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  • 国会からの検査要請事項に関する報告(検査要請)|
  • 会計検査院法第30条の3の規定に基づく報告書|
  • 令和3年4月

高速道路に係る料金、債務の返済等の状況に関する会計検査の結果について


第1 検査の背景及び実施状況

1 検査の要請の内容

会計検査院は、令和元年6月10日、参議院から、国会法第105条の規定に基づき下記事項について会計検査を行いその結果を報告することを求める要請を受けた。これに対し同月11日検査官会議において、会計検査院法第30条の3の規定により検査を実施してその検査の結果を報告することを決定した。

一、会計検査及びその結果の報告を求める事項

(一)検査の対象

国土交通省、独立行政法人日本高速道路保有・債務返済機構、東日本高速道路株式会社、中日本高速道路株式会社、西日本高速道路株式会社、本州四国連絡高速道路株式会社、首都高速道路株式会社、阪神高速道路株式会社
 

(二)検査の内容

高速道路に係る料金、債務の返済等の状況に関する次の各事項

① 高速道路に係る料金設定及び利用の状況

② 各高速道路株式会社の経営状況

③ 高速道路に係る債務の返済状況及び独立行政法人日本高速道路保有・債務返済機構の財務の状況

④ 国による支援の状況

2 高速道路に係る料金、債務の返済等の概要

(1) 高速道路整備の経緯等

ア 有料道路制度の概要

我が国においては、道路法(昭和27年法律第180号)により、道路網の整備を図り、もって交通の発達に寄与し、公共の福祉を増進することを目的として、道路に関して、路線の指定及び認定、管理、構造、保全、費用の負担区分等に関する事項が定められている。そして、道路は、国民生活と密接に関連し、経済活動を支える基盤として不可欠の施設であることから、道路の建設及び管理は、基本的に国又は地方公共団体により公共事業として行われ、建設された道路は無料で一般の交通の用に供されている。

一方、戦後、著しく立ち後れた道路整備状況を改善し、増大する道路交通需要に対応するために、昭和27年に、旧道路整備特別措置法(昭和27年法律第169号)が制定され、国又は地方公共団体が道路を整備するに当たり、早期に整備が必要な道路事業の財源不足を補う方法として「道路整備の促進、交通の利便増進を目的とする場合に限り、借入金によって道路を整備し、完成した道路の通行者から通行料金を一定期間徴収することによって、道路の建設・管理費、借入金利息などの費用を償還する」という「償還主義」に基づく有料道路制度が導入された(以下、料金を徴収する道路を「有料道路」という。)。

イ 高速道路整備の経緯

国は、31年3月に道路整備特別措置法(昭和31年法律第7号。以下「特措法」という。)を制定し、有料道路制度の充実を図るとともに、不足している国の資金を補い民間資金を活用して道路整備の促進を図るために、同月に制定した日本道路公団法(昭和31年法律第6号)に基づき日本道路公団を設立した。また、32年には、国土開発縦貫自動車道建設法(昭和32年法律第68号。41年7月31日以降は国土開発幹線自動車道建設法)及び高速自動車国道法(昭和32年法律第79号)を制定し、あわせて、道路法を改正し、高速自動車国道(注1)について規定するなどして、その整備を促進することとした。これにより、日本道路公団は、建設大臣(平成13年1月6日以降は国土交通大臣。以下同じ。)の施行命令を受けて、有料道路としての高速自動車国道、一般国道自動車専用道路等(注2)の建設及び管理を行うこととなった。

そして、国は、昭和34年に、首都高速道路公団法(昭和34年法律第133号)に基づき首都高速道路公団を設立し、同公団は、首都圏整備法(昭和31年法律第83号)の整備計画等に基づき、有料の自動車専用道路で都市計画として決定されたもの(以下「都市高速道路」という。)の建設及び管理を行うこととなった(以下、この都市高速道路を「首都高速道路」という。)。その後、国は、37年に、阪神高速道路公団法(昭和37年法律第43号)に基づき阪神高速道路公団を設立し、同公団は、都市高速道路の建設及び管理を行うこととなった(以下、この都市高速道路を「阪神高速道路」という。)。

また、国は、44年5月に策定した新全国総合開発計画において、本州と四国の間を結ぶ3ルートを決定し、45年7月に、本州四国連絡橋公団法(昭和45年法律第81号)に基づき本州四国連絡橋公団を設立した。そして、同公団は、本州と四国を連絡する一般国道(以下「本四道路」という。)及び鉄道施設の建設及び管理を行うこととなった。

さらに、国は、62年6月に策定した第四次全国総合開発計画(いわゆる四全総)において、全国的な自動車交通網を構成する高規格幹線道路網については、高速交通サービスの全国的な普及と主要拠点間の連絡強化を目標として、地方中枢・中核都市、地域の発展の核となる地方都市及びその周辺地域等からおおむね1時間程度で利用が可能となるよう、およそ14,000㎞で形成することとした。その内訳は、高速自動車国道の予定路線47路線11,520㎞(国土開発幹線自動車道43路線11,443㎞及び高速自動車国道法に規定された予定路線4路線77㎞)、一般国道自動車専用道路2,300㎞及び本四道路180㎞となっている。

(注1)
高速自動車国道   自動車の高速交通の用に供する道路で、全国的な自動車交通網の枢要部分を構成するなどのもので、国土開発幹線自動車道の予定路線のうちから政令でその路線を指定したものと国土交通大臣が内閣の議を経て高速自動車国道として建設すべき道路として定める予定路線のうちから政令でその路線を指定したものとがある。
(注2)
自動車専用道路   道路管理者が交通の円滑を図ることなどのために必要があると認めて自動車のみの一般交通の用に供するものとして指定した道路
ウ 道路関係四公団の民営化
(ア) 経緯

日本道路公団、首都高速道路公団、阪神高速道路公団及び本州四国連絡橋公団(以下、これらを総称して「道路関係四公団」という。)は、債務の累増と当該債務に係る金利負担に伴って、国から年間約3000億円の利子補給及び出資を受けるなど、多くの国民負担により事業を実施していた。その後、平成12年12月に、行政の組織・制度の抜本的改革に向けた方針を示す行政改革大綱が閣議決定され、特殊法人等の事業が現在及び将来にわたる国民の負担等に基づいて実施されていることなどに鑑み、全ての特殊法人等の事業及び組織の全般について、内外の社会経済情勢の変化を踏まえた抜本的見直しを行うこととされた。

