ページトップ
  • 国会からの検査要請事項に関する報告(検査要請)|
  • 会計検査院法第30条の3の規定に基づく報告書|
  • 平成18年9月

政府開発援助(ODA)に関する会計検査の結果について


(4) 援助の対象となった施設等の利用状況

ア 調査対象事業の選定

 前記428件のうち、贈与契約上の終了期日到来後一定期間が経過した13年度から15年度までに実施された341件から、実施年度、分野、被供与団体等を勘案して選定した10在外公館の52事業を対象として、援助の対象となった施設、機材等の利用状況について調査した(52事業の概要については別表3―1参照 )。

イ 調査の状況

 会計検査院は、18年2月から5月までに10在外公館に職員を派遣し、現況について説明を受けるとともに、施設等の利用状況について実地に調査した。このうち、在リオデジャネイロ日本国総領事館の1事業は治安の問題により案件現場の確認ができなかったが、残り51事業はすべて案件現場の確認を行った。その結果、表3―16の4事業は、会計検査院の調査時において事業が完了していなかったり、事業は完了しているものの事業本来の目的で一度も施設等が利用されていなかったりしていて、案件当初の目的に即して利用されているとは認められなかった。

表3―16 案件当初の目的に即して利用されているとは認められなかった事業
在外公館
年度
事業名
分野
被供与団体
金額(円)
態様
リオデジャネイロ
13
ムール貝・牡蠣養殖計画
農林水産
ローカルNGO
7,310,561
機材の売却など
エチオピア
15
アカキ青少年育成センター設置計画
教育研究
ローカルNGO
9,988,018
施設が未完成、機材が未調達
エチオピア
15
ギザウ博士記念総合病院建設計画
医療保健
ローカルNGO
9,645,442
施設が未完成
クロアチア
13
ヴェリキ・グラダツ村小学校再建計画
教育研究・医療保健
ローカルNGO
4,689,100
施設等が未利用

 表3―16に示した4事業の概要及び現況は、次のとおりであった。

(ア)ムール貝・牡蠣養殖計画(ブラジル連邦共和国)

 この事業は、ブラジル連邦共和国リオデジャネイロ州アハイアル・ド・カーボ市において、自生するムール貝の採取を防止して環境の保全を図るとともに、貝類採取従事者の所得の安定や向上を図るため、ムール貝や牡蠣の養殖用設備や貝類加工処理施設の設置等を内容とするものである。
 在リオデジャネイロ日本国総領事館では、14年2月に、本件事業を実施する団体との間で同年7月を完了期日とする贈与契約を締結し、同年3月に、資金68,323米ドル(邦貨換算額7,310,561円、伯貨換算額158,509.36レアル)を供与している。
 本件事業については、治安の問題により会計検査院が案件現場の確認ができないことから、同総領事館の草の根無償担当者からの資料の提出及び説明により調査した。
 調査したところ、同総領事館では、14年6月に、供与資金158,509.36伯レアルのうち牡蠣養殖用設備、貝類採取用船舶等の購入のために計127,356.20伯レアルが支払われたとする中間報告書を同団体から受領した。その後、15年3月に、同団体が14年12月頃に内部分裂し活動を停止した旨の情報を外部から得たため、当時の草の根無償担当者が同団体の代表者との連絡を試みたところ、ようやく15年12月上旬に連絡が取れたが、再び連絡が取れなくなってしまった。そこで、15年12月中旬に、当時の草の根無償担当者が事業の推進を図ろうとしている同団体の反代表者グループに状況を確認したところ、代表者を中心とするグループが、15年5月頃、本件事業で購入した設備や船舶等を売却し、これにより得た資金をグループ内で分配したとのことであり、一方、反代表者グループは、同年5月下旬に、代表者に対して資金の返還を求める訴訟を起こしたとのことである。
 その後、16年2月に、当時の草の根無償担当者が案件現場を確認したところ、現場に残されていた機材は、養殖用筏及びロープのみであり、会計検査院の調査時(18年3月)においても、反代表者グループが代表者に対して起こした資金の返還を求める訴訟は継続中とのことであった。
 上記のとおり、本件事業は、当該資金を供与してから約4年が経過した会計検査院の調査時においても契約期間の変更申請等の手続も執られることなく、未だ事業が完了していない事態となっていた。

(イ)アカキ青少年育成センター設置計画(エチオピア連邦民主共和国)

