防衛省は、「日本国とアメリカ合衆国との間の相互防衛援助協定」(昭和29年条約第6号)に基づき、アメリカ合衆国政府(以下「合衆国政府」という。)から有償援助(Foreign Military Sales。以下「FMS」という。)により、防衛装備品等の調達を行っている(以下、FMSによる調達を「FMS調達」という。)。
FMSは、合衆国政府が武器輸出管理法等のアメリカ合衆国の法令等に従って防衛装備品等を諸外国等に提供する取引であり、合衆国政府から示された条件を受諾することにより防衛装備品等の提供を受けることができるものとなっている。また、通常の調達と異なり、FMS調達により取得する防衛装備品等のうち、航空機の機体等の主要な防衛装備品以外の整備器材、補用部品等(以下「FMS物品」という。)については、引合受諾書(注1)において、品目名、価格等の内訳が明確になっていないことがあり、納入の段階においても価格等が判明しない場合等がある。
物品管理法(昭和31年法律第113号)等によれば、国の物品については、各省各庁の長がその所管に属する物品の取得、保管、供用及び処分(以下、これらを合わせて「管理」という。)を行い、各省各庁の長からその管理に関する事務の委任を受けた職員が物品管理官として当該事務を行うこととされている。そして、物品管理官又は物品管理官の事務の一部を分掌する分任物品管理官は、物品管理簿等を備えて、その管理する物品の増減等の異動数量、現在高等を記録しなければならないこととされており、財務大臣が指定する機械、器具等(注2)(以下「重要物品」という。)については、その取得価格を物品管理簿に記録しなければならないこととされている。
また、各省各庁の長は、重要物品について、毎会計年度末の物品管理簿の記録内容に基づいて、物品増減及び現在額報告書(以下「物品報告書」という。)を作成し、財務大臣に送付しなければならないこととされており、物品報告書に基づいて財務大臣が作成した物品増減及び現在額総計算書により、物品の現在額等が、内閣から国会に報告されている。
陸上、海上、航空各自衛隊(以下「各自衛隊」という。)における物品の管理については、防衛省所管物品管理取扱規則(平成18年防衛庁訓令第115号)により、陸上、海上、航空各幕僚長(以下「各幕僚長」という。)が物品管理官に、部隊等の長等が分任物品管理官にそれぞれ指定されており、防衛大臣から物品の管理に関する事務が委任されている。
また、各自衛隊が補給管理規則等に基づいて実施するFMS物品の管理のうち、物品管理簿への記録等に係る手順については、表のとおりとなっている。
表 各自衛隊におけるFMS物品の物品管理簿への記録等に係る手順
| 組織 | FMS物品の物品管理簿への記録等に係る手順 |
|---|---|
| 陸上自衛隊 | 陸上自衛隊補給管理規則(平成19年陸上自衛隊達第71-5号)等によるFMS物品の物品管理簿への記録等に係る手順は、①及び②のとおりである。 ① FMS物品を調達する場合、陸上自衛隊補給統制本部(以下「陸自補給統制本部」という。)は、調達時に物品番号、取得価格(この時点では見積価格等を用いる。)、登録する価格の通貨単位(円貨、米ドル等)等の諸元を陸自業務システム(補給管理業務サービス)(以下「補給管理システム」という。)に登録する。
② FMS物品を受領した部隊及び機関(以下「受領部隊等」という。)の分任物品管理官は、受領後に補給管理システムに数量を登録して、取得価格を実際の価格に修正し、これらの情報を基に物品管理簿が作成される。
また、納入前に価格等の諸元が明確になっておらず、補給管理システムに登録できないFMS物品については、特段の定めはないが、③から⑤までの手順で登録を行っている。 ③ 受領部隊等は、FMS物品を受領した際に、合衆国政府が物品に添付する出荷証書に記載された品目名、米ドルでの価格や数量等の必要な情報を陸自補給統制本部に通知する。
④ 陸自補給統制本部は、通知された情報等を基に、FMS物品の取得価格、受領数量等を補給管理システムに登録する。
⑤ 受領部隊等の分任物品管理官は、登録された取得価格、受領数量等を確認する。 |
