• 国会及び内閣に対する報告(随時報告)
  • 会計検査院法第30条の2の規定に基づく報告書
  • 令和7年6月

国内開発された固定翼哨戒機(P-1)の運用等の状況について


3 検査の状況

(1) P-1の開発、運用等に要した経費等

装備庁は、P-1のLCCとして、現時点で見積もることが困難である運用停止後の廃棄段階の経費を除き、①構想、②研究・開発、③量産・配備及び④運用・維持の各段階の経費を算定することとしている。そして、装備庁は、次期固定翼哨戒機の調査研究等を開始した平成3年度から運用・維持の終了を想定する令和36年度までの経費に係る5年度末時点の見積額を計4兆0907億余円と算出している。

装備庁は、当該見積額のうち5年度までに発生する経費について、同年度までに締結した契約の契約額を集計することにより算出していることから、その内訳を確認したところ、平成3年度から令和5年度までの間に締結されたP-1の開発、運用等に係る契約は、図表1-1のとおり、計4,656件、契約額計1兆7766億1506万余円となっていた。

図表1-1 P-1の開発、運用等に係る契約の件数、契約額等(平成3年度~令和5年度)

段階 契約件数 契約額 経費の内容
①構想 3 4575万余円 構想検討に係る経費
②研究・開発 152 3101億0010万余円 試験研究費等
③量産・配備 727 1兆0449億6752万余円 P-1の取得費等
④運用・維持 3,774 4215億0167万余円 補用品費、修理役務費等
4,656 1兆7766億1506万余円

(2) P-1の可動状況

海幕は、海上自衛隊が保有しているP-1のうち定期修理中及び定期整備中の機体を除いた全機について、全ての機器等に不具合が発生しておらず任務が制約なく遂行できる可動機(以下「任務可動機」という。)とすることを目標としている。

会計実地検査を行った3航空基地のうち、6年度に初めてP-1が配備された下総航空基地を除いた2航空基地(鹿屋、厚木両航空基地)において、会計実地検査時点及び元年度から5年度までの間の可動状況を確認したところ、任務可動機の数は限られており、P-1の可動状況は低調となっていた。

そして、会計検査院が検査したところ、P-1の可動状況が低調となっている要因等として、F7-10エンジンの一部素材の腐食による性能低下、搭載電子機器等の不具合、機体用交換部品の調達等に係る調達リードタイムの長期化等が見受けられた(図表2-1参照)。

図表2-1 P-1の可動状況が低調となっている要因等

図表2-1 P-1の可動状況が低調となっている要因等画像

これらの可動状況が低調となっている要因等についての検査の結果は、(3)から(5)までのとおりである。

(3) F7-10エンジンの運用等の状況

ア 不具合の状況及びその原因

F7-10エンジンの運用等の状況を確認したところ、会計実地検査時点まで継続的にF7-10エンジンの一定数が性能低下の状態になるなどして使用不能となっており、P-1の可動状況が低調となる要因となっていた。

P-1は、警戒監視活動等の任務を遂行するに当たり、目標の捜索等のために海上を長時間飛行することがあり、飛行する高度によってはF7-10エンジンのファンから海水の塩分を含んだ空気を取り込むことにより、F7-10エンジンの内部に空気中の塩分が付着することが想定される。そして、塩分により部品が腐食すると、F7-10エンジンの推力の低下につながるおそれがあることから、F7-10エンジンは、十分な耐久性及び耐腐食性を有する必要があるとされている。

しかし、F7-10エンジンが性能低下の状態になるなどした原因についてみると、次のとおり、F7-10エンジンの一部の素材に腐食が生ずるなどしたことによるものが多くなっていた。

① F7-10エンジンの一部の素材に空気中の塩分が付着するなどして腐食が生ずるなどした(以下、これを「第1回目腐食不具合」という。)。

② 一定の使用時間が経過したF7-10エンジンにおいて、第1回目腐食不具合が発生したのとは別の素材に空気中の塩分が長時間付着したことにより、腐食が生ずるなどした(以下、これを「第2回目腐食不具合」といい、第1回目腐食不具合と合わせて「腐食不具合」という。)。

イ 不具合に対する対応状況

腐食不具合の原因は、いずれもF7-10エンジンの一部の素材に空気中の塩分が付着したことなどによるものであったことから、補給本部は、IHIからの提案を受けて、第1回目腐食不具合及び第2回目腐食不具合のそれぞれについてF7-10エンジンの素材に係る改修指示を行っていた。

