農林水産省は、土地改良法(昭和24年法律第195号)等に基づき、農業の生産性の向上等に資することなどを目的として、農業用水を貯留するなどのための農業用水貯留施設(以下「ファームポンド」という。)の造成等を自ら事業主体となって実施するほか、都道府県等が事業主体となって実施する場合に要する経費の一部を補助している。
同省は、平成11年3月に、ファームポンドの設計に当たっての標準的な考え方等を示した「土地改良事業設計指針「ファームポンド」」(以下「ファームポンド指針」という。)を制定している。
ファームポンド指針によれば、ファームポンドの耐震設計を行う場合は、レベル1地震動(注1)やレベル2地震動(注1)に対して保持すべき耐震性能を確保できるように設計しなければならないこととされている。そして、ファームポンドの規模等に応じて、レベル1地震動に対してのみ耐震設計を行う施設(以下「レベル1地震動の対象施設」という。)、レベル1地震動及びレベル2地震動に対して耐震設計を行う施設(以下「レベル2地震動の対象施設」といい、レベル1地震動の対象施設と合わせて「耐震設計対象施設」という。)等が定められている。
また、ファームポンド指針によれば、ファームポンド本体の構造部材のうち耐震設計を行うべき部材は側壁のみであり、屋根や底版については、耐震設計を省略してよいこととされ、杭基礎については、レベル1地震動に対してのみ検討すればよいこととされている(参考図参照)。
ファームポンド本体の構造部材及び杭基礎の概念図
一方、農林水産省は、7年に発生した兵庫県南部地震による被災の教訓を踏まえて、ファームポンドを含む土地改良施設の耐震設計の考え方を取りまとめて、16年3月に、「土地改良施設 耐震設計の手引き」(以下「手引」という。)を制定している。そして、手引の制定後、レベル2地震動を考慮した耐震設計の検証が進んだことを踏まえて、27年5月に、「土地改良事業設計指針「耐震設計」」を改定するとともに、手引を廃止している(以下、改定された同指針を「耐震設計指針」といい、手引と合わせて「耐震設計指針等」という。)。
手引によれば、杭基礎の耐震設計を行う場合、杭基礎の耐震性能は上部構造物の耐震性能の同等以上を保持することとされていて、上部構造物がレベル2地震動の対象施設の場合は、杭基礎についてもレベル1地震動及びレベル2地震動に対して耐震設計を行うこととされている。また、耐震設計指針によれば、杭基礎のほか、ファームポンド本体の側壁以外の構造部材についても耐震設計を行うこととされている。
本院は、合規性、有効性等の観点から、ファームポンドの耐震設計が適切に行われているかなどに着眼して、27年度から令和6年度までの間に5農政局等(注2)が造成した耐震設計対象施設に該当するファームポンド39施設(ファームポンドの造成を含む工事の工事費計158億5035万余円)及び9県(注3)が造成した耐震設計対象施設に該当するファームポンド32施設(ファームポンドの造成を含む工事の工事費計33億2143万余円、国庫補助金交付額計17億3841万余円)の計71施設を対象として検査した(以下、5農政局等が造成したファームポンドを「直轄施設」、9県が造成したファームポンドを「補助施設」という。)。
検査に当たっては、5農政局等及び9県において、構造計算書、工事図面等の関係書類及び現地の状況を確認するとともに、農林水産本省において、ファームポンド指針及び耐震設計指針等における耐震設計の考え方について聴取するなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、農林水産省は、平成16年3月に手引を制定した際及び27年5月に耐震設計指針を改定した際に、ファームポンドの耐震設計の対象となる構造部材の範囲を広げるなどして、従前の耐震設計の考え方を見直していたが、ファームポンド指針については、11年3月に制定して以降改定していなかった。
そのため、耐震設計指針において耐震設計の対象とされている構造部材については、ファームポンド指針において耐震設計を省略してよいとされ、また、耐震設計指針等においてレベル1地震動及びレベル2地震動に対する耐震設計の対象とされている杭基礎については、ファームポンド指針においてレベル1地震動に対してのみ耐震設計の対象とするとされていて、ファームポンド指針と耐震設計指針等とで示されている耐震設計の考え方が整合していない状況となっていた(表1及び表2参照)。しかし、同省は、ファームポンド指針と耐震設計指針等のどちらの耐震設計の考え方を適用してファームポンドの耐震設計を行うかについて明確に示していなかった。
