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租税の徴収に当たり、徴収額に過不足があったもの


(1) 租税の徴収に当たり、徴収額に過不足があったもの

会計名及び科目 一般会計 国税収納金整理資金 (款)歳入組入資金受入
(項)各税受入金
部局等の名称 麹町税務署ほか164税務署  
納税義務者又は源泉徴収義務者 460人  

 上記の165税務署において、納税義務者等460入から租税を徴収するに当たり、課税資料の収集、活用が的確でなかったため収入金等を把握していなかったことなどにより、徴収額が不足していたものが438事項1,288,058,183円、徴収額が過大になっていたものが22事項32,452,812円あった。これらについては、本院の注意により、すべて徴収決定又は支払決定の処置が執られた。これを各国税局等ごとに集計して掲げると別表 のとおりである。

(説明)

 昭和63年度国税収納金整理資金の各税受入金は、徴収決定済額53兆0438億余円で、このうち源泉所得税、申告所得税及び法人税の3税で37兆8512億余円となっていて、全体の71.3%を占めている。
 しかして、本院がこれら3税の課税内容に重点をおいて検査したところ、前記の165税務署において、課税資料の収集、活用が的確でなかったため収入金等を把握していなかったり、法令適用の検討が十分でなかったため税額計算等を誤っていたり、納税者が申告書等において所得金額、税額計算等を誤っているのにこれを見過ごすなどしていたりして、徴収額に過不足を生じているものが460事項あった。
 これを税目別にみると、源泉所得税に関するもの23事項、申告所得税に関するもの208事項、法人税に関するもの216事項、相続税に関するもの8事項及び有価証券取引税に関するもの5事項となっており、これらのうち、源泉所得税、申告所得税及び法人税に関するものについてその態様を示すと次のとおりである。

1 源泉所得税に関するもの

 源泉所得税に関する徴収過不足23事項の内訳は、給与等に関するもの8事項、配当に関するもの7事項、退職手当に関するもの7事項及び報酬に関するもの1事項である。
 給与等(給料、賃金、賞与等をいう。以下同じ。)、配当、退職手当及び報酬の源泉所得税については、支払者が源泉徴収義務者となって、支払の際に所定の方法により各受給者に対する税額を計算してこれを徴収し、原則として徴収の日の属する月の翌月10日までに国に納付しなければならないこととなっている。 また、未払となっている配当については、支払の確定した日から1年を経過した日において支払があったものとみなし、源泉徴収義務者がこれに対する税額を徴収してその翌月10日までにこれを国に納付しなければなちないこととなっている。そして、これらの場合に源泉徴収義務者が法定納期限までに納付しなかったときは、納税の告知をしなければならないこととなっている。
 しかし、上記の23事項については、源泉徴収義務者が法定納期限経過後長期にわたって源泉所得税を納付しなかったり、税額の計算を誤ったりしているのに、法人税の申告に当たり提出された決算書等の調査が十分でなかったため納税の告知をしないなどしていた。
 源泉所得税に関する徴収不足の事例を示すと次のとおりである。

<事例> 給与等に関するもの

 某会社は、昭和62年5月から63年4月までの間の給与等及び62年4月から63年4月までの間の報酬の源泉所得税を納付していなかった。
 しかし、同会社から法人税の申告に当たり提出された決算書等によれば、上記の期間中に給与等209,838,330円及び報酬1,690,000円、計211,528,330円が支払われていることが判明し、これに対する源泉所得税が法定納期限経過後長期にわたって納付されていないのに、支払金額及びこれに対する税額の調査が十分でなかったため、源泉所得税額8,454,811円について納税の告知をしていなかった。

2 申告所得税に関するもの

 申告所得税に関する徴収過不足208事項の内訳は、配当所得に関するもの32事項、雑所得に関するもの29事項、資産所得の合算に関するもの46事項、譲渡所得に関するもの32事項及びその他に関するもの69事項である。

(1) 配当所得に関するもの(32事項)及び雑所得に関するもの(29事項)について

 配当については、源泉分離選択課税(注) の適用を受けた配当を除いて、その支払を受ける者に配当所得として課税することとなっており、また、貸付金の利子(事業所得に該当するものを除く。)等については雑所得として課税することとなっている。
 しかし、上記の計61事項については、配当、貸付金の利子等による所得があるのに、課税資料の収集、活用が的確でなかったためこれらの所得に課税しないなどしていた。

(注)  源泉分離選択課税 配当について、その支払を受ける者が法人の発行済株式の総数又は出資金額の100分の5以上を有する場合又は法人から支払を受ける配当の金額が1回25万円(年間50万円)以上の場合を除いて、他の所得と分離し100分の35の税率による課税を選択することをいう。

(2) 資産所得の合算に関するもの(46事項)について

 生計を一にする一定範囲の親族の資産所得(利子所得、配当所得及び不動産所得)については、これを主たる所得者(注) の所得に合算しこの合計額が所定の金額を超えるときには、この合計額に対する税額を計算した後、その税額を各人の所得に応じてあん分し、それぞれの税額を計算することとなっている。
 しかし、上記の46事項については、生計を一にする配偶者等に資産所得があるのに、法令適用の検討が十分でなかったことや申告書の資産所得に関する記載事項等を見過ごしたことのため、これを主たる所得者の所得に合算することなく税額を計算していた。

