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  • 国会からの検査要請事項に関する報告(検査要請)
  • 会計検査院法第30条の3の規定に基づく報告書
  • 令和元年12月

東京オリンピック・パラリンピック競技大会に向けた取組状況等に関する会計検査の結果について


第3 検査の結果に対する所見

1 検査の結果の概要

会計検査院は、大会の開催準備の進捗状況、パラリンピック経費の執行状況、30年報告の検査結果に対して執られた改善の処置の状況等について、合規性、経済性、効率性、有効性等の観点から、①大会の開催に向けた取組等の状況について、国は、大会の準備及び運営を行う主体である大会組織委員会、開催都市である東京都等とどのように相互に連携して、取組内容等の調整を図っているか、国が既にその一部を負担している経費や今後負担することとなる経費が含まれている大会経費の試算等の内容はどのようになっているか、特に、オリパラ事務局は、大会の準備、運営等に特に資すると認められる業務について、業務の内容、経費の規模等の全体像を把握し、公表しているか、大会組織委員会によるパラリンピック経費の執行、共同実施事業管理委員会によるパラリンピック経費の確認及び東京都による額の確定は適切に行われているか、新国立競技場等の大会施設の整備状況等はどのようになっているか、特に、新国立競技場の整備に係る財源の確保、大会終了後の活用方法の検討等についての進捗状況はどのようになっているか、②各府省等が実施する大会の関連施策等の状況について、各府省等が実施する大会の関連施策の実施体制及び実施状況はどのようになっているか、また、実施内容は大会の円滑な準備及び運営並びに大会終了後に残すべきレガシーの創出に資するものとなっているか、各府省等が実施する大会の関連施策以外に、東京都、都外自治体等が実施する大会の関連施策等に対する各府省等の支援状況はどのようになっているかなどに着眼して検査した。

(1) 大会の開催に向けた取組等の状況

ア 大会の開催に向けた取組体制等の状況

大会の開催に向けた取組体制をみると、大会組織委員会が主体となって大会の準備及び運営を行い、東京都は開催都市としての大会の関連施策の立案及び実行により、JOCは国内オリンピック委員会としての取組の実施により、それぞれ大会組織委員会の取組を様々な形で支援している。国は、オリパラ推進本部が行う総合調整の下、各府省等による大会の関連施策の立案及び実行により、また、JPCは国内パラリンピック委員会としての取組の実施により、東京都以外の地方公共団体等は各種取組の実施により、それぞれ開催都市契約の国内当事者の取組を様々な形で支援している(1008_2_1_1_1リンク参照)。

大会の開催に向けては、大会組織委員会、東京都、国、JOC及びJPCにおいて、平成26年1月に調整会議を設置して、大会組織委員会会長、東京都知事、文部科学大臣、オリパラ担当大臣、JOC会長及びJPC会長の6者により、大会の準備及び運営における特に重要な事項について調整を図ることとしており、また、 27年7月、オリパラ推進本部の下に全府省庁の事務次官等が構成員である大会連絡会議が設置されて、大会の開催に向けて関係機関の連携体制が執られている(1008_2_1_1_2リンク参照)。

イ 大会経費の試算等の状況
(ア) 30年報告の検査結果に対する対応等

オリパラ事務局は、30年報告の所見を受けて、30年報告において各府省等が実施する大会の関連施策として報告した14府省等の計286事業、25年度から29年度までの支出額計8011億余円について、各府省等に改めてそれぞれの所管する事業に係る政府の取組状況報告との関係、オリパラ関係予算との関係等について記入する事業シートの提出を求めるなどして、これらにより得られた結果を基にA:大会の準備、運営等に特に資する事業(8府省等、53事業、1725億円)、B:本来の行政目的のために実施する事業であり、大会や大会を通じた新しい日本の創造にも資するが、大会に直接資する金額を算出することが困難な事業(14府省等、208事業、5461億円)、C:本来の行政目的のために実施する事業であり、大会との関連性が比較的低い事業(8府省等、29事業、826億円)に分類して公表している(1008_2_1_2_1リンク参照)。

(イ) 大会経費及び大会の関連施策の経費に係る試算等の状況

ABC分類の公表以降、大会組織委員会が大会経費について30年12月21日に公表しているV3予算において、大会経費の総額は1兆3500億円と試算されており、その内訳をみると、会場関係の大会施設に係る経費として計8100億円、大会関係の大会の運営に係る経費として計5400億円となっていて、このうち、国の負担となっているのは、新国立競技場の整備に係る経費1200億円と、パラリンピック経費1200億円のうち300億円の計1500億円となっている。V2予算と比較すると、総額で増減はしていない(1008_2_1_2_2_1リンク参照)。

また、オリパラ事務局は、大会の関連施策の経費について、30年度補正予算案及び31年度当初予算案におけるオリパラ関係予算を31年1月29日に公表している。オリパラ関係予算として整理する際の要件は従来と同様に①大会の運営又は大会の開催機運の醸成や成功に直接資すること、②大会招致を前提に、新たに又は追加的に講ずる施策であること(実質的な施策の変更・追加を伴うものであり、単なる看板の掛け替えは認めない。)であるが、オリパラ事務局は、30年報告の所見等を踏まえて、25年度以降の予算額のうち、新たにオリパラ関係予算と位置付けられる事業についても改めて整理して公表している。25年度以降のオリパラ関係予算の合計額は、9府省等の計56事業に係る計2197億0200万円となっている(1008_2_1_2_2_2_1リンク参照)。

令和元年取組状況報告は、29年5月及び30年5月にそれぞれ国会に提出された政府の取組状況報告に引き続いて、過年度から継続して実施してきたこれまでの主な取組の内容に、30年度の主な取組の内容や今後の主な取組を追記するなどして取りまとめられたものである。政府の取組状況報告の内容は、ABC分類における大会の準備、運営等に特に資すると認められる業務であるかの判断基準の一つとされている(1008_2_1_2_2_2_2リンク参照)。

また、東京都が31年1月に発表した31年度の東京都予算案の概要資料においては、大会経費及び大会関連経費の額は、それぞれ6000億円、約8100億円と前年度と同額となっており、新たにその内訳の金額が公表されている(1008_2_1_2_2_3リンク参照)。

