【意見を表示したものの全文】
子ども・子育て支援交付金の交付対象である放課後児童健全育成事業における放課後児童クラブの長時間開所加算に係る制度設計について
(令和7年3月7日付け 内閣府特命担当大臣宛て)
標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり意見を表示する。
記
放課後児童健全育成事業は、児童福祉法(昭和22年法律第164号)、厚生労働省(注1)が定めた放課後児童健全育成事業の設備及び運営に関する基準(平成26年厚生労働省令第63号。以下「設備運営基準」という。)及び「「放課後児童健全育成事業」の実施について」(平成27年雇児発0521第8号。以下「実施要綱」という。)に基づき、小学校に就学している児童であって、その保護者が労働等により昼間家庭にいない者に、放課後等に安心して生活できる居場所を確保することなどを目的とするものである。そして、放課後児童健全育成事業については、実施要綱において事業の種類が複数定められていて、事業の種類には本件事業と同じ名称の放課後児童健全育成事業(以下「健全育成事業」という。)、放課後子ども環境整備事業等がある。
健全育成事業については、設備運営基準、実施要綱等において、次のとおりとされている。
① 実施主体は、市町村(特別区を含む。以下同じ。)等であり、市町村等は、健全育成事業を自ら運営し、又は社会福祉法人等に委託するなどして実施することができる(以下、健全育成事業を自ら運営する者及び受託するなどして実施する者を「運営主体」という。)。
② 事業の規模については、健全育成事業における支援の提供が同時に1人又は複数の児童に対して一体的に行われるものを一の支援の単位(以下、この単位を「支援単位」といい、一又は複数の支援単位で構成して健全育成事業を運営しているものを「放課後児童クラブ」という。)とする。
③ 職員体制については、放課後児童支援員(以下「支援員」という。)等の数は一の支援単位ごとに2人以上とする。
④ 健全育成事業を行う場所に係る開所時間については、原則として、小学校の授業の休業日(長期休暇等)以外の日(以下「平日」という。)は1日3時間以上とし、小学校の授業の終了時刻その他の状況等を考慮して、運営主体が健全育成事業を行う場所ごとに定める。
放課後児童クラブ運営指針(平成27年雇児発0331第34号厚生労働省雇用均等・児童家庭局長通知)等によれば、支援員等は、健全育成事業の実施に必要な運営業務として、業務の実施状況に関する日誌の作成、運営に関する会議や打合せ、保護者等との連絡調整等を行うとされており、支援員等の勤務時間については、放課後児童クラブの開所時間の前後に必要となる時間(以下「準備時間」という。)を前提として設定されることが求められるとされている(図表1参照)。
そして、放課後児童クラブの開所時間について、市町村から多くの問合せがあったことなどを踏まえ、厚生労働省は令和5年に開所時間とは児童を受け入れることができる時間であることについて、また、こども家庭庁は6年に開所時間とは利用者(児童)のニーズがある時間であることなどについて、それぞれ事務連絡を発出して周知している。しかし、これらの事務連絡においても、開所時間と準備時間の関係については、具体的に示されていない。
子ども・子育て支援交付金(以下「支援交付金」という。)は、子ども・子育て支援の着実な推進を図ることを目的として、子ども・子育て支援法(平成24年法律第65号)に基づき国が市町村に対して交付するものである。内閣府(注2)が定めた「子ども・子育て支援交付金の交付について」(平成28年府子本第474号内閣総理大臣通知。以下「交付要綱」という。)等によれば、実施要綱に定める放課後児童健全育成事業等(以下「交付金事業」という。)が支援交付金の交付対象とされている。
そして、支援交付金の交付額は、交付要綱に基づき、交付金事業の区分ごとに、算定した額の合計額を交付額とすることなどとなっている(図表2参照)。
健全育成事業に係る基準額(以下「国庫補助基準額」という。)は、一の支援単位当たりの年額、一定の開所時間を超える時間の年間平均時間数により算定される長時間開所加算額等で構成されており、これらを合算して算定することとなっている。
放課後児童クラブの開所時間は、保育所等の開所時間に比べて短く、子どもが小学校に入学すると、保護者は、これまで勤めてきた仕事を辞めざるを得ないなど、いわゆる「小1の壁」とされる事態に直面する。そして、こども家庭庁は、長時間開所加算について、「小1の壁」を解消するために、保育所等の開所時間等を踏まえ、18時以降も放課後児童クラブの開所を促すことなどを目的として設定されたものであるとしている。
交付要綱等によれば、平日分の長時間開所加算額は、開所時間が1日6時間を超え、かつ18時を超えて開所する場合の平日の年間平均時間数(注3)に、所定の単価を乗じて算定することとされている(図表3参照)。そして、こども家庭庁は、運営主体が、長時間開所加算の計上を目的として18時直近に開所するなど恣意的に開所時刻を遅く設定することが懸念されるため、開所時間が1日6時間を超える場合に長時間開所加算が計上できることとしたとしている。
