【意見を表示したものの全文】
政府開発援助の実施状況について
標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり意見を表示する。
記
開発協力大綱(令和5年6月閣議決定)によれば、我が国は、開発途上国との対等なパートナーシップに基づき、開発途上国の開発課題や人類共通の地球規模課題の解決に共に対処し、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の下、平和で安定し、繁栄した国際社会の形成に一層積極的に貢献することなどを目的として、開発途上地域の開発を主たる目的とする政府及び政府関係機関による国際協力活動を一層戦略的、効果的かつ持続的に実施していくこととされている。そして、政府開発援助について、その他公的資金や民間資金との連携を強化し、開発のための相乗効果を高めていくこととされている。
外務省は、援助政策の企画立案や政策全体の調整等を実施するとともに、自らも、無償資金協力等を実施している。また、独立行政法人国際協力機構(以下「機構」という。)は、無償資金協力、技術協力、有償資金協力等を実施している。
このうち、無償資金協力は、開発途上地域の政府等又は国際機関に対して、返済の義務を課さないで資金を贈与することにより実施されるものである。無償資金協力は、外務省が実施する一部の無償資金協力を除き、機構が実施することとなっている。外務省が実施することとなっている無償資金協力の中には、在外公館が資金を贈与する草の根・人間の安全保障無償資金協力(以下「草の根無償」という。)等がある。草の根無償は、開発途上国で活動するNGO、地方公共団体、教育機関等の非営利団体を対象とし、事業の実施期間が贈与契約締結日から1年以内に完了することとされている比較的小規模なプロジェクト(原則1000万円以下)である。
有償資金協力は、開発途上地域の政府等又は国際機関に対して、資金供与の条件が開発途上地域にとって重い負担にならないように金利、償還期間等について緩やかな条件が付されている資金を供与することなどにより実施されるもので、機構(平成11年10月1日から20年9月30日までは国際協力銀行。11年9月30日以前は海外経済協力基金)が実施することとなっている。
機構が実施する無償資金協力、技術協力及び有償資金協力においては、独立行政法人国際協力機構法(平成14年法律第136号)等に基づき、事業実施前に事前評価を、事業完了後に第三者による事後評価をそれぞれ実施することなどとなっている。
令和6年度に外務省又は機構が実施した無償資金協力の実績は1932億6102万余円、機構が実施した有償資金協力の実績は1兆8269億7115万余円となっている。
本院は、外務省又は機構が実施する無償資金協力及び機構が実施する有償資金協力(以下、これらを合わせて「援助」という。)を対象として、合規性、経済性、効率性、有効性等の観点から次の点に着眼して検査及び調査を実施した。
① 外務省及び機構は、事前の調査、審査等において、援助の対象となる事業が、援助の相手となる国又は地域(以下「相手国」という。)の実情に適応したものであることを十分に検討しているか、また、交換公文、贈与契約等に則して援助を実施しているか、さらに、援助を実施した後に、事業全体の状況を的確に把握して、評価した上で、必要に応じて援助効果発現のために追加的な措置を執っているか。
② 相手国等において、援助の対象となった施設、機材等は当初計画したとおりに十分に利用されているか、また、事業は援助実施後においても相手国等によって順調に運営されているか、さらに、援助の対象事業が相手国等が行う他の事業と密接に関連している場合に、その関連事業の実施に当たり、事業間のずれ、重複等が生じないよう調整されているか。
本院は、8か国(注1)において平成7年度から令和5年度までに実施された無償資金協力61事業(贈与額計153億7350万余円、うち草の根無償42事業に係る贈与額計5億9393万余円)及び有償資金協力21事業(貸付実行累計額4183億5723万余円)を対象として、外務本省及び機構本部において、協力準備調査報告書等を確認し、説明を聴取するなどして会計実地検査を行うとともに、在外公館、機構の在外事務所等において、事業の実施状況について説明を聴取するなどして会計実地検査を行った。
また、外務省又は機構の職員の立会いの下に相手国等の協力が得られた範囲内で、相手国の事業実施責任者等から直接説明を受けて事業現場の状況を確認するなどして現地調査を実施し、さらに、相手国等の保有している資料等で調査上必要なものがある場合は、外務省又は機構を通じて入手した。
検査及び調査を実施したところ、次のとおり、有償資金協力2事業(貸付実行累計額838億2633万円)及び草の根無償1事業(贈与額854万余円)の目的が十分に達成されていない状況となっていて援助の効果が十分に発現していなかった。
(貸付実行累計額838億2633万円)