(ウ) 国が負担する大会経費や実施する大会の関連施策の経費等の公表状況

オリパラ事務局が、30年報告の所見の趣旨を踏まえて、大会の準備、運営等に特に資すると認められる業務を公表しているかについてみたところ、オリパラ事務局は、各府省等の国庫債務負担行為による経費のうち歳出予算として計上された額以外の後年度に執行が予定されているものについては、オリパラ関係予算の取りまとめ及び公表の対象としておらず、オリパラ関係予算が公表された28年度以降にオリパラ関係予算に該当するもので国庫債務負担行為として計上されていた予算計398億1430万余円のうち、警察庁及び総務省において令和2年度の支出予定額とされている国庫債務負担行為計134億0982万余円については、平成30年度補正予算案及び31年度当初予算案においてはオリパラ関係予算として公表していなかった。また、大会の準備の進捗に伴い、新たに大会組織委員会と協議して実施している業務について、令和元年取組状況報告に記載されていないものが1業務、事業費5097万余円見受けられた(1008_2_1_2_3_1リンク参照)。

さらに、JSCが大会の開催に係る事業に対して実施する助成について、文部科学省において、スポーツ振興くじの売上げによる収益を原資とした事業であることから令和元年取組状況報告に記載していないとしている事業が見受けられた(大会組織委員会に対する財政支援(26年度~30年度計23億5863万余円)、大会組織委員会以外に対する財政支援(27年度~30年度計49億1627万余円))(1008_2_1_2_3_2リンク参照)。

上記のほか、大会組織委員会が負担して実施することとされている大会運営関係の一部について、大会組織委員会と防衛省との間で各種協力の調整が行われていて、このような大会組織委員会と調整している各種協力については、その実施に当たって、実施内容を適切に公表して、国民に周知し、理解を求めていくことが望まれる(1008_2_1_2_3_3リンク参照)。

(エ) 大会組織委員会の決算等の状況

大会組織委員会が公表している正味財産増減計算書に基づくと、25年度から30年度までの経常収益は計2646億余円であり、V3予算における大会組織委員会の収入に係る試算額6000億円に占める割合は44.1%となっていて、経常費用は計1276億余円であり、V3予算における大会組織委員会の支出に係る試算額6000億円に占める割合は21.2%となっている(リンク参照)。

ウ パラリンピック経費の執行状況
(ア) パラリンピック経費の予算及び決算の状況

文部科学省は、大枠の合意に基づくパラリンピック経費の4分の1相当額を負担するために、平成29年度一般会計補正予算においてパラリンピック交付金300億円を計上して、30年3月に東京都へ同額を交付していて、東京都は、既存の基金に積み立てて自らの資金と区分経理している。パラリンピック経費における国の負担額の状況は、29年度1億8253万余円、30年度12億6083万余円と増加傾向にあるものの、30年度までで計14億4336万余円となっていて、国が既に東京都に交付しているパラリンピック交付金300億円に対する執行割合は、4.8%となっている。30年度末現在の執行割合が低調となっている理由について、大会組織委員会は、特に多額の経費が必要とされる仮設等の大会施設の整備に係る工事の多くにおいて、令和元年度からの整備が予定されているためであるとしている(1008_2_1_3_2リンク参照)。

(イ)  パラリンピック経費の確認状況

共同実施事業管理委員会は、共同実施事業に係る経費、コスト管理及び執行統制の強化等について協議して、これらに関する事情等につき確認し、必要に応じて国、東京都及び大会組織委員会に対して指摘、助言等を行うこととされている。オリンピックとパラリンピックの双方の競技・選手に関わる経費については、経費の内容等を踏まえ適切に案分されたものであることなどについてパラリンピック経費の基本的な考え方に沿って確認している(1008_2_1_3_3リンク参照)。

検査したところ、パラリンピック交付金の交付対象とされた5契約に係る平成29、30両年度のパラリンピック経費計4166万余円(うちパラリンピック交付金相当額計1041万余円)について、委託費の精算に当たり、委託業務に従事した人日数等の確認を十分に行っていなかったり、仕様書において、受託者が実施すべき業務の内容が明確に記載されていなかったりするなど、大会組織委員会の会計処理規程、契約書等に基づく適切な会計経理がなされていない事態が見受けられた。また、パラリンピック交付金の交付対象とされた2契約に係る29、30両年度のパラリンピック経費計4135万余円(うちパラリンピック交付金相当額計1033万余円)について、パラリンピック経費の基本的な考え方に照らして、オリンピック経費とパラリンピック経費の適切な案分方法について十分に検討すべきであったと認められる事態が見受けられた。パラリンピック経費に係る契約件数や金額等は、今後、令和2年に開催される大会に向けて大幅に増加していくことが見込まれることから、大会組織委員会において、これらに係る会計経理が適切になされる必要がある。国は、共同実施事業管理委員会の一員として、共同実施事業負担金のうちパラリンピック交付金を財源の一部とするパラリンピック経費について、大会組織委員会の会計処理規程、契約書等に基づく適切な会計経理が行われたものであるか、また、パラリンピック経費の基本的な考え方に沿ったものとなっているかなどの確認がより的確に行われるように働きかけていく必要がある(1008_2_1_3_3_1リンク参照)。

エ 大会施設の整備状況
(ア) 大会施設の概要等

主な大会施設は、元年7月末現在で9都道県の26市区町にわたって45か所となっており、このうち43か所の競技会場が9都道県にわたって所在しているほか、選手村と国際放送センター・メインプレスセンターが東京都内に整備されることになっている。競技会場を使用する競技大会別にみると、オリパラ共通会場は20か所、オリンピック専用会場は22か所、パラリンピック競技大会のみで使用されるものは1か所となっている。また、大会施設を整備等の内容別にみると、43か所の競技会場については、大会を契機に新規に建設するものが8か所あり、残りの35か所については、既存の競技施設をそのまま又は改修して使用したり、競技施設以外の施設等を一時的に使用したりするなどとされている。なお、大枠の合意によれば、大会準備における進行管理の強化として、東京都、大会組織委員会、国及び関係自治体の4者は、大会の準備及び運営に関する具体的な業務について、会場の状況等に即して内容を精査の上、実施に当たっては進行管理に万全を期していくこととされている(1008_2_1_4_1リンク参照)。

