求職者支援制度は、雇用保険で行う事業のうち能力開発事業の一環として、「職業訓練の実施等による特定求職者の就職の支援に関する法律」(平成23年法律第47号。以下「求職者支援法」という。)等に基づき、雇用保険の受給ができない失業者であって、支援の必要がある者(以下「特定求職者」という。)の就職を促進し、もって特定求職者の職業及び生活の安定に資することを目的として、特定求職者に対して職業訓練の実施等の就職に関する支援措置を講ずるなどするものとなっている。
求職者支援法によれば、厚生労働大臣は、職業訓練を行う者(以下「訓練実施機関」という。)の申請に基づき、訓練実施機関が行う職業訓練について、「職業訓練の実施等による特定求職者の就職の支援に関する法律施行規則」(平成23年厚生労働省令第93号)で定める基準等に適合するものであることの認定をすることができることとされている(以下、認定された職業訓練を「認定職業訓練」という。)。
また、厚生労働大臣は、職業訓練の認定に関する事務を独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(以下「機構」という。)に行わせることとされていて、機構は、厚生労働省が定めた「求職者支援制度業務取扱要領」(平成23年職発0901第4号、能発0901第5号。以下「取扱要領」という。)等を踏まえて、「求職者支援訓練の認定基準等について」及び「求職者支援訓練の認定申請書を提出するに当たっての留意事項」(以下、これらを合わせて「認定基準等」という。)を、厚生労働省の確認を経た上で作成して、公表している。そして、認定基準等によれば、職業訓練の講師は、担当する訓練内容に関する実務等の経験を5年以上有する者であること(以下、この要件を「実務等要件」という。)などとされている。
求職者支援法等によれば、国は、認定職業訓練が円滑かつ効果的に行われることを奨励するために、認定職業訓練を行う訓練実施機関に対して、認定職業訓練実施奨励金(以下「奨励金」という。)を支給することができることとされている。そして、認定職業訓練実施奨励金支給要領(平成23年職発0930第18号、能発0930第10号。以下「支給要領」という。)等によれば、奨励金の支給要件は、訓練実施機関が特定求職者に対して認定職業訓練を適切に行うことなどとされている。
本院は、合規性等の観点から、職業訓練の認定が適正に行われ、奨励金が適正に支給されているかなどに着眼して、機構の東京、大阪両支部が職業訓練認定申請書等の審査を行い、令和元年度から6年度までの間に奨励金が支給された4,323認定職業訓練から、訓練実施機関ごとの認定件数等を基に、26訓練実施機関に係る984認定職業訓練を選定して、職業訓練の認定及び奨励金の支給の適否等について、機構本部及び東京、大阪両支部並びに厚生労働本省及び東京、大阪両労働局において会計実地検査を行った。
検査に当たっては、訓練実施機関から提出された職業訓練認定申請書、奨励金の支給に係る申請書等の書類により会計実地検査を行い、適正でないと思われる事態があった場合には、更に機構及び厚生労働省に調査及び報告を求めて、その報告内容を確認するなどの方法により検査した。
検査したところ、次のとおり適正とは認められない事態が見受けられた。
訓練実施機関Aは、平成31年4月から令和6年9月までの間に東京都内又は大阪府内で開講予定の195職業訓練の認定を申請するに当たり、195職業訓練に係る講師115名全員が実務等要件を満たすとして、機構の東京支部又は大阪支部に職業訓練認定申請書と併せて経歴確認書等をそれぞれ提出していた。また、機構の東京、大阪両支部は職業訓練認定申請書等を審査し、審査結果を機構本部にそれぞれ送付し、機構本部は審査結果を踏まえて195職業訓練について認定を行い、認定通知書を訓練実施機関Aに送付していた。そして、訓練実施機関Aは、195認定職業訓練について、東京労働局又は大阪労働局に奨励金の支給に係る申請書と併せて認定通知書の写しなどをそれぞれ提出して奨励金の支給を申請し、元年度から6年度までの間に、195認定職業訓練に係る奨励金計635,544,500円の支給を受けていた。
しかし、講師の実際の経歴を確認したところ、訓練実施機関Aは、上記の講師115名のうち45名について、担当する訓練内容に関する実務等の経験が全くないなど、実務等要件を満たしていなかったのに、実務等要件を満たしたとする虚偽の経歴確認書を作成して職業訓練の認定を申請していた。このため、195認定職業訓練のうち、上記の45名が講師となっていた159認定職業訓練については認定基準等に適合しておらず、機構がこれらの職業訓練を認定したことは適正ではないと認められる。
したがって、上記の159認定職業訓練に係る奨励金計522,040,500円の支給は適正でなく、不当と認められる。
このような事態が生じていたのは、訓練実施機関Aが誠実でなかったため、経歴確認書等の記載内容が事実と相違していたのに、機構において、これに対する審査が十分でないまま職業訓練の認定を行っていたことなどによると認められる。
なお、これらの適正でなかった支給額522,040,500円のうち、返還請求の権利が時効により消滅している23,765,000円を除いた498,275,500円については、本院の指摘により、返還の処置が執られた。