厚生労働省は、健康保険法(大正11年法律第70号)、国民健康保険法(昭和33年法律第192号)、高齢者の医療の確保に関する法律(昭和57年法律第80号。以下「高齢者医療確保法」という。)等に基づき、都道府県又は市町村(特別区を含む。)、都道府県に設置されている後期高齢者医療広域連合(以下「広域連合」という。)等(以下、これらを合わせて「保険者等」という。)が行う医療保険制度、後期高齢者医療制度等における医療給付に関して、保険者等及び医療機関に対する指導等を行うとともに、医療給付に要する費用の一部を負担している。
医療給付に関し、医療機関が保険者等に対して請求することができる費用の額(以下「医療費」という。)は、「診療報酬の算定方法」(平成20年厚生労働省告示第59号。以下「算定基準」という。)等に基づいて診療報酬として算定した医療に要する費用の額から、患者負担分を控除した額となっている。
そして、医療機関は、診療報酬請求書(以下「請求書」という。)に医療費の明細を明らかにした診療報酬明細書(以下「レセプト」という。)を添付して、これらを国民健康保険団体連合会又は社会保険診療報酬支払基金(以下「審査支払機関」と総称する。)を通じて保険者等に請求し、審査支払機関は、請求書及びレセプトにより請求内容を審査点検し、保険者等は、審査支払機関を通じて医療機関に医療費を支払うこととなっている。
初診料は、算定基準等によれば、特に初診料を算定できない旨の規定がある場合を除き、患者の傷病について医学的に初診といわれる診療行為があった場合に算定するもので、所定の診療点数(令和元年10月から6年5月までは288点)に単価(10円)を乗じて算定することとされており、患者が医療機関を初めて受診したときや、一度治癒して新しい傷病で受診したときなどに算定することになっている。
また、再診料は、算定基準等によれば、診療所又は一般病床の病床数が200床未満の病院において、再診の都度算定するもので、所定の診療点数(元年10月から6年5月までは73点)に単価(10円)を乗じて算定することとされている。
そして、初診料及び再診料には、初診及び再診の際の視診、触診、問診等の基本的な診療行為に対する費用がそれぞれ含まれている。
健康保険法、国民健康保険法等に規定する保険者は、高齢者医療確保法等に基づき、毎年度、当該年度の4月1日における被保険者等であって、当該年度において40歳以上75歳以下の年齢に達する者(75歳未満の者に限り、妊産婦その他の厚生労働大臣が定める者を除く。)に対して、特定健康診査を行うこととなっている。また、広域連合は、高齢者医療確保法等に基づき、被保険者である各都道府県の区域内に住所を有する後期高齢者(75歳以上の者又は65歳以上75歳未満の者で一定の障害の状態にある者をいう。)に対して、健康診査を行うように努めなければならないこととなっている(以下、特定健康診査及び健康診査を合わせて「特定健診等」という。)。
特定健康診査の実施内容は、「特定健康診査及び特定保健指導の実施に関する基準」(平成19年厚生労働省令第157号)等によれば、全ての対象者が受診しなければならない既往歴の調査(服薬歴及び喫煙習慣の状況に係る調査を含む。)、自覚症状及び他覚症状の有無の検査等の九つの基本的な健診項目と、医師が必要と認めるときに実施する詳細な健診項目から構成されており、健康診査の実施内容は、特定健康診査の実施内容から腹囲の検査を除いたものとなっている。
また、特定健診等は、通常、保険者等が医療機関に委託することにより実施されている。
保険者等が医療機関に特定健診等を委託する場合、通常、特定健診等に係る委託契約額には初診料相当額が含まれている。
そして、診療報酬については、算定基準等によれば、「自他覚的症状がなく健康診断を目的とする受診により疾患が発見された患者について、当該保険医が、特に治療の必要性を認め治療を開始した場合には、初診料は算定できない」こととされている。
このように初診料を算定できないこととした理由について、厚生労働省は、特定健診等を含む健康診断において実施される問診の内容には、初診の際の問診等の基本的な診療行為と重複する部分があるためとしている。
なお、算定基準等によれば、「健康診断で疾患が発見された患者が、疾患を発見した保険医以外の保険医(当該疾患を発見した保険医の属する保険医療機関の保険医を除く。)において治療を開始した場合には、初診料を算定できる」こととされている。
また、前記のとおり、初診料及び再診料には、初診及び再診の際の視診、触診、問診等の基本的な診療行為に対する費用がそれぞれ含まれているが、算定基準等において、健康診断の受診者が同じ医療機関で治療を受けた場合における再診料の算定に関する取扱いを明確にした規定はない。
(検査の観点及び着眼点)
本院は、合規性、経済性等の観点から、特定健診等の受診者のうち、国民健康保険及び後期高齢者医療制度に加入する受診者が、特定健診等の実施日に特定健診等を実施した医療機関と同じ医療機関で治療を受けた場合における初診料の算定が適切なものとなっているか、特定健診等の実施日における再診料の算定状況等がどのようなものとなっているかなどに着眼して検査した。
(検査の対象及び方法)
