人材開発支援助成金(以下「助成金」という。)は、雇用保険で行う事業である能力開発事業の一環として、雇用保険法(昭和49年法律第116号)等に基づき、職業訓練又は教育訓練を実施するなど職業能力開発に係る支援を実施した事業主に対して、国が経費等を助成するものである。助成金の対象となる取組には、特別育成訓練コース等がある。
助成金の支給を受けようとする事業主は、訓練開始日から起算して1か月前までに、実施する職業訓練の内容等が記載された訓練計画届、訓練対象者の雇用契約書、職業訓練の実施内容等を確認するための書類等を管轄の都道府県労働局(以下「労働局」という。)に提出して、その内容の確認を受けることとなっている。
そして、助成金の対象となる取組のうち、特別育成訓練コースの支給要件は、対象労働者が、事業主に従来雇用されている有期契約労働者(注1)であることなどとなっている。
助成金の支給を受けようとする事業主は、訓練終了日の翌日から起算して2か月以内に、支給申請書に、職業訓練の実施内容等を記載した実施状況報告書等の関係書類を添えて、労働局に提出することとなっている。
支給申請書等の提出を受けた労働局は、関係書類等に基づいて、事業主やその申請内容が助成金の支給要件を満たしているかなどについて審査をした上で支給決定を行い、これに基づいて厚生労働本省は、助成金の支給を行うこととなっている。
また、労働局は、偽りその他不正の行為により本来受けることのできない支給を受けようとした事業主に対して不支給とすること、偽りその他不正の行為により本来受けることのできない支給を受けた事業主に対して、支給した助成金の全部又は一部の支給決定を取り消して返還の手続を行うことなどとなっている。
本院は、合規性等の観点から、事業主に対する助成金の支給決定が適正に行われているかに着眼して、全国47労働局のうち5労働局(注2)が令和元年度から6年度までの間に支給決定を行った特別育成訓練コース等に係る助成金73,950件(支給決定金額計30,562,879,844円)から、支給実績等を基に、同175件(同計288,219,697円。これらの支給決定に係る事業主は88事業主)を選定して、助成金の支給の適否について、厚生労働本省及び5労働局において会計実地検査を行った。
検査に当たっては、事業主から提出された支給申請書等の書類により会計実地検査を行い、適正でないと思われる事態があった場合には、更に当該労働局に調査及び報告を求めて、その報告内容を確認するなどの方法により検査した。
検査の結果、大阪労働局が2、3両年度に支給決定を行った助成金3件に係る2事業主は、特別育成訓練コースにおいて、従来正規雇用労働者として雇用していた者の雇用形態を、訓練実施期間のみ有期契約労働者に変更するなどして、従来雇用している有期契約労働者であると偽って助成金の支給を申請していた。このため、これらの支給決定3件に係る2事業主に対する助成金の支給額計3,926,680円の全額が支給の要件を満たしていなかったもので支給が適正でなく、不当と認められる。
このような事態が生じていたのは、事業主が誠実でなかったため、支給申請書等の記載内容が事実と相違していたのに、大阪労働局において、これに対する審査が十分でないまま支給決定を行っていたことなどによると認められる。
前記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例>
大阪労働局は、事業主Aから、令和元年7月に、従来雇用する有期契約労働者に対して職業訓練を実施するとして、特別育成訓練コースに係る2件の訓練計画届及び労働条件通知書等の添付書類の提出を受けていた。
そして、同労働局は、事業主Aから、同年8月から2年1月までの間に従来雇用する有期契約労働者3名に対して訓練計画に基づく職業訓練を実施したとして、同年3月に2件の支給申請書等の提出を受けて、これらの書類に基づき、同年8月に特別育成訓練コースに係る助成金計2,638,120円の支給決定を行い、この支給決定に基づき、厚生労働本省は同月に同額を事業主Aに支給した。
しかし、実際には、事業主Aは、元年7月以前から正規雇用労働者として雇用していた3名の雇用形態を、訓練実施期間のみ有期契約労働者に変更しており、従来雇用している有期契約労働者であると偽っていたことから、特別育成訓練コースに係る助成金2,638,120円の全額が支給の要件を満たしていなかった。
なお、これらの適正でなかった支給額については、本院の指摘により、全て返還の処置が執られた。