 この事業は、エチオピア連邦民主共和国のアジスアベバ市において、地元青少年の健全な育成に資するため、図書館、会議室等を備えた青少年育成センターの建設等を内容とするものである。
 在エチオピア日本国大使館では、16年2月に、本件事業を実施する団体との間で贈与契約を締結し、同年2月に、資金81,869米ドル(邦貨換算額9,988,018円)を供与している。
 調査したところ、会計検査院の調査時(18年5月)において、施設については柱工事や壁の工事を行っている途中であって完成しておらず、供与機材については購入契約が締結されておらず、本件事業は完了していなかった。
 これは、同団体の説明によると、市の行政区であるアカキ地区の担当者から施設予定地の提供を受ける確約を得ていたが、贈与契約締結後に市制改革により、土地の使用許可の担当が地区から市に変更になり、さらに、市側の担当者も数度にわたり交代したことにより、手続に時間を要し、土地の使用許可を得るまで約1年を要したため、工事の着工が遅延したとのことである。同大使館の説明によると、同大使館は、16年8月に同団体から提出を受けた中間報告書により、このような事態を把握し、それ以降、同団体に対し、本件事業の早期完了に向け工事を行うよう指導を実施したとしている。
 また、同団体によれば、工事着工後は、同国国政選挙(17年5月)後の2度に及ぶ治安悪化のため、労働者が集まらなかったこと、雨季が例年よりも長く工事ができない期間が長かったこと、国内でセメントの供給不足があったことなどにより工事が遅延したとのことである。
 上記のとおり、本件事業は、当該資金を供与してから2年以上が経過した会計検査院の調査時においても契約期間の変更申請の手続も執られることなく、未だ事業が完了していない事態となっていた。

(ウ)ギザウ博士記念総合病院建設計画(エチオピア連邦民主共和国)

 この事業は、エチオピア連邦民主共和国のデブレブラハン市において、アムハラ州北ショア地方の医療施設不足の改善のため、将来順次整備していく予定としているギザウ博士記念総合病院の建物全体のうち、部分開業に必要な建物の一部の内装工事等を内容とするものである。
 在エチオピア日本国大使館では、16年3月に、本件事業を実施する団体との間で贈与契約を締結し、同年3月に、資金79,061米ドル(邦貨換算額9,645,442円)を供与している。
 調査したところ、本件事業は、会計検査院の調査時(18年5月)において、予定していた内装工事等のうち、配線工事、窓枠設置工事等は終了していたが、そのすべてについては完了していなかった。
 これは、同団体の説明によると、16年12月頃、工事関係者から、建物の配線工事及び配管工事については、本件事業の対象となっている部分と対象外の部分とを一体的に行うとの提案を受け、工事計画を変更し、同大使館に無断で供与された資金の一部を使用し、工事を実施していたとのことである。さらに、同団体は贈与契約に定められた期限までに中間報告書を同大使館に提出していなかった。
 そして、同団体は、同大使館からの督促により、17年11月に中間報告書を提出し、上記の事態を同大使館に報告した。同大使館では、それ以降、同団体に対し、本件事業の早期完了に向け工事を行うよう指導を実施したとしている。
 また、同団体によれば、同国国政選挙(17年5月)後の2度に及ぶ治安悪化のため、労働者が集まらなかったこと、雨季が例年よりも長く工事ができない期間が長かったこと、国内でセメントの供給不足があったことなどにより工事が遅延したとのことである。
 上記のとおり、本件事業は、当該資金を供与してから2年以上が経過した会計検査院の調査時においても契約期間の変更申請等の手続も執られることなく、未だ事業が完了していない事態となっていた。

(エ)ヴェリキ・グラダツ村小学校再建計画(クロアチア共和国)