(イ) JSCによる新国立競技場の整備

JSCが行う新国立競技場の主な整備には、スタジアム本体及び周辺整備、設計・監理等に加えて、旧競技場の解体工事があり、その他に埋蔵文化財調査、計画用地内に所在する日本青年館・JSC本部棟移転、通信・セキュリティ関連機器整備、什器等整備、旧整備計画関係がある。新国立競技場の整備に伴う経費の執行状況についてみると、平成30年度までの契約金額計2073億余円に対して支払額は計1362億余円となっている。令和元年10月末現在のスタジアム本体等の工事を行う第 II 期業務の進捗状況を確認したところ、JSCによると、同年11月末の新国立競技場の完成に向けて、支障なく進捗しているとしており、屋根工事は同年5月に、地上工事、外装仕上工事、内装仕上工事及びフィールド工事は同年10月に完了している。また、歩行者デッキ工事及び各種検査は同年11月に完了する予定としている(1008_2_1_4_2リンク参照)。

(ウ) JSCによる国立代々木競技場の整備

国立代々木競技場は、第一体育館、第二体育館、付属棟等から成り、耐震改修工事については、第一体育館及び付属棟等は平成29年12月に、第二体育館は30年7月にそれぞれ着手している。また、機能向上工事及び老朽化対策工事については、第一体育館及び付属棟等は30年11月に、第二体育館は令和元年9月にいずれも第一体育館及び付属棟等の耐震改修工事の契約に追加する契約変更を行って着手している。そして、上記工事のしゅん工予定は、第一体育館及び付属棟等が同年11月、第二体育館が2年6月とされている。

これらの平成30年度までの契約金額は計169億4166万余円、支払額は計31億3926万余円であり、その財源は運営費交付金8424万円、施設整備費補助金4億1061万余円及び特定金額26億4440万余円となっている(1008_2_1_4_3リンク参照)。

(エ) JRAによる馬事公苑の整備

令和元年10月末現在の整備の進捗状況について確認したところ、JRAによると、第1期工事について同月に予定していた全面しゅん工は一部建物の鉄骨工事における作業の遅れにより同年12月に変更される予定であるとしていて、特別振興資金を財源として、平成30会計年度までに計177億6517万余円を支払っている(1008_2_1_4_4リンク参照)。

(オ) 東京都による大会施設の整備

開催都市である東京都が所有する大会施設は14か所となっており、このうち東京都が大会に向けた新規整備又は改修整備を行うのは11か所となっている。令和元年7月末現在、武蔵野の森総合スポーツプラザ等4施設がしゅん工している。整備費の財源をみると、その一部として国庫補助金等が充てられており、有明アリーナについては、平成29年度及び30年度に国土交通省から計9820万余円が、また、東京アクアティクスセンターについては、28年度及び30年度に文部科学省から計3923万円がそれぞれ交付されている(1008_2_1_4_5リンク参照)。

(カ) 都外自治体又は民間団体による大会施設の整備

都外自治体又は民間団体が所有する大会施設は18か所となっており、このうち大会に資する改修整備を行っているのは、都外自治体によるものが10か所、民間団体によるものが2か所の計12か所となっている。整備費の財源をみると、ほとんどの施設が都外自治体又は民間団体の単独費用で行われているが、一部に国庫補助金等が充てられていて、30年度からは、福島あづま球場等6か所においてJSCが交付するスポーツ振興くじ助成金が改修等整備に係る費用の財源の一部に充てられている(1008_2_1_4_6リンク参照)。

(キ) 大会組織委員会による大会施設の整備

大会組織委員会が整備を行うこととなっている仮設施設及びオーバーレイは、各施設によりその規模は異なるものの、全ての大会施設45か所で整備が必要となるものであり、令和元年7月末現在において、実施設計中のものが36か所、工事に着手しているものが8か所となっている。そして、大会施設45か所のうち、国から東京都を通じて大会組織委員会に交付されるパラリンピック交付金の交付対象とされる大会施設は22か所となっている(1008_2_1_4_7リンク参照)。

オ 新国立競技場の整備に係る財源確保等の状況
(ア) 事業費の上限額の監理体制と契約変更の状況

新整備計画によれば、整備コストはスタジアム本体及び周辺整備に係る工事費、設計・監理等の費用を合わせて1590億円を上限(賃金又は物価等の変動等による場合を除く。)とすることとされている。受注者であるJVは、公募の際に技術提案した事業費(建設費1489億9993万余円及び設計・監理等費39億8584万余円)を遵守することが求められていて、施工時の検討等に伴い設計内容に変更が生ずる場合には、事業費を遵守するために、変更による金額の増減に合わせて他の変更可能な内容を検討し、JSCは、JVから変更理由、変更概算額等について説明を受けて、要求水準等に影響がないこと及び適切に事業費が遵守されていることを日々事業者と行う定例会議において確認するとともに、必要に応じて外部有識者で構成するアドバイザリー会議に報告して確認を受けることとなっている。また、変更内容を契約に適切に反映するために、定期的に変更契約を締結している(1008_2_1_5_2リンク参照)。

第 II 期業務については、平成30年度末現在において計6回の変更契約が締結されている。それぞれの変更契約においては、施工段階の検討等により設計内容が見直されて、使用者の利便性や施設の安全性等の面から必要と判断された設備等の施工内容が増える一方で、要求水準や安全性等に影響を及ぼさないと判断された塗装や仕上材の見直しによる施工費用の縮減により、29年度まではいずれの変更契約も契約金額の変更がないものとなっている。 30年度末現在における契約金額は、急激な労務費等の上昇に対応するなどの変更契約により、当初契約金額から14億1732万余円増加して1519億1181万余円となっている(1008_2_1_5_2_1リンク参照)。

(イ) 整備費用に係る分担決定の状況

財源スキームに基づく国、東京都等の分担内容は、スタジアム本体・周辺整備に係る工事及び設計・監理等に要する支出見込額計1590億円と旧競技場の解体工事に係る支出額又は支出見込額計55億円の合計1645億円から、JSCが実施して負担する上下水道工事に要する支出見込額27億円及びJSCが実施して東京都に引き渡して東京都が負担する道路上空連結デッキ整備に要する支出見込額37億円を除く1581億円を分担対象経費として、国は2分の1相当額である791億円を負担し、東京都は4分の1相当額である395億円を負担して、残りの395億円については、JSCが実施するスポーツ振興くじの売上金額の一部を財源として充てることとなっている(1008_2_1_5_3リンク参照)。

