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  • 昭和62年度|
  • 第2章 個別の検査結果|
  • 第1節 所管別の検査結果|
  • 第6 農林水産省|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

重要野菜に係る野菜価格安定対策等事業を適切に行うよう改善させたもの


(1) 重要野菜に係る野菜価格安定対策等事業を適切に行うよう改善させたもの

会計名及び科目 一般会計 (組織)農林水産本省 (項)食品流通等対策費
部局等の名称 農林水産本省
補助の根拠 予算補助
事業主体 野菜供給安定基金
補助事業 指定野菜価格安定対策事業
事業の概要 指定野菜の価格が著しく低落した場合に、その生産者に生産者補給金を交付するために、野菜供給安定基金が登録出荷団体に対し生産者補給交付金を交付する事業
上記に対する国庫補助金交付額の合計 26,894,539,000円(昭和59年度〜62年度)

 上記の事業において、これに関連する重要野菜需給調整特別事業で計画どおりの出荷が行われているかどうかの認定が適切に行われていなかったため、同事業の事業効果を発現していない生産者補給交付金が3億9561万余円(うち国庫補助金相当額2億6727万余円)交付されていたり、産地の生産、出荷の実状等を十分把握していれば支払の要がなかった生産者補給交付金が9011万余円(うち国庫補助金相当額6108万円)交付されていたり、生産者補給交付金として交付されることのない資金が1億6238万余円(うち国庫補助金相当額9792万余円)造成されていたりしていて、適切とは認められない事態が見受けられた。

 このような事態を生じているのは、計画どおりの出荷が行われているかどうかの認定が、月別の出荷実績数量及び出荷計画数量に基づいて行う方が需給調整の効果が大きいのに、出荷期間(野菜の種別ごとに定められている1箇月ないし数箇月の出荷が行われる期間をいう。以下同じ。)を通じた出荷実績数量等に基づいて行うこととされていたり、連作障害の発生、生産性の高い他作物への作付転換等の産地の生産、出荷の実状等を十分把握しないまま行われていたり、また、野菜供給安定基金では、資金造成において登録出荷団体が従来の出荷実績数量を大幅に上回る交付予約数量を申し込んでいるのにこれをそのまま承諾していたりしていることによるもので、関係規定等を事業の目的に即した適切なものに改める要があると認められた。

 上記に関し当局に指摘したところ、改善の処置が執られた。

(説明)

 農林水産省では、主要な野菜についての生産及び出荷の安定等を図り、もって野菜農業の健全な発展と国民消費生活の安定に資することを目的として野菜価格安定対策等事業を実施しているが、その一環として、野菜生産出荷安定法(昭和41年法律第103号)等に基づき、野菜供給安定基金(以下「基金」という。)に、指定消費地域における指定野菜の価格が著しく低落した場合に、その低落が生産者の経営に及ぼす影響を緩和するための補給金(生産者補給金)を生産者へ交付するため、生産者が当該指定野菜の出荷を委託した登録出荷団体(生産者補給交付金の交付を受けることができる団体として基金に登録された各道府県の農業協同組合連合会等の出荷団体をいう。以下同じ。)に対し生産者補給交付金を交付する指定野菜価格安定対策事業(以下「価格安定事業」という。)を実施させている。この事業において、基金は、〔1〕登録出荷団体に、指定野菜の種別ごとに、その出荷予定数量のうち価格の低落があった場合に生産者補給交付金の交付を受けようとする数量を決めて、基金に対しその交付の予約(以下「交付予約」という。)の申込みをさせ、〔2〕これを検討して承諾したとき(この承諾をした出荷数量を以下「交付予約数量」という。)は、当該交付予約ごとに、生産者補給交付金の交付に充てるための資金を、国、道府県からの補助金及び当該登録出荷団体の負担金により造成し、〔3〕当該登録出荷団体が出荷した指定野菜の平均販売価額が所定の保証基準額を下回った場合に生産者補給交付金を交付することになっている。そして、価格安定事業に係る国からの基金等に対する補助金の交付額は、昭和59年度から62年度までの4箇年度に合計268億9453万余円に上っている。

 また、同省では、指定野菜のうち特に需給の安定を図る必要のある野菜(以下「重要野菜」(注1) という。)については、「重要野菜需給調整特別事業実施要領」(注2) (昭和55年農林水産事務次官依命通達55食流第2866号)等に基づき、その需給の見通しを策定するとともに、全国農業協同組合連合会(以下「全農」という。)等に、需要に見合う適正な生産出荷計画の樹立、生産出荷団体による計画的な生産出荷等を実施させることにより、需要に見合った安定的な供給を確保し、それにより価格の安定を図ることを目的として重要野菜需給調整特別事業(以下「需給調整事業」という。)を実施している。この事業において、〔1〕全農は、各重要野菜の種類ごとに、月別、野菜指定産地別、仕向先地域(指定消費地域を北海道ほか9地域に統合した各々の地域をいう。以下同じ。)別の出荷計画数量(以下「計画数量」という。)等を定めた生産出荷計画を作成して農林水産大臣の承認を受け、この計画に従い計画的な生産出荷を実施し、〔2〕基金は、登録出荷団体ごとの月別の出荷実績数量(以下「実績数量」という。)を指定消費地域を管轄する地方農政局長等(以下「地方農政局長等」という。)に通知し、〔3〕地方農政局長等は、実績数量及び計画数量に基づき、後記のように、重要野菜の出荷が計画どおり実施されたかどうかを認定することとなっている。
 そして、需給調整事業と価格安定事業は、重要野菜について需給の調整をして価格の安定を図るため、前者におけるその計画的な生産出荷と後者における生産者補給交付金の交付とを有機的に関連づけて運営されている。

