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  • 昭和63年度|
  • 第2章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第5 農林水産省|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

農林水産業地域改善対策事業において事業の目的が達成されるように実施体制を改善させたもの


(1)農林水産業地域改善対策事業において事業の目的が達成されるように実施体制を改善させたもの

会計名及び科目 一般会計 (組織)農林水産本省 (項)農業振興費
(組織)水産庁 (項)水産業振興費
部局等の名称 農林水産本省、関東、近畿、中国四国、九州各農政局、水産庁
補助の根拠 予算補助
調査した補助事業 農林業近代化施設整備事業955事業、漁業近代化施設整備事業215事業、農林業団地特別整備事業30事業、漁業団地特別整備事業13事業、計1,213事業
事業の概要 歴史的社会的理由により生活環境等の安定向上が阻害されている地域において、農林水産業の経営の安定と農林漁家の生活水準の向上を図ることを目的として、経営の合理化と技術の改善を図るための共同利用施設を設置する事業、畜産経営環境の保全を図るために畜産団地を整備する事業及び漁港施設の効用を一層確保するために漁港関連団地を整備する事業
事業費 35,160,524,000円(昭和51年度~62年度)
上記に対する国庫補助金交付額の合計 23,303,987,000円

 上記の補助事業において、設置された施設が無断で処分されたり、貸し付けられたり、遊休化したり、特定の個人の専用となったりなどしていて、補助金交付の目的を達成しているとは認められない事態が146件(事業費48億2329万余円、国庫補助金相当額31億7491万余円)見受けられた。
 このような事態を生じているのは、農林漁業を取り巻く情勢の変化があったことなどにもよるが、市町村及び県において、事業計画の策定や承認に当たり事業実施に必要な基本的事項について調査や審査等を十分行わなかったこと、設置した施設の管理運営状況についての実態把握を怠り、適切な指導を行っていないこと、また、地方農政局及び水産庁において、事業計画の承認に係る協議の際の審査が十分でなかったこと、施設の管理運営状況についての実態を把握していないことなどによるもので、農林水産省において、これらの事業実施手続き等が適切に行われるように実施要領等に具体的な規定を整備し、県及び市町村等に対する指導を強化するなどして、事業の目的が達成されるように実施体制を改善する要があると認められた。
 上記に関し当局に指摘したところ、改善の処置が執られた。

(説明)
農林水産省では、昭和44年度以降、地域改善対策特定事業に係る国の財政上の特別地域配置に関する法律(昭和62年法律第22号)(注1) 改善対策等の一環として、歴史的社会的理由により生活環境等の安定向上が阻害されている地域(以下「対象地域」という。)の農林業及び水産業の振興を図り、その経営の安定と農林漁家の生活水準の向上を図るため、農林業地域改善対策事業及び水産業地域改善対策事業(56年度までは農林業同和対策事業及び水産業同和対策事業。以下「農林水産業地域改善対策事業」という。)を実施している。この事業の円滑かつ迅速な実施を図るため、特別な助成として、事業の補助率は、他の農林水産省の補助事業と比べ高率となっていて、原則として3分の2以内となっている。そして、51年度から62年度までの12年間に実施された農林水産業地域改善対策事業(事業費総額3061億7428万余円)に対する国庫補助金の交付額は2035億1769万余円の多額に上っている。

 この事業は、「農林業地域改善対策事業実施要領」(昭和62年農林水産事務次官依命通達62構改B第569号)、「水産業地域改善対策事業実施要領(同62水振第1299号)等(以下「実施要領等」という。)に基づいて実施されており、対象地域のうち、原則として、当該地域内の同和関係農林漁家の戸数が10戸以上であって、当該地域の農林漁家に占める同和関係農林漁家の割合が5割以上の地区を事業の実施対象地区とし、実施する事業については、事業の受益農林漁家のうち同和関係農林漁家の戸数が原則として5戸以上であることなどを基準として、当該地区を管轄する市町村の長が、所定の内容を記載した事業計画を策定して、府県知事(以下「知事」という。)に提出し、提出を受けた知事が、これを審査し、適切と認めたものについて地方農政局長又は水産庁長官に協議のうえ承認し、承認された事業計画に基づいて市町村、農業協同組合等又は農林漁家の組織する団体(以下「組合」という。)が事業主体となって実施することとなっている。

 また、この事業により設置した施設の管理運営については、原則として事業主体が行うことになっているが、市町村が事業主体となって設置した施設で特定の地区に受益が限定されるものについては、当該市町村が管理条例等を作成して組合に管理を委託することとなっており、いずれの場合においても施設の管理者は、事業目的に応じ効果的かつ永続的な活用を図らなければならないこととなっている。そして、知事及び市町村長は、この事業の実施に関し必要な指導監督を行うとともに、この事業により設置された施設について、管理運営の実態を十分把握するよう努め、経営管理を含めた指導監督を行うこととなっている。