| 対象施設 | 構造部材 | ファームポンド指針における 耐震設計の要否 |
耐震設計指針における耐震設計の要否 |
|---|---|---|---|
| レベル1地震動の対象施設 | 底版 | 省略してよい | 要(レベル1地震動) |
| レベル2地震動の対象施設 | 底版 | 要(レベル1地震動 及びレベル2地震動) |
|
| 頂版(屋根) | 要(レベル2地震動) |
表2 ファームポンドが上部構造物である杭基礎の耐震設計の考え方
| 対象施設 | ファームポンド指針における 耐震設計で対象とする 地震動の種類 |
耐震設計指針等における 耐震設計で対象とする 地震動の種類 |
|---|---|---|
| レベル2地震動の対象施設 | レベル1地震動 | レベル1地震動及びレベル2地震動 |
そして、5農政局等及び9県が造成したファームポンドにおけるファームポンド本体及び杭基礎を対象とした耐震設計の状況は、次のとおりとなっていた。
71施設のうち、耐震設計指針が改定された27年5月以降に設計が行われた44施設について、ファームポンド指針と耐震設計指針とで示されている耐震設計の考え方が整合していない、底版を対象としたレベル1地震動に対する耐震設計並びに底版及び頂版を対象としたレベル2地震動に対する耐震設計の状況について確認した。
その結果、底版を対象としたレベル1地震動に対する耐震設計については、全ての施設で行われていた。一方、底版及び頂版を対象としたレベル2地震動に対する耐震設計については、レベル2地震動の対象施設16施設のうち15施設において、ファームポンド指針で示されている耐震設計の考え方を適用しているなどしていて、レベル2地震動に対する耐震設計が行われていなかった。
71施設のうち、手引が制定された16年3月以降に設計が行われたレベル2地震動の対象施設であって、基礎の種類が杭基礎となっている26施設について、ファームポンド指針と耐震設計指針等とで示されている耐震設計の考え方が整合していない、杭基礎を対象としたレベル2地震動に対する耐震設計の状況について確認したところ、26施設のうち18施設において、レベル2地震動に対する耐震設計が行われていなかった。
したがって、レベル2地震動に対する耐震設計が行われていなかった26施設(アの15施設及びイの18施設の純計、うち直轄施設である2農政局の16施設に係るファームポンド本体及び杭基礎に係る直接工事費計12億6590万余円、補助施設である4県の10施設に係るファームポンド本体及び杭基礎に係る直接工事費計5億6292万余円、国庫補助金相当額計2億9514万余円)は、耐震設計指針等に基づく耐震性能が確保されていないおそれがあると認められた。
このように、耐震設計指針で耐震設計の対象とされた構造部材について、ファームポンド指針では耐震設計を省略してよいことなどとされており、耐震設計指針等で示している耐震設計の考え方と整合していないのに、どちらを適用するかについて明確に示されていない状況となっていて、ファームポンドの設計に当たり、耐震設計指針等で示されている直近の耐震設計の考え方が適用されず、耐震設計指針等に基づく耐震性能が確保されていないおそれがある事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、事業主体において、ファームポンドの設計に当たり、耐震設計指針等で示されている直近の耐震設計の考え方を適用することについて十分に検討していなかったことにもよるが、農林水産省において、ファームポンド指針及び耐震設計指針等で示している耐震設計の考え方の整合を図ることについての認識が欠けていたことなどによると認められた。
本院の指摘に基づき、農林水産本省は、ファームポンドの設計等が適切に行われるよう、令和7年8月に地方農政局等に対して通知等を発して、次のことを周知するとともに、都道府県に対しても地方農政局等を通じるなどして周知する処置を講じた。
ア ファームポンドの耐震設計については、耐震設計指針に基づいて行うこと
イ 平成27年度以降に造成した施設のうち耐震設計指針等に基づく耐震性能が確保されていないおそれがある施設については、耐震診断や耐震改修の要否を直ちに検討し、耐震診断や耐震改修の実施が困難な場合は点検の実施体制を強化するなどの対策を行うこと
なお、同省は、上記の処置に加えて、ファームポンド指針の改定に向けた検討に着手した。