(注)  主たる所得者 生計を一にする一定範囲の親族のうち、総所得金額から資産所得の金額を差し引いた金額が最も大きい者をいい、資産所得だけの場合は資産所得の金額が最も大きい者をいう。

(3) 譲渡所得に関するもの(32事項)について

 資産の譲渡益については、譲渡所得として課税することとなっている。この譲渡所得のうち土地建物等の譲渡に係る所得については、他の所得と区分して課税することとなっていて、土地建物等の所有期間に応じて長期譲渡所得と短期譲渡所得(注) とに分けてそれぞれ特別な税額計算の方法を執ることとなっており、短期譲渡所得は長期譲渡所得より高率で課税することとなっている。また、相続又は遺贈により取得した財産を譲渡した場合で、所定の要件を満たすときには譲渡した財産に対応する相続税額を譲渡した財産の取得費に加算することが認められるなどの特例措置が執られている。
 しかし、上記の32事項については、譲渡所得があるのに課税資料の収集、活用が的確でなかったため課税しなかったり、申告書等において譲渡資産の取得費及び譲渡に要した費用の額を誤るなどしているのに法令適用の検討が十分でなかったことやこれを見過ごしたことのため、譲渡所得金額を過小のままとしていたり、長期譲渡所得、短期譲渡所得についての税額計算の方法を誤ったり、相続により取得した財産を譲渡した場合に取得費に加算される金額の計算を誤ったりなどしていた。

(注)  長期譲渡所得と短期譲渡所得 長期譲渡所得とは、譲渡した年の1月1日において土地等又は建物等の所有期間が10年(昭和62年10月1日から平成2年3月31日までの間の土地等の譲渡については5年)を超えるものの譲渡に係る所得をいい、短期譲渡所得とは、10年(同じく5年)以下のものの譲渡に係る所得をいう。

 上記の(1)から(3)のほか、その他に関するもの(69事項)として、給与所得に関するもの、不動産所得に関するもの、事業所得に関するものなどがある。

申告所得税に関する徴収不足の事例を示すと次のとおりである。

<事例1>  配当所得に関するもの

 某納税者は、昭和62年分の所得税の申告に当たり、配当所得はないものとしていた。
 しかし、某会社の61年6月から62年5月までの事業年度分の決算書等によれば、同会社は配当について62年7月24日に支払の確定をしていることが判明し、同人には、その支払の確定の日に62年分として16,470,000円の配当があったことになるのに、同会社の配当に関する資料を確認して配当所得を合算しなかったことなどのため、申告所得税額4,172,600円が徴収不足になっていた。

<事例2>  譲渡所得に関するもの

 某納税者は、昭和62年分の所得税の申告に当たり、譲渡所得の計算において、土地の譲渡価額319,555,000円から取得費80,814,473円及び譲渡費用341,391円を差し引き、譲渡所得の特別控除額1,000,000円を控除して、分離長期譲渡所得を237,399,136円と算出し、この取得費のうち57,637,643円は、相続により取得した土地を譲渡した場合において取得費に加算される相続税額であるとしていた。
 しかし、同人の申告書等の譲渡に関する資料によれば、譲渡した土地に対応する相続税額として取得費に加算される金額は28,818,821円となることが判明し、分離長期譲渡所得は266,217,958円となるのに、譲渡した土地の取得費についての検討が十分でなかったため、申告所得税額8,645,400円が徴収不足になっていた。

3 法人税に関するもの

 法人税に関する徴収過不足216事項の内訳は、土地の譲渡等に係る譲渡利益に関するもの56事項、同族会社の留保金額に関するもの30事項、退職給与引当金に関するもの26事項、交際費等に関するもの25事項及びその他に関するもの79事項である。

(1) 土地の譲渡等に係る譲渡利益に関するもの(56事項)について

 法人が短期所有土地(注1) 、超短期所有土地(注2) を譲渡した場合の譲渡利益金額については、通常の法人税のほか、特別税率による法人税を課することとなっている。
 しかし、上記の56事項については、短期所有土地、超短期所有土地に係る譲渡利益金額があるのに、法令適用の検討が十分でなかったことや申告書等の土地の譲渡に関する記載事項を見過ごしたことのため、特別税率による法人税を課さなかったり、申告書において譲渡経費等の額を誤っているのにこれを見過ごしたため、譲渡利益金額を過小のままとしていたりなどしていた。

(注1)  短期所有土地 譲渡した年の1月1日において所有期間が10年(昭和62年10月1日から平成2年3月31日までの間の譲渡については5年)以下である土地等をいう。

(注2)  超短期所有土地 昭和62年10月1日から平成2年3月31日までの間の譲渡で、譲渡した年の1月1日において所有期間が2年以下である土地等をいう。

(2) 同族会社の留保金額に関するもの(30事項)について

 同族会社(注) については、通常の法人税を課するほか、利益を社内に留保した金額が所定の金額を超える場合には、その超える部分の金額(以下「課税留保金額」という。)に対し特別税率による法人税を課することとなっている。
 しかし、上記の30事項については、同族会社で課税留保金額があるのに法令適用の検討が十分でなかったことや申告書の同族会社に関する記載事項を見過ごしたことのため、特別税率による法人税を課さないなどしていた。

