内閣は、平成24年11月に、23年度の一般会計歳入歳出決算等を国会に提出する際、既に国会に提出していた21、22両年度分の債務に関する計算書に誤びゅうがあったとして、それを訂正するための正誤表を国会に提出した。この誤びゅうの原因について本院が確認したところ、各省各庁の長の取りまとめ段階の事務処理によるものではなく、支出負担行為担当官等が国庫債務負担行為に係る事務処理を行う際に必要な情報が入力されていなかったことなどに起因するものであった。
そこで、本院は、正確性、有効性等の観点から、支出負担行為担当官及び分任官の会計経理が債務に関する計算書に正しく反映され、国庫債務負担行為に係る年度末の債務額が正確に計上されているか、支出負担行為担当官及び分任官の事務処理に際して利用されているシステムが、必要な情報の入力漏れなどを防止するものとなっているかなどに着眼して検査を行った。
検査に当たっては、貴省本省、8財務局(財務支局を含む。)、9財務事務所等(注)及びシステムの設計等を行っている貴省会計センターにおいて、21年度から23年度までの国庫債務負担行為に係る年度末の債務額を対象に、一覧表に基づいて作成を求めた調書と支出負担行為担当官が各省各庁の長としての財務大臣に提出した報告書とを突合するなどして会計実地検査を行うとともに、貴省本省を通じて全府省に対して一覧表を用いた上記と同様の調査の実施を求めて、その結果を徴するなどして検査を実施した。
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
前記の調書によって把握した金額と債務に関する計算書に計上された債務額とを比較したところ、24年11月の正誤表で示された誤びゅうのほかに、21年度から23年度までの国庫債務負担行為に係る年度末の債務額において、債務額が過大に計上されていたものが112件、101億1953万余円(21年度35億9308万余円、22年度43億2607万余円、23年度22億0038万余円)、過小に計上されていたものが13件、53億4557万余円(21年度20億8933万余円、22年度17億8498万余円、23年度14億7125万余円)あった。
これらの誤びゅうについて、所管別、会計別に示すと表のとおりである。
表 所管別・会計別誤びゅう金額
所管 | 会計 | 区分 | 誤びゅう金額(千円) | ||
---|---|---|---|---|---|
平成21年度 | 22年度 | 23年度 | |||
内閣府 | 一般 | 過大 | 3,326,362 | 3,326,362 | 10 |
総務省 | 一般 | 過大 | 2 | 240,342 | 302,672 |
法務省 | 一般 | 過大 | 1,278 | 774 | 6,185 |
外務省 | 一般 | 過大 | - | 227,616 | 271,671 |
一般 | 過小 | 2,073,863 | 1,769,693 | 1,459,765 | |
財務省 | 一般 | 過大 | 62,492 | 103,233 | 153,791 |
一般 | 過小 | 15,470 | 15,289 | 10,849 | |
文部科学省 | 一般 | 過大 | - | - | 4,009 |
厚生労働省 | 一般 | 過大 | 22 | 22 | 8,923 |
農林水産省 | 一般 | 過大 | 4,922 | 6,178 | 150,480 |
経済産業省 | 一般 | 過大 | 0 | 441 | 2 |
国土交通省 | 一般 | 過大 | - | 586 | - |
環境省 | 一般 | 過大 | 175,454 | 245,718 | 245,705 |
一般会計 計 | 過大 | 3,570,536 | 4,151,276 | 1,143,453 | |
過小 | 2,089,333 | 1,784,983 | 1,470,615 | ||
法務省 | 登記 | 過大 | 1 | 430 | - |
財務省 | 財政投融資 | 過大 | 2,148 | 117,650 | 117,650 |
厚生労働省 | 労働保険 | 過大 | - | 56,717 | 187,521 |
年金 | 過大 | 20,396 | - | - | |
農林水産省 | 国有林野事業 | 過大 | - | - | 173,504 |
過小 | - | - | 607 | ||
経済産業省 | エネルギー 対策 |
過小 | - | - | 33 |
国土交通省 | 社会資本 整備事業 |
過大 | - | - | 578,250 |
自動車安全 | 過大 | - | 0 | - | |
合計 | 過大 | 3,593,082 | 4,326,076 | 2,200,380 | |
過大分 計 | 10,119,539 | ||||
