• 令和6年度
  • 第3章 個別の検査結果
  • 第1節 省庁別の検査結果
  • 第7 農林水産省
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

(1) ため池廃止工事の実施に当たり、廃止するため池に流入する雨水等を既設水路で下流域に安全に排水することができるか確認し、対策が必要と判断された場合には当該対策を計画的に行うことなどを都道府県等に周知することにより、下流域に被害を及ぼすことのないよう改善させたもの


会計名及び科目
一般会計 (組織)農林水産本省
(項)農業生産基盤整備推進費 等
部局等
農林水産本省、3農政局
補助の根拠
予算補助
補助事業者
14県
間接補助事業者等
(事業主体)
80事業主体
ため池廃止工事の概要
老朽化が進み利用される見込みのないため池について、決壊による水害等を防止するために、貯水機能を廃止する工事
検査の対象とした新設水路を既設水路に接続しているため池廃止工事に係る事業主体数、ため池の箇所数及び工事費
80事業主体 198か所 17億1564万余円(令和3年度~6年度)
(交付金等相当額 15億1876万余円)
新設水路の設計流量が既設水路の流下能力を上回っていて、下流域に被害を及ぼすおそれがあるため池廃止工事に係る事業主体数、ため池の箇所数及び工事費
14事業主体 23か所 1億6811万円(令和3年度~6年度)
(交付金相当額 1億5683万円)

1 ため池廃止工事の概要等

(1) 農業水路等長寿命化・防災減災事業等の概要

農林水産省は、農業水利施設の機能低下により災害のおそれが生じている箇所において、被害の発生を未然に防止するなどの取組を支援するために、農業水路等長寿命化・防災減災事業交付金交付要綱(平成30年29農振第2713号農林水産事務次官依命通知)等に基づき、農業水路等長寿命化・防災減災事業(以下「防災減災事業」という。)等を実施する都道府県、市町村等(以下「事業主体」という。)に対して交付金等を交付している。

(2) ため池廃止工事の概要

事業主体は、防災減災事業等として、老朽化が進み農業用水の貯水池として利用される見込みのないため池について、決壊による水害等を防止するために、ため池の貯水機能を廃止する工事(以下「ため池廃止工事」という。)を実施している。

ため池廃止工事は、堤体の一部又は全部を開削して、開削した堤体の底部等に新たに水路を整備し(以下、ため池廃止工事で新たに整備する水路を「新設水路」という。)、下流域の既設の水路(以下「既設水路」という。)に接続するなどするものである。ため池廃止工事により、新設水路及び既設水路は、廃止したため池の跡地に流入する雨水等(以下「雨水等」という。)を下流域に排水するための排水路として機能することになる(参考図参照)。

参考図

ため池廃止工事の概念図

参考図 ため池廃止工事の概念図画像

(3) ため池廃止工事に係る設計の状況

事業主体は、農林水産省がため池廃止工事に特化した基準等を示していなかったことなどから、「土地改良事業計画設計基準及び運用・解説 計画「排水」」(平成31年4月農林水産省農村振興局編)等の類似の工事の設計基準等(以下「設計基準等」という。)に基づきため池廃止工事の設計を行っている。設計基準等によれば、排水路は、洪水時等の設計流量及び設計水位を満足する構造となるようにその断面形及び勾配を定めるなどして、洪水時等の排水処理が安全に行えるよう計画しなければならないこととされている。

2 検査の結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

本院は、有効性等の観点から、ため池廃止工事の実施に当たり、雨水等を下流域に安全に排水することができるかなどに着眼して、14県(注1)の80事業主体において、令和3年度から6年度までに完了したため池廃止工事のうち、新設水路を既設水路に接続しているため池198か所に係るため池廃止工事(工事費計17億1564万余円、交付金等相当額計15億1876万余円)を対象として検査した。

検査に当たっては、14県において、設計書、工事図面等の関係書類を確認するなどして会計実地検査を行うとともに、調書等の提出を受けてその内容を分析するなどの方法により検査した。

(注1)
14県  青森、秋田、福島、栃木、福井、愛知、兵庫、奈良、島根、岡山、山口、高知、福岡、鹿児島各県

(検査の結果)

検査の対象とした80事業主体のため池198か所に係るため池廃止工事の実施に当たり、事業主体が、新設水路の接続先となる既設水路の流下能力を設計時に把握していたか確認したところ、11県(注2)の47事業主体が実施したため池94か所に係るため池廃止工事(工事費計8億8377万余円、交付金相当額計7億3346万余円)においては、既設水路の状況を確認することについての明確な記述が設計基準等にないことなどから、事業主体が既設水路の流下能力を把握していなかった。

そこで、既設水路の現況の断面等から流下能力を算出するなどした上で、新設水路の設計流量と、新設水路の接続先となる既設水路の流下能力とを比較したところ、4県(注3)の9事業主体が実施したため池14か所に係るため池廃止工事(工事費計1億0004万余円、交付金相当額計9392万余円)においては、新設水路の設計流量が既設水路の流下能力を上回っていた。

また、新設水路の接続先となる既設水路の流下能力を設計時に把握していたため池廃止工事のうち、2県(注4)の5事業主体が実施したため池9か所に係るため池廃止工事(工事費計6806万余円、交付金相当額計6291万余円)においても、新設水路の設計流量が既設水路の流下能力を上回っていた。

したがって、これらのため池廃止工事(5県(注5)の14事業主体が実施したため池23か所に係るため池廃止工事、工事費計1億6811万余円、交付金相当額計1億5683万余円)については、新設水路の設計流量が既設水路の流下能力を上回っていて、雨水等を下流域に安全に排水することができず、新設水路と既設水路の接続部分において溢水(いっすい)して下流域に被害を及ぼすおそれがあると認められた。

(注2)
11県  青森、福島、愛知、兵庫、奈良、島根、岡山、山口、高知、福岡、鹿児島各県
(注3)
4県  福島、兵庫、岡山、山口各県
(注4)
2県  兵庫、島根両県
(注5)
5県  福島、兵庫、島根、岡山、山口各県

このように、ため池廃止工事の実施に当たり、新設水路の設計流量が既設水路の流下能力を上回っていて、下流域に被害を及ぼすおそれがある事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。

(発生原因)

このような事態が生じていたのは、事業主体において、ため池廃止工事の実施に当たり、雨水等を下流域に安全に排水することができるか設計時に確認することについての認識が欠けていたことなどにもよるが、農林水産省において、ため池廃止工事の実施に当たり、雨水等を下流域に安全に排水することができるか確認する必要があることや、確認の具体的な方法を都道府県等に示していなかったことなどによると認められた。

3 当局が講じた改善の処置

本院の指摘に基づき、農林水産本省は、廃止するため池の下流域に被害を及ぼすことのないよう、次のような処置を講じた。

ア 「農業用ため池廃止工事の設計に関する手引き」(令和7年3月農林水産省農村振興局防災課策定)において、雨水等を既設水路で下流域に安全に排水することができるか、ため池廃止工事の実施に係る計画の策定時から設計時までに確認することを明確に示して、7年3月に都道府県等に周知した。

イ 同年7月に地方農政局等を通じるなどして都道府県等に対して通知等を発して、下流域への影響を確認する際の具体的な方法について示した上で、同通知等の発出前にため池廃止工事を実施したため池も含めて、新設水路の接続先となる既設水路の状況を確認した上で、対策が必要と判断された場合には当該対策を計画的に行うよう周知した。