国土交通省は、水道法(昭和32年法律第177号)、下水道法(昭和33年法律第79号)等に基づき、水道事業及び下水道事業を行う地方公共団体等(以下「上下水道事業者」という。)に対して社会資本整備総合交付金等を交付している(令和6年4月1日に厚生労働省から国土交通省へ水道施設整備事業に係る事務が移管される前は、厚生労働省が水道事業を行う地方公共団体等に対して生活基盤施設耐震化等交付金等を交付している。)。
上下水道事業者は、水道管又は下水道管(以下、これらを合わせて「上下水道管」という。)を布設する際に、支障となる河川等がある場合、橋りょうの桁に上下水道管を支持金具等により添架する形式の水管橋(以下「添架水管橋」という。)を築造するなどしている(参考図1参照)。
添架水管橋の概念図
「水道施設耐震工法指針・解説」(公益社団法人日本水道協会編)、「下水道施設の耐震対策指針と解説」(公益社団法人日本下水道協会編。以下、これらを合わせて「耐震指針」という。)等によれば、上下水道事業者は、添架水管橋の設計に当たり、橋りょう管理者等との協議により上下水道管を添架する橋りょうの耐震性を確認することなどとされている。
国土交通省によると、橋りょうの耐震性の有無については、橋りょう管理者等が、現行の「道路橋示方書・同解説」(公益社団法人日本道路協会編。以下「示方書」という。)等に基づき、地震等の条件に対して限界状態(注1)を超えないことや、地震により支承部が破壊されたとしても桁が容易に落下しないように落橋防止システムにより適切な対策が講じられていることについて照査を行うなどして判断することとしている。そして、上下水道事業者が、耐震性が確保されていないおそれがある橋りょうに上下水道管を添架すると、添架水管橋の耐震性が確保されないおそれがあることから、当該橋りょうに上下水道管を添架することは、原則として、許容していないとしている。
国土交通省によると、添架水管橋の設計に当たり、上下水道管を添架する橋りょうの耐震性が確保されていないおそれがあることが判明した場合には、耐震性が確保されている近隣の橋りょうに上下水道管を添架するようルートを変更することや、添架水管橋に代えて独立水管橋を築造することなどの工法(以下、これらの工法を「耐震性を確保するための工法」という。)を比較検討した上で、適切な工法を選定してハード対策を実施する必要があるとしている。
また、国土交通省によると、上下水道事業者がやむを得ず耐震性が確保されていないおそれがある橋りょうに上下水道管を添架する場合は、地震災害時に上下水道の機能を確保できるよう、「水道の耐震化計画等策定指針」(平成27年6月厚生労働省改訂)、「下水道の地震対策マニュアル」(公益社団法人日本下水道協会編。以下、これらを合わせて「策定指針」という。)等に基づくソフト対策(以下「添架水管橋に係る応急対策」という。)を策定して、当面の間は添架水管橋に係る応急対策により対応することとすることも可能であるとしている。そして、策定指針では、添架水管橋に係る応急対策の具体的な内容として、地震により添架水管橋が被災した場合に上下水道の機能を確保するために、水道事業において、充実した応急給水を行うために必要な給水車等を確保すること、下水道事業において、汚水の溢水防止等のために必要な可搬式ポンプや仮配管等を確保することなどが示されている。
以上のように、上下水道事業者は、上下水道管を添架する橋りょうの耐震性が確保されていないおそれがあることが判明した場合に、耐震性を確保するための工法を検討する必要があり、やむを得ず耐震性が確保されていないおそれがある橋りょうに上下水道管を添架する場合は、添架水管橋に係る応急対策を策定する必要があるとされているものの、耐震指針、策定指針等にはその旨が明確に示されていない。
国土交通省は、令和6年能登半島地震の教訓を踏まえて、「上下水道施設の耐震化状況に関する緊急点検」(以下「緊急点検」という。)として、全国の急所施設(注2)、重要施設(注3)に接続する管路等(以下、急所施設に該当する送水管、導水管等の管路及び重要施設に接続する管路を「重要ライン」という。参考図2参照。)の耐震化の状況を確認している。そして、同省は、6年11月に緊急点検の結果を公表するとともに、緊急点検の結果に基づき、上下水道施設の耐震化を計画的、集中的に推進することとしている。
重要ラインの概念図
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、合規性、有効性等の観点から、上下水道事業者は、添架水管橋の設計に当たり、橋りょう管理者等に橋りょうの耐震性を確認しているか、耐震性が確保されていないおそれがある添架水管橋について、添架水管橋に係る応急対策を適切に策定しているかなどに着眼して検査した。
検査に当たっては、3県(注4)、38市町村等(注5)の計41事業主体が、4、5両年度に締結した添架水管橋計74橋の築造等に係る工事契約計63件、契約金額計39億2273万余円(交付金等交付額計12億2011万余円)を対象とした。そして、41事業主体において、橋りょう管理者等との協議に関する資料、設計書等の関係書類及び現地の状況を確認するとともに、国土交通本省において、緊急点検の方法等について聴取するなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、41事業主体のうち24事業主体は、添架水管橋計46橋について、橋りょう管理者等に橋りょうの耐震性を確認することについての認識が欠けていたことや、同じ橋りょうに布設替えを行う場合には、改めて橋りょうの耐震性を確認する必要はないと考えたことなどのため、橋りょう管理者等に橋りょうの耐震性を確認しないまま、添架水管橋を築造していた。
そこで、本院において、これらの添架水管橋について、事業主体を通じて橋りょう管理者等に橋りょうの耐震性を確認したところ、22事業主体が上下水道管を添架した計43橋については、現行の示方書より古い耐震設計に係る基準を適用して設計された橋りょうや築造年数が不明な橋りょうなどであり、橋りょう管理者等が限界状態を超えないことについて照査を行っていないなどのため耐震性が確保されていないおそれがある橋りょうであった。