過小 | 2,089,333 | 1,784,983 | 1,471,256 | ||
過小分 計 | 5,345,572 |
また、これらの誤びゅうについて、態様別に示すと次のとおりである。
60件 過大計上額 73億0974万余円
契約額の減額変更等により債務額が減少したのに、支出負担行為担当官が国庫債務負担行為に係る支出負担行為の支出外消滅の登録を行っていなかったため、システムにおいて債務額が減少しておらず、年度末の債務額が過大となっていた。
26件 過大計上額 2億9374万余円
分任官に対する支出負担行為の限度額の示達においては、国庫債務負担行為の場合、契約額に合わせて限度額示達額の変更を行わなければならないのに、これを行っていなかったり、支出負担行為担当官が契約額でなく国庫債務負担行為に係る支出負担行為の示達額を債務額として計上したりしたため、システムにおいて契約額と限度額示達額又は示達額との差額分の債務額が消滅しておらず、年度末の債務額が過大となっていた。
中国財務局岡山財務事務所(以下「岡山財務事務所」という。)は、平成21年度から5か年度間の国庫債務負担行為((事項)庁舎機械警備)として、岡山地方合同庁舎警備業務請負契約(252万円)を締結している。
この際、岡山財務事務所の分任官は、システムを通じて中国財務局の支出負担行為担当官から受けた同事項に係る限度額示達額の範囲内で国庫債務負担行為に係る支出負担行為の入力を行っている。
しかし、岡山財務事務所や示達の管理を行っている同局は、システムが限度額示達額を債務額とみなして処理する仕様であることを認識していなかったため、限度額示達額(1245万余円)を契約額(252万円)に合わせて減額する処理を行わないまま債務額を報告していた。
このため、21年度から23年度までの各年度の債務額が、上記の差額である993万余円過大に計上されていた。
21件 過大計上額 18億6502万余円
支出により債務額が消滅したのに、当該支出の際に関連付けを行わなかったため、システムにおいて債務額が消滅しておらず、年度末の債務額が過大となっていた。
関東財務局は、平成20年度から5か年度間の国庫債務負担行為((事項)事務機器借入れ等)として、財務局行政情報化LANシステム賃貸借契約(当初契約額65億1000万円)を全財務局の幹事局として締結している。この契約は、一般会計及び財政投融資特別会計が一定の割合でそれぞれ負担して支出することになっている。
そして、同局は財政投融資特別会計分の支出について、当該支出の際には関連付けを行う必要があるのに、22年4月分から12月分までの支出に関して関連付けを行っていなかったため、システムにおいてこれらに係る債務額が消滅しないままとなっていた。
このため、22、23両年度の債務額が8936万余円過大に計上されていた。
過大計上となっていたもの 5件 過大計上額 6億5102万余円
過小計上となっていたもの 13件 過小計上額 53億4557万余円
支出負担行為担当官が、国庫債務負担行為に係る支出負担行為決議を二重に登録したり、登録を行っていなかったことなどにより、システムにおける年度末の債務額が過大又は過小となっていた。
アからエまでの事態については、貴省等においても本院の検査に並行して実態の把握を進めた結果、25年5月に、21年度から23年度までの債務に関する計算書についての正誤表を国会に提出するに至っている。
前記125件の誤びゅうの内容についてみると、事務機器の借入れ、庁舎機械警備等が全件の約半数を占めていた。これは近年の公共調達の適正化の流れを受けて、従来、国庫債務負担行為を扱っていなかった官署においても物品の調達や保守に係る契約等を国庫債務負担行為により行うようになってきたことなどによると認められる。
そして、貴省においては、上記のような官署の担当者が新たにシステムの入力等の操作を行うようになってきている状況を踏まえて、国庫債務負担行為に係る支出負担行為担当官等の理解を高めたり、入力漏れを防ぐように作業手順等を見直したり、計数の正確性を確保するための検証作業を各府省において行うように手続を示したりするなどの取組を十分に行っていなかった。
上記のとおり、債務に関する計算書において誤びゅうが発生していた事態及びそれを防ぐための取組が十分に行われていない事態は適切ではなく、是正改善を図る要があると認められる。
このような事態が生じているのは、国庫債務負担行為に係るシステムの処理について一部の官署の支出負担行為担当官等の理解が十分でなかったり、国庫債務負担行為に係る債務の計数について各府省における確認が十分に行われていなかったりしていることのほか、貴省において、入力漏れ等を防ぐための作業手順等の検討や各府省に対するシステムの機能及び仕様や債務の計数の検証方法についての周知が十分でないことなどによると認められる。