、年金の原資となる保険料を負担しなければならないこと、及び保険料を免除された場合には、免除を受けなかった場合に比べて年金額について不利となることなど国民年金制度についての理解と認識が十分でないこと、

(2) 特例免除は、前年分の所得額等によって画一的に認定することが不適当と認められる営業不振等を理由に行うものであり、十分調査する要があると認められるのに、申請書には簡単な理由しか記載させていないこと、

(3) 農業者年金の加入者に対しては、国民年金の給付に加えて農業者年金の給付をすることとなっており、農業者年金の加入者は同時に国民年金の加入者であるのに、国民年金の保険料を免除する場合には、農業者年金の保険料の納付状況を聴取するなどして負担能力を審査できるような取扱いになっていないこと、

(4) 生命保険料については、実支払額の把握の方法が明確になっていないこと、

(5) 市町村等において、免除制度の趣旨並びに免除基準及び関係通知等について十分認識していなかったり、遵守していないこと、

(6) 社会保険事務所において、市町村に対する審査等の指導及び申請書の内容についての調査を十分行っていないこと、

(7) 貴庁の都道府県等に対する国民年金制度及び免除制度についての理解と認識等に関する指導が十分でないこと

などによると認められる。

 ついては、国民年金の第1号被保険者は、保険料を納付することが原則であり、免除を受けることは将来の年金受給時に不利となることから、前記事態にかんがみ、貴庁において、

(1) 第1号被保険者等に対して、納付が真に困難な者が免除の対象となること、免除を受けたものでも負担能力ができたときには保険料を追納することができるなどの国民年金制度及び免除制度の趣旨を免除の申請時等機会があるごとに周知徹底させるようにすること、

(2) 免除基準で特例免除に係るものについては、前年分の所得税額等があって本来は免除できない者を特例的に免除するものであることから、免除の申請事由を具体的に記載させることとしたり、申請事由が客観的に確認できる資料を提示又は添付させたり

などして適正な審査を行うようにすること、

(3) 農業者年金の加入者に対し、国民年金保険料を免除する場合には、農業者年金の保険料の納付状況を聴取するなどして負担能力を審査できるような取扱いにすること、

(4) 生命保険料の実支払額を把握する場合、市町村民税課税台帳に記載されている控除額を参考にして、控除額のあるものについて客観的な資料を提示又は添付させるなどして、適正に確認すること、

(5) 市町村において、免除基準、関係通知等を遵守して十分な審査を行い、保険料負担能力の有無を的確に把握するようにすること、

(6) 社会保険事務所に対して、管内の市町村の免除状況等を十分把握して、市町村における申請免除の審査の公平を期し、必要に応じて被保険者等について実地調査を行って審査を充実させるなどの措置を講ずること、

(7) 免除基準の運用に当たり、事業運営通知等を整備し、都道府県等に対して、国民年金制度及び免除制度の趣旨を周知徹底させるようにすること

などの措置を講じ、申請免除事務の適正化を図り、もって年金給付財源の確保と国民年金法の適正な運用を図る要があると認められる。

 よって、会計検査院法第34条の規定により、上記の処置を要求する。

(注)  北海道ほか19都県 北海道、東京都、宮城、秋田、山形、福島、茨城、栃木、埼玉、千葉、神奈川、愛知、兵庫、島根、岡山、愛媛、高知、福岡、長崎、宮崎各県