オモン火力発電所及びメコンデルタ送変電網建設事業(以下「1号機等建設事業」といい、1号機等建設事業により建設される火力発電設備を「1号機」という。)並びにオモン火力発電所2号機建設事業(以下「2号機建設事業」といい、2号機建設事業により建設される火力発電設備を「2号機」という。)は、メコンデルタ地域における将来の電力需要の増加に対応する発電設備の建設が急務となっていることなどを背景として、ベトナム社会主義共和国(以下「ベトナム」という。)のカントー市オモン地区において、最大出力330MWの火力発電設備2基等を建設することにより、メコンデルタ地域を主とする南部地域の電力供給体制の増強及び電力供給の安定化を図るものである。
機構は、外務省が平成13年3月から25年3月までの各期間にベトナム政府との間で取り交わした交換公文に基づき、13年3月から25年3月までの間に計863億1500万円を供与限度額とする貸付契約を締結して、本事業に必要な資金として14年度から令和2年度までの間に計838億2633万円(1号機等建設事業506億9220万円、2号機建設事業331億3413万円)を貸し付けている。
事業実施機関であるベトナム電力公社は、本事業の実施に当たり、平成17年12月に、1号機等建設事業の1号機に係る工事契約を締結し、また、24年8月に、2号機建設事業に係る工事契約を締結している。
本事業の事業計画によると、1号機及び2号機は、重油又はガスを燃料として用いる両炊きの火力発電設備とし、ガス炊きについては南部地域において開発するガス田から供給されるガスを燃料として用いることとされ、ガスの供給が受けられるようになるまでは、重油を燃料として用いることとなっていた。
また、機構は、本事業の実施に当たり作成した事前評価書に、ベトナム側が実施するガスパイプラインの建設事業の進捗が外部要因リスクである旨を記載するほか、過去の事業から得られた教訓を踏まえてガス供給を担う予定の企業等から報告を受けるなどとしていた。
検査及び調査を実施したところ、次のような状況となっていた。
1号機は21年7月に、2号機は27年10月に、それぞれ完工して運転を開始していた。しかし、令和7年5月の本院の現地調査実施時点において、ガス田開発事業の出資者の交代等により生じたガス田開発の遅延により、ガスの供給が開始されておらず、当初の想定以上の長期間にわたり重油のみを用いて運転する状況となっていた。そして、重油の価格が高騰したことなどから、当初、基幹電源として寄与することが想定されていた1号機及び2号機は、常時運転するのではなく、主に電力需要のピーク時に運転する運用となっていた。
このため、2号機が完成した平成27年以降の1号機及び2号機における年間送電端電力量(発電所から送電される電力量)の実績は、図表1のとおり、1号機が0GWhから383.5GWh、2号機が0GWhから624.1GWhとなっていて、いずれも目標値を大幅に下回っていた。
| 発電所 | 目標値 (注) |
実績値 | ||||||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 平成 27年 |
28年 | 29年 | 30年 | 令和 元年 |
2年 | 3年 | 4年 | 5年 | 6年 | |||
| 目標値 に対す る割合 |
||||||||||||
| 1号機 | 1902.8 | 51.7 | 383.5 | 5.3 | 37.5 | 336.1 | 227.1 | 0.0 | 16.5 | 139.8 | 59.7 | 3.1% |
| 2号機 | 1924.5 | 348.1 | 487.5 | 17.4 | 86.4 | 624.1 | 315.1 | 0.0 | 17.3 | 179.7 | 84.8 | 4.4% |
(ア)のとおり、ガス田開発の遅延等により、1号機及び2号機の年間送電端電力量の実績が目標値を大幅に下回っていたことを踏まえ、1号機等建設事業及び2号機建設事業に係る貸付契約のための審査等において、機構がガス田開発の進捗等をどのように把握していたかなどについて、機構が審査を実施した際に作成していた資料(以下「審査資料」という。)等により確認したところ、次のような状況となっていた。
機構は、過去の事業の教訓等を踏まえ、1号機及び2号機にガスを供給する予定のガス田開発の状況等について継続的に情報収集を行っており、ガス田開発に必要な主な手続は、①ベトナム政府による共同開発地区設定の承認、②基本設計(注2)の作成、③ガス田開発計画(注3)の作成及びベトナム政府の承認、④ガスの供給に係る契約の締結及びガス田開発事業者による最終投資決定(注4)となっていた。
そして、1号機等建設事業及び2号機建設事業に係る貸付契約のための審査等は、13年から25年までの間に図表2に示す時期に行われていたが、機構の把握していたガス田開発等の状況は、1号機等建設事業の第1期審査から第3期審査の時点(13年から15年)、1号機等建設事業の第4期審査から2号機建設事業の第2期審査の時点(19年から25年)、2号機の完工以降(27年から)で、次のように変遷していた。