財源スキームに基づく東京都の負担見込額395億円については、JSCは、30年報告の「JSCは、新国立競技場の整備等の業務に係る確実な財源の確保等のために、財源スキームに基づく東京都の負担見込額395億円について東京都と協議を進めて、速やかに特定業務勘定への入金時期等を明確にするなどしていくこと」との所見も踏まえて、東京都と協議を進めて、31年1月に、JSCと東京都の費用負担額及び負担の方法に関する基本協定書を締結して、令和元年度から3年度までに395億円を負担するとされ、別途、平成31年4月にJSCが東京都と締結した31年度の年度協定書によれば、同年度に東京都が負担する額は、大会終了後に整備するとされた地表公園の整備費用を除いた394億余円を上限とすることとされた(1008_2_1_5_3_1リンク参照)。

財源スキームにおける経費の見込額計1645億円に対する30年度末現在の契約金額、支払額の状況を確認したところ、契約金額の合計額については上下水道工事等に係る契約の増額により計1664億余円となっており、これに対する支払額は計1087億余円となっている(1008_2_1_5_3_2リンク参照)。

(ウ) 文部科学省及びJSCによる財源確保の状況

25年度から30年度までのJSCの特定業務勘定の決算の状況を確認したところ、収入は計2074億余円となっていて、このうち運営費交付金の221億余円及び政府出資金の295億余円の計517億余円が文部科学省から交付されたものとなっており、特定金額は計478億余円となっている。そして、支出は計1971億余円となっていて、このうち新国立競技場の整備に係る支出額は計1364億余円(うち運営費交付金209億余円、政府出資金295億余円)、国立代々木競技場の耐震改修等工事に係る支出額は27億余円、NTCの拡充整備のための用地取得等に係る支出額は46億余円となっている(1008_2_1_5_4リンク参照)。

上記のうち特定金額については、28、29両年度は100億円を上回っていたが、スポーツ振興くじの売上金額が29年度の1080億余円から30年度は948億余円と減少したことから、30年度の特定金額は94億余円と100億円を下回っている。JSCが示した元年10月末現在における特定業務勘定の収支の見通しによると、30年報告で報告した長期借入金311億円のほか、平成31年3月に借り入れた256億8000万円、また、令和元年12月及び2年7月に借り入れる予定としている計212億2000万円の長期借入金の返済期間は12年度までと長期にわたるものとなっている。財源スキーム上の分担対象経費の半分以上は特定金額による負担に依存する形となっていて、上記収支の見通しは、3年度以降、特定金額として110億円の収入が回復すると仮定したものである(1008_2_1_5_4_1リンク参照)。

(エ) 大会終了後の運営管理、活用方法等の検討状況

基本的考え方に沿った新国立競技場の民間事業化等に向けた検討について、JSCは、平成29年度以降、各種検討業務を委託により実施している。JSCは、30年報告の「早期に新国立競技場の大会終了後の活用に係る国及びJSCの財政負担を明らかにするために、JSCは、大会終了後の改修について文部科学省、関係機関等と協議を行うなどして速やかにその内容を検討して、的確な民間意向調査、財務シミュレーション等を行うこと、また、文部科学省は、その内容に基づき民間事業化に向けた事業スキームの検討を基本的考え方に沿って遅滞なく進めること」との所見も踏まえて、民間事業化の事業スキーム構築に向けて、民間事業者からのヒアリングを行うなどして民間事業化の導入可能性の評価をしたり、コンセッション事業を行う場合の事業期間、費用負担、事業範囲等を示した実施方針素案等を作成したりするアドバイザリー業務を30年度末までに実施するとともに、大会後の新国立競技場について、どのような改修整備ができるかを技術的及び法令的に検証する業務(令和元年10月末現在において業務期間は同月末までとされている。)を実施している。新国立競技場の完成後は、施設の規模に相応の維持管理費(点検・清掃費用等の保全コスト、修繕コスト及び電気・ガス・上下水道に要するコスト)が毎年度必要となる。しかし、同月末現在では、大会終了後の改修について、その内容や財源等は決まっていない。また、新国立競技場の完成後のJSCが負担する維持管理費については、新国立競技場の運営収入で負担しきれない場合、新たな国の負担が生ずる可能性がある。これらのことから、JSCは引き続き文部科学省、関係機関等と協議するなどして速やかに大会終了後の新国立競技場の改修に関する内容の検討を行ったり、民間の投資意向等と国及びJSCの財政負担等を総合的に勘案しつつ財務シミュレーション等を行ったりする必要がある。そして、文部科学省は、その内容を基に民間事業化に向けた事業スキームの検討を基本的考え方に沿って遅滞なく進める必要がある(1008_2_1_5_5リンク参照)。

(2) 大会の関連施策の全体状況等

ア 政府の取組状況報告

令和元年取組状況報告に記載された15分野71施策の取組内容に該当する事業と当該事業の平成25年度から30年度までの支出額について、各府省等に調書の提出を求めて集計したところ、14府省等において「大会の円滑な準備及び運営」に資する8分野の45施策に係る179事業、「大会を通じた新しい日本の創造」に資する7分野の26施策に係る159事業及び両方にまたがる取組内容であり、区分が困難な2事業の計340事業が実施されていて、それらに係る支出額は計1兆0600億余円となっている(1008_2_2_1_1リンク参照)。

イ オリパラ関係予算の執行状況

オリパラ関係予算の25年度から30年度までの執行状況について、各府省等に対して調書の提出を求めて集計したところ、25年度から30年度までにオリパラ関係予算として整理された48事業に係るオリパラ事務局への登録額1875億円に対して、支出額は1756億余円となっている(1008_2_2_1_2リンク参照)。

ウ 政府の取組状況報告に記載された取組以外の国等による支援状況

国及びJSC等の独立行政法人は、政府の取組状況報告に記載された事業以外にも、大会組織委員会が行う大会の準備及び運営や、地方公共団体が自ら取り組むべき事業を設定して実施している大会の関連施策等に対して支援を行っている。