(注)  同族会社 特別税率が適用される同族会社とは、株主等(株主等に同族会社でない法人がある場合はその法人を除く。)の3人以下並びにこれらと特殊の関係にある個人及び法人が有する株式の総数又は出資金額の合計額が、その会社の発行済株式の総数又は出資金額の100分の50以上となる会社をいう。

(3) 退職給与引当金に関するもの(26事項)について

 退職給与規程を定めている法人がその使用人の退職により支給する退職給与に充てるため、退職給与引当金勘定に繰り入れた金額については、期末退職給与の要支給額(注) から前期末退職給与の要支給額を控除した金額(又は給与総額の100分の6相当額)と、期末退職給与の要支給額の100分の40相当額から期末における前期から繰り越された退職給与引当金勘定の金額を控除した金額とのうち、いずれか少ない金額を限度額として損金に算入することが認められている。そして、使用人が退職した場合には、退職給与引当金勘定の金額のうち退職者の前期末退職給与の要支給額に相当する金額を取り崩して益金に算入することとなっている。
 しかし、上記の26事項については、申告書において期末又は前期末退職給与の要支給額を誤るなどしているのに、法令適用の検討が十分でなかったことやこれを見過ごしたことのため、限度額を超えた繰入額を損金にしていたり、使用人が退職した場合に退職者の前期末退職給与の要支給額に相当する金額を益金にしていなかったりなどしていた。

(注)  期末退職給与の要支給額 期末において在職する使用人の全員が自己の都合で退職するものと仮定した場合に、各使用人について退職給与規程により計算される退職給与の合計額をいう。

(4) 交際費等に関するもの(25事項)について

 法人が昭和57年4月1日から平成3年3月31日までの間に開始する各事業年度において支出する交際費等(交際費、接待費、機密費等をいう。)については、法人の資本又は出資の金額(資本又は出資を有しない法人については、所定の方法によって計算した資本又は出資の金額に準ずる金額)が5000万円を超える場合にはその支出した全額を、5000万円以下で1000万円を超える場合には支出した金額のうち300万円を超える金額を、1000万円以下の場合には支出した金額のうち400万円を超える金額をそれぞれ損金に算入しないこととなっている。
 しかし、上記の25事項については、申告書に添付されている決算書において支出した交際費等の額があるのに法令適用の検討が十分でなかったことや、資本又は出資の金額に準ずる金額を誤っているのにこれを見過ごしたことのため、支出した交際費等の額について損金に算入しない金額の計算をしていなかったり、損金に算入しない金額を過小のままとしていたりなどしていた。

 上記の(1)から(4)のほか、その他に関するもの(79事項)として、法人税額等の損金不算入(注) に関するもの、役員賞与に関するもの、固定資産の圧縮記帳に関するものなどがある。

(注)  法人税額等の損金不算入 法人が納付する法人税、道府県民税、印紙税法(昭和42年法律第23号)の規定による過怠税(印紙税を納付しなかったなどの場合に課される特別の印紙税)等の額は所得の金額の計算上損金の額に算入しないことをいう。

 法人税に関する徴収不足の事例を示すと次のとおりである。

<事例1>  土地の譲渡等に係る譲渡利益に関するもの

 某会社は、昭和61年2月から62年1月まで及び62年2月から63年1月までの2事業年度分の申告に当たり、土地の譲渡価額1,691,140,000円、2,995,490,000円から原価の額1,159,269,211円、2,101,090,624円及び譲渡経費の額193,128,149円、490,028,150円を控除した金額338,742,640円、404,371,226円を譲渡利益金額と算出し、これに対する特別税率による法人税額を67,748,400円、80,874,200円としていた。
 しかし、同会社の決算書等によれば、原価及び譲渡経費の計算において、譲渡した土地の原価及び保有に係る負債利子の額が過大になっていることなどが判明し、土地譲渡利益金額は477,752,583円、633,269,904円となるのに、原価及び譲渡経費の内容について検討が十分でなかったため、特別税率による法人税額27,802,000円、45,779,600円、計73,581,600円が徴収不足になっていた。

<事例2> 法人税額等の損金不算入に関するもの

 某会社は、昭和61年5月から62年4月までの事業年度分の申告に当たり、租税公課のうち印紙税等の額12,985,900円を所得の金額の計算上損金に算入し、所得金額を38,826,067円と算出して、これに対する法人税額を13,679,000円としていた。
 しかし、同会社の申告書等及び印紙税の不納付による過怠税に係る資料によれば、同会社は過怠税10,125,060円を課されているが、この過怠税の額については損金に算入しないこととなっているのにこれを上記の印紙税等の額12,985,900円に含めていることが判明し、所得金額は48,951,127円になるのに、租税公課の内容について検討が十分でなかったため、法人税額4,235,500円が徴収不足になっていた。

(別表)

租税の徴収に当たり、徴収額に過不足があったものの図1