【意見を表示したものの全文】
見返り資金の使用状況等について
(令和7年10月22日付け 独立行政法人国際協力機構理事長宛て)
標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり意見を表示する。
記
我が国は、国際社会の平和と発展に貢献し、これを通じて我が国の安全と繁栄の確保に資することを目的として、政府開発援助を贈与や貸付けなどの形態で実施している。
貴機構及び外務省が実施する政府開発援助のうち、無償資金協力は、開発途上地域の政府等又は国際機関に対して、返済の義務を課さないで資金を贈与することにより実施されるものである。そして、無償資金協力には、食糧不足に直面している開発途上地域の政府等に対して、食糧を調達するための資金を贈与する無償資金協力(食糧援助)がある(注1)。また、過去には、食用作物の増産のための肥料や農業機械等を調達するための資金を贈与する無償資金協力(貧困農民支援)(平成17年度以前は無償資金協力(食糧増産援助))が実施されていた(注2)。
我が国と援助の相手となる開発途上国の政府(以下「相手国政府」という。)との二国間における無償資金協力(食糧援助)(以下「KR」という。)並びに無償資金協力(食糧増産援助)及び無償資金協力(貧困農民支援)(以下、両者を合わせて「2KR」という。)においては、相手国政府が、贈与資金により調達した穀物、農業機械又は資機材を国内市場で売却するなどして回収した資金(以下「見返り資金」という。)を経済社会開発に資する事業に使用するという見返り資金制度を利用することが可能となっている(注3)。
貴機構が定めた「食糧援助および貧困農民支援(JICA実施分)にかかる見返り資金制度の運用に関するガイドライン」(平成22年7月独立行政法人国際協力機構制定。以下「ガイドライン」という。)等によれば、見返り資金は、贈与資金による開発途上国の食糧不足の緩和、貧困削減等という開発効果に加え、開発途上国の経済社会開発のために使用することによる更なる開発効果が期待されるなどとされている。そして、見返り資金について、我が国の経済協力事業では適切な支援が困難な事業や、我が国の経済協力事業の円滑な実施等のための相手国政府負担分等に対する財源として活用させることとされている。
KR及び2KRの実施に当たり、我が国と相手国政府との間で取り交わす交換公文、贈与契約及び事業実施に係る詳細手続に関する合意議事録によれば、物品の調達が効率的、円滑かつ適切に実施されるよう、相手国政府は我が国から推薦された団体(以下「調達代理機関」という。)と調達代理契約を締結して、調達代理機関は相手国政府に代わって物品を調達することとされている。
そして、相手国政府は、所定の積立期限(贈与契約締結後2年等)までに、事業ごとに開設した相手国政府名義の銀行口座に見返り資金として、交換公文等に基づく積立義務額以上の金額を積み立てることとなっている。
見返り資金は、相手国政府に帰属するものの、我が国からの贈与資金により調達した物品を売却するなどして回収した資金であることから、外務省及び貴機構は、見返り資金の積立て及び使用について外交政策的に一定の関与を行うこととしている。そして、贈与契約等によれば、不適切な用途への使用を防止するなどのために、相手国政府は、銀行口座の見返り資金を使用する際に、貴機構の在外事務所等に対して見返り資金の使用に係る協議(以下「使途協議」という。)を行うこととされている。使途協議に当たり、相手国政府は、見返り資金の使用に係る申請を行い、在外事務所等は、申請内容を確認して検討し、外務省の同意を得た上で、見返り資金の使用を承認することとなっている。
ガイドライン等によれば、在外事務所等は、使途協議に当たり、相手国政府の見返り資金の残高、使用状況等の確認を実施することとされている。
贈与契約等によれば、在外事務所等は、KR及び2KRについて、原則として贈与契約締結後、KRについては3年間、2KRについては5年間は、調達代理契約に基づき、調達代理機関から、銀行口座の残高証明書とともに、相手国政府の見返り資金の積立額及び積立義務額等(以下、これらを合わせて「積立額等」という。)の報告を半年ごとに受けることとされている。そして、在外事務所等は、調達代理機関から積立額等の最終報告を受けた後は、見返り資金の不正使用の防止、相手国政府による見返り資金の使途に係る適格性の確認等の観点から、相手国政府の銀行口座の見返り資金が全て使用されるまで、残高、使用状況等について、使途協議が行われるなどした際に確認し、貴機構本部に報告することになっている。そして、貴機構本部において、相手国政府の見返り資金の残高、使用状況等を取りまとめて確認することとなっている。
(検査及び調査の観点及び着眼点)