そこで、会計実地検査等で確認した内容について分析を行ったほか、各地方公共団体に調書の提出を求めるなどしてその内容を分析した。その結果、①国による東京都に対する支援として、29、30両年度に国庫補助金等による財政支援が計93億7083万余円、②国による東京都内の大会施設が所在する市及び特別区に対する支援として、28年度から30年度までに国庫補助金等による財政支援が計14億8411万余円、③国による都外自治体に対する支援として、28年度から30年度までに国庫補助金等による財政支援が計107億0587万余円、④国による自転車競技(ロードレース)コース上に所在する1県及び4都県の15市町村に対する支援として、28年度から30年度までに国庫補助金等による財政支援が計3364万余円、⑤JSC等の独立行政法人による大会組織委員会、東京都、その他の地方公共団体又は民間団体に対する支援として、地方公共団体又はスポーツ団体が行うスポーツ振興に係る事業に対してJSCが助成する前記のスポーツ振興くじ助成の一つの事業であるオリパラ開催助成による大会組織委員会に対する財政支援(26年度~30年度計23億5863万余円)及び大会組織委員会以外に対する財政支援(27年度~30年度計49億1627万余円)のほか、28年度から30年度までに助成金等が計15億7077万円となっている(1008_2_2_1_3リンク参照)。

エ その他の大会に関する主な支援

大会に関しては、国等による関連施策の実施や財政支援が行われているもの以外にも、大会の準備及び運営の主体である大会組織委員会に対して国による職員の派遣が行われている。また、聖火リレーの実施やビレッジプラザの建築に必要な木材の提供のように国等からの財政的な支援以外の方法により捻出した資金の活用や地方公共団体による協力等の様々な形の支援が行われているものがある(1008_2_2_1_4リンク参照)。

(3) 大会の関連施策等に係る省庁間等の連携による取組の状況

大会の関連施策の実施に当たっては、「セキュリティの万全と安全安心の確保」に係るものにおいては「セキュリティ幹事会」、「アスリート、観客等の円滑な輸送及び外国人受入れのための対策」に係るものにおいては「輸送会議」等、必要に応じて分野別の連絡会議等を設置して取組の内容についての連絡調整等を行っている(1008_2_2_2リンク参照)。

(4) 「大会の円滑な準備及び運営」に資する大会の関連施策の状況

ア 「セキュリティの万全と安全安心の確保」に係る大会の関連施策の実施状況

NISCが、サイバーセキュリティ戦略等に基づき、平常時の予防的措置として、重要サービス事業者等を対象として実施している リスク評価の30年度までの実施状況についてみると、第1回(28年度)から第3回(30年度)までの各回における実施依頼事業者数に対する回答事業者数の割合である回答率は、72.6%から86.7%までとなっている。そして、リスク対応には時間を要するものがあるものの、第3回のリスク評価結果の取りまとめ時点(30年11月)において、第2回で対応が必要なリスクを特定した25事業者のうち、リスク対応を完了したのは2事業者にとどまっているなど、各重要サービス事業者等においてリスク対応が実施されるよう、大会の開催に向けて更なる取組が必要と認められた(1008_2_2_3_1_1リンク参照)。

厚生労働省は、大会に合わせて感染症発生リスクが増加することが懸念されることから、地方公共団体ごとに適切に感染症のリスク評価を実施し、その結果に基づき必要な準備を行うよう手順書を策定している。30年5月末現在におけるホストタウンの事前キャンプ地としての外国選手団の受入れが決定している59地方公共団体について、30年度末現在における感染症のリスク評価の実施状況を確認したところ、感染症のリスク評価を実施していない地方公共団体が24地方公共団体(59地方公共団体の40.6%)見受けられた。また、感染症のリスク評価を実施した35地方公共団体のうち21地方公共団体がステップ2のリスク評価を実施した結果、リスクが増加すると判断していたものの、このうち7地方公共団体(同11.8%)が当該増加するリスクに対する対策の策定であるステップ3の強化サーベイランスのプランニングを含む対策の策定を実施しておらず、感染症のリスクを適切に評価して、事前にサーベイランス体制の整備等を行うなど必要な準備に一層努めるよう、大会の開催に向けて更なる取組が必要と認められた(1008_2_2_3_1_2リンク参照)。

イ 「アスリート、観客等の円滑な輸送及び外国人受入れのための対策」に係る大会の関連施策の実施状況

法務省は、19年度に、日本人等の出入(帰)国手続について、指紋認証ゲートを40台導入して、26年度に30台増設している。その後、法務省は、顔認証技術の確立に伴い、指紋の認証が必要なく、旅券を取得する際の顔写真を活用することで事前登録手続を不要とすることができる顔認証ゲートを、29年度から順次設置・運用しており、令和元年7月末現在で計137台が設置されている。顔認証ゲートの設置が開始された平成29年から令和元年7月までの顔認証ゲートと指紋認証ゲートそれぞれの日本人出帰国者数に対する利用者数の割合について確認したところ、顔認証ゲートについては、増設に伴い18.5%から76.0%に増加している一方、指紋認証ゲートについては、8.6%から3.7%に低下していて、平成31年及び令和元年中における両ゲートの日本人出帰国者数及び利用者数に基づき1台当たりの月間利用人数を算出したところ、顔認証ゲートが16,890人/台となるのに対して、指紋認証ゲートは1,521人/台となっていた。大会の開催に伴う出入国管理については、審査における厳格さを維持しつつ円滑に行う必要があることから、より効率的な出入国審査を追求するために、指紋認証ゲートの需要等に見合った設置台数の見直しを行うなど大会の開催に向けて更なる取組が必要と認められた(1008_2_2_3_2リンク参照)。

ウ 「暑さ対策・環境問題への配慮」に係る大会の関連施策の実施状況

環境省は、平成30年7月に3R推進業務により調査・検討等を行って、中高生を対象とした「持続可能性活動サポートボランティア」を若手の3R推進マイスターとして育成する「2020年大会を契機とした3R人材育成プログラム(研修プログラム)案」を取りまとめて大会組織委員会に提出している。しかし、大会組織委員会から、同年12月に、「持続可能性活動サポートボランティア」を大会へ参加させることについて、夏の暑さを理由に困難になったとの連絡があったため、上記のプログラム案は、当初予定していた「持続可能性活動サポートボランティア」の若手の3R推進マイスターとしての育成には使用されないことなどから、環境省は、同年度にオリパラ関係予算500万円を計上して3R促進業務の中で発注する予定であった3R人材育成プログラムの運用状況を評価する業務等の実施を取りやめている(1008_2_2_3_3_1リンク参照)。