検査に当たっては、4年度に18道府県(注1)において請求された医療費のうち、初診料及び再診料を対象として、厚生労働本省において、特定健診等の実施日等における初診料及び再診料の取扱いについて聴取し、また、全8地方厚生(支)局及び17道府県において、特定健診等の実施日における初診料及び再診料の算定について、広域連合の健康診査の受診者等情報と健康診査を受診した被保険者のレセプト情報を分析するなどの方法により会計実地検査を行うとともに、九州厚生局及び大分県から同様の関係資料の提出を受けて分析するなどして検査した。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
前記のとおり、算定基準等によれば、自他覚的症状がなく健康診断を目的とする受診により疾患が発見された患者について、当該保険医が、特に治療の必要性を認め治療を開始した場合には、初診料は算定できないこととされており、当該疾患を発見した保険医の属する医療機関の保険医についても同様とされている。
そこで、広域連合の4年10月分における健康診査の受診者等情報と、健康診査を受診した被保険者の同月診療分のレセプト情報を分析するなどしたことにより、健康診査の実施日における初診料の算定が一定数確認された15道府県の171医療機関について、地方厚生(支)局及び道府県に対して特定健診等に係る調査及び報告を求めた。そして、6年12月までに調査が完了した104医療機関の報告内容を確認するなどしたところ、このうち94医療機関(注2)(90.3%)が特定健診等の実施日に誤って初診料を算定していて、医療費が過大に支払われていた事態となっていた。
前記のとおり、健康診断の受診者が同じ医療機関で治療を受けた場合における再診料の算定に関する取扱いを明確にした規定はないが、再診に相当する診療行為には初診と同様に問診等の基本的な診療行為が含まれることから、初診料を算定できない場合に係る厚生労働本省の見解を踏まえると、再診に相当する診療行為を特定健診等として実施する場合には、再診料を算定することは適切ではないと認められる。しかし、算定基準等において再診料の算定に関する取扱いを明確にした規定がないことから、多くの医療機関において、特定健診等の実施日に再診料を算定していると思料される。そして、この中には、再診に相当する診療行為を特定健診等として実施していて適切ではない再診料の算定も含まれていることが想定される。
そこで、医療機関の特定健診等の実施日における再診料の算定状況について、広域連合の4年10月分における健康診査の受診者等情報と、健康診査を受診した被保険者の同月診療分のレセプト情報を分析するなどしたところ、特定健診等の実施日における再診料の算定が、検査の対象とした18道府県に所在する健康診査を実施した14,659医療機関のうち、7,399医療機関(50.4%)において見受けられた。
このように、特定健診等の実施日に誤って初診料を算定していて医療費が過大に支払われていた事態や、再診に相当する診療行為を特定健診等として実施する場合の再診料の算定に関する取扱いを明確にした規定がないまま、多くの医療機関が特定健診等の実施日に再診料を算定していた事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(特定健診等の実施日における初診料及び再診料に対する国の負担の推計)
前記の特定健診等の実施日に再診料を算定していた7,399医療機関のうち相当数の医療機関は、特定健診等の実施日に初診料を算定していた。そこで、当該7,399医療機関を対象として、統計的な手法等を用いて4年度の特定健診等の実施日に算定していた初診料及び再診料の金額を推計したところ、それぞれ1億3646万余円及び4億4648万余円となり、これに対する国の負担相当額はそれぞれ5104万余円及び1億5786万余円となった(参考図参照)。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、地方厚生(支)局において、医療機関に対して、特定健診等の実施日等における初診料の取扱いについての周知が十分でなかったこと、厚生労働本省において、保険者等及び医療機関に対して、特定健診等の実施日における再診料の取扱いについて明確にしていなかったことなどによると認められた。
本院の指摘に基づき、厚生労働本省は、初診料及び再診料の算定が適切に行われるよう、6年12月に地方厚生(支)局等に対して事務連絡を発して、保険者等及び医療機関に対して、特定健診等の実施日等における初診料の取扱いについて改めて周知徹底を図るとともに、特定健診等の実施日における再診料の取扱いについて、保険診療として治療中の疾病又は負傷に対する医療行為を、健康診断として実施する場合は、再診料を算定できないことを明確にした上で、その周知徹底を図る処置を講じた。
特定健診等の実施日に算定していた初診料及び再診料の推計の流れ
<健康診査分>
(1) 流れ図
(2) 1医療機関当たりの健康診査の実施日に算定していた初診料(再診料)の推計方法
<特定健康診査分>
(1) 流れ図
(2) 1医療機関当たりの特定健康診査の実施日に算定していた初診料(再診料)の推計方法