そのような中で、国の財政支出が多額に上っていた道路関係四公団は、13年12月に閣議決定された「特殊法人等整理合理化計画」(以下「合理化計画」という。)において、民営化を前提として廃止されることとなった。そして、15年12月の「道路関係四公団民営化の基本的枠組みについて」(平成15年12月政府・与党申し合わせ。以下「民営化申合せ」という。)において、道路関係四公団の民営化の目的は、①約40兆円に上る高速道路の建設等に係る有利子債務を一定期間内に確実に返済し、②有料道路として整備すべき区間について、民間の経営上の判断を取り入れつつ、必要な道路を早期に、かつできるだけ少ない国民負担の下で建設するとともに、③民間のノウハウ発揮により、多様で弾力的な料金設定や多様なサービス提供等を図ることとされた。

そして、日本道路公団等民営化関係法施行法(平成16年法律第102号。以下「民営化施行法」という。)により、道路関係四公団は、17年10月の東日本高速道路株式会社(以下「東会社」という。)、中日本高速道路株式会社(以下「中会社」という。)、西日本高速道路株式会社(以下「西会社」という。)、本州四国連絡高速道路株式会社(以下「本四会社」という。)、首都高速道路株式会社(以下「首都会社」という。)及び阪神高速道路株式会社(以下「阪神会社」という。また、以下、これら六つの会社を総称して「6会社」という。)並びに独立行政法人日本高速道路保有・債務返済機構(以下「機構」という。)の成立の時において解散し、その一切の権利及び義務は、国及び出資地方公共団体(注3)が承継する資産を除き、6会社及び機構が承継することとされた。

(注3)
出資地方公共団体   首都高速道路公団、阪神高速道路公団又は本州四国連絡橋公団に出資している地方公共団体
(イ) 道路関係四公団から機構及び6会社が承継する資産及び債務

道路関係四公団から機構及び6会社が承継する資産及び債務に関する基本的な事項については、民営化施行法により国土交通大臣が策定した「日本道路公団、首都高速道路公団、阪神高速道路公団及び本州四国連絡橋公団の業務の引継ぎ並びに権利及び義務の承継に関する基本方針」(平成17年国土交通省告示第712号。以下「承継基本方針」という。)において定められた。道路関係四公団は承継基本方針を受けて、民営化に先立ち、民営化施行法の規定に基づき「業務の引継ぎ並びに権利及び義務の承継に関する実施計画書」を作成して、17年9月に国土交通大臣の認可を受けた。

そして、道路関係四公団の資産は、同計画書に基づいて機構及び6会社がそれぞれ承継することとなり、その承継区分は次のとおりとされた。

a 高速道路に係る資産及び料金徴収施設

高速道路に係る道路区域に存する建物(管理事務所建物等)、構築物(土工、トンネル、橋りょう等)、土地等の固定資産については機構が承継し、料金徴収施設である構築物、機械装置等については6会社が承継する。なお、民営化以前は道路区域としていたサービスエリア及びパーキングエリア(以下「サービスエリア等」という。)に存する資産のうち、道路管理上必要な駐車場、洗面所等に係る施設については引き続き道路区域として機構が承継し、営業用施設や園地に係る部分の土地、建物等については、6会社による自由な事業展開を可能にするために必要となる施設等として、道路区域から除外した上で、6会社が承継する。

b 庁舎等

支社等の庁舎、工事事務所、職員宿舎等については6会社が承継する。

また、道路関係四公団の債務については、承継基本方針によれば、6会社は、上記の承継区分により承継する資産に対応する債務であって、6会社の債務返済能力、経営の安定性及び収益力を勘案して6会社に承継させることが適当と認められる額等を承継することとされ、機構は、機構の業務に係る資産に対応する債務や6会社に承継させる債務以外の債務等を承継することとされた。

(ウ) 出資

民営化施行法によれば、6会社の設立に際して発行する株式の総数は、6会社ごとに道路関係四公団が引き受けることとされ、このうち日本道路公団が引き受けた東会社、中会社及び西会社(以下、これら三つの会社を合わせて「NEXCO3会社」という。)の株式の総数は国が承継することとされた。また、首都高速道路公団、阪神高速道路公団又は本州四国連絡橋公団が引き受けた首都会社、阪神会社又は本四会社の株式は、それぞれ国及び出資地方公共団体が、各公団への出資の金額の各公団の出資の総額に対する割合に応じて承継することとされた。そして、国及び出資地方公共団体が承継した株式の総数の価額に相当する金額が、国及び出資地方公共団体から6会社に対する出資金の額となっている。

また、民営化施行法により、機構が道路関係四公団の権利及び義務を承継した際に、国及び出資地方公共団体から道路関係四公団に出資されていた出資金に相当する金額から、6会社が設立の際に発行して国及び出資地方公共団体が承継した株式の総数の価額に相当する金額を減じた額が、国及び出資地方公共団体から機構に出資されたものとすることとされた(以下、国及び出資地方公共団体から機構に出資されたものとすることとされた出資金を「承継出資金」という。)。承継出資金の額並びに国及び出資地方公共団体から6会社に対する出資金の額は、図表1-1のとおり、それぞれ4兆3920億余円、3850億円となっている。

h-1-1図表1-1 承継出資金の額並びに国及び出資地方公共団体から6会社に対する出資金の額

図表1-1 承継出資金の額並びに国及び出資地方公共団体から6会社に対する出資金の額

(単位:億円)
区分 機構
6会社計 東会社 中会社 西会社 本四会社 首都会社 阪神会社
承継出資金等の額 4兆3920 3850 1050 1300 950 80 270 200
国の出資割合 76.6%   100% 100% 100% 66.6% 49.9% 49.9%
  • (注) 承継出資金は、鉄道勘定分を含む。
(エ) ファミリー企業とその子会社化の経緯資

道路関係四公団は、高速道路の維持管理業務等の大半を子会社及び関連会社(以下、道路関係四公団が行政コスト計算書において開示していた子会社及び関連会社を「ファミリー企業」という。)に発注して実施させていた。ファミリー企業については、役員の多くが道路関係四公団の出身者によって占められていたり、多額の利益剰余金を蓄積したりしているなどの批判に応えるために、「道路関係四公団の民営化について」(平成14年12月政府・与党申し合わせ)等において抜本的見直しが決定されたことから、本四会社を除く5会社は、ファミリー企業が実施していた業務のうち、管理瑕疵や企業信用に直結する業務、経験・ノウハウ・技術蓄積が必要な業務等については、直営又は子会社化することなどとした。そして、原則として、子会社への出資比率を100%とするなどして、地域ごと及び業務ごとに設立することとした。また、6会社は、一定規模の業務等で計画的に実施する修繕・改築工事等に係る契約については、一般競争入札等により発注することとして、業務等の経済性及び効率性並びに契約の透明性を確保することとした。