経済産業省は、25年度から、「燃料電池自動車の普及促進に向けた水素ステーション整備事業費補助金」により、事業主体に対して商用ステーション等の導入に要する経費等の一部を補助している。 30年報告においては、商用ステーションについて、28、29両年度共に6割を超える設備において計画充塡量に対する充塡量の実績の割合が25%未満となっていて、このように設備の稼働が低調なのは、各地域におけるFCVの普及台数が計画時に想定した普及台数に満たないことなどによること、及び利用者から土日祝日が休業日となっているなどの利便性の面での課題が指摘されている商用ステーションもあり、利便性を向上させるためには商用ステーションにおける運営方法等に係る課題を改善する必要があることを報告した。30年報告後の商用ステーションの整備状況について確認したところ、30年度末現在における年間水素充塡量を計画値として設定している75設備の同年度の充塡量の実績をみると、8割を超える設備において計画充塡量に対する充塡量の実績の割合が25%未満となっていた一方、商用ステーションにおける運営方法等に係る課題については、経済産業省は、商用ステーションの利便性の向上を図るために、令和元年度から商用ステーションの運営に係る補助金について、平日よりも土日の営業に係る金額を割り増すように変更を行うことにより、利用者からの要望の多かった土日営業を事業主体に促すなどしている(1008_2_2_3_3_2_1リンク参照)。

環境省は、平成27年度から、再エネ水素ステーションを設置する事業に要する経費に充てるために、二酸化炭素排出抑制対策事業費等補助金を交付しており、 30年報告においては、28、29両年度共に二酸化炭素排出削減量の目標値に対する実績の割合が50%未満にとどまっている設備が大半を占めていて、環境省において、今後、再エネ水素ステーションが十分に利用されることにより本補助事業の目的である二酸化炭素排出抑制が達成されるよう、事業主体等に対して指導等を行う必要があることを報告した。30年報告後の再エネ水素ステーションの設置状況について確認したところ、運用開始箇所数は、 30年度末現在において27か所であり、二酸化炭素削減量の実績についてみると、半数以上の再エネ水素ステーションにおいて目標値を達成していない状況となっていて、水素需要の喚起や普及啓発及び社会受容性の向上に資するよう、大会の開催に向けて更なる取組が必要と認められた(1008_2_2_3_3_2_2リンク参照)。

エ 「メダル獲得へ向けた競技力の強化」に係る大会の関連施策の実施状況

JSCが、競技団体が行う国際競技力の向上を目指して計画的かつ継続的に実施する選手強化活動に対する支援等として実施している競技力向上事業のうち、JSCから各競技団体への競技力助成金の配分に当たっては、各競技団体の強化活動の取組についての評価を反映するなどして行ってきている。一方、近年、競技団体におけるコンプライアンス違反事案が相次いでおり、競技団体自らの積極的な組織改善を図る取組、個人のコンプライアンス意識の醸成、モラル啓発等の取組及び計画的な選手育成を行うことが必要となっている。そこで、各競技団体のオリンピック強化指定選手に対するインテグリティ教育の実施状況や、各競技団体が明確な責任者を設置して計画的な選手・指導者等の育成の取組を実施しているかなどのガバナンス体制について、JOCが各競技団体を調査等している内容を分析するなどして、各競技団体の取組状況についてみたところ、オリンピック強化指定選手の中でインテグリティ教育プログラムを受講した選手の割合が50%未満となっている団体が見受けられたり、選手の教育・育成が計画的に行われていなかったりしているなどのガバナンスに課題がある団体が見受けられた。なお、JSCは、令和元年度から、競技力向上事業の実施に当たり、新たなインテグリティ教育プログラムの活用状況、競技団体における選手・指導者の教育・育成計画の策定・実行状況及び責任者の明確化についての評価を新たに行うなどの見直しを実施している(1008_2_2_3_4_1_1リンク参照)。

文部科学省は、我が国の国際競技力を強化していくために、競技用具の機能を向上させる技術等の研究開発等をJSC等に委託して実施している。 30年報告においては、同省は、研究開発の評価結果を研究開発の計画等に適切に反映するという循環過程を構築するために、本委託事業の評価において、終了時の外部評価等の導入を検討する必要があることを報告した。30年報告後の研究開発の状況について確認したところ、受託者であるJSCにおいて、外部の専門家から構成される評価委員会による事後評価を実施していた(1008_2_2_3_4_1_2リンク参照)。

文部科学省は、NTC(中核拠点)のみでは対応できない冬季競技や、屋外系競技等について、既存のトレーニング施設を競技別NTCに指定して、ナショナルトレーニングセンター競技別強化拠点施設活用事業を施設の設置者等に委託している。30年報告においては、1施設において、委託事業完了後に国から無償貸付を受けた機器が活用されていない事態が見受けられたことを報告した。30年報告後の機器の活用状況について確認したところ、同機器が同施設に保有されている事実が競技団体に対して周知され、同機器は平成30年度中に行われた競技団体の強化合宿において活用されていた(1008_2_2_3_4_2リンク参照)。

オ 「アンチ・ドーピング対策の体制整備」に係る大会の関連施策の実施状況

文部科学省は、ドーピング防止活動推進事業として、毎年度、JADA等と委託契約を締結して、競技者等への研修、DCOの人材育成、ドーピング検査技術の研究開発等を実施している。 30年報告においては、大会に必要なDCOの人数を確保して、大会の円滑な準備及び運営に資するよう、引き続きDCOの養成に取り組んでいく必要があることを報告した。30年報告後のDCOの状況について確認したところ、DCOの認定を受けている者の人数について、25年度から30年度までの推移をみると、30年度においては、約360名が応募し、104名が新規に認定を受けており、DCOの認定者数は361名に増加している。そして、JADAによると、大会に必要なDCOの人数については、これまで養成した国内のDCOに加えて、海外から受け入れるDCO等により確保することとしており、令和元年度は、DCOの新規の養成は行わず、DCOの質の向上を図る研修の継続やDCOの業務範囲の一部を補完する人材の育成等により、ドーピング検査体制の強化を図ることとしている(1008_2_2_3_5リンク参照)。

カ 「教育・国際貢献等によるオリンピック・パラリンピックムーブメントの普及、ボランティア等の機運醸成」に係る大会の関連施策の実施状況

文部科学省は、各道府県や政令指定都市等と委託契約を締結してオリパラ教育を実施する推進校を選定して、全国の学校でオリパラ教育を実施することにより、全国的な大会の機運醸成を図るオリパラ全国展開事業を平成27年度から実施している。 30年報告においては、都外自治体ではオリパラ教育が実施されているものの、都外自治体以外の19地方公共団体ではオリパラ教育を全く実施しておらず、全国でみると実施していない地方公共団体が一定程度ある状況となっていることを報告した。30年報告後の19地方公共団体におけるオリパラ教育の実施状況について確認したところ、19地方公共団体全てが30年度中にオリパラ教育を実施しており、このうちオリパラ全国展開事業によりオリパラ教育を実施しているのは9地方公共団体となっていた(1008_2_2_3_7リンク参照)。