そして、第2回目腐食不具合に対するF7-10エンジンの素材に係る改修の進捗状況を確認したところ、会計実地検査時点で改修が必要となるF7-10エンジンが一定数残っており、海幕はIHIにおける修理体制を増強するなどして可能な範囲で速やかに改修を実施していたものの、改修には一定の期間を要することから、改修が十分に進んでいるとはいえない状況となっていた。

ウ 腐食不具合に関する契約不適合修補等の請求等の状況

防衛省が締結する契約の中には、契約に基づき納入された物品が契約に適合していないなどの場合(以下「契約不適合」という。)に、原則として部隊等に当該物品を納入した日から1年を経過した日又は当該物品を搭載した航空機の納入日のいずれか遅い日以前に、防衛省が契約の相手方に対して修補、代金の減額又は契約の解除(以下、これらを合わせて「契約不適合修補等」という。)の請求等を行うことができることとなっているものがある。そして、契約不適合修補等の請求等を受けた契約の相手方は、当該物品に発生した不具合が契約不適合に該当するかなどを調査することになっている。

F7-10エンジンが部隊に納入されてから発生した不具合に関する契約不適合修補等の請求等の状況を確認したところ、第1回目腐食不具合に関しては契約不適合修補等の請求等が行われたものがあり、いずれもIHIが修補を行っていたが、第2回目腐食不具合に関して契約不適合修補等の請求等が行われたものはなかった。

補給本部は、第2回目腐食不具合に関して契約不適合修補等の請求等を行っていない理由について、契約不適合修補等の請求等を行うことができるか検討したものの、第2回目腐食不具合は一定の使用時間が経過したF7-10エンジンに発生していて第2回目腐食不具合が発生した時点で既にエンジンの納入日から1年が経過していたこと、また、承認された図面どおりに製造されたものであって契約不適合に該当しないことが判明したためとしていた。

エ 技術・実用試験において発生していた不具合及びこれに対する対応状況

(ア) 腐食性試験の概要

F7-10エンジンは、XF7-10エンジンとしての技術試験及び次期固定翼哨戒機に搭載した状態で技術・実用試験を行った上で海上自衛隊の部隊に配備されている。

装備庁は、XF7-10エンジンの技術試験の一環として、耐腐食性等を十分に有していることを確認するための試験(Qualification Test。以下「QT」という。)を実施するに当たり、QTの手順、評価項目等をまとめた「次期固定翼哨戒機用エンジン QT評価基準」(平成18年防衛庁技術研究本部技術開発官(航空機担当)付次期固定翼哨戒機・次期輸送機開発室作成。以下「QT評価基準」という。)を作成していた。そして、装備庁は、XF7-10エンジンのQTを実施するに当たり、試験中のデータの分析、労務の提供等の技術支援を受けるための役務請負契約をIHIと締結していた。

QT評価基準の根拠やQTの実施状況について確認したところ、装備庁は、QT評価基準のうち、XF7-10エンジンが耐腐食性を十分に有していることを確認するための試験(以下「腐食性試験」という。)を実施する手順、評価項目等(以下「腐食性評価基準」という。)を作成するに当たり、軍用機用エンジンにおける各種試験の実施方法等が記載されたアメリカ合衆国軍隊の公共規格の一つである「統合運用のための仕様ガイドライン 航空機用タービンエンジン」(平成16年1月アメリカ合衆国国防総省編JSSG-2007A。以下「統合仕様ガイドライン」という。)を参照していた。そして、装備庁は、平成19年12月に、統合仕様ガイドラインを参照して、所定の条件で腐食の影響を確認する試験(以下「当初腐食性試験」という。)を腐食性試験の項目の一つとして定めていた。

(イ) 当初腐食性試験時不具合及びこれに対する対応

装備庁が、腐食性評価基準に基づき、腐食性試験を実施したところ、21年8月から9月にかけて実施した当初腐食性試験において、XF7-10エンジンの一部の素材に空気中の塩分が付着するなどして腐食が生ずるなどの不具合(以下「当初腐食性試験時不具合」という。)が発生した。

そのため、装備庁は、IHIと協議の上、腐食性試験の実施条件の見直しについて検討することとした。そして、検討の結果、装備庁は、腐食性評価基準を作成する際に参照した統合仕様ガイドラインはアメリカ合衆国軍隊の航空母艦に搭載される回転翼航空機を基準としたものであり、次期固定翼哨戒機ではそのような運用は想定されないなどとして22年5月に当初腐食性試験の条件を見直した上で、新しい条件による試験(以下「新条件腐食性試験」という。)を行い、同年11月にXF7-10エンジンが腐食性試験に合格したとしていた。