| 海上自衛隊 | 海上自衛隊物品管理補給規則(昭和56年海上自衛隊達第42号)等によるFMS物品の物品管理簿への記録等に係る手順は、①から⑤までのとおりである。 ① 海上自衛隊補給本部(以下「海自補給本部」という。)は、調達要求元又は受領部隊等から価格等の諸元の資料の送付を受けるなどしたFMS物品について、当該FMS物品の価格等の諸元を管理用データファイルに登録する。
② 受領部隊等の分任物品管理官は、管理用データファイルに登録された価格等の諸元を基に、FMS物品の価格、数量等を物品管理簿に記録(以下「本登録」という。)する。
③ FMS物品のうち適正に価格等の諸元を管理用データファイルに登録できず本登録を速やかに行うことができない物品(以下「未識別FMS物品」という。)を受領した場合は、海自補給本部が通知している「未識別FMS物品の仮登録要領について(通知)」(令和3年補本装補第597号。以下「仮登録要領」という。)に基づき、受領部隊等の分任物品管理官は、物品管理簿に仮の価格等を記録(以下「仮登録」という。)し、未識別FMS物品の管理に用いられているファイル(以下「未識別ファイル」という。)に必要事項を登録する。
④ 海自補給本部は、未識別ファイルに登録された未識別FMS物品について、海上自衛隊が保有する米軍補給資料等により速やかに価格等の諸元を入手して管理用データファイルに登録する。
⑤ 受領部隊等の分任物品管理官は、物品管理簿に仮登録となっている未識別FMS物品について、本登録する変更処理を行う。 |
| 航空自衛隊 | 航空自衛隊物品管理補給規則(昭和43年航空自衛隊達第35号。以下「管理補給規則」という。)等によるFMS物品の物品管理簿への記録等に係る手順は、①から⑤までのとおりである。 ① FMS物品を調達する場合、当該FMS物品の補給を担当する航空自衛隊の補給処(以下「担当補給処」という。)は、航空自衛隊補給本部(以下「空自補給本部」という。)が刊行した物品目録等に基づいて、品目名、物品番号等の諸元を航空自衛隊クラウドシステム(以下「空自システム」という。)で管理されている補給処管理原簿(以下「管理原簿」という。)に登録する。
② 受領部隊等の分任物品管理官は、管理原簿に登録されていないFMS物品の品目について、紙媒体の物品管理簿である管理記録カードを作成して一時的に受払等の状況を記録する。併せて、空自システムに受払等の記録ができない旨を空自補給本部に連絡し、担当補給処に対して、判明していない当該FMS物品の価格等の諸元を入手して管理原簿に登録するよう指示すること(以下、判明していない価格等の諸元を入手して管理原簿に登録するよう指示することを「登録指示」という。)を空自補給本部に依頼する。
③ 空自補給本部は、担当補給処に対して当該FMS物品の登録指示をする。
④ 空自補給本部から登録指示を受けた担当補給処は、空自補給本部と協力して、管理原簿の登録に必要な当該FMS物品の価格等の諸元を収集し管理原簿への登録を行う。
⑤ 受領部隊等の分任物品管理官は、管理記録カードに記録された当該FMS物品の受払状況等の情報を空自システム内の帳簿に登録し、それらの情報を基に物品管理簿が作成される。 |
そして、防衛省における物品報告書の作成等については、陸自補給統制本部、海自補給本部及び空自補給本部(以下、これらを合わせて「3補本」という。)の長が、分任物品管理官から重要物品に関する資料の送付を受けて重要物品の会計年度間の増減等をまとめた総括書等を作成した上で、物品管理官である各幕僚長に報告し、報告を受けた各幕僚長は物品報告書に関する資料を作成して、防衛大臣に報告している。防衛大臣は、各幕僚長等の防衛省各機関の物品管理官から提出を受けた物品報告書に関する資料を基に、物品報告書を作成している。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、正確性、合規性等の観点から、各自衛隊におけるFMS物品について、価格等の諸元が物品管理簿に適切に記録されているか、重要物品は物品報告書に適正に計上されているかなどに着眼して検査した。