キ その他の大会の円滑な準備及び運営に資する大会の関連施策の実施状況

厚生労働省は、大会の開催に向けて、競技施設の建設やインフラの整備等による人手不足により現場の作業に習熟した労働者等の不足も懸念される状況にあるとして、28年度から30年度までの間、労働災害防止対策事業を建災防に委託して実施している(28年度から30年度までの契約金額計1億4444万余円)。このうち外国人安全衛生教育の対象者数に対する委託契約の実績の回数及び人数の状況をみると、29年度における外国人建設就労者に対する安全衛生教育については、仕様書の18回に対して6回(33.3%)、同720人に対して97人(13.4%)となっている。厚生労働省は、28、29両年度の外国人安全衛生教育の実績等を踏まえて、30年度の委託契約における回数及び対象者数を見直し、外国人建設就労者に対する安全衛生教育については回数12回、対象者数120人としており、実績については仕様書に示された回数及び対象者数を上回る14回、147人となっている。実績の人数については、28年度と比較して3倍程度に増加しており、また、外国人建設就労者受入人数についても28年度から30年度にかけて1,480人から4,796人と2年間で3倍程度に増加している。そして、厚生労働省は、外国人建設就労者等に対する研修会の実施による外国人安全衛生教育を30年度に終了して、新たに視聴覚教材を同年度に建災防に委託して作成しており、新たに作成した視聴覚教材による外国人建設就労者に対する安全衛生教育が効果的に行われるよう、大会の開催に向けて更なる取組が必要と認められた(1008_2_2_3_8リンク参照)。

(5) 「大会を通じた新しい日本の創造」に資する大会の関連施策の状況

今回の検査においては、令和2年の大会の開催を控えて、特に「大会の円滑な準備及び運営」に資する大会の関連施策に重点を置くこととし、「大会を通じた新しい日本の創造」に資する大会の関連施策の状況については、フォローアップ検査を実施した(1008_2_2_4リンク参照)。

ア 「被災地の復興・地域活性化」に係る大会の関連施策の実施状況

オリパラ事務局は、住民等と大会等に参加するために来日する選手等、大会参加国・地域の関係者及び日本人オリンピアン・パラリンピアンとの交流を行うものであって、スポーツの振興、教育文化の向上及び共生社会の実現を図る取組を行う地方公共団体をホストタウンとして登録する事業を平成28年1月から行っている。登録団体は、交流計画の実施に要する経費のうち登録団体が負担する額の2分の1について、特別交付税の地方財政措置を受けることができることとなっている。30年報告においては、年度事業調に記載されている登録団体の事業のうち、28年度については43団体の80事業、29年度については56団体の88事業が全く実施されていない状況となっていることを報告した。 30年報告後の交流事業の実施状況について確認したところ、30年度の年度事業調を提出している300団体の1,111事業に係る30年度末現在の事業の実施状況については、91団体の135事業(事業費計1億2996万余円)が全く実施されていない状況となっていた。

特別交付税については、総務省は、必要な経費の見込額等により算定した額が実際に要した経費を著しく上回った場合に、特別交付税について控除措置を行うことができるよう、特別交付税の交付を受けた登録団体に対して実際に要した経費について報告を求めていない。また、30年度については、未実施事業等がある計116団体のうち、当該未実施事業等に係る特別交付税相当額について次年度以降に控除措置に係る資料を提出する予定としていたのは54団体(116団体の46.5%)となっていた。上記会計検査院の検査の結果を踏まえて、総務省は、令和元年10月に地方公共団体に対して、ホストタウン交流事業に係る経費について、見込額等に基づく報告額と決算額との差額等について報告を求める事務連絡を発出して、同報告の内容を基に、元年度の特別交付税の算定において控除措置を行うこととしている(1008_2_2_4_1リンク参照)。

イ 「外国人旅行者の訪日促進」に係る大会の関連施策の実施状況

国土交通省が、平成28年度から、訪日外国人旅行者数を2020年までに4000万人、2030年までに6000万人とする目標の実現に向けて、滞在時の快適性及び観光地の魅力向上等を図るために交付している3補助金により実施する補助事業メニューについては、1事業メニューを除き、事業評価を実施することとなっている。30年報告においては、28年度の3補助金に係る事業評価について、29年度末現在、事業評価の結果が交付翌年度の4月末までに国土交通本省等に提出されておらず、2か月から10か月程度提出が遅れているなどしていて、事業評価の結果を踏まえた事業内容等の改善策の検討や、交付翌年度の事業実施計画の見直しなどを行うことができていない状況となっていたことを報告した。 30年報告後の3補助金の状況について確認したところ、30年度に実施した補助事業に係る事業評価結果の国土交通本省等への提出について、交付要綱の期限である31年4月末までに完了していたのは、10地方運輸局等のうち3地方運輸局にとどまっていて、7地方運輸局等において、2か月から3か月程度提出が遅れていた(1008_2_2_4_2_1リンク参照)。

JNTOは、海外メディアの訪日取材・番組制作を支援して日本の魅力を紹介する記事の掲載等により現地における訪日意欲増進等を行う訪日プロモーション事業を実施している。 30年報告において、JNTOは、本事業の成果の管理に当たり、観光庁の「Visit Japan成果確認システム」に接続して評価を実施することとしているが、事業の評価を実施していなかったり、事業実施前に目標値を設定したのか確認できなかったりしたものが見受けられたことを報告した。30年報告後の訪日プロモーション事業の状況について確認したところ、JNTOは、31年3月に事業担当者を対象とした部内研修会を実施して、事業実施前に目標値を設定した上で事業の評価を実施する旨を周知しており、令和元年度に契約した事業においては、仕様書において目標値を設定していた(1008_2_2_4_2_2リンク参照)。