図表3 健全育成事業における長時間開所加算の対象(イメージ図)
交付要綱によれば、市町村長は、事業実績報告書に精算書及び精算額調書を添えて都道府県知事に提出することとされている。
そして、精算書には、交付金事業の区分ごとの基本額等を記入することとされていて、その内訳となる精算額調書には、交付金事業の区分ごとの基準額を算出する過程で必要となる人数、日数、時間数等を記入することとされており、健全育成事業においては、放課後児童クラブの支援単位ごとに、平日に係る開所時間、長時間開所加算対象時間数等の開所状況等を記入することとされている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
健全育成事業は全都道府県において実施されており、5年5月時点における放課後児童クラブの支援単位数は約3万7000支援単位、登録児童数は約145万人となっていて、年々増加している。そして、4年度の全都道府県の国庫補助基準額は、計約1705億円と多額になっている。
そこで、本院は、有効性等の観点から、健全育成事業における放課後児童クラブの開所時間は適切に設定されているか、18時以降も開所を促すことなどを目的として設定された長時間開所加算は目的に沿った合理的な制度設計となっているかなどに着眼して検査した。
検査に当たっては、13都府県(注4)の476市町村のうち健全育成事業を実施している市町村の中から、健全育成事業に係る支援交付金(以下「交付金」という。)の交付額の規模等を考慮して86市区町を選定し、当該86市区町に対して3、4両年度に交付された交付金相当額計182億1443万余円(国庫補助基準額計574億1875万余円、交付金の交付対象となった支援単位数延べ10,949支援単位)を対象として検査した。そして、当該86市区町において、開所時間、長時間開所加算等に関する資料、事業実績報告書等を確認するとともに、当該86市区町の延べ10,949支援単位の開所時間及び長時間開所加算の状況等に関する調書の提出を受けてその内容を確認するなどの方法により会計実地検査を行った。また、こども家庭庁において、交付金の算定方法、長時間開所加算に関する要件等について確認するなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、検査の対象とした延べ10,949支援単位の放課後児童クラブの開所時刻及び閉所時刻は、それぞれの平均で12時37分、18時46分となっており、このうち、85市区町の延べ9,184支援単位(83.8%)については、平日に18時を超えて放課後児童クラブを開所している状況となっていた。そして、長時間開所加算の状況についてみたところ、延べ9,184支援単位のうち1日6時間を超えて開所していて長時間開所加算の要件を満たしているなどとして平日分の長時間開所加算を計上していた支援単位は、80市区町の延べ5,434支援単位(延べ9,184支援単位に占める割合59.1%、長時間開所加算額計19億6971万余円、交付金相当額計6億5657万余円)、開所時間が1日6時間を超えていないことなどから、18時を超えて開所していても長時間開所加算を計上していなかった支援単位は、42市の延べ3,750支援単位(同40.9%)となっていた。
上記のように、検査の対象とした支援単位の多くが平日に18時を超えて放課後児童クラブを開所している状況となっていたが、事務連絡等において、運営主体が設定する開所時間については、利用者(児童)のニーズがある時間であることなどとされていることから、下校時刻が最も早いと考えられる第1学年における支援単位ごとの平均的な授業の終了時刻(以下「授業終了時刻」という。)を考慮して設定される必要がある。
そこで、長時間開所加算を計上していた延べ5,434支援単位に係る開所時刻等についてみたところ、開所時刻の平均は11時43分となっていた一方で、授業終了時刻の平均は14時07分となっていて、図表4のとおり、ほとんどの支援単位において、授業終了時刻より前の時刻が開所時刻となっており、中には4時間以上前の時刻となっている支援単位も見受けられた。
| 授業終了時刻と開所時刻との 時間差 |
延べ支援 単位数 |
支援単位 の割合 |
|---|---|---|
| 4時間以上(a) | 523 | 9.6% |
| 3時間以上4時間未満(b) | 686 | 12.6% |
| 2時間以上3時間未満(c) | 2,522 | 46.4% |
| 1時間以上2時間未満(d) | 1,407 | 25.9% |
| 1時間未満(e) | 290 | 5.3% |
| (a)〜(e)の計 | 5,428 | 99.9% |
| 時間差なし(f) | 6 | 0.1% |
| (a)〜(f)の計 | 5,434 | 100% |
(注) (a)〜(e)は、開所時刻から授業終了時刻までの時間差である。
そして、授業終了時刻と開所時刻に差があることや開所時間と準備時間の関係について具体的に示されていないことを踏まえ、長時間開所加算を計上していた延べ5,434支援単位について、運営主体が、開所時間をどのように設定していたか確認したところ、このうち延べ5,299支援単位は、授業終了時刻より前の時刻を開所時刻としていて、開所時間に授業中で児童が放課後児童クラブを利用しない準備時間を含めて設定していた(図表5参照)。
