独立行政法人労働者健康安全機構(以下「機構」という。)は、機構が設置する病院等において、売買、請負等の調達を行う場合の契約事務について、会計規程(平成16年規程第8号)、会計細則(平成16年達第35号)等で定めるとともに、契約の具体的な事務処理の流れなどについて、「契約及び管財業務マニュアル」(以下「マニュアル」という。)により、職員等に周知するなどしている。
会計規程等によれば、売買、請負等の契約を締結する場合は、原則として、公告して、申込みをさせることにより一般競争入札に付さなければならないこととされている。ただし、災害復旧その他急を要する場合であって競争に付する暇がないときや、契約に係る予定価格が会計細則で定める所定の額(工事の場合は250万円。以下「基準額」という。)を超えないときなどについては、随意契約によることができることとされている(以下、予定価格が基準額を超えないことを理由とした随意契約を「少額随契」という。)。また、合理的な理由もなく意図的に分割することで、予定価格を基準額以下にして少額随契によることはできないこととなっている。
会計規程等によれば、随意契約により契約を締結するに当たっては、なるべく2人以上の者から見積書を徴さなければならないこととされている。そして、契約の相手方を決定したときは、契約の目的、契約金額等を記載した契約書を作成しなければならないこととされている。
また、マニュアルによると、機構における契約事務は、次のとおり行うこととなっている。
① 工事等を実施しようとする場合は、調達内容、要求理由、予定される契約方式等を記載した書類を作成して起案し、契約担当役の決裁を受ける(以下、これら一連の手続を「実施決裁」という。)。
② 実施決裁後、予定価格を算定した上で、実施決裁において決定した契約方式に応じた入札等の手続を行って、契約の相手方及び契約金額を決定し、契約を締結する。
機構が設置する東北労災病院は、令和6年9月30日に、同病院内に複数あった相談窓口を集約した総合患者サポートセンター(以下「センター」という。)を新たに設置している。そして、同病院は、同年8月23日から9月4日までの間に、センターを設置するために必要なパーテーションを設置するなどの工事(以下「設置工事」という。)について、キングラントウホク株式会社(以下「会社」という。)と7件の工事請負契約(契約金額計9,592,000円)を少額随契により締結している。
会社は、同年9月23日までに全ての工事を完了し、東北労災病院は、同年11月から12月までの間に、7件の工事請負契約書に記載された契約金額の全額を会社に対して支払っている。
本院は、合規性等の観点から、設置工事に係る契約事務が会計規程等に照らして適正に行われているかなどに着眼して、6年度に東北労災病院が会社との間で締結した7件の工事請負契約を対象として、機構本部及び東北労災病院において、契約関係書類等を確認するなどして会計実地検査を行った。
検査したところ、次のとおり適正とは認められない事態が見受けられた。
東北労災病院は、設置工事の仕様等を検討する段階で、工事の規模を考慮すると一般競争入札に付する必要があり、センターの開設予定日としていた10月1日までに設置工事を完了するためには、7月上旬に仕様を確定することが必要であるとしていた。
しかし、設置工事の仕様の確定が8月上旬になったことから、同病院は、センターの開設予定日までに設置工事を完了することを優先して、一般競争入札に付さずに設置工事を発注することにした。そして、同病院は、8月上旬に、実施決裁、予定価格の算定、一般競争入札による契約の相手方及び契約金額の決定、契約書の作成等の契約事務を行うことなく、設置工事を口頭で会社に対して発注していた。
その後、同病院は、少額随契によることができる場合に該当する契約であると装うために、設置工事を分割して各契約の予定価格が基準額である250万円を超えないものとなるように、会社との間で、工事の内容や価格の調整を行い、7件の工事請負契約書を作成するなどしていた。さらに、同病院は、適正な契約事務に基づく随意契約であるように装うために、7件の工事請負契約について、それぞれ、会社から見積書を受領するとともに、会社を通じて別の業者から見積書を入手することで、形式上、2人以上の者から見積書を徴して、それぞれの見積書に記載された金額を比較したことにしていた。
また、機構本部によれば、会計規程等に定める災害復旧その他急を要する場合であって競争に付する暇がないときについては、早期に契約しなければ、人命に影響を及ぼすほど日時が切迫した場合に限定されるなどとしている。しかし、7件の工事請負契約については、この要件にも該当しないと認められた。
このように、設置工事の実施に当たり、随意契約によることができる場合に該当していないのに、一般競争入札に付さずに、口頭で会社に対して発注した上で、少額随契によることができる場合に該当すると装うために分割して契約書を作成するなどしていた一連の契約事務は、会計規程等に違反していて適正を欠いており、これに係る契約金額計9,592,000円が不当と認められる。
このような事態が生じていたのは、東北労災病院において会計規程等を遵守して契約事務を行わなければならないことについての認識が著しく欠けていたこと、機構本部において東北労災病院に対する会計規程等を遵守することの重要性等についての指導が十分でなかったことなどによると認められる。