 すなわち、価格安定事業により交付される生産者補給交付金には、一般補給交付金と特別補給交付金とがあり、一般補給交付金は、重要野菜と重要野菜以外の指定野菜(以下後者を「一般野菜」という。)とに共通して交付されるものであるが、その両野菜に対する交付額の算定方法は異なっており、〔1〕一般野菜についての交付額は、保証基準額から平均販売価額(平均販売価額が所定の最低基準額を下回る場合は最低基準額。以下同じ。)を差し引いた金額の10分の9相当額に当該登録出荷団体の実績数量(実績数量が交付予約数量を上回る場合は、交付予約数量)を乗じて得た額とされているのに対して、〔2〕重要野菜についての交付額は、その計画的、安定的な生産出荷の一層の推進等を図るため、実績数量が需給調整事業により策定された計画数量どおりに出荷されなかった場合にはその程度に応じて減少する仕組みとされており、上記〔1〕と同じ方法により算出した額に、出荷期間を通じての実績数量と計画数量との差の当該計画数量に対する割合(以下「実績数量の開差の程度」という。)に応じた所定の交付率(開差の程度が小さいほど交付率は高くなる。)を乗じて得た額とされ、各重要野菜の種別ごとの出荷がどの交付率に該当するかの区分の認定は地方農政局長等が行うこととされている。

 特別補給交付金は、重要野菜についてのみ交付されるもので、その交付額は、地方農政局長等が出荷期間を通じての仕向先地域別の「実績数量の開差の程度」がおおむね5%の範囲内にある出荷(以下「計画どおりの出荷」という。)であるかどうかについての認定(上記の一般補給交付金に係る認定と合わせて以下「出荷認定」という。)を行い、「計画どおりの出荷」と認定された場合は、需給調整事業の目的とされる計画的な出荷が達成されたものとして、一般補給交付金の交付額に9分の1を乗じた額とされている。
 したがって、「計画どおりの出荷」と認定された場合は、重要野菜については、一般補給交付金が保証基準額と平均販売価額との差額の10分の9全額が支払われるほか、特別補給交付金がその9分の1相当額上積みされるので、結局、当該差額の全額が支払われることとなり、一般野菜についての交付額が当該差額の10分の9であるのに比べて有利な取扱いとなっている。

 そして、出荷認定は前記のように基金から通知される実績数量等に基づいて地方農政局長等が行うことになっているが、その際、異常な気象条件により収穫量が著しく減少したことなど、計画どおりの出荷ができなくてもやむを得ないと認められる5つの事由のいずれかに該当すると認められるときは、これを勘案して「実績数量の開差の程度」に関係なく「計画どおりの出荷」がされたと認定すること(このような勘案による「計画どおりの出荷」の認定を以下「勘案による認定」という。)ができることとされている。

 しかして、本院において、重要野菜について、最近の3出荷期間(59年11月から62年10月まで(「秋冬だいこん」については59年10月から62年9月まで)の間)における埼玉県経済農業協同組合連合会ほか12登録出荷団体(注3) の交付予約505件、その交付予約数量累計1,778,749t及びこれに係る必要な資金造成額累計442億5332万余円(うち国庫補助金相当額315億5911万円)、一般補給交付金の交付額304件131億3459万円(うち国庫補助金相当額88億9379万余円)、特別補給交付金の交付額220件12億5335万余円(うち国庫補助金相当額8億5145万円)、生産者補給交付金の交付額合計304件143億8794方余円(うち国庫補助金相当額97億4524万余円)について、交付予約、資金造成、生産者補給交付金の交付等の状況を検査したところ、次のとおり適切とは認められない事態が見受けられた。