(2) 民営化後の事業の枠組み

ア 高速道路に係る機構と6会社との協定

機構は、道路関係四公団から承継した高速道路に係る道路資産(道路を構成する敷地又は支壁その他の物件。ただし、料金の徴収施設その他政令で定めるものを除く。以下「高速道路資産」という。)を保有し、これを6会社に貸し付けて、6会社から徴収する貸付料を原資に承継した債務(以下「承継債務」という。)等を返済するなどの業務を行うこととなった。

一方、6会社は、特措法に基づく高速道路の新設又は改築、機構から借り受けた高速道路資産に係る高速道路について特措法に基づく維持、修繕、災害復旧その他の管理等の事業を行い、通行料金を徴収することとなった。

上記について図示すると図表1-2のとおりである。

図表1-2 民営化の概要

図表1-2 民営化の概要画像

独立行政法人日本高速道路保有・債務返済機構法(平成16年法律第100号。以下「機構法」という。)によれば、機構が前記の業務を行おうとするときは、あらかじめ、6会社と全国路線網、地域路線網又は一の路線(注4)に属する高速道路ごとに、新設や改築等に係る工事の内容、工事に要する費用に係る債務(以下「新規債務」という。)で機構が6会社から引き受けるものの限度額、機構が6会社に貸し付ける高速道路資産の貸付料の額、6会社が徴収する料金の額等を定めた協定を締結しなければならないこととされている。

また、機構法及び高速道路株式会社法(平成16年法律第99号。以下「道路会社法」という。)によれば、6会社が前記の事業を営もうとするときは、あらかじめ、機構と機構法に規定する上記の協定を締結しなければならないこととされている。そして、機構が貸し付ける高速道路資産の貸付期間の満了の日は、機構法等において、6会社が徴収する料金の徴収期間の満了の日と同一でなければならないとされており、機構に帰属していた高速道路資産は、料金の徴収期間の満了の日の翌日において、道路管理者に帰属することとなり、これに係る高速道路は無料開放されることとなっている。

これらの機構と6会社とが協定を締結して実施する事業の仕組みを示すと、図表1-3のとおりである。

(注4)
一の路線   全国路線網又は地域路線網に属さない高速道路

図表1-3 協定を締結して実施する事業の仕組み

図表1-3 協定を締結して実施する事業の仕組み画像

その後、老朽化が進行している道路施設等の社会インフラの維持及び管理についての社会的要請が高まる中、26年6月に特措法等が改正され、6会社は、管理する高速道路のネットワーク機能を将来にわたって確保するなどのために、損傷、腐食その他の劣化により高速道路の構造に支障を及ぼすおそれが大きい橋りょう、トンネルその他の高速道路を構成する施設若しくは工作物の更新に係る工事又はこれと同等の効果を有すると認められる工事(以下、これらを合わせて「特定更新等工事」という。)を実施することとなり、特措法において当初平成62年(令和32年)9月30日以前とされていた料金の徴収期間の満了の日は平成77年(令和47年)9月30日以前に延長され、これに伴い、債務の返済も同日までに行うこととなった。これにより、機構と6会社が締結する協定においても、特定更新等工事に係る工事の内容等を定めることとなった。

機構法及び道路会社法に基づく協定は、平成18年3月に、機構と6会社との間で締結された(以下、これらの協定を「当初協定」という。)。そして、機構法等によれば、機構及び6会社は、おおむね5年ごとに、業務の実施状況を勘案して、協定について検討を加え、変更する必要があると認めるときなどには、相互に、その変更を申し出ることができることとされており、これまで機構と6会社との協議の上で変更されてきている(機構が18年3月から令和2年10月までの間に6会社と締結した協定の名称及び料金の徴収期間の満了の日については、別図表1参照。また、主な協定変更の内容等については、別図表2参照)。

イ 機構の目的と業務の範囲等
(ア) 機構の目的と業務の範囲

機構の目的は、機構法によれば、高速道路資産の保有及び6会社に対する貸付け、債務の早期の確実な返済等の業務を行うことにより、高速道路に係る国民負担の軽減を図るとともに、6会社による高速道路に関する事業の円滑な実施を支援することとされている。

そして、機構が行う業務の範囲は、

① 道路関係四公団から承継した高速道路資産及び民営化後に新たに建設等が完了して機構に帰属した高速道路資産を6会社へ貸し付けること

② 承継債務の返済並びに新規債務の引受け及び返済を行うこと

③ 首都高速道路又は阪神高速道路の新設又は改築に要する費用に充てる資金の一部に充てるべきものとして、国又は出資地方公共団体からの出資金を財源として、それぞれ、首都会社又は阪神会社に対して、首都高速道路又は阪神高速道路の新設又は改築に要する費用の一部について無利子で貸付けを行うこと

④ 国から交付された補助金を財源として、6会社に対して、高速道路の災害復旧に要する費用又は高速道路のうち当該高速道路と高速道路以外の道路とを連結する部分で国土交通省令で定めるものの整備に要する費用に充てる資金の一部について無利子で貸付けを行うこと

⑤ 6会社の経営努力による高速道路の新設、改築、維持、修繕その他の管理に要する費用の縮減を助長するために、必要な助成を行うこと

⑥ 6会社が高速道路の新設、改築、維持、修繕その他の管理を行う場合において、特措法及び災害対策基本法(昭和36年法律第223号)に基づき、当該高速道路についてその道路管理者の権限の代行その他の業務を行うことなどのほか、本州と四国を連絡する鉄道施設を管理して、その鉄道施設を有償で鉄道事業者に利用させることなど(以下、これらの業務を「鉄道事業」という。)を行うこと

などとされている。

(イ) 承継債務及び新規債務の返済

機構は、新規債務について、6会社が機構と連帯して当該債務を負担することとする併存的債務引受により6会社から引き受けて返済している。新規債務の額は、建設価額、建設中に要した労務費等の一般管理費、建設に充当した借入資金の利息で工事完了の日までに生じたものなどを合算した額となっている。

そして、機構法において、承継債務及び新規債務の返済の期限は法律で定めるところにより機構が解散する日とされており、6会社が高速道路を通行し又は利用する者(以下「通行者」という。)から徴収した通行料金により機構に支払われる貸付料等が返済の原資であることから、特措法において、当初は、6会社の料金の徴収期間の満了の日である平成62年(令和32年)9月30日以前とされていた。その後、アのとおり、特定更新等工事の実施に伴い特措法が改正され、上記徴収期間の満了の日が平成77年(令和47年)9月30日以前に延長されたことにより、承継債務及び新規債務の返済期限も同日までに延長された。