検査に当たっては、令和2年度から5年度までの間に各自衛隊の基地等で受領するなどしたFMS物品を対象として、3補本、13補給処等(注3)において、出荷証書、管理原簿、物品管理簿等の関係資料及び物品管理簿への記録に必要な価格等の諸元の登録状況を確認するなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
陸自補給統制本部においては、納入されたFMS物品の補給管理システムへの取得価格の登録に当たり、円貨のほか、米ドル等の外貨でも登録を行うことが補給管理システム上で可能となっているが、登録に用いる通貨単位や、外貨で登録されたFMS物品が重要物品に該当するかどうかを確認する手続については定められていなかった(表参照)。
そこで、陸上自衛隊においてFMS調達により取得している主要な防衛装備品であるティルト・ローター機(オスプレイ)に係るFMS物品について、2年6月から6年3月までの間に受領した3,216品目の取得価格の登録状況をみたところ、陸自補給統制本部は、3,216品目のうち3,212品目については受領したFMS物品に添付されている出荷証書等に記載された米ドルの価格を受領時の支出官レート(注4)で円貨に換算して補給管理システムに登録していた。一方、残りの4品目については出荷証書等に記載された米ドルの価格をそのまま転記して取得価格として登録しており、この中には受領時の支出官レートにより円貨に換算すると取得価格が300万円以上の重要物品に該当するものが3品目(注5)含まれていた。
しかし、陸自補給統制本部は、補給管理システムに登録されたFMS物品について、物品報告書の基礎になる報告対象物品表の作成に当たり、取得価格の通貨単位を確認することなく、円貨で登録されていることを前提として取得価格の数値が300万以上で登録されているFMS物品の品目を抽出していたため、当該3品目は重要物品として扱われていなかった。その結果、5年度の物品報告書において、重要物品に該当するFMS物品3品目、計3076万余円が計上されていなかった。
海自補給本部が発出した仮登録要領では、未識別FMS物品について、海自補給本部が価格等の諸元を入手して管理用データファイルに登録する必要があることは記載されていたが、価格等の諸元を入手する手順や入手までの進捗管理の方法等の手続の詳細については定められていなかった(表参照)。
そこで、仮登録要領が発出された3年3月から6年3月までの間に仮登録された未識別FMS物品の状況をみたところ、価格等の諸元を入手する手続が進められていないことなどから5年度末時点で仮登録の状態となっているFMS物品が302件(注6)あり、このうち142件は仮登録の状態が2年以上となっていて物品管理簿への本登録に時間を要している状況となっていた。
そして、302件のうち34件は、受領したFMS物品に添付された出荷証書等に価格等の諸元が全部又は一部記載されていたのに、海自補給本部が出荷証書等の記載内容等について受領部隊等に確認するなどしておらず、仮登録の状態が継続していたものであった。また、34件の中には、重要物品に該当する音響測定艦に関する器材1件1品目が含まれており、当該FMS物品は、価格等の諸元が入手できる状態であったにもかかわらず仮登録の状態が継続していたため、物品管理簿に適切に記録されず、重要物品の計上対象から漏れていた。その結果、5年度の物品報告書において、重要物品に該当するFMS物品1品目、1億0193万余円が計上されていなかった。
航空自衛隊におけるFMS物品の管理原簿への登録状況等についてみたところ、航空自衛隊三沢基地において4年2月から6年3月までの間に受領した滞空型無人機(グローバルホーク)に係るFMS物品1,045品目のうち、受領するまでに価格等の諸元が判明しなかったものは837品目となっていた。