上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例>
奈良県山辺郡山添村は、山添村大字桐山地内において、奈良県が管理する昭和60年及び63年に築造された二つの橋りょうに添架していた重要ラインに該当する送水管が老朽化したことから、令和4年度に、新しい送水管に布設替えを行うために添架水管橋を築造するなどの工事を実施している。
しかし、同村は、添架水管橋の設計に当たり、橋りょう管理者である奈良県にこれらの橋りょうの耐震性を確認しないまま、添架水管橋を築造していた。
そこで、本院において、これらの橋りょうの耐震性について同村を通じて奈良県に確認したところ、いずれの橋りょうも現行の示方書より古い耐震設計に係る基準を適用して設計された橋りょうであることから、奈良県において耐震性が確保されていないおそれがあるとしている橋りょうであった。そして、現行の示方書に基づき確認したところ、いずれの橋りょうも、落橋防止システムの性能が確保されておらず、地震時における所要の安全度が確保されていない状態となっていた。
また、41事業主体のうち20事業主体(注6)は、添架水管橋計28橋について、橋りょう管理者等に橋りょうの耐震性を確認した上で添架水管橋を築造していたが、このうち6事業主体は、築造した添架水管橋8橋について、橋りょうの耐震性を確認した結果、耐震性が確保されていないおそれがあることを把握したのに、経済性や早期に布設することを優先するなどして、耐震性が確保されていないおそれがある橋りょうに上下水道管を添架していた。
そして、これらの耐震性が確保されていないおそれがある添架水管橋計51橋を築造した計28事業主体(注7)に対して、添架水管橋に係る応急対策を策定しているか確認したところ、全ての事業主体において策定していなかった。
したがって、28事業主体が築造した51橋(添架水管橋の築造等に係る工事契約計42件、契約金額計27億5316万余円、添架水管橋の築造に係る直接工事費計2億0924万余円、交付金等相当額計7562万余円)については、耐震性が確保されていないおそれがあることから、地震により橋りょうが損傷した場合に、添架水管橋も損傷するなどし、さらに、添架水管橋に係る応急対策が策定されていないことから、応急給水や汚水の溢水防止が円滑に行えないなどして、地震災害時に上下水道の機能が確保できないおそれがある状況となっていた。特に、51橋のうち14事業主体の16橋(添架水管橋の築造等に係る工事契約計15件、契約金額計8億3690万余円、添架水管橋の築造に係る直接工事費計1億0297万余円、交付金等相当額計3741万余円)については、重要ラインに該当する添架水管橋であり、これらの添架水管橋が被災した場合に、上下水道システム全体が機能を失い、又は、重要施設において上下水道の利用ができなくなることによって、甚大な影響が生ずるおそれがあると認められた。
なお、国土交通省は、1(4)のとおり、令和6年能登半島地震の教訓を踏まえて、緊急点検として、全国の重要ラインの耐震化の状況を確認して、その結果を公表している。しかし、同省は、緊急点検において、上下水道管が耐震適合性を有している管等であれば、耐震性が確保されているとして取り扱っており、添架水管橋の耐震性が確保されていないおそれがある状況については把握していなかった。
このように、事業主体において、耐震性が確保されていないおそれがある橋りょうに上下水道管を添架して添架水管橋を築造していた事態、及び耐震性が確保されていないおそれがある添架水管橋に係る応急対策を策定していなかった事態は適切でなく、改善の必要があると認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、事業主体において、添架水管橋の設計に当たり、上下水道管を添架する橋りょうの耐震性を橋りょう管理者等に確認することについての認識が欠けていたことなどにもよるが、国土交通省(6年3月31日以前の水道事業については厚生労働省)において、次のことなどによると認められた。
ア 上下水道事業者に対して、添架水管橋の設計に当たり、耐震指針等に基づき、橋りょう管理者等に橋りょうの耐震性を確認することについての周知が十分でなく、また、耐震性が確保されていないおそれがあることを把握した場合に耐震性を確保するための工法を検討するよう明確に示していなかったこと
イ 上下水道事業者に対して、やむを得ず耐震性が確保されていないおそれがある橋りょうに上下水道管を添架する場合は、添架水管橋に係る応急対策を策定する必要があることについて明確に示していなかったこと
本院の指摘に基づき、国土交通省は、7年9月に、上下水道事業者に対して事務連絡を発して、地震災害時においても上下水道の機能が確保されるよう次のような処置を講じた。
ア 上下水道事業者に対して、新たに設計する添架水管橋について、橋りょう管理者等に橋りょうの耐震性を確認するなどして、原則として耐震性が確保されている橋りょうに上下水道管を添架すること、耐震性が確保されていないおそれがあることを把握した場合は耐震性を確保するための工法を検討することなどを周知した。
イ 上下水道事業者に対して、既設の添架水管橋について、上下水道管を添架している橋りょうの耐震性を橋りょう管理者等に確認するなどして添架水管橋の耐震性の状況を確認すること、確認の結果、耐震性が確保されていないおそれがある添架水管橋については、前記の51橋を含めて、耐震性を確保するための工法を検討することや添架水管橋に係る応急対策を策定することを周知した。そして、重要ラインに該当する添架水管橋については、上下水道事業者が確認した添架水管橋の耐震性の状況を報告させ、これを把握するとともに、必要に応じて助言等を行うこととした。