機構は、多額の債務を長期間にわたって返済することとなることから、順次返済期日が到来する個々の長期借入金等に係る債務の返済に当たり、6会社から徴収する高速道路資産の貸付料等の手許現金で承継債務及び新規債務の返済額を賄いきれない場合には、図表1-4のとおり、金融機関等から債務の返済のための借入れ(借換え)を行っている。

図表1-4 機構による債務の返済フロー

図表1-4 機構による債務の返済フロー画像

(ウ) 出資金

機構法によれば、機構は、自らの解散の日において、少なくとも高速道路勘定における資本金に相当する額を残余財産としなければならないこととされており、機構が解散した場合、高速道路勘定に係る残余財産を各出資者に対してその出資額に応じて分配することとされている。また、独立行政法人日本高速道路保有・債務返済機構法施行令(平成17年政令第202号)により、高速道路勘定における資本金に相当する額を現預金等の残余財産とするための積立金(以下「出資積立金」という。)の積立てに要する費用には、貸付料等を充てることとなっている。したがって、機構は、自らの解散の日までに、貸付料等により、債務の返済を行うとともに、出資積立金の積立てを行う必要がある。

(エ) 高速道路資産の貸付料

機構法によれば、機構は、6会社に対して、保有する高速道路資産を貸し付けるとともに、6会社から当該高速道路資産に係る貸付料を徴収しなければならないこととされている。また、貸付料の額の基準については、高速道路ごとに、機構が収受する当該高速道路に係る占用料その他の収入で政令で定めるものと合わせて、当該高速道路に係る機構の業務に要する費用を、その貸付期間内に償うものでなければならないこととされている。

貸付料の額については、機構が6会社と締結する協定において定められており、その額は、毎年度の計画料金収入(注5)から計画管理費(注6)を引いた額(以下「計画貸付料」という。)となっている。そして、協定において、毎年度の料金収入の金額(社会実験の補塡金等を含む。以下「実績料金収入」という。)が、計画料金収入と計画料金収入に変動率を乗じた金額(以下「変動率相当額」という。)との合計額(以下「加算基準額」という。)を超えた場合は、実績料金収入から加算基準額を減じた金額を協定に定める計画貸付料の金額に加えた金額を貸付料とすることとなっている。また、実績料金収入が、計画料金収入から変動率相当額を減じた金額(以下「減算基準額」という。)に満たない場合は、減算基準額から実績料金収入を減じた金額を計画貸付料の金額から減じた金額を貸付料とすることとなっている。

上記貸付料の算定方法を図示すると、図表1-5のとおりである。

(注5)
計画料金収入   国全体の交通需要予測に基づくなどして推計された各高速道路に係る交通量に高速道路料金を乗ずるなどして6会社が算定した毎年度の収入の額
(注6)
計画管理費   6会社の過去の管理費の実績等を基に6会社が算定した毎年度の費用の額

図表1-5 貸付料の算定方法(概念図)

図表1-5 貸付料の算定方法(概念図)画像

上記算定方法のうち、変動率については、平成18年3月の当初協定の締結に際し て、天候、経済成長率等の短期的な変動リスクを機構と会社で分担することを目 的として、全国路線網、地域路線網又は一の路線の別に次のとおり設定され、現 在まで変更されていない。

① 過去5年間(12年度から16年度まで)の計画料金収入と実績料金収入のかい離率の標準偏差を算出する。

② 計画料金収入と実績料金収入のかい離が正規分布に従うと仮定して、①で算出した標準偏差から発生確率が50%となるようなかい離率を算出する(機構と会社の負担がそれぞれ50%となる。)。

③ ②のかい離率の端数を調整して変動率として設定する。

上記により設定された協定別の変動率は、図表1-6のとおりとなっている。

h-1-6図表1-6 協定別の変動率

図表1-6 協定別の変動率

区分 名称 かい離率 変動率
全国路線網 高速自動車国道北海道縦貫自動車道函館名寄線等に関する協定 0.7% 1.0%
高速自動車国道中央自動車道富士吉田線等に関する協定 1.0%
高速自動車国道中央自動車道西宮線等に関する協定 1.0%
一般国道28号(本州四国連絡道路(神戸・鳴門ルート))等に関する協定 0.9% 1.0%
地域路線網 都道首都高速1号線等に関する協定 0.8% 1.0%
大阪府道高速大阪池田線等に関する協定 1.3% 1.0%
一の路線 一般国道158号(中部縦貫自動車道(安房峠道路))に関する協定 3.6% 4.0%
  • 注(1) 令和2年3月末現在で通行料金を徴収している協定について記載している。
  • 注(2) 本図表中の名称欄の①から⑥までと⑫は別図表1と対応している。

一方、管理費については、管理費の実績(以下「実績管理費」という。)を貸付料の額の算定の際に考慮しないこととなっている。このような仕組みとしているのは、実績管理費を計画管理費よりも縮減した場合は会社に利益をもたらし、実績管理費が計画管理費よりも増大した場合は会社の損失として負担させることにより、会社の効率的な管理に向けた努力を促す効果を期待しているためであるとされている。

また、機構は、計画管理費と実績管理費にかい離が生じた場合には、そのかい離についての要因を分析し、必要に応じて協定変更をするなど適切な対応を執ることにより、適正な貸付料の算定を図ることとなっている。

そして、機構が6会社から徴収した貸付料の実績は、図表1-7のとおり、通年度となった18年度以降は1兆4844億余円から2兆2352億余円までとなっている。

h-1-7図表1-7 機構が徴収した貸付料の実績(平成17年度~令和元年度)

図表1-7 機構が徴収した貸付料の実績(平成17年度~令和元年度)

(単位:億円)
会社名 平成
17年度
18年度 19年度 20年度 21年度 22年度 23年度 24年度
東会社 2342 5531 5587 5224 4204 4147 4006 4713
中会社 2171 4890 4896 4609 3328 3450 3584 3677
西会社 2279 5163 5158 4919 3860 4085 4158 4296
本四会社 270 607 603 564 376 385 451 480
首都会社 902 2041 2031 1925 1881 1893 1979 2015
阪神会社 681 1477 1469 1379 1193 1218 1284 1341
8649 1兆9712 1兆9746 1兆8623 1兆4844 1兆5181 1兆5466 1兆6524
会社名 25年度 26年度 27年度 28年度 29年度 30年度 令和
元年度
 