(ウ) 新条件腐食性試験実施後不具合及びこれに対する対応

装備庁は、新条件腐食性試験を行い、腐食性試験に合格したとしていたが、次期固定翼哨戒機の技術試験の成果を取りまとめた「研究開発評価会議資料 次期固定翼哨戒機 技術試験の成果」(平成25年防衛省技術研究本部技術開発官・航空装備研究所・電子装備研究所作成)等によると、22年8月にも当初腐食性試験時不具合と類似の不具合が再度発生したため、新条件腐食性試験の後に実施する予定であった試験の一部を中断するなどしたとされていた。

そこで、当初腐食性試験時不具合と類似の不具合が再度発生した経緯等を確認したところ、装備庁がIHIに行わせた分析の結果によると、新条件腐食性試験の実施後に発生した当該不具合は、XF7-10エンジンの一部の素材に空気中の塩分が付着するなどして腐食が生ずるなどの不具合(以下「新条件腐食性試験実施後不具合」という。)であると推定されていた。

そして、装備庁は、次のことから、新条件腐食性試験実施後不具合に対応するための特別な整備、処置等は不要であり、必要に応じて所要の処置を検討することとしていた。

① 新条件腐食性試験は回転翼航空機と次期固定翼哨戒機の運用環境の差異を比較するなどしたIHIの分析結果を踏まえて設定されたものであること

② IHIから、新条件腐食性試験実施後不具合は偶発的に発生したものであり、新条件腐食性試験実施後不具合に関する特別な整備、処置等は不要であるとする分析結果が報告されたこと

装備庁は、新条件腐食性試験実施後不具合により新条件腐食性試験の実施後に予定していた試験の一部が中断し、また、腐食性評価基準を作成するに当たって参照した統合仕様ガイドラインには実際のデータを取得することに代えて分析の結果によりエンジンの性能の一部を確認することが可能である旨の手順に関する明確な記述はなかったものの、IHIの分析結果を踏まえて、過去に採用された実績のある検証方法として統合仕様ガイドラインに記述されている実証方法とデータ分析手法を併用して、XF7-10エンジンが腐食性試験に合格したと判断していた。

上記のような開発段階における不具合に関する判断については、装備庁において当時の知見等に基づき必要な検討を行った上でのものではあったものの、運用段階で腐食不具合が一定数発生した状況を踏まえると、P-1について今後更なる能力向上等を行う場合には、腐食不具合が発生した原因の分析結果等を必要に応じて活用するなどして設計に反映させるよう検討する余地はあると思料される。

(エ) 当初腐食性試験時不具合及び新条件腐食性試験実施後不具合に関する契約不適合修補等の請求等の状況

装備庁は、当初腐食性試験時不具合及び新条件腐食性試験実施後不具合については、契約不適合に該当しなかったとしている。

また、IHIは、XF7-10エンジンの設計・試作の時点で、海幕及び装備庁から与えられた限りの情報を最大限に活用するなどしていたものの、詳細な運用方法に基づく具体的な数値等による設計要求がなされなかったため、設計・試作の時点ではP-1の運用段階における不具合までを予見することはできなかったとしている。そして、IHIは、海幕又は装備庁から契約不適合修補等の請求等が行われたとしても、基本的には否認することになったとしている。

(オ) 運用段階における対応状況

F7-10エンジンについては、P-1の運用段階の初期において、第1回目腐食不具合が一定数発生し、P-1の可動に支障を来す状況となっていた。他方、開発段階においても、XF7-10エンジンの腐食性試験において、当初腐食性試験時不具合及び新条件腐食性試験実施後不具合が発生していた。

装備庁は、新条件腐食性試験実施後不具合について、これに対応するための特別な整備、処置等は不要であるとしていたものの、塩分が付着した状態でのXF7-10エンジンの保管期間とXF7-10エンジンの素材の腐食の進行度合いに関する分析をIHIに行わせていた。その結果、XF7-10エンジンの純水水洗には付着した塩分の除去に一定の効果があることを確認したとして、これに係る分析を行うことがIHIから提案された。