本院は、有効性等の観点から、KR及び2KRで積み立てられた見返り資金は、相手国政府により適切に使用され、開発効果が速やかに発現しているかなどに着眼して検査及び調査を実施した。
(検査及び調査の対象及び方法)
本院は、貴機構が平成20年度から22年度までに贈与契約を締結した25か国のKR38事業(贈与額計252億円)及び20年度から26年度までに贈与契約を締結した28か国の2KR51事業(贈与額計167億7500万円)の計42か国の計89事業(贈与額計419億7500万円)を対象として検査した。
検査に当たっては、貴機構本部及び8か国(注4)に所在等する8在外事務所等(注5)において、見返り資金に係る関係書類等を確認して説明を聴取するなどして会計実地検査を行った。また、1在外事務所(注6)については、見返り資金の使用状況等について、ウェブ会議システムを活用して説明を聴取するなどして検査した。そして、42か国のうち上記の8在外事務所等及び1在外事務所が分掌する9か国(注7)以外の国の事業の状況については、必要に応じて貴機構本部を通じて在外事務所等に確認するなどして検査した。
また、調査に当たっては、貴機構の職員の立会いの下に、相手国政府から協力が得られた範囲内で1か国(注8)の相手国政府の担当職員から説明を受けるなどした。さらに、相手国政府が保有している資料等で調査上必要なものがある場合は、貴機構を通じて入手した。
(検査及び調査の結果)
検査及び調査を実施したところ、次のような事態が見受けられた。
検査の対象とした89事業は、令和6年度末時点で、いずれも見返り資金の積立期限から6年以上が経過していた。そして、KR及び2KRの別に見返り資金の残高の状況をみると、表1のとおり、6年度末時点の残高が、KRについては12か国16事業の計16億9574万余円、2KRについては20か国32事業の計30億3309万余円となっており、計26か国(注9)48事業において相手国政府の口座に計47億2883万余円の残高がある状況となっていた。
表1 KR及び2KRの贈与契約締結年度別の見返り資金の残高の状況
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事業別
贈与契約 締結年度 |
KR | 2KR | 計 | |||||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 贈与額 (千円) |
左の贈与額により調達した物品を売却するなどして回収した見返り資金の令和6年度末時点の残高等 |
贈与額 (千円) |
左の贈与額により調達した物品を売却するなどして回収した見返り資金の6年度末時点の残高等 |
贈与額 (千円) |
左の贈与額により調達した物品を売却するなどして回収した見返り資金の6年度末時点の残高等 |
|||||||
| 国数 注(1) |
事業数 | 見返り資金 残高(千円) |
国数 注(1) |
事業数 | 見返り資金 残高(千円) |
国数 注(1) |
事業数 | 見返り資金 残高(千円) |
||||
| 平成20年度 | 4,330,000 | 3 | 3 | 472,371 | 2,210,000 | 2 | 2 | 146,521 | 6,540,000 | 5 | 5 | 618,892 |
| 21年度 | 18,960,000 | 11 | 12 | 1,223,152 | 3,830,000 | 6 | 6 | 942,809 | 22,790,000 | 15 | 18 | 2,165,961 |
| 22年度 | 1,910,000 | 1 | 1 | 221 | 2,775,000 | 7 | 7 | 838,454 | 4,685,000 | 7 | 8 | 838,675 |
| 23年度 | 1,880,000 | 4 | 4 | 472,629 | 1,880,000 | 4 | 4 | 472,629 | ||||
| 24年度 | 3,190,000 | 7 | 7 | 340,447 | 3,190,000 | 7 | 7 | 340,447 | ||||
| 25年度 | 990,000 | 2 | 2 | 205 | 990,000 | 2 | 2 | 205 | ||||
| 26年度 | 1,900,000 | 4 | 4 | 292,025 | 1,900,000 | 4 | 4 | 292,025 | ||||
| 計 | 25,200,000 | 12 | 16 | 1,695,744 | 16,775,000 | 20 | 32 | 3,033,092 | 41,975,000 | 26 | 48 | 4,728,837 |