機構が13年、14年及び15年に1号機等建設事業の第1期審査から第3期審査を実施した時点では、ガス田開発に大きな動きはなく、審査資料にも、ガスの供給が開始される具体的な見込みは記載されていなかった。そして、ガス田開発の初期段階であるベトナム政府による共同開発地区設定の承認は1号機等建設事業の第3期審査を終えた後となっていた。
2号機建設事業の第1期審査が16年に実施された後の1号機等建設事業の第4期審査の時点(19年)になって、機構は、23年にガスの供給が開始される見込みであるとしていたが、ガス田開発に係る基本設計が23年に完成した後の25年に行った2号機建設事業の第2期審査の時点では、ベトナム政府側とガス田開発事業者側との間の契約交渉の状況等に基づき、ガスの供給が開始される時期を後ろ倒しとし、28年頃の見込みであるとしていた。
また、ガス田開発については、23年に基本設計が完成したものの、ガス田開発計画の承認やガスの供給に係る契約の締結といった重要な諸手続が実施されていない中で、機構は、ガスの供給に係る契約の年数やガスの埋蔵量等の情報が得られたことなどをもって、ガス田開発に一定の進捗が見られるとして、2号機のガス受入燃焼装置に係る費用を25年の第2期審査において事業対象に含めていた。
a及びbの経緯を経て、27年10月にガス受入燃焼装置を含めて2号機が完工して、同年11月に運転を開始したが、審査時にガスの供給の開始を28年と見込んでいたにもかかわらず、ガス田開発事業の出資者のうち一者がガス販売価格に合意せず交代したことなどもあり、ガス田開発は令和6年まで着工に至らず、7年5月の本院の現地調査実施時点においてもガスの供給は開始されていなかった。
以上のとおり、ガス田開発により火力発電所にガスの供給が開始されるまでには、ガス田開発に必要な諸手続を段階的に踏む必要があり、ガスの供給が開始される時期については不確実性が極めて高い状況となっていた。しかし、機構は、ベトナム政府、事業実施機関等に対して、早期にガスの供給が開始されるよう申入れを行うなどしていたものの、ガスの供給が開始される時期の見通しについての検証及びその結果を踏まえて2号機のガス受入燃焼装置の導入を含めた本事業の実施時期等について関係機関等との間で調整を十分に行っていなかった。
このため、1号機及び2号機は、完工後、当初の想定以上の長期間にわたってガスの供給を受けることができず、価格が高騰していた重油のみを用いて発電することとなったため、長期間発電能力を最大限発揮することができない状態のまま、施設の減耗が進む結果となっていた。
したがって、1号機及び2号機は、主に電力需要のピーク時に対応する電源として運用され一定の貢献はしているものの、本来の発電能力は十分に活用されておらず、南部地域の電力供給体制の増強及び電力供給の安定化という本事業の目的が十分に達成されていない状況となっていた。
なお、機構によれば、施設の維持管理は適切に行われており、ガス田開発事業者による最終投資決定がなされた結果、6年9月にはガス田開発が着工したことなどから、順調であれば9年8月頃からガスの供給が開始される予定であり、ガスが供給されれば1号機及び2号機の稼働状況も改善する見込みであるとのことである。
(贈与額854万余円)
地雷除去活動のための医療支援・応急処置訓練実施計画は、アルメニア共和国(以下「アルメニア」という。)において、医療機材を搭載し国際基準を満たした救急車両(以下、救急車両及び搭載した医療機材を合わせて「救急車両等」という。)を整備することで、地雷除去作業員がより安全な環境下で残存する地雷及び不発弾を除去できるようにすること、公立中・高等学校の教職員を対象に地雷リスク教育や応急処置の訓練を実施することなどを目的とするものである。
在アルメニア日本国大使館(以下「在アルメニア大使館」という。)は、3年3月に、事業実施機関である現地NGOとの間で贈与契約を締結し、本事業に必要な資金として、77,685米ドル(邦貨換算額854万余円)を贈与している。
そして、事業実施機関は、贈与契約前の申請時に在アルメニア大使館に提出された事業計画において、本事業により整備する救急車両等を用いるなどして、①医療従事者を同行させて行う地雷除去活動、②被害者の家庭を訪問しての往診並びに医療及び保健上の助言(以下、これらを合わせて「家庭訪問往診等」という。)、③地雷リスクのある地域の公立中・高等学校の教職員等を対象とした地雷リスク教育及び応急処置の訓練(以下、これらを合わせて「地雷リスク教育等」という。)を行うとしていた。
外務省が定めた「草の根・人間の安全保障無償資金協力ガイドライン」(令和元年8月。以下「ガイドライン」という。)によると、草の根無償について、在外公館は、申請を受領した案件について、維持管理体制、申請団体の事業実施能力等を総合的に判断して、候補案件を選定することとなっている。また、ガイドラインでは、維持管理体制等について詳細な確認を行うとされているほか、申請団体において安定的かつ十分な規模の固定収入があるかなどの事業実施機関の事業実施能力についての審査の留意事項が示されている。