そして、補給本部は、IHIからの提案を踏まえて、F7-10エンジンの使用時間延長に関する役務請負契約において素材の腐食の進行度合いなどに関する分析等を行っていたが、次のことから、P-1の運用段階の初期においては残留塩分量の除去を目的に定期的にF7-10エンジンの純水水洗を行うこととしていなかった。

① F7-10エンジンの純水水洗は整備部隊にとって作業負担が大きいこと

② 海上で警戒監視活動等に従事した場合にはその直後に機体の洗浄を行っていること

③ IHIから新条件腐食性試験実施後不具合に対応するための特別な整備、処置等は不要であるとする分析結果が報告されていたこと

④ 必要に応じて行うこととされている油分を除去するためのF7-10エンジンの洗浄を行えば整備作業としては足りること

その後、補給本部は、第1回目腐食不具合が継続的に発生していることを受けて、IHIに技術維持活動の一環として対応策の検討を行わせたところ、IHIから暫定的な対応策として所定の間隔でF7-10エンジンの純水水洗を行うなどの具体的な整備方法を提案されたことから、P-1整備部隊等に対して所定の間隔でF7-10エンジンの純水水洗を行うよう通知を発していた。

このように、補給本部は、IHIからの提案を踏まえて継続的に分析を行っていたものの、P-1の運用段階の初期において、定期的なF7-10エンジンの純水水洗を行うこととしていれば、第1回目腐食不具合の発生時期を遅らせることなどができた可能性もあると思料される。

(4) 搭載電子機器等の運用等の状況

P-1は、機体、エンジンのほか多数の搭載電子機器等から構成されており、P-1の能力を発揮するためには各搭載電子機器等が適切に作動することが求められる。

そこで、搭載電子機器等の運用等の状況を確認したところ、搭載電子機器Aについて、その一定数が会計実地検査時点まで継続的に使用不能となっており、また、搭載武器B、C、D及びEの4種類の搭載武器について、P-1の部隊使用承認後に機体との連接に関して不具合が発生していた。これらのことが、P-1の任務可動機の数が限られる要因となっていた。このほか、1機当たりに複数個を搭載する機器であり1個の不具合が直ちに運用に影響するものではないことから、任務可動機の数が限られる要因とはなっていなかったものの、搭載電子機器Fの構成部品に不具合が発生し、その一定数が使用不能となっていた。

ア 目標の情報収集に使用する搭載電子機器の運用等の状況

(ア) 運用等の状況

搭載電子機器Aは、目標の情報収集に重要な役割を担う機器であり、P-1の運用環境下で適切に作動することが求められる。

搭載電子機器Aの運用の状況を確認したところ、会計実地検査時点まで継続的に搭載電子機器Aの一定数が使用不能となっており、P-1の任務可動機の数が限られる要因となっていた。また、搭載電子機器A自体が使用可能であっても、搭載電子機器Aが原因となって航空機に振動及び騒音が発生する不具合も発生していた(図表4-1参照)。

図表4-1 搭載電子機器Aに係る不具合の内容等

判明時期 不具合の内容 不具合に対する対応 対応会社 修理等に要した費用
開発段階(平成20年度~24年度) 航空機に振動及び騒音が発生 運用制限を設定 注(1)
機体の強化 川崎重工 1億9000万円
部品の追加 4億5100万円
運用段階(令和元年度) 搭載電子機器Aにおいて振動に起因する損傷等が発生 部品の強化 注(2) 川崎重工
搭載電子機器Aの形状変更 搭載電子機器Aの製造業者 2億5409万余円
部品の一部を削除
非作動時の搭載状態の変更
構造変更
一部形状変更
固定部品の改良
運用段階(3年度) 水の浸入 隙間のコーティング 搭載電子機器Aの製造業者 2億5409万余円

注(1) 海上自衛隊において実施した運用上の対応であるため、「対応会社」欄等は「-」としている。

注(2) 会計実地検査時点において契約予定であったため、「修理等に要した費用」欄は「-」としている。

(イ) 試験等の実施状況

搭載電子機器Aは、川崎重工に官給するために海幕が装備庁に対して調達要求を行い、15年に装備庁が一般競争入札を行って製造業者との間で製造請負契約を締結して調達した機器である。