 この事業は、クロアチア共和国のヴェリキ・グラダツ村において、旧ユーゴ紛争によるセルビア人難民・避難民の帰還を促すため、同村及び周辺5村の村民のための小学校及び診療室として利用する目的で、既存小学校建物の修復及び教室、診療室用の机・椅子等の購入を内容とするものである。
 在クロアチア日本国大使館では、14年2月に、本件事業を実施する団体との間で同年7月を完了期日とする贈与契約を締結し、同年3月に、資金46,891ユーロ(邦貨換算額4,689,100円)を供与している。
 調査したところ、本件事業は同年10月に完了し最終報告書が提出されていたが、事業完了後3年6箇月を経た会計検査院の調査時(18年3月)において、当該施設は事業本来の目的で一度も利用されていない事態となっていた。これは、同団体の説明によると、同国の教育制度の改正等に伴い、同国教育省に対する学校再開の承認申請手続に時間を要したこと、対象人数が少数のため同国保健省に対する診療所開設の承認申請が認められないでいること及び紛争以前1,100人であった同村の人口は調査時現在140人となっており難民の帰還が進まないことが大きな要因であるとのことである。
 学校の再開については、間もなく承認が得られる予定であり、18年4月から同村及び周辺村民の児童11人に対してセルビア語の特別課程の授業5時間を週1日当該小学校で開始する予定であるとのことである。また、診療所の開設については、同国保健省に申請済みではあるが、同国では住民人口に応じて医師が配置される基準となっており、同村及び周辺の5村を併せてもその基準を大きく下回っている状況のため、当分の間は困難であるとのことである。
 上記のとおり、本件事業は完了しているものの、施設等は本来の目的で利用されていない状況となっていると認められた。

ウ 過去に決算検査報告に掲記した草の根無償の現況について

 草の根無償については、平成14年度決算検査報告及び平成16年度決算検査報告において「特定検査対象に関する検査状況」として援助の効果が十分発現されていないなどの事態を3事業及び4事業、計7事業掲記している。
 これらについて、18年5月末現在における現況を、会計検査院が外務省から説明を聴取するなどして確認したところ、以下のとおりとなっていた。

(ア)「平成14年度決算検査報告」に掲記した案件の現況について

a アフガン難民女性協会料理裁縫ショップ拡充計画(カザフスタン共和国)

(a)検査報告に掲記した事態の概要

 この事業は、カザフスタン共和国のアルマティ市において、アフガン難民女性の職業創出のため、料理器具、裁縫器具等の機材を購入して店舗を拡充することを内容とするものである。在カザフスタン日本国大使館では、10年10月に、団体との間で贈与契約を締結し、同年11月に、資金19,944米ドル(邦貨換算額2,353,392円)を贈与している。
 同団体は12年3月に活動を停止し、同団体の代表者はカナダへ移住し、供与機材については、カナダへ移住する際大部分を売却し、その資金で衣類や食料を購入し、アフガン難民に送ったとのことであった。一部の機材については別の団体に引き継がれていることは判明したものの、残りの大部分の機材は確認できず、援助の効果が十分発現していない状況となっていた。

(b)現況

 外務省では、15年に調査を行ったが、同団体の活動停止後の詳細な事実関係は不明で、その後調査を行うことができないとのことである。

b 女性の職業訓練のためのニット編み機供与(カザフスタン共和国)

(a)検査報告に掲記した事態の概要

 この事業は、カザフスタン共和国のアルマティ市において、ムスリム女性の職業訓練及び雇用創出のため、既存の衣服製造作業場におけるニット編み機、刺繍用編み機等の機材の購入を内容とするものである。在カザフスタン日本国大使館では、10年7月に、団体との間で贈与契約を締結し、同年9月に、資金72,320米ドル(邦貨換算額8,533,760円)を贈与している。
 衣服製造作業場は13年6月に休止し、購入された機材が会計検査院の調査時(15年5月)において2年近くも使用されておらず同作業場に保管されたままとなっていて、援助の効果が十分発現していない状況となっていた。

(b)現況

 同作業場は、現時点でも活動を再開しておらず、供与機材は上記の会計検査院調査時と同じ状態で保管されているとのことである。また、今後の見通しについては、同団体の代表者は活動を再開するとしているが、その時期については未定であるとのことである。

c ルガ市女性のための職業訓練センター建設計画(セネガル共和国)

(a)検査報告に掲記した事態の概要

 この事業は、セネガル共和国のルガ市において、女性を対象として職業訓練を実施するため、職業訓練施設の建設及び訓練用資機材の購入を内容とするものである。在セネガル日本国大使館では、11年11月に、団体との間で贈与契約を締結し、同年12月に、資金394,106仏フラン(邦貨換算額8,670,332円)を贈与している。
 同団体は、資金の供与を受けてから3年3箇月を経た会計検査院の調査時(15年3月)においても、職業訓練施設の建設に着工していないなど事業が全く実施されておらず、供与された資金の使途などの現況については確認できていない状況となっていた。

(b)現況

 本件は、同国において調査が進められており、外務省としては、同団体の代表者が同国内で司法上の厳正な処分を受けるよう適当な措置を講ずる必要があると考えており、同国政府等との協議及び捜査当局による調査結果を踏まえ、状況を総合的に判断し対応を決定する考えであるとのことである。しかし、現時点では、捜査当局から調査結果の通報を受けることができておらず、引き続き捜査当局及び司法当局の協力を強く要請しており、また、資金は供与されたままとなっているとのことである。