東会社 4849 6050 6283 6261 6499 6708 6675
中会社 3786 4988 5178 5177 5321 5410 5360
西会社 4476 5627 5763 5759 5952 6052 6228
本四会社 489 476 490 489 499 501 516
首都会社 2033 2039 1988 2037 2027 2092 2072
阪神会社 1381 1423 1400 1406 1532 1568 1499
1兆7017 2兆0605 2兆1105 2兆1132 2兆1833 2兆2334 2兆2352
  • (注) 平成17年度は、機構及び6会社が設立された17年10月1日から18年3月31日までの半期分を計上している。
ウ 6会社の目的と事業の範囲等

6会社の目的は、道路会社法によれば、高速道路の新設、改築、維持、修繕その他の管理を効率的に行うことなどにより、道路交通の円滑化を図り、もって国民経済の健全な発展と国民生活の向上に寄与することとされている。また、6会社の営む事業の範囲は、特措法に基づき行う高速道路の新設又は改築、機構から借り受けた高速道路資産に係る高速道路について特措法に基づき行う維持、修繕、災害復旧その他の管理(以下、これらの事業を「高速道路事業」という。)、高速道路の通行者の利便に供するための休憩所、給油所その他の施設の建設及び管理等(以下、6会社が実施する高速道路事業以外の事業を「関連事業」という。)とされている。

そして、6会社は、毎事業年度の開始前に、国土交通省令で定めるところにより、事業計画を定めて国土交通大臣の認可を受けなければならないとされている。

エ 高速道路の種類及び有料道路の区分

高速道路は、道路会社法において、高速自動車国道法に規定する高速自動車国道、道路法に規定する自動車専用道路並びにこれと同等の規格及び機能を有する道路とされている。また、高速道路には、第四次全国総合開発計画における高規格幹線道路のほかに高規格幹線道路を補完する広域的な機能を有する地域高規格道路等(注7)がある。

そして、高規格幹線道路には、NEXCO3会社又は本四会社が有料道路事業として各会社単独又は国土交通省と各会社が分担して建設し、各会社が管理して料金を徴収する有料道路と、国土交通省が同省及び地方公共団体の負担で直轄事業として整備を行い料金を徴収しない道路(以下、この整備方式を「新直轄方式」といい、新直轄方式により整備される高速自動車国道を「新直轄道路」という。)がある。

なお、有料道路は、特措法において、道路の通行又は利用について料金を徴収することができることとされており、一般的に、高速自動車国道、一般有料道路又は都市高速道路に区分されている(図表1-8参照)。

(注7)
地域高規格道路   高規格幹線道路を補完し、地域の自立発展や地域間の連携を支える「自動車専用道路、またはこれと同程度の機能を有する質の高い道路」として指定される道路で、平成4年6月の道路審議会建議「「ゆとり社会」のための道づくり-豊かな生活・活力ある地域・優しい環境をめざして-」において整備が必要とされ、第11次道路整備五箇年計画(平成5年5月28日閣議決定)においてその整備が定められた(令和元年6月1日現在で国土交通省により指定された路線は、候補路線108路線、計画路線189路線(約6,960㎞)。計画路線のうち、整備区間約3,846㎞)。

図表1-8 高速道路の種類及び有料道路の区分

図表1-8 高速道路の種類及び有料道路の区分画像

高規格幹線道路の事業化の手続は図表1-9に示すとおりとなっており、高速自動車国道については、国土開発幹線自動車道建設法等に基づき、国土開発幹線自動車道建設会議(以下「国幹会議」という。)の議を経て、国土交通大臣により、予定路線のうち建設を開始すべき路線の標準車線数、設計速度等を定める基本計画が決定され、政令で路線の指定が行われた後に当該高速自動車国道の新設に関する整備計画が決定されている。そして、一般国道自動車専用道路については、「高規格幹線道路等の事業実施に向けた手続きについて」(平成21年3月国道経第75号)等に基づき、国土交通大臣により、社会資本整備審議会(以下「社整審」という。)の議を経るなどして、一般国道路線名、区間及び概略延長、標準車線数、設計速度等を定める基本計画が決定され、予算化に係る対応方針が決定されたものについて整備計画が決定されている。また、首都高速道路及び阪神高速道路を含む地域高規格道路のうち、高規格幹線道路を補完する広域的な機能を有するものについては、高規格幹線道路に準じて、調査区間に指定する段階及び整備区間に指定する段階において、区間、設計速度等の事項について社整審の議を経ることとなっている。

そして、6会社は、高速道路事業を営もうとするときは、アのとおり、あらかじめ、機構と協定を締結しなければならないこととされており、機構と協定を締結したときは、特措法において、当該協定に基づき、国土交通大臣に申請し許可(以下「事業許可」という。)を受けて、高速道路を新設し、又は改築して、料金を徴収することができることとなっている。事業許可を受けるに当たっては、6会社は、協定その他国土交通省令で定める書類を添付して、高速道路の路線名や新設又は改築に係る工事の内容等を記載した申請書を国土交通大臣に提出しなければならないこととなっている。

図表1-9 高規格幹線道路の事業化の手続

図表1-9 高規格幹線道路の事業化の手続画像

オ 国土交通省による民営化後の業務点検

国土交通省は、民営化施行法附則第2条の規定において、民営化施行法の施行後10年以内に、施行の状況について検討を加えて、その結果に基づいて必要な措置を講ずることとされていることから、施行後約10年が経過した27年7月に、機構及び6会社のそれまでの成果・課題や今後必要な取組について、「高速道路機構・会社の業務点検」(以下「業務点検」という。)を取りまとめて公表している(別図表3参照)。業務点検は、機構及び6会社が自らの業務について点検を行うとともに、国土交通省に「高速道路機構・会社の業務点検検討会」を設置して、第三者の意見を聞くなどして実施され、これらを国土交通省が取りまとめたものである。

(3) 高速道路の料金徴収と料金の額の基準等

ア 高速道路の料金徴収

6会社は、高速道路の料金を、現金(クレジットカードを含む。)又は有料道路自動料金収受システム(Electronic Toll Collection System。以下「ETC」という。)により徴収している。このうち、ETCは、有料道路の料金所に設置された路側無線装置と車両に設置され契約情報等を記録したICカード(以下「ETCカード」という。)を挿入したETC車載器との間の無線通信により、料金徴収に必要な情報を路側無線装置に接続されたコンピュータシステム及びETCカードの双方に記録して、通行料金の支払を自動的に行い、料金所を通行すること(以下、この通行を「無線通行」といい、無線通行する車両を「ETC車」という。)ができるようにするものである。

そして、ETCは、13年3月から道路関係四公団の一部の料金所において一般通行者向けに運用が開始され、道路関係四公団(民営化後は6会社)により、順次、無線通行が可能な料金所の整備が進められてきている。