海幕は、搭載電子機器Aに係る調達要求の仕様書において、アメリカ合衆国軍隊の公共規格を参照するなどして実際の航空機に搭載された環境で適切に作動することを要求しており、これを受けた製造業者は当該環境を模擬した地上設備により搭載電子機器Aの作動確認等の試験を行うこととし、海幕による完成検査を経た上で官給されていた。そして、海幕及び装備庁は、XP-1が納入された後に実施した技術・実用試験において、XP-1に搭載された状態の搭載電子機器Aについて作動確認を行うこととしていた。

(ウ) 不具合に対する対応状況

技術・実用試験においては、搭載電子機器Aが原因となって航空機に振動及び騒音が発生する不具合が判明し、海幕及び装備庁は部品の追加等による不具合の解消方法を試験期間中に確認したが、振動及び騒音の状況を更に改善する余地があったため、装備庁は、25年度に川崎重工との間で「P-1の振動・騒音伝搬特性の解明等の役務」の役務請負契約を締結して、当該不具合が発生した原因の分析を行い、当該分析の結果を踏まえて対策を講じていた。

また、運用段階においては、搭載電子機器Aに損傷等が発生する不具合が判明したことから、補給本部は、30年12月以前に製造業者及び川崎重工のそれぞれに対して原因の分析を求めており、不具合が発生した原因が振動であることは把握したものの、振動が発生した原因を特定することができなかった。そこで、令和元年度の技術維持活動の一環として、補給本部、製造業者及び川崎重工の3者が合同でP-1の実機を用いた検証を行って原因を特定し、これを踏まえて対策を講じていた。

このほか、搭載電子機器Aに水が浸入する不具合が運用段階で判明したことから、補給本部は、隙間のコーティングを行うなどの対策を講じていた。

そして、これらの不具合に対応するための修理等に要した費用は、計8億9509万余円となっていた。

以上のことから、開発段階の技術・実用試験及び運用段階で不具合が発生した状況を踏まえれば、搭載電子機器AをP-1に搭載した際の影響について十分に予見できていなかった可能性があると思料される。なお、搭載電子機器Aの仕様を海幕がどのように検討して設定したかや、製造業者が試験の実施方法等をどのように検討して設定したかの経緯についての資料は確認できなかった。

イ 機体と搭載武器との連接等

(ア) 不具合及びこれに対する対応状況

P-1は、警戒監視活動等を主たる任務とする固定翼哨戒機であるが、水上艦艇や潜水艦への反撃のために、空対艦ミサイル、機雷、魚雷等の各種武器を搭載し、機体と連接させて運用することができ、各種武器をウイング・パイロン(注9)、爆弾倉(注10)等に搭載した上で、発射し又は投下することが可能となっている。

そこで、P-1に搭載する各種武器に関する不具合の発生状況について確認したところ、次のとおり、P-1の部隊使用承認後、搭載武器B、C、D及びEの4種類の搭載武器と機体との連接に関して不具合が発生し、P-1の任務可動機の数が限られる要因となっていた。

(注9)
ウイング・パイロン  ミサイル等を搭載するために機体の主翼下に設けられた装置
(注10)
爆弾倉  ミサイル等を格納して搭載するために機体の胴体下部に設けられた開閉式の装置
a 信号の一部に問題が生じて作動しないなどの不具合(搭載武器B及びC)

搭載武器Bについては、平成26年度に実施した運用試験において、電気的信号の送受信が正常に行われず作動しない不具合が発生した。また、搭載武器Cについては、令和元年度に実施した性能確認試験において、警報が誤って発報されるなどの不具合が発生した。

そして、これらの不具合のため、搭載武器B及びCは、不具合が解消されるまでの間使用が制限され、搭載武器の運用に支障を来すおそれがある状況となっていた。

これに対して、補給本部は、搭載武器Bについては平成30年度までに、搭載武器Cについては令和3年度までに、それぞれソフトウェアの改修を行うことにより対策を講じていた。

b 機体と連接できないおそれがある不具合(搭載武器D及びE)

搭載武器Dについては平成26年度に、搭載武器Eについては令和3年度に、いずれも搭載武器の特定の品目と機体とを連接しようとした際に接続部の附属品の長さが不足する不具合が判明した。また、搭載武器Eについては、2年度に、搭載武器Eの接続部の附属品の形状では機体と連接ができないおそれがある不具合も判明した。

これらの不具合について、補給本部は、4年度までに搭載武器D及びEの接続部の附属品を交換することにより対策を講じていた。

(イ) 試験等の実施状況

P-1については、開発段階において技術・実用試験を行った上で部隊使用承認を行い、運用を開始していることから、本来、運用を開始した時点で、搭載可能とされている全ての武器が不具合なく運用可能であることが想定されている。