(イ)「平成16年度決算検査報告」に掲記した案件の現況について

a マンディラリ職業訓練センターの機材整備及び改修計画(カメルーン共和国)

(a)検査報告に掲記した事態の概要

 この事業は、カメルーン共和国のヤウンデ市において、貧困層の女性の職業訓練及び自立促進のため、裁縫器具等の機材の購入及び既存の訓練施設の改修を内容とするものである。在カメルーン日本国大使館では、14年1月に、団体との間で贈与契約を締結し、同年3月に、資金89,974ユーロ(邦貨換算額8,997,400円)を供与している。
 足踏みミシンについて、同団体では、計画では35台購入する予定だったが実際は15台しか購入していないなど、機材が計画どおり購入されておらず、援助の効果が十分発現していない状況となっていた。

(b)現況

 同団体は、18年2月末までにすべての機材を調達する旨誓約し、現時点で足踏みミシンについては計30台が納入されるなどしているが、残りの機材については海外に発注しており、納入されるのを待っている状況であるとのことである。

b トンガ女性の地位向上のための育成センター建設及び機材整備計画(カメルーン共和国)

(a)検査報告に掲記した事態の概要

 この事業は、カメルーン共和国のトンガ市において、貧困層の女性の職業訓練及び自立促進のため、訓練施設の増設及び裁縫器具等の機材の購入を内容とするものである。在カメルーン日本国大使館では、14年7月に、団体との間で贈与契約を締結し、同年9月に、資金82,328ユーロ(邦貨換算額8,891,424円)を供与している。
 訓練施設については、17年5月の会計検査院の調査時においても、内装工事を行っている途中であるなど、完成しておらず、援助の効果が十分発現していない状況となっていた。

(b)現況

 17年11月に施設が完成し、職業訓練を開始している。同年12月には、在外公館において案件現場の視察による終了時確認を行い、18年4月に被供与団体から最終報告書が提出されたとのことである。

c オコラ女性職業訓練センターの改修及び機材整備計画(カメルーン共和国)

(a)検査報告に掲記した事態の概要

 この事業は、カメルーン共和国のオコラ市において、貧困層の女性の職業訓練及び自立促進のため、訓練施設の増設及び木工器具等の機材の購入を内容とするものである。在カメルーン日本国大使館では、14年7月に、団体との間で贈与契約を締結し、同年9月に、資金83,496ユーロ(邦貨換算額9,017,568円)を供与している。
 訓練施設については、17年5月の会計検査院の調査時においても、窓枠や配電関係の工事を行っている途中であるなど完成しておらず、機材については、施設が完成していないため納入されておらず、本件資金供与による活動は行われていないため、援助の効果が発現していない状況となっていた。

(b)現況

 同団体は、17年12月末までに事業を完了する旨誓約したものの、現時点で完了していない。これまでの工事で天井用の梁、配電設備、配水管等が設置されたが、天井板の設置等がされていないとのことである。なお、被供与団体は、週1回建設中の施設内において、籐製品の製作や家畜の育成法等を指導し、また、農村に長期出張して各種養成を実施している状況であるとのことである。

d ロコトゥイヴァトゥ小学校整備計画(フィジー諸島共和国)

(a)検査報告に掲記した事態の概要

 この事業は、フィジー諸島共和国のタイレヴ県において、ロコトゥイヴァトゥ小学校の上級学年の新設に伴う学級数の増加等に対処するため、校舎1棟、教員宿舎2棟、通学に必要な橋りょうの建設等を内容とするものである。在フィジー日本国大使館では、13年2月に、団体との間で贈与契約を締結し、同年3月に、資金71,496米ドル(邦貨換算額7,507,080円)を供与している。
 資金の供与を受けてから4年を経た17年4月の会計検査院の調査時においても、教員宿舎1棟の建築はしゅん功しておらず、また、橋りょうの建設については資機材が購入されていないため着工しておらず、援助の効果が十分発現していない状況となっていた。

(b)現況

 同団体は、技術者不足と物価上昇を考慮し、当初計画していた吊り橋から沈下橋へ設計変更することとする大使館からの提案を受け入れ、同国地域開発省に詳細設計支援及び建設支援を要請している。同団体の報告によると、現在、橋りょうの詳細設計及び見積りを行っているとのことである。