イ 料金の額の基準等

6会社が国土交通大臣の許可を受けて徴収する高速道路の料金の額については、特措法に基づき、図表1-10の区分に応じて次の基準に適合するものでなければならないこととなっている。

① 料金の額の水準が、当該道路の新設、改築、維持修繕等に要する全ての費用を料金の徴収期間内に償うものであること(償還主義)

② 料金の額は、通行者の支払能力(負担力)を加味して決定されなければならない、すなわち、通行する自動車の種類によって適切な料金比率を設定するとともに、他の公共料金、交通機関の運賃(料金)、物価水準等を考慮して決定すること(公正妥当主義)

③ 料金の額は、当該道路の通行又は利用により通常受ける利益の限度を超えないものでなければならないこと(便益主義)

そして、国土交通大臣は、償還主義を前提に、区分ごとに公正妥当主義又は便益主義に適合しているかどうかについて、6会社からの事業許可の申請の都度確認している。

h-1-10図表1-10 料金の額の基準の適合対象

図表1-10 料金の額の基準の適合対象

基準
区分
①償還主義 ②公正妥当主義 ③便益主義
全国路線網に属する高速道路
地域路線網に属する高速道路
一の路線に属する高速道路

料金の性格については、民営化申合せにおいて、高速道路等は国民共有の財産であり、料金の設定に当たっては、6会社の利潤を含めないこととされている。また、料金の水準について、ETCの活用等により、弾力的な料金を積極的に導入し、各種割引により料金の引下げを行い、特に、高速自動車国道の料金については、平均1割程度の引下げなどを行うことを民営化までに実現すべき措置とするとされた。そして、民営化後の料金についても、その料金水準をそのまま引き継ぐこととされ、その上で、貸付料の確実な支払に支障を与えない範囲において、更なる弾力的な料金設定を行うこととされた。一方、首都高速道路及び阪神高速道路については、貸付料の支払に必要となる適切な料金収入の確保を図りつつ、20年度を目標として、利用の程度に応じて負担するという考え方に基づき、利用距離に対して料金を課する対距離料金制への移行を図ることとするとされた。

(4) 機構の業務運営等

ア 中期目標、中期計画及び業務実施計画

独立行政法人通則法(平成11年法律第103号。以下「通則法」という。)等によれば、国土交通大臣は、3年以上5年以下の期間において独立行政法人が達成すべき業務運営に関する目標(以下「中期目標」という。)を定めて独立行政法人に指示するとともに、公表しなければならないこととされている。そして、独立行政法人である機構は、国土交通大臣から中期目標の指示を受けたときは、国土交通省令で定めるところにより、中期目標を達成するための計画(以下「中期計画」という。)を作成し、国土交通大臣の認可を受けなければならないこととされ、毎事業年度の開始前には、認可を受けた中期計画に基づき、その事業年度の業務運営に関する計画(年度計画)を定めて国土交通大臣に届け出るとともに、公表しなければならないこととされている。

また、機構法によれば、機構は、6会社と協定を締結したときには、当該協定の対象となる路線網等ごとに業務実施計画を作成し、国土交通大臣の認可を受けなければならないこととされている。業務実施計画には、業務実施計画の対象となる高速道路の路線名、新設、改築又は修繕に係る工事の内容、特定更新等工事の内容、新規債務の引受限度額、機構が会社に貸し付ける高速道路資産の内容並びにその貸付料の額及び貸付期間、機構の収支予算の明細等を記載するとともに、協定のほか「貸付料及び貸付期間算出の基礎を記載した書類」及び「推定交通量及びその算出の基礎を記載した書類」を添付しなければならないこととされている。

イ 債務返済計画及び6会社の収支予算の明細

上記の業務実施計画に記載することとされている機構の収支予算の明細には、平成18年度から78年度(令和48年度)までの各年度の年度当初における債務の未償還残高、各年度中に各会社から引き受ける債務の額並びに機構の収入、支出及びその収支差が記載されており、債務の返済が完了するまでの計画等が記載されている。機構は、業務実施計画ごとに収支予算の明細を作成し、これを債務返済計画としてウェブサイト等において公表している(以下、機構が作成する収支予算の明細を「債務返済計画」という。)。

また、特措法によれば、6会社は、事業許可を受けようとするときは、高速道路の路線名、新設又は改築に係る工事の内容、収支予算の明細並びに料金の額及びその徴収期間を記載した申請書を国土交通大臣に提出することとされている。6会社が申請書に記載することとされている収支予算の明細には、機構に引き渡す債務等の額が記載されていることから、各会社の収支予算の明細が変更されれば、それに対応する債務返済計画も変更されることになる。このことから、機構は、各会社の収支予算の明細は債務返済計画の一部を構成するものであるとしている。

そして、機構は、債務返済計画を15計画作成しており、令和2年3月27日付けの協定までの変更を反映した債務返済計画が元年度末時点における最新の債務返済計画(以下、全国路線網、各地域路線網及び各一の路線のそれぞれについて、元年度末時点において最新の債務返済計画を「令和元年度末債務返済計画」という。)となっている。各債務返済計画の返済完了時期をみると、図表1-11のとおり、2年10月時点において、債務の返済が完了していない債務返済計画が5計画、返済が完了した債務返済計画が6計画、対象となる高速道路が全国路線網に指定されたことに伴い全国路線網に係る債務返済計画に反映された債務返済計画が4計画となっていて、当初協定の締結から2年10月までの間に、全国路線網で27回の変更が行われるなど、各債務返済計画はいずれも変更が行われている。

h-1-11図表1-11 各債務返済計画における返済完了時期等(令和2年10月時点)

図表1-11 各債務返済計画における返済完了時期等(令和2年10月時点)

債務返済計画の対象の路線網等 返済完了時期 未完了 完了 全国路線
網に反映
変更
回数
全国路線網 令和45年度 27
(東会社の収支予算の明細) 24
(中会社の収支予算の明細) 26
(西会社の収支予算の明細) 26
(本四会社の収支予算の明細) 15
地域
路線網
首都高速道路に係る地域路線網 令和47年度 13
阪神高速道路(阪神圏)に係る地域路線網 令和44年度 11
阪神高速道路(京都圏)に係る地域路線網 -  注(1) 3
本四道路に係る地域路線網 -  注(2) 6
一の
路線
一般国道45号(三陸縦貫自動車道(鳴瀬奥松島~石巻河南)) 平成19年度 1
一般国道1号(箱根新道) 平成23年度 2
一般国道16号(八王子バイパス) 平成27年度 7
一般国道139号(西富士道路) 平成23年度 4
一般国道158号(中部縦貫自動車道(安房峠道路)) 令和19年度 8
一般国道31号(広島呉道路) -  注(3) 8
一般国道165号及び一般国道166号(南阪奈道路) -  注(4) 5
一般国道201号(八木山バイパス) 平成26年度 5
一般国道201号(八木山バイパス)(その2) 令和32年度 1
一般国道506号(那覇空港自動車道(南風原道路)) 平成20年度 2
5 6 4  
ウ 財務諸表の作成等