そこで、搭載武器と機体との連接に関して発生した不具合の発生原因となった事項について、技術・実用試験において十分な検証が行われたかを確認したところ、次のような状況となっていた。

a 信号の一部に問題が生じて作動しないなどの不具合(搭載武器B及びC)

搭載武器B及びCについては、技術・実用試験において、機体と搭載武器との連接が物理的に可能であることや、機体と搭載武器との間の電気的信号の送受信が正常に行われていることなどを確認していたが、作動試験(搭載武器を実際に作動させて確認する試験)は実施していなかった。

装備庁は、作動試験を行っていなかった理由について、搭載武器のほとんどは既存品であり、新たに開発する要素はなく、機体と連接ができることと、搭載武器に対して電気的信号の入出力ができることを確認すれば、作動可能であると判断していたためであるとしている。

b 機体と連接できないおそれがある不具合(搭載武器D及びE)

搭載武器D及びEについては、技術・実用試験において、物理的に連接が可能であることなどを確認していた品目もあったが、ある特定の品目について当該確認が行われていなかった。

海幕は、P-1の開発要求を行うに当たり、搭載武器D及びEの全ての品目において連接が可能であることを要求性能として求めていたが、装備庁は、当該要求性能が設計に反映されていることを確認するに当たり、一部の品目の連接確認のみで足り、全品目の連接確認は必要ないと当時は考えたのではないかとしている。

当該不具合については、開発段階の設計において、機体と搭載武器との連接に係る仕様について十分に検討されていなかった可能性があると思料され、機体と搭載武器との連接に必要な仕様が的確に把握できていれば、P-1の運用を開始する前に対策を講ずることも可能であったと思料される。なお、技術・実用試験において、予算及び試験期間の制約がある中で、試験項目をどのようにして検討したかの経緯についての資料は確認できなかった。

海幕及び装備庁は、機体と搭載武器との連接に関する不具合について、開発段階の設計において搭載武器の仕様について十分に検討した上で、技術・実用試験において十分な予算及び試験期間並びに試験場を確保して、あらゆる連接確認、作動試験等を行っていれば発見できた可能性があるとしている。

ウ 機体システムを構成する搭載電子機器の運用等の状況

(ア) 不具合の状況

搭載電子機器Fは飛行に欠かせない機体システムを構成する機器であり、基本的には他の搭載電子機器と同様にアメリカ合衆国軍隊の公共規格を参照した性能要求が行われている。

搭載電子機器Fは、川崎重工が製造業者から調達し、XP-1に搭載して社内試験を実施した後、装備庁に納入している。そして、平成20年度から海幕及び装備庁が技術・実用試験を行っている。

しかし、搭載電子機器Fの運用等の状況について確認したところ、P-1の運用を開始して以降、搭載電子機器Fの構成部品に外部から何らかの物質が固着する不具合が発生し、搭載電子機器Fの一定数が使用不能となっていた。

(イ) 不具合に対する対応状況

搭載電子機器Fにおいて発生した不具合の調査及び対策は川崎重工による技術維持活動の一環として令和4年度に行われた。

技術維持活動に係る調査報告書によると、固着した物質は地殻性物質(注11)とされており、補給本部は、5年2月に地殻性物質に係る点検項目を定めて、不具合が発生した箇所に地殻性物質の侵入を防ぐフィルタを設置するなどの対策を講ずることとしていた。そして、当該不具合等に対応するための修理に要した費用は、元年度から5年度までで計11億2537万余円となっていた。

注(11)
地殻性物質  ケイ素、アルミニウム、硫黄等の地球の地殻に由来する物質
(ウ) 試験等の実施状況

海上自衛隊の固定翼哨戒機としてP-1よりも前から運用されているP-3Cにおける地殻性物質への対応について確認したところ、P-3Cにも搭載電子機器Fと同様の環境で使用する部品が搭載されており、当該部品について、補給本部は、地殻性物質の固着に対応するための整備項目を平成3年に設けていた。

一方、18年に搭載電子機器Fの製造業者が行った社内試験の項目についてみると、アメリカ合衆国軍隊の公共規格を参照した砂じんに対する試験は実施されていたものの、地殻性物質を想定した試験は実施されていなかった。

