キャリアアップ助成金(以下「助成金」という。)は、雇用保険で行う事業である雇用安定事業及び能力開発事業の一環として、雇用保険法(昭和49年法律第116号)等に基づき、期間の定めがある労働契約を締結する者(以下「有期雇用労働者」という。)等の企業内でのキャリアアップ(注1)を支援するために、キャリアアップに向けた取組を実施した事業主に対して国が経費等を助成するものである。助成金の対象となる取組には、正社員化コース、社会保険適用時処遇改善コース等がある。
助成金の支給を受けようとする事業主は、対象者、目標、計画期間等が記載されたキャリアアップ計画書を管轄の都道府県労働局(以下「労働局」という。)に提出して受給資格の認定を受けることとなっている。
そして、正社員化コースの支給要件は、事業主が、上記のキャリアアップ計画書に記載された計画期間内に労働協約又は就業規則等に基づき、有期雇用労働者を正規雇用労働者に転換することなどとなっている。また、社会保険適用時処遇改善コースの支給要件は、事業主が、有期雇用労働者等の週所定労働時間を4時間以上延長することなどにより新たに社会保険の被保険者とした対象労働者について、社会保険の被保険者要件を満たすこととなった日以降の全ての期間、雇用保険及び社会保険の被保険者として適用させていることなどとなっている。
助成金の支給を受けようとする事業主は、正社員化コースについては、有期雇用労働者を正規雇用労働者に転換等した後、6か月分の賃金を支給した日の翌日から起算して2か月以内に、支給申請書に雇用契約書、労働条件通知書等の関係書類を添えて、労働局に提出することなどとなっている。また、社会保険適用時処遇改善コースについては、有期雇用労働者等について、週所定労働時間を4時間以上延長するなどして、新たに社会保険の被保険者とした後、6か月分の賃金を支給した日の翌日から起算して2か月以内に、支給申請書に雇用契約書、賃金台帳等の関係書類を添えて、労働局に提出することなどとなっている。
支給申請書等の提出を受けた労働局は、関係書類等に基づいて、事業主やその申請内容が助成金の支給要件を満たしているかなどについて審査をした上で支給決定を行い、これに基づいて厚生労働本省は、助成金の支給を行うこととなっている。
また、労働局は、偽りその他不正の行為により本来受けることのできない支給を受けようとした事業主に対して不支給とすること、偽りその他不正の行為により本来受けることのできない支給を受けた事業主に対して、支給した助成金の全部又は一部の支給決定を取り消して返還の手続を行うことなどとなっている。
本院は、合規性等の観点から、事業主に対する助成金の支給決定が適正に行われているかに着眼して、全国47労働局のうち9労働局(注2)が令和元年度から6年度までの間に支給決定を行った正社員化コース等に係る助成金119,015件(支給決定金額計97,031,771,250円)から、支給実績等を基に、同219件(同計372,620,000円。これらの支給決定に係る事業主は124事業主)を選定して、助成金の支給の適否について、厚生労働本省及び9労働局において会計実地検査を行った。
検査に当たっては、事業主から提出された支給申請書等の書類により会計実地検査を行い、適正でないと思われる事態があった場合には、更に当該労働局に調査及び報告を求めて、その報告内容を確認するなどの方法により検査した。
検査の結果、5労働局において元年度から6年度までの間に支給決定を行った助成金20件に係る14事業主は、正社員化コースにおいて、有期雇用労働者等を正規雇用労働者に転換していないのに転換したなどと偽っていたほか、社会保険適用時処遇改善コースにおいて、雇用保険の被保険者とならない者を対象労働者に含めるなどして助成金の支給を申請していた。このため、これらの支給決定20件に係る14事業主に対する助成金の支給額計23,790,000円のうち計21,390,000円は支給の要件を満たしていなかったもので支給が適正でなく、不当と認められる。
このような事態が生じていたのは、事業主が誠実でなかったことや、制度を十分に理解していなかったことにより、支給申請書等の記載内容が事実と相違していたのに、5労働局において、これに対する審査が十分でないまま支給決定を行っていたことなどによると認められる。
前記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例>
茨城労働局は、事業主Aから、令和2年5月30日から7年5月29日までを計画期間とする正社員化コースに係るキャリアアップ計画書の提出を2年5月に受けて、助成金の受給資格を認定していた。
そして、同労働局は、事業主Aから、有期雇用労働者計4人を同年12月に正規雇用労働者に転換させたとして、3年7月に1件の支給申請書及び雇用契約書等の関係書類の提出を受けて、これらの書類に基づき、4年1月に助成金1,710,000円の支給決定を行い、この支給決定に基づき、厚生労働本省は同月に同額を事業主Aに支給した。
しかし、実際には、事業主Aは、採用当初から正社員として雇用していた者を有期雇用労働者から正規雇用労働者へ転換したとする虚偽の雇用契約書を提出するなどしていたことから、正社員化コースに係る助成金1,710,000円の全額が支給の要件を満たしていなかった。
なお、これらの適正でなかった支給額については、本院の指摘により、全て返還の処置が執られた。
これらの適正でなかった支給額を労働局ごとに示すと次のとおりである。
労働局名 |
本院の調査に係る事業主数 |
不適正受給事業主数 |
左の事業主に支給した助成金 |
左のうち不当と認める助成金 |
|---|---|---|---|---|
千円 |
千円 |
|||
北海道 |
14 |
3 |
5,700 |
5,700 |
茨城 |
13 |
3 |
2,850 |
2,850 |
大阪 |
15 |
3 |
5,265 |
2,865 |
福岡 |
15 |
1 |
570 |
570 |
沖縄 |
16 |
4 |
9,405 |
9,405 |
計 |
73 |
14 |
23,790 |
21,390 |