通則法等によれば、機構は、毎事業年度、貸借対照表、行政コスト計算書、損益計算書、純資産変動計算書、キャッシュ・フロー計算書、利益の処分又は損失の処理に関する書類及び附属明細書を作成して、毎事業年度の終了後3か月以内に国土交通大臣に申請して承認を受けて、その後遅滞なく官報に公告し、かつ、各事務所に備えておき、一般の閲覧に供しなければならないこととされている。そして、独立行政法人日本高速道路保有・債務返済機構に関する省令(平成17年国土交通省令第64号)によれば、機構の会計については、独立行政法人会計基準(平成12年2月独立行政法人会計基準研究会策定。以下「会計基準」という。)を適用することとされ、会計基準に定められていない事項については一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に従うこととされている。また、機構は、機構法に基づき、高速道路事業に係る経理と鉄道事業に係る経理とを区分し、それぞれ勘定を設けて整理することとなっている。

会社法(平成17年法律第86号)によれば、6会社は、会社計算規則(平成18年法務省令第13号)で定めるところにより、貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書及び個別注記表から成る計算書類を作成することとされている。また、金融商品取引法(昭和23年法律第25号)によれば、社債券の発行者である株式会社は、財務諸表等を記載した有価証券報告書及び半期報告書を内閣総理大臣に提出することとされている。また、道路会社法によれば、6会社は、貸借対照表、損益計算書その他の財務計算に関する諸表(以下、これらの貸借対照表等と会社法に基づく計算書類及び金融商品取引法に基づく財務諸表とを合わせて「財務諸表等」という。)を定めて、その会計を整理しなければならないこととされ、その会計の整理に当たっては、高速道路事業及びこれに附帯する事業とその他の事業とを区分しなければならないこととされている。そして、6会社は、毎事業年度の終了後3か月以内に道路会社法に規定された財務計算に関する諸表を国土交通大臣に提出しなければならないこととされている。

さらに、会社法等によれば、本四会社を除く5会社は、有価証券を発行していることなどから、各会社及びその子会社から成る企業集団の財産及び損益の状況を示すために、連結計算書類及び連結財務諸表(以下、これらを合わせて「連結財務諸表等」という。)を作成することとされている。なお、本四会社は、平成19年度から任意で連結財務諸表等を作成している。

エ 高速道路事業に関する情報開示

機構は、高速道路事業全体の透明性を高めて、機構としての説明責任を果たすために、高速道路事業に係る主要な情報等(債務返済計画、債務返済計画と実績の対比、債務の種類と各年度の推移、路線別の収支状況、6会社の連結財務諸表等)を取りまとめた「高速道路機構ファクトブック」を作成して、冊子として発行したり機構のウェブサイトに掲載したりして開示している。

また、6会社と締結した協定及び当該協定の対象となる高速道路ごとに作成した業務実施計画についても、協定の変更等の都度ウェブサイトで公表している。

(5) 国による支援等

ア 国による支援

国は、合理化計画を踏まえて、日本道路公団については、金利の急激な上昇等の経済変動が生じた場合においても過度な負担を通行者に課さないようにしつつ、適正な料金水準を維持し、円滑な償還を図るために従来投入していた国費(政府出資金及び政府補給金)を、14年度以降は投入しないなどの措置を講じた。

また、民営化申合せにおいて、合理化計画を踏まえて、機構及び6会社に対する支援措置等として、①基本的枠組みが確実に実施されるよう税制上の所要の措置を講ずること、②機構による確実な債務の返済を可能にするために、機構の資金調達に対して必要に応じて政府保証を行うことなどによる金融上の措置を講ずること及び③災害復旧への対処等のため必要に応じて財政上の措置を講ずることなどのために、関連法に所要の規定を置くこととされた。そして、機構法等において、税制上の措置、金融上の措置、財政上の措置等に関する規定が整備された。

(ア) 機構に対する支援

機構法によれば、機構は、必要があるときは、国土交通大臣の認可を受けて、その資本金を増加することができるとされており、その際には、国及び政令で定める地方公共団体は、予算で定める金額の範囲内において、機構に出資することができるとされている。また、国は、予算の範囲内において、機構が行う高速道路の災害復旧に要する費用に充てる資金の一部を無利子で貸し付ける業務及びETC車のみが通行できるスマートインターチェンジ(以下「スマートIC」という。)の整備に要する費用に充てる資金の一部を無利子で貸し付ける業務に要する経費を補助することができることとされている。

さらに、国は、国会の議決を経た金額の範囲内において、機構の長期借入金又は債券に係る債務について保証することができるなどとされている。この保証は、「法人に対する政府の財政援助の制限に関する法律」(昭和21年法律第24号)において国は会社その他の法人の債務については保証をすることができないと定められていることの特例であり、「国会の議決を経た金額の範囲内」と規定されていることを受けて、各年度の一般会計予算総則において機構が当該年度に負担する債務に対して政府保証が可能な金額の限度が定められている。

このほか、機構に対しては、本四会社の大鳴門橋の維持修繕に係る経費のうち鉄道負担分として新線調査費等補助金(本州四国連絡橋維持修繕費補助金)が、また、25年度以降、高速道路通行者負担軽減補助金が、それぞれ交付されている。

(イ) 6会社に対する支援

道路会社法によれば、6会社についても機構と同様に「法人に対する政府の財政援助の制限に関する法律」の特例として、国は、当分の間、国会の議決を経た範囲内において、高速道路事業に要する経費に充てるために、6会社の債務について保証契約をすることができることとされている。なお、6会社の債務に係る政府保証については、16年12月に財務大臣の諮問機関である財政制度等審議会の財政投融資分科会が「財政投融資改革の総点検について」において、「民営化される高速道路株式会社の経営の自主性を早期に発現させるためには、資金調達において政府保証から早期に脱却することが重要である。一方で、完全自主調達の達成に向けては、急激な自己調達の拡大は困難とみられるため、市場の評価が安定するまでの間の一定の経過期間も必要と考えられる。国土交通省からは、市場の評価が安定するまでには、最長5年程度が必要との認識が示されている」と報告している。