また、開発要求の際に、P-3Cの運用により得られた知見を海幕が装備庁と共有していたかや、技術・実用試験においてP-3Cの運用により得られた知見を踏まえた試験項目が設けられていたかなどについては、保存されている書類では確認することができず、結果として、装備庁が実施した搭載電子機器Fの設計には地殻性物質が流入する状況に関する情報が反映されていなかった。

このように、補給本部は、不具合に対する対応として、令和5年2月に地殻性物質に係る点検項目を定めて、不具合が発生した箇所に地殻性物質の侵入を防ぐフィルタを設置するなどの対策を講ずることとしていたが、P-3Cについて地殻性物質の固着に対応するための整備項目が設けられていたことや、P-1の運用を開始して以降、搭載電子機器Fに関して不具合が発生していたことを踏まえれば、より早期に対策を講ずることなども可能であったと思料される。

(5) 機体用交換部品の調達等の状況

令和5年版防衛白書によると、各自衛隊の部隊において部品不足による装備品の非可動が発生しているなどとされており、その一例としてP-1が取り上げられている。

そこで、P-1の可動状況に影響を及ぼしている機体用交換部品の不足の要因について確認したところ、次のような状況が見受けられた。

ア 調達リードタイムの長期化等

空補処は、前年度までの調達実績等に基づき設定した調達リードタイムを前提として、機体用交換部品の調達所要量を算定した後、機体用交換部品業者から下見積書を徴取して当該年度の調達に係る実際の調達リードタイムを把握している。

しかし、空補処における機体用交換部品の調達状況について確認したところ、近年の国際情勢の急変、半導体不足、人手不足等の影響により発注から納品までの期間が長期化し、実際の調達リードタイムが、調達所要量を算定した時点で想定していた調達リードタイムよりも長期化する傾向が見受けられた。

そして、空補処は、発注から納品までの期間が長期化している状況及び今後の調達に与える影響について必ずしも適時に把握できておらず、その結果、必要な時期に必要量の部品が調達できず、機体用交換部品が慢性的に不足している状況となっていた。

上記について、事例を示すと次のとおりである。

<事例> 調達リードタイムの長期化等の影響により機体用交換部品が不足するおそれがあるもの

空補処は、機体用交換部品Gに係る調達所要量の算定に当たり、前年度までの調達実績等に基づいて調達リードタイムを3年と設定して、これに基づき調達所要量を算定していた。

その後、空補処は、調達手続に先立って適切な納期を設定するために機体用交換部品Gの製造業者から徴取した下見積書により、製造業者の在庫状況や納入の見通しなどを確認したところ、調達リードタイムが3年から4年に1年延長したことから調達所要量を改めて算定していた。

そして、調達手続の際に、製造業者に再度確認したところ、調達リードタイムが更に1年延長したため、調達所要量を改めて算定したものの、製造業者から、機体用交換部品Gの構成部品が手に入らないなどの理由により、調達所要量の一部しか納入できないとされた。

その結果、機体用交換部品Gは必要な時期に必要量が調達できず、不足するおそれがある状況となっていた。

空補処は、機体用交換部品業者に対する下見積書の依頼や督促等を早めに行って、契約締結までに要する時間を短縮することにより、納期を早期化するとともに、機体用交換部品が不足していた場合に、代替品の確保に要する時間を確保できるようにしているとしていた。そして、空補処は、調達リードタイムは刻々と変化するものであり、また、機体用交換部品業者に調達の意向を示して初めて調達リードタイムに係る精度の高い情報を入手できるため、下見積書を徴取するより前の段階で調達リードタイムに係る的確な情報を機体用交換部品業者から入手することは難しいとしていた。

しかし、必要な時期に必要量の部品を調達できず、機体用交換部品が慢性的に不足している状況を踏まえると、精度の高い的確な情報に限定することなく、下見積書を徴取するより前の段階で調達リードタイムに係る情報を機体用交換部品業者から入手することも含めて、調達リードタイムの長期化等に関する情報を幅広く収集し、できる限り早期に対応を検討するよう努める必要があると思料される。

イ 構成部品製造業者における製造状況の把握

機体用交換部品の中には多数の部品で構成されているものがあり、川崎重工等のような主要企業が多数の構成部品から機体用交換部品を組み立てて機体用交換部品業者として防衛省に納入する際には、主要企業に機体用交換部品の構成部品を納入する多数の部品製造業者(以下「構成部品製造業者」という。)が関係している。