1 出荷期間を通じた実績数量により出荷認定が行われているため需給調整の効果が十 分発現していないもの

 重要野菜の出荷で、「計画どおりの出荷」と認定され、特別補給交付金が交付された上記220件のうち、出荷期間が1箇月を超え、かつ、勘案による認定によらないものが81件あり、これに係る交付額が8億8686万余円(うち国庫補助金相当額6億0133万余円)あった。
 これらの出荷認定は、出荷期間を通じての実績数量と計画数量とを比較して行われ ているが、月別の実績数量を計画数量と対比してみると、相当かい離しているものが多数見受けられ、このような出荷に対して「計画どおりの出荷」の認定をすることは、 重要野菜を指定消費地域に計画的に供給して需給バランスを保ち価格の安定を図るという需給調整事業の事業効果を上げるためには適切とは認められない。
 いま、仮に、上記81件について、出荷期間を通じての「実績数量の開差の程度」ではなく、月別の開差の程度を考慮して出荷認定が行われたとすると、「計画どおりの出荷」とは認められないものが45件あり、これに係る特別補給交付金の交付額3億9561万余円(うち国庫補助金相当額2億6727万余円)は事業効果を十分発現していなかったと認められた。

2 出荷の実態を十分把握せずに勘案による認定をしているもの

 上記220件のうち勘案による認定をしているものが136件あり、この中には、3出荷期間を通じて一貫して実績数量が計画数量を上回り又は下回っている事態、及び登録出荷団体の実績数量全体では各仕向先地域に「計画どおりの出荷」をできる数量があり、特に異常な気象条件による収穫量の増減等がないのに、特定の仕向先地域についてみると実績数量が計画数量を上回り又は下回っている事態についての認定が44件、これに係る生産者補給交付金の交付額が5億3275万余円(うち国庫補助金相当額3億6478万円)あった。
 しかしながら、これらの事態は、従来の出荷実績を大幅に上回る計画数量を定めた出荷計画が作成されていたり、共同出荷の割合が低かったり、出荷計画で定められた仕向先地域以外の地域へ多量に出荷したりしていたために生じたもので、これらの出荷は本来は「計画どおりの出荷」に該当しないものであるのに、いずれも勘案による認定がされたものであって適切とは認められない。
 いま、仮に、上記44件について、勘案による認定をせず、「実績数量の開差の程度」に基づき出荷認定を行ったとして生産者補給交付金の交付額を計算すると、4億4264万余円となり、前記交付額との差額9011万余円(うち国庫補助金相当額6108万円)は交付の要がなかったこととなる。
 上記事態のほか、価格安定事業に係る資金は、交付予約数量を基礎として造成され、生産者補給交付金を交付するための財源となっているが、毎年度の交付予約数量が産地の実状を反映しない過大なものとなっていたため、3出荷期間を通じて交付予約数量が実績数量を大幅に上回っており、当該期間を通じて交付予約をしているもの 162件のうち31件1億6238万余円(うち国庫補助金相当額9792万余円)は、生産者補給交付金として交付されることのない資金として造成されていた。
 このような事態を生じているのは、

〔1〕  需給調整事業においては、計画数量が月別に定められ、基金からの実績数量の通知も月別に行われていて、地方農政局長等は出荷認定を月別の実績数量及び計画数量を考慮して行うことができ、また、その方が事業の目的に沿っていると認められるのに、単に出荷期間を通じた「実績数量の開差の程度」に基づいて出荷認定が行われる制度となっていること、

〔2〕  地方農政局長等が、出荷認定に当たり、連作障害の発生、生産性の高い他作物への作付転換、農家の老齢化等による作付面積の減少、共同出荷の割合の低下などの産地の実状、登録出荷団体の出荷の状況等を十分把握することなく、勘案による認定を安易に行っていること、

〔3〕  登録出荷団体の中には産地の実状に即さない過大な出荷数量により交付予約を申し込んでいるものがあり、基金でも安易にこの数量による交付予約の承諾を行っていること

などによると認められた。

 上記についての本院の指摘に基づき、農林水産省では、重要野菜について、需要に見合った安定的な供給を確保するための計画的な生産出荷を一層推進させるため、63年11月に、通達を改正するなどして、地方農政局長等の行う出荷認定に当たっては、月ごとの「実績数量の開差の程度」を考慮し、かつ、産地の生産の実状、登録出荷団体の出荷の状況等を十分把握して行うこととするとともに、交付予約数量を産地の実状に即したものとし資金造成が適切に行われることとなるよう関係各機関を指導するなどして、重要野菜に係る野菜価格安定対策等事業の適正な実施を図る処置を講じた。

(注1)  重要野菜  キャベツ等29種別の指定野菜のうちの春キャベツ、夏秋キャベツ、冬キャベツ、秋冬だいこん、たまねぎ及び秋冬はくさい

(注2)  重要野菜需給調整特別事業実施要領  63年7月から「野菜需給均衡総合推進対策事業実施要領」(昭和63年農林水産事務次官依命通達63食流第3576号)に引き継がれ、これに伴い重要野菜需給調整特別事業は野菜需給均衡総合推進対策事業の中に重要野菜需給調整推進事業などとして取り込まれた。

(注3)  埼玉県経済農業協同組合連合会ほか12登録出荷団体  埼玉、千葉、神奈川、愛知、兵庫、奈良、岡山、山口、愛媛各県経済農業協同組合連合会、香川県青果販売農業協同組合連合会、愛媛県青果農業協同組合連合会、福岡、佐賀両県園芸農業協同組合連合会