検査及び調査を実施したところ、事業実施機関は3年11月に救急車両等を受領して、4年1月から同年5月にかけて地雷リスク教育等を実施していた。しかし、救急車両等の地雷除去活動への同行は、供与後一度も行われておらず、救急車両等を使用した家庭訪問往診等についても、同年3月に一度実施したのみとなっていた。
本事業の経緯等について確認したところ、事業実施機関が実施する地雷除去活動は、アルメニア政府からの業務を受注することにより実施されるものとなっていた。しかし、地雷除去活動を実施するNGO等の監督機関で、事業実施機関と協力関係にあった政府系特定非営利法人(以下「政府系法人」という。)が、4年1月以降、方針転換によりアルメニア政府から発注された地雷除去活動に関する業務を全て直接受注して実施することになり、事業実施機関との協力関係が解消されていた。そのため、事業実施機関は同年6月から行うことにしていた地雷除去活動ができなくなり、また、資金不足に陥って、家庭訪問往診等についても、同年3月に一度実施した以降は実施ができない状況となっていた。
在アルメニア大使館は、このような状況を同年11月に把握して以降、事業実施機関及び政府系法人との協議や、救急車両等の移譲についての事業実施機関に対する働きかけを行ってきたとしているが、両者からの合意が得られずに、7年4月の本院の現地調査実施時点においても、救急車両等は地雷除去活動等に活用されていなかった。
そこで、申請時における在アルメニア大使館の審査の状況について確認したところ、申請書において計画していた地雷除去活動はアルメニア政府から発注された業務を受注することが前提であり、事業実施機関が継続して受注できることが確定している状況ではないにもかかわらず、在アルメニア大使館は、このような状況を十分に考慮することなく、事業実施機関の過去の受注実績をもって実施可能と判断していた。
また、審査の際に在アルメニア大使館が確認した事業実施機関の収入は、アルメニア政府から業務を受注することによって生ずるものであり、恒常的に生ずるものではなかったのに、在アルメニア大使館は、地雷除去活動等を単独で持続的に実施できる安定的な固定収入があるかなどについて十分に確認を行っていなかった。
このように、救急車両等は地雷除去活動等において十分に活用されておらず、地雷除去作業員がより安全な環境下で地雷及び不発弾を除去できるようにするなどの事業の目的が十分に達成されていない状況となっていた。
なお、救急車両等は、7年5月に地雷被害者等への医療支援を実施する医療機関に移譲されて活用が図られている。
事業の目的が十分に達成されていない状況となっていて援助の効果が十分に発現していない事態は適切ではなく、外務省及び機構において必要な措置を講じて効果の発現に努めるなどの改善の要があると認められる。
(発生原因)
このような事態が生じているのは、次のことなどによると認められる。
ア ベトナムの1号機等建設事業及び2号機建設事業については、ガスの供給が開始される時期が火力発電所の完工予定時期と合わないことが計画時点において認識されており、また、ガスの供給が開始される時期については不確実性が極めて高い状況となっていたにもかかわらず、機構において、火力発電所建設事業の実施時期等について関係機関等との間で調整を十分に行っていなかったこと
イ アルメニアの地雷除去活動のための医療支援・応急処置訓練実施計画については、政府系法人の方針転換や事業実施機関との協力関係が解消されたことにもよるが、外務省において、申請時の審査の際に、事業実施能力や維持管理体制等に対する確認が十分でなかったこと
援助の効果が十分に発現するよう、次のとおり意見を表示する。
ア ベトナムの1号機等建設事業及び2号機建設事業における事態を踏まえて、今後、機構において、有償資金協力等によって火力発電所建設事業を実施するに当たり、燃料の供給等について別の事業から影響を受け、かつ、当該燃料の具体的な調達時期等が不確実な場合、燃料が供給されないことなどにより本来の発電能力が十分に発揮できないまま長期間が経過することがないよう、当該別の事業の進捗に合わせた火力発電所建設事業を行うために、当該別の事業に係る実施時期の見込みなどの実現可能性について検証を十分に行い、事業の計画段階から関係機関等との調整を十分に行うこと
イ アルメニアの地雷除去活動のための医療支援・応急処置訓練実施計画における事態を踏まえて、今後、外務省において、草の根無償を実施するに当たり、相手国政府等からの案件の受注等を前提とした活動のために救急車両等の機材を供与する場合、贈与契約前の申請時の審査において、事業実施機関が計画された活動を単独で持続的かつ確実に実施できる状況にあるか、また、そのための体制及び財源を有しているかなどの事業実施能力や維持管理体制等を十分に確認することについて、在外公館に周知徹底すること