三沢基地の分任物品管理官(以下「三沢基地分任官」という。)は、管理補給規則等に基づき、当該837品目のFMS物品について管理記録カードを作成して一時的に受払等の状況を記録することとするとともに、空自補給本部に対して、担当補給処に対して登録指示を行うように依頼するなどしていた(表参照)。そして、業務の手順は管理補給規則等に規定されていないものの、実務上、三沢基地分任官は、空自補給本部に対する依頼の都度、判明しているFMS物品の品目名、物品番号等の諸元を、空自システムの共有フォルダ内に格納されている管理原簿未登録の物品一覧表(以下「リスト」という。)に入力した上で、入力と併せて口頭で空自補給本部に登録指示の依頼を行っていた。また、空自補給本部は、三沢基地分任官からの依頼を受けて、リストに入力された諸元を確認した上で、各担当補給処に対して、価格等が判明していないリスト上のFMS物品について、速やかな管理原簿への登録指示を漏れなく行ったとしていた。
そこで、837品目に係るリストへの入力状況を確認したところ、837品目のうち164品目については、リストに記載がなく、各担当補給処に対する登録指示の対象から漏れていた。そして、空自補給本部は、三沢基地分任官から受けた登録指示の依頼や、依頼を受けて行った各担当補給処に対する登録指示に係る記録を残していなかったため、リスト上から対象品目が漏れている原因や経緯等について確認できない状況となっていた。
その結果、164品目のFMS物品が適切に物品管理簿に記録されておらず、これらのうち重要物品に該当するFMS物品50品目(注7)、計11億4121万余円が5年度の物品報告書に計上されていなかった。
このように、3補本において、重要物品に該当するFMS物品が適正に物品報告書に計上されていなかった事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、次のことなどによると認められた。
ア 陸自補給統制本部において、補給管理システム上で登録するFMS物品の取得価格の通貨単位等を具体的に定めていなかったこと
イ 海自補給本部において、仮登録の状態が継続している物品について、速やかに価格等の諸元を入手して物品管理簿に記録することの重要性に対する理解が十分でなかったこと、また、速やかに価格等の諸元を入手して物品管理簿に記録するための手続を定めていなかったこと
ウ 空自補給本部において、登録指示の依頼等に係る記録を残していなかったこと、また、当該記録に基づいて、登録指示の依頼や登録指示に漏れがないかについて、部隊等との間で相互に適宜確認するなどして確実に管理原簿に登録を行う態勢が十分でなかったこと
本院の指摘に基づき、3補本は、物品報告書が重要物品の現況を反映した適正なものとなるよう、次のような処置を講じた。
ア 陸自補給統制本部は、7年8月までに、FMS物品を補給管理システムに登録する際の取得価格の通貨単位を円貨に統一することを新たに要領に定め、部隊等に対して通知を発して周知するなどするとともに、物品管理簿に外貨で記録されていた品目の取得価格を円貨に修正した。
イ 海自補給本部は、物品管理簿に適切に記録されていなかった重要物品に該当するFMS物品1品目について、価格等の諸元に基づいて物品管理簿への記録を適切なものとした。
また、7年8月に、仮登録要領を改正して、価格等の諸元を入手するための問合せ、調整先等を含めた手順や、価格等の諸元を入手するまでの進捗管理の方法等、仮登録後速やかに物品管理簿に適切に記録するための手続を新たに定め、部隊等に対して通知を発して周知した。
ウ 空自補給本部は、物品管理簿に適切に記録されていなかった重要物品に該当するFMS物品50品目について、価格等の諸元に基づいて物品管理簿への記録を適切なものとした。
また、7年8月に、通知を発出して、価格等の諸元が不明なFMS物品の管理原簿への登録指示の依頼や担当補給処に対する登録指示を所定の様式に基づいて行い、これらの記録を保存した上で、登録指示の依頼等に漏れがないかについて、担当補給処及び受領部隊等の分任物品管理官と連携して定期的に確認し、処置漏れなどを防止することとして、部隊等に周知した。そして、当該通知により部隊等に周知した内容について、航空自衛隊物品管理補給手続(令和5年補給本部長制定)に反映することとした。