イ 一般会計における債務の承継等

国は、19年12月に「道路特定財源の見直しについて」(政府・与党合意)において、地域の活性化、物流の効率化等の点から、高速道路の通行料金の引下げ及びスマートICの整備を行うなど、既存高速道路の有効活用及び機能強化策を推進することなどとした。そして、20年5月に「道路整備事業に係る国の財政上の特別措置に関する法律」(昭和33年法律第34号。以下「財政特措法」という。)が改正され、国は、6会社が料金割引及びスマートICの整備を行う高速道路利便増進事業(以下「利便増進事業」という。)の実施のために必要となる貸付料の額の減額等を機構が行うこととした場合における機構の業務の確実かつ円滑な実施のために必要な財政基盤の確保を図るために、機構と6会社が共同して作成して国土交通大臣の同意を得た計画(利便増進事業に関する計画)に定められた機構の債務の一部を一般会計において承継することとした。その後、国は、世界的な原油等の価格高騰に対応するなどのために、20年8月に「安心実現のための緊急総合対策」(「安心実現のための緊急総合対策」に関する政府・与党会議、経済対策閣僚会議合同会議決定)に通行料金の効果的な引下げなどを、また、同年10月に「生活対策」(新たな経済対策に関する政府・与党会議、経済対策閣僚会議合同会議決定)に上記の対策において導入した通行料金の引下げに加えた更なる重点的な引下げなどをそれぞれ盛り込んだ。

国土交通省は、利便増進事業を実施するために必要な国の債務承継の規模について、20年8月に「「安心実現のための緊急総合対策」における高速道路料金の引下げの進め方」を示して、同年10月から約1年間の取組として約1000億円とした。さらに、21年1月に「高速道路の有効活用・機能強化の進め方について」を示して、高速道路の有効活用・機能強化を図ることとして、①上記「生活対策」のために23年3月までの取組として5000億円、②上記の約1000億円を含めて20年10月から約10年間の取組として2兆5000億円、計約3兆円とした。

そして、国は、利便増進事業のために必要となる貸付料の額の減額等を機構が行うために、21年3月に、機構が保有する債務のうち2兆8804億余円を一般会計において承継し、これにより機構は、6会社が利便増進事業の実施に必要となる貸付料の減額や6会社からの新たな債務の引受けが可能となった。その後、東日本大震災の発生により、「東日本大震災に対処するために必要な財源の確保を図るための特別措置に関する法律」(平成23年法律第42号)が施行され、機構は、24年3月に同法に基づき2500億円を国庫に納付したため、同額分について利便増進事業は縮小されることとなった(図表1-12参照)。

図表1-12 利便増進事業の仕組みの概念図

図表1-12 利便増進事業の仕組みの概念図画像

3 これまでの会計検査の実施状況

会計検査院は、機構及び6会社の経営等の状況等についてこれまでも検査を実施し、その結果を検査報告に掲記するなどしている。このうち、6会社の経営状況等に関する検査報告掲記事項等は図表1-13のとおりである(各報告における会計検査院の所見は別図表4参照)。

h-1-13図表1-13 6会社の経営状況等に関する検査報告掲記事項等

図表1-13 6会社の経営状況等に関する検査報告掲記事項等

検査報告等 件名等
会計検査院法第30条の2の規定に基づく報告(平成25年9月) 「本州四国連絡道路に係る債務の返済等の状況及び本州四国連絡高速道路株式会社の経営状況について」
平成25年度決算検査報告 「高速道路利便増進事業の実施状況等について」(特定検査対象に関する検査状況)
平成27年度決算検査報告 「東日本、中日本、西日本各高速道路株式会社のグループ経営等の状況について」(特定検査対象に関する検査状況)

4 検査の観点、着眼点、対象及び方法

(1) 検査の観点及び着眼点

会計検査院は、前記要請の高速道路に係る料金、債務の返済等の状況に関する各事項について、合規性、経済性、効率性、有効性等の観点から、次の点に着眼して検査した。

ア 高速道路に係る料金設定及び利用の状況

高速道路に係る料金の設定はどのように行われているか、また、高速道路の利用はどのような状況となっているか。社会経済情勢の変化等により行われてきた高速道路に係る料金割引は、利用の状況、料金収入等にどのような影響を与えているか。

イ 各高速道路株式会社の経営状況

6会社の経営はどのような状況となっているか。高速道路の新設、改築事業等は協定どおり進捗しているか、効率的に実施されているか、また、6会社によるコスト縮減等はどのように行われているか。

ウ 高速道路に係る債務の返済状況及び機構の財務の状況

機構による債務の返済はどのような状況となっているか。債務返済計画は計画的な債務の返済が将来にわたって可能な状況となるよう適切に作成されているか、機構の財務はどのような状況となっているか。

エ 国による支援の状況

機構及び6会社に対する国の支援はどのような状況となっているか。国の財政支援は、機構の財務基盤及び6会社の経営の安定に資するものとなっているか。

(2) 検査の対象及び方法

会計検査院は、原則として、17年度から令和元年度までの高速道路事業等の実施状況等を対象として、国土交通本省、機構本部、6会社及び東京湾横断道路株式会社の本社、13支社等(注8)及び35事務所等(注9)において、198人日を要して会計実地検査を行った。

検査に当たっては、国土交通省、機構、6会社及び東京湾横断道路株式会社から、調書及び関係資料を徴したり、担当者等から説明を聴取したりなどするとともに、公表されている資料を活用して調査・分析を行うなどした。

(注8)
13支社等   東会社の関東、新潟両支社、中会社の名古屋、八王子両支社、西会社の関西、中国、四国各支社、本四会社の神戸、鳴門両管理センター、首都会社の東京東、神奈川管理両局(神奈川管理局は令和2年7月1日に神奈川局へ名称変更)、阪神会社の神戸管理・保全部、神戸建設部
(注9)
35事務所等   東会社の宇都宮、市原、東京湾アクアライン、水戸、湯沢、新潟、長岡、上越各管理事務所、横浜、さいたま、水戸、東京外環各工事事務所、中会社の秦野、沼津、清水各工事事務所(清水工事事務所は令和2年6月30日に廃止されて、同年7月1日に沼津工事事務所へ統合)、富士、津、名古屋、羽島、彦根、桑名、八王子、大月、甲府、松本各保全・サービスセンター(津保全・サービスセンターは2年7月1日に津高速道路事務所へ名称変更)、西会社の阪奈、岡山、松江、愛媛、香川、高知各高速道路事務所、和歌山、徳島、高松各工事事務所、新名神京都事務所