ウ 「日本文化の魅力の発信」に係る大会の関連施策の実施状況

オリパラ事務局は、我が国の文化の向上に取り組む中で、全ての人が参画できる社会に向けたレガシーの創出に寄与することを目的として、日本文化の魅力を発信する事業・活動であることなどの要件を満たす事業をbeyond2020として認証する取組を平成29年1月から行っている。30年報告においては、各地方公共団体の事業についてbeyond2020等の認証を受けた実績があるのは58地方公共団体であることなどを報告した。30年報告後の文化プログラムへの取組状況について確認したところ、30年度末現在において、認証を受けた実績があるのは62地方公共団体となっており、文化プログラムに取り組んでいる団体数が増加している状況となっている。一方、beyond2020及びロゴマークの認知度についてみると、オリパラ事務局が一般国民を対象に実施した認知度調査において、「beyond2020という文化プログラムを知っている」及び「beyond2020のロゴマークを見たことがある」と回答した回答者の割合は、28、29、30各年度のいずれの調査結果においても10%前後にとどまっており、beyond2020及びロゴマークの認知度が向上しているとは言い難い状況となっている(1008_2_2_4_3_1リンク参照)。

農林水産省は、大会を契機として日本ならではの伝統的な生活体験と農山漁村地域の人々との交流を楽しむ農泊をビジネスとして実施できる体制を持った農泊地域を令和2年までに500地域創出することを政策目標としていて、平成29年度に農山漁村振興交付金の対象事業として農泊推進対策及び農泊推進関連対策を創設している。農泊地域の創出に当たっては、両事業において、それぞれの事業目標を事業主体に設定させていて、政策目標の達成見込みを把握するためには、事業目標の達成状況を確認する必要があるとしている。 30年報告においては、農林水産省において、各事業主体の取組の進捗状況を把握するとともに、異なる地域で行われている各取組を横断的に検証するなどして、農泊地域の創出の見込みを適切に把握して、目標年度等の到来を待つことなく必要な指導等を行う必要があることを報告した。 30年度における農林水産省による指導等の状況を確認したところ、同省は、農泊推進対策で採択した地域の実態を把握して、地域協議会等の体制整備等について指導を行っているとしている。また、農泊推進関連対策で採択した地区についても、地域協議会を設立するなどして農泊推進対策を実施するように指導を行っている。しかし、30年報告において対象とした29年度に農泊推進関連対策を実施した28団体について農泊推進対策を実施できたか確認したところ、30年度末現在において、地域協議会を設立するなどして農泊推進対策が採択されたのは15団体(28団体の53.5%)となっていて、残り13団体(28団体の46.4%)は農泊推進対策が採択されていなかった。なお、上記13団体から農泊推進関連対策の計画を取り下げた1団体を除く12団体のうち5団体については、令和元年8月末現在、元年度の農泊推進対策に採択されている(1008_2_2_4_3_2リンク参照)。

2 所見

国は、平成25年9月に大会の開催都市を東京都とすることが決定されて以降、大会の準備及び運営の主体である大会組織委員会、開催都市である東京都等が実施する取組の支援を行っているところである。

大枠の合意においては、国は、東京都、大会組織委員会、関係自治体と共に、大会の準備及び運営に関する具体的な業務について、会場の状況等に即して内容を精査の上、実施に当たっては進行管理に万全を期していくとしており、これまで、関係者間の連携を図るために様々な連絡会議等が実施され、大会の準備に関する進行管理等を行ってきているところであるが、大会の開催も間近に迫り、準備も大詰めを迎えようとしている。そのうち、大会施設については、JSC及びJRAが整備等を行っている新国立競技場を始めとした競技会場のように既に整備がほぼ完了しているものもあるが、大会を支障なく実施するためには、さらに、大会組織委員会がその一部の経費にパラリンピック交付金を充てて実施する仮設整備及びオーバーレイ整備を適切に実施する必要がある。また、大会施設の維持管理や運営、レガシーの創出等の大会終了後も見据えた準備等も着実に実施していく必要がある。

ついては、オリパラ事務局、各府省等、JSC及びJRAは、大会の成功に向けて、引き続き次の点に留意するなどして、大会組織委員会、東京都、都外自治体等の関係機関と相互に緊密な連携を図って大会の準備、運営等に係る取組を適時適切に実施していく必要がある。

  • ア オリパラ事務局は、国が担う必要がある業務について国民に周知して理解を求めるために、各府省等から情報を集約して、業務の内容、経費の規模等の全体像を把握して公表することについて充実を図っていくこと
  • イ 国は、共同実施事業管理委員会の一員として、共同実施事業負担金のうちパラリンピック交付金を財源の一部とするパラリンピック経費について、大会組織委員会の会計処理規程、契約書等に基づく適切な会計経理が行われたものであるか、また、パラリンピック経費の基本的な考え方に沿ったものとなっているかなどの確認がより的確に行われるように働きかけていくこと
  • ウ JSC及びJRAは、引き続き、大会の開催に支障のないよう、所有する大会施設の仮設整備及びオーバーレイ整備を実施する大会組織委員会と十分な調整を行っていくこと
  • エ JSCは、引き続き文部科学省、関係機関等と協議するなどして速やかに大会終了後の新国立競技場の改修に関する内容の検討を行ったり、民間の投資意向等と国及びJSCの財政負担等を総合的に勘案しつつ財務シミュレーション等を行ったりすること、文部科学省は、その内容を基に民間事業化に向けた事業スキームの検討を基本的考え方に沿って遅滞なく進めること
  • オ 大会の関連施策を実施する各府省等は、大会組織委員会、東京都等と緊密に連携するなどして、その実施内容が大会の円滑な準備及び運営並びに大会終了後のレガシーの創出に資するよう努めること、特に大会の開催に向けて更なる取組が必要と認められた事業については、個々の施策の目的に沿って課題等の解消に向けて取り組むこと、オリパラ事務局は、引き続き大会の関連施策の実施状況について政府の取組状況報告等の取りまとめにより把握するとともに、各府省等と情報共有を図るなどしてオリパラ基本方針の実施を推進すること

会計検査院としては、大会が大規模かつ国家的に特に重要なスポーツの競技大会であることなどに鑑み、30年報告に続き、今回、30年報告の検査結果に対する改善状況、大会の開催に向けた取組等について分析して報告することとした。そして、令和2年には大会の開催を迎えて、国も大会組織委員会、東京都等と共に、大会の準備や運営に注力していくことになることから、引き続き、大会の開催に向けた取組等の状況及び各府省等が実施する大会の関連施策の状況について総括的な検査を実施して、その結果については、大会の終了後に取りまとめが出来次第報告することとする。