図表5 長時間開所加算の計上における開所時間等(イメージ図)
さらに、開所時間に準備時間を含めていた延べ5,299支援単位について、授業終了時刻を開所時刻とし、授業終了時刻から閉所時刻までを児童が放課後児童クラブを利用する時間と仮定して開所時間をみたところ、図表6のとおり、延べ5,109支援単位(延べ5,299支援単位に占める割合96.4%)については開所時間が1日6時間を超えないことになり、18時を超えて放課後児童クラブを開所していても、長時間開所加算の要件を満たさない状況となっていた。
図表6 授業終了時刻を開所時刻と仮定した場合の開所時間の状況
| 授業終了時刻を開所時刻と仮 定した場合の開所時間の状況 |
延べ支援 単位数 |
支援単位 の割合 |
|---|---|---|
| 4時間未満(a) | 268 | 5.1% |
| 4時間以上5時間未満(b) | 2,387 | 45.0% |
| 5時間以上6時間以下(c) | 2,454 | 46.3% |
| (a)〜(c)の計 | 5,109 | 96.4% |
| 6時間超過(d) | 190 | 3.6% |
| (a)〜(d)の計 | 5,299 | 100% |
このように、こども家庭庁は開所時間と準備時間との関係について、都道府県及び市町村に対して具体的に示すなどしていなかったため、開所時間に準備時間を含めていたことにより、開所時間が1日6時間を超えて長時間開所加算の要件を満たすことになった支援単位がある一方で、開所時間に準備時間を含めていなかったことにより、開所時間が1日6時間を超えておらず、長時間開所加算の要件を満たさない支援単位がある状況が見受けられた。
また、長時間開所加算は、18時以降も放課後児童クラブの開所を促すことなどを目的として設定されたものであるが、18時を超えて開所していても、長時間開所加算の要件を満たさない支援単位があり、さらに、授業終了時刻の平均が前記のとおり14時07分であることなどを考慮すると、開所時間が1日6時間を超えることとされている長時間開所加算の要件を満たすためには、20時を超えて放課後児童クラブを開所している必要がある。しかし、授業終了時刻から閉所時刻までを児童が放課後児童クラブを利用する時間と仮定するなどして開所時間を算定すると、18時を超えて開所していた延べ9,184支援単位のうち延べ8,855支援単位(96.4%)は、18時を超えて開所していても開所時間が1日6時間を超えておらず長時間開所加算の対象とならない状況となっていた。また、こども家庭庁は、前記のとおり運営主体が長時間開所加算の計上を目的として18時直近に開所するなど恣意的に開所時刻を遅く設定することが懸念されるとして、開所時間が1日6時間を超えることを長時間開所加算の要件としていたが、授業終了時刻後に利用者(児童)のニーズが生ずることを考慮すると、運営主体が開所時刻を18時直近にすることは実際には想定し難く、現に、長時間開所加算を計上していなかった延べ3,750支援単位の開所時刻の平均は13時36分、最も遅いものでも16時となっていた。
(改善を必要とする事態)
開所時間に準備時間を含めていたことにより、1日6時間を超えて開所した場合の長時間開所加算の要件を満たす支援単位がある一方で、開所時間に準備時間を含めていなかったことにより、開所時間が1日6時間を超えておらず、長時間開所加算の要件を満たさない支援単位がある事態や、18時を超えて開所していてもほとんどの支援単位において児童が放課後児童クラブを利用する時間が1日6時間を超えないことから長時間開所加算の対象とならない事態は、長時間開所加算が目的に沿った合理的な制度設計となっておらず、改善の要があると認められる。
(発生原因)
このような事態が生じているのは、こども家庭庁において、都道府県及び市区町に対して、開所時間、準備時間等についての基本的な考え方を周知していないことにもよるが、現行の長時間開所加算の要件によると、18時を超えて放課後児童クラブを開所していても、ほとんどの支援単位が長時間開所加算を計上できなくなるなどの実態を把握しておらず、長時間開所加算の制度の見直しを行っていないことなどによると認められる。
長時間開所加算は、いわゆる「小1の壁」を解消するために、18時以降も放課後児童クラブの開所を促すことなどを目的として設定されたものであり、こども家庭庁において、開所時間の適切な設定に関する考え方を明確にし、長時間開所加算の目的に沿った合理的な制度設計とすることが必要である。
こども家庭庁は、これらの事態に係る本院の指摘を受けて、6年12月に事務連絡を発出し、都道府県及び市町村に対して、健全育成事業の実施に当たり必要となる開所時間、準備時間等についての基本的な考え方を明確にするとともに、その内容を周知した。
ついては、こども家庭庁において、上記に加えて、健全育成事業の実施に当たり、長時間開所加算について、その実態を把握するなどした上で、制度の在り方を検討し、目的に沿った合理的な制度設計とするよう意見を表示する。