 しかして、本院において、埼玉県ほか20県(注2) で実施された農林水産業地域改善対策事業のうち、農林業又は水産業の用に供する牛舎、しいたけ栽培施設、養鰻施設等の共同で利用することを目的とした施設を設置する農林業近代化施設整備事業及び漁業近代化施設整備事業、養豚等の畜産団地を緊急に整備する地域改善対策農林業団地特別整備事業、並びに荷さばき施設等の漁港関連団地を緊急に整備する地域改善対策漁業団地特別整備事業について、前記12年間に国庫補助金の交付の対象となったもの2,440件(事業費686億5352万余円、国庫補助金相当額455億2708万余円)から1,213件(事業費351億6052万余円、国庫補助金相当額233億0398万余円)を対象として、これらの事業により設置された施設の管理運営状況を調査したところ、次のとおり、補助金交付の目的を達成しているとは認められない事態が埼玉県ほか16県(注3) で、合計146件(事業費48億2329万余円、国庫補助金相当額31億7491万余円)見受けられた。

〔1〕 施設が設置後短期間のうちに無断で処分されたり、貸し付けられたり、目的外に使用されたりしているもの

5県15市町村 17件 事業費5億8534万余円
(国庫補助金相当額3億8968万余円)

〔2〕 施設が設置後短期間のうちに遊休化しているもの

12県27市町村 66件 事業費20億6420万余円
(国庫補助金相当額13億3976万余円)

〔3〕 施設がその設置当初から又は設置後短期間のうちに特定の個人の専用となっているなどしていて、共同利用施設とはなっていないもの

6県13市町村 34件 事業費10億8487万余円
(国庫補助金相当額7億2176万余円)

〔4〕 施設の利用率が当初計画に対し著しく下回っているもの

7県16市町 29件 事業費10億8886万余円
(国庫補助金相当額7億2370万余円)

 このような事態を生じているのは、農林漁業を取り巻く情勢の変化があったことや、組合において、技術の習得、資金の調達など事業を円滑に運営するための話合いが十分行われていないこと、組合規約、管理規程等がほとんど設けられていないことなど、補助事業に対する認識が十分でなかったことにもよるが、

(1) 市町村において、

ア 事業計画の策定に際し、組合の構成員の事業参加意欲、組合の技術・経営管理・資金調達等の能力、生産物の需給動向や販路等についての基本的調査を十分行わず、必要とされていた指導を的確に行わなかったこと、

イ 設置した施設の管理運営の実態の把握を怠り、組合に対して適切な指導を行っていないこと、

(2) 県において、

ア 市町村が策定した事業計画の承認に当たり、上記の基本的調査が行われていることなどの要件について的確な審査を行わなかったこと、

イ 営農相談員による個別指導等を通して、対象地区の農林漁家の生産性向上、経営改善等を図ることを目的としている営農等相談事業(国庫補助事業)を十分活用していないこと、

ウ 設置した施設の管理運営状況について市町村から報告を受けて実態の把握に努めることを怠り、市町村及び組合に対して適切な指導を行っていないこと、

(3) 農林水産省において、

ア 県から事業計画の承認に係る協議があった場合に、これに対する地方農政局等の審査及び指導が十分でなかったこと、

イ 設置した施設の管理運営状況について県から報告を受けず、実態の把握をしていないこと、

ウ 上記の(1)〜(3)イの事項に関し、実施要領等に具体的な規定を整備していないこと、

などによると認められた。

 上記についての本院の指摘に基づき、農林水産省では、平成元年9月に通達を発し、前記の適切とは認やられない事態となっている施設について、改善計画を樹立して、県の承認を受けること及びその後の利用状況を県に報告することを市町村に義務付けるなど、補助金交付の目的の達成を図るための具体的な処置を講じた。また、同月に実施要領等を改正するなどして、事業実施に必要な事項について事前に十分な調査検討を行い適切な事業計画を策定するよう市町村に対して指導強化を図るとともに、事業計画の審査を適切に行えるよう県、地方農政局等の審査の充実強化を図り、また、事業実施後の施設の管理運営状況を的確に把握するため設置した施設の利用状況の報告を県から提出させることとしたほか、営農等相談事業の拡充を図るなどして、事業の実施体制を改善する処置を講じた。

(注1)  地域改善対策特定事業に係る国の財政上の特別措置に関する法律(昭和62年法律第22号)等 旧同和対策特別措置法(昭和44年法律第60号)、旧地域改善対策特別措置法(昭和57年法律第16号)及び地域改善対策特定事業に係る国の財政上の特別措置に関する法律

(注2)  埼玉県ほか20県 埼玉、茨城、千葉、静岡、滋賀、奈良、和歌山、鳥取、岡山、広島、山口、香川、愛媛、高知、福岡、佐賀、長崎、熊本、大分、宮崎、鹿児島各県

(注3)  埼玉県ほか16県 埼玉、茨城、静岡、滋賀、奈良、和歌山、岡山、山口、香川、愛媛、高知、福岡、佐賀、熊本、大分、宮崎、鹿児島各県