そして、これらの26か国48事業の見返り資金47億2883万余円について、積立期限後の経過年数別に残高の状況をみたところ、表2のとおり、積立期限から10年以上15年未満が経過している事業の残高が21か国31事業の計36億2353万余円(26か国48事業の見返り資金の残高の76.6%)、6年以上10年未満が経過している事業の残高が13か国17事業の計11億0530万余円(同23.4%)となっていた。
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見返り資金の積立 期限後の経過年数 事業別 |
10年以上 15年未満 |
10年未満 (6~9年) |
計 | |
|---|---|---|---|---|
| KR | 国数 | 12 | ― | 12 |
| 事業数 | 16 | ― | 16 | |
| 見返り資金残高(千円) | 1,695,744 | ― | 1,695,744 | |
| 2KR | 国数 | 13 | 13 | 20 |
| 事業数 | 15 | 17 | 32 | |
| 見返り資金残高(千円) | 1,927,785 | 1,105,307 | 3,033,092 | |
| 計 | 国数 注(1) | 21 | 13 | 26 |
| 事業数 | 31 | 17 | 48 | |
| 見返り資金残高(千円) | 3,623,530 (76.6%) |
1,105,307 (23.4%) |
4,728,837 (100.0%) |
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6年度末時点で見返り資金の残高がある26か国48事業に係る使途協議の状況を確認したところ、20か国38事業の見返り資金計32億0559万余円については、6年度末時点から直近5年間において使途協議が行われていないことなどから、直近5年間は相手国政府により使用されていないと認められた。このうち、7か国13事業の見返り資金計11億7776万余円については、積立て後一度も使途協議が行われていないことなどから、相手国政府により一度も使用されていないと認められた。
そして、貴機構を通じて相手国政府に、見返り資金の使途協議を行っていない理由を確認したところ、相手国政府は、見返り資金の使用計画がなかったなどとしていた。そして、相手国政府の中には、担当者の交代等の際に関係資料の引継ぎがなされなかったことなどにより、見返り資金の口座の存在を把握していないものもあった。
このように、6年度末時点における26か国48事業の見返り資金の残高47億2883万余円は、積立期限後6年以上が経過していて、長期にわたり使用されておらず、中には、積立期限後10年以上経過しているものや、積立て後一度も使途協議が行われていないものが見受けられる状況となっており、見返り資金による更なる開発効果が速やかに発現していないと認められた。
積立期限後少なくとも6年以上が経過しており、長期にわたり使用されていない見返り資金があることから、26か国48事業の見返り資金計47億2883万余円について、在外事務所等における見返り資金の使用に向けた相手国政府に対する働きかけについてみたところ、見返り資金の早期の使用を促すなどの働きかけを行っている在外事務所等は確認できなかった。
(改善を必要とする事態)
貴機構が実施したKR及び2KRにおいて積み立てられた見返り資金について、長期にわたり使用されておらず、見返り資金による更なる開発効果が速やかに発現していない事態は適切ではなく、改善の要があると認められる。
(発生原因)
このような事態が生じているのは、貴機構において、相手国政府の見返り資金について、長期にわたり使用されておらず開発効果が発現しないままとなっているのに、在外事務所等から相手国政府に対して見返り資金の早期の使用に向けた働きかけを行っていないことなどによると認められる。
見返り資金については、KR及び2KRの贈与資金による開発途上国の食糧不足の緩和、貧困削減等という開発効果に加え、開発途上国における経済社会開発のために使用することによる更なる開発効果の発現が期待されるなどしている。
ついては、貴機構において、相手国政府の見返り資金が適切に使用され、見返り資金による更なる開発効果が速やかに発現されるなどするよう、次のとおり意見を表示する。
ア ガイドラインを改訂するなどして、在外事務所等が相手国政府の見返り資金の残高、使用状況等を適時適切に確認して、長期にわたり使用されておらず、使用される予定がない見返り資金を把握した場合は、相手国政府に対して見返り資金の早期の使用に向けた働きかけを行うよう、明確に定めて在外事務所等に周知徹底すること
イ 貴機構本部において、在外事務所等が行う見返り資金の残高、使用状況等の確認の状況について適時適切に把握して、見返り資金の早期の使用に向けた働きかけを在外事務所等に対して指示することとすること