構成部品製造業者における製造状況を把握しているかについて確認したところ、空補処は、現状の主要企業とのやり取りなどを通じて、構成部品製造業者における製造状況までを把握することは困難であるとしていた。しかし、機体用交換部品の安定的な製造等を確保するためには、主要企業の製造状況だけでなく、構成部品製造業者における製造状況も把握するなどして、サプライチェーン全体の状況を把握した上で、必要に応じて対応を検討すべきであると思料される。

ウ 緊急請求に対する対応状況

平成30年度から令和4年度までに各部隊が行った機体用交換部品に係る緊急請求に対する対応について確認したところ、空補処が各部隊から緊急請求を受けてから調達が完了するまでに1年以上を要しているものが全体の3割弱となっており、中には3年以上を要しているものも見受けられた。また、会計実地検査時点において、緊急請求を受けてから1年以上が経過しているのに調達が完了していない緊急請求が約70件となっていた。

このように、空補処が各部隊から緊急請求を受けてから調達を完了するまでに長期間を要しているため、各部隊において、機体同士で機体用交換部品を流用し合うなどして可動機を確保している状況や、非可動の状態となっている機体が見受けられた。

そして、緊急請求を受けてから調達が完了するまでに長期間を要しているのは、次のような要因によると認められた。

① 機体用交換部品業者において人員不足等の理由で、下見積書が提出されるまでに1年程度の長期間を要しており、下見積書が提出されるまで調達手続を行うことができなかったことによるもの

② 機体用交換部品業者における製造体制、従業員や部品の確保等に係る対応能力の制約により、1年間に製造又は修理が可能な数量が限られるため、調達所要量の半数程度しか調達できなかったことによるもの

このほか、海幕及び装備庁は、近年、防衛産業から撤退する企業が見受けられ、機体用交換部品は製造業者が1者のみのものもあることから、既存の製造業者が製造を中止した場合、代わりの製造業者を確保することなどに時間を要したものもあるとしていた。

近年の防衛予算の増額に伴い、部品を調達するために必要な予算を確保することが容易になったことにより、部品不足が解消された機体用交換部品も見受けられたが、調達リードタイムの長期化を原因として部品不足となっている機体用交換部品については、緊急請求を受けてから調達が完了するまでに長期間を要している問題が解決されるには至っていなかった。

エ 機体用交換部品の需給状況等の把握

(ア) 機体用交換部品に係る需給予測

機体用交換部品の需給状況等がどのように把握されているか確認したところ、補給本部は、技術維持活動の一環として、川崎重工に今後の需給状況等を分析させて、その結果を取りまとめた表(以下「需給バランス表」という。)を作成させていた。

川崎重工は、需給バランス表の作成に当たり、補給本部及び空補処と協議した上で、機体用交換部品の中から、需給の均衡が崩れていることなどにより、P-1の可動を阻害し又はその懸念がある品目(以下「調査対象品目」という。)を選定していた。そして、調査対象品目について、機体用交換部品業者から故障率改善予測等の技術情報や部品の不足情報等を収集して、川崎重工内で把握している調査対象品目に係る需要と供給の実績、定期修理を実施予定の機体に関する情報等と合わせて、需給バランス表を作成していた。

川崎重工から需給バランス表の提出を受けた補給本部は、これを空補処と共有しており、空補処は、需給バランス表の情報等に基づいて、調査対象品目に係る需給予測を行っていた。

しかし、調達所要量の算定については、通常の使用等により損耗する数量等から、調達所要量を算定する時点で在庫として保有している数量や入庫予定数量等を差し引くなどして算定することとなっており、需給バランス表等により、調査対象品目に関して製造中止等の情報を得ていても、当該情報を調達所要量の算定に反映させる仕組みにはなっていなかった。ただし、海幕は、一部の調査対象品目については、空補処が調達所要量を算定して行う調達とは別に、補給本部等が需給バランス表の情報等に基づきまとめ買いを行うなどの対策を講じているとしていた。

(イ) 機体用交換部品を構成する輸入品の需給状況に係る情報共有等

機体用交換部品の構成部品の中には、国内で製造するもののほか、海外からの輸入品がある。そこで、これらの輸入品の需給状況等がどのように把握されているか確認したところ、補給本部及び空補処がそれぞれ需給統制等の一環として輸入品の需給状況等に関する情報を収集しているほか、川崎重工等も技術維持活動の一環として同様の情報を収集していた。

しかし、補給本部、空補処及び川崎重工等のそれぞれの役割が明確に定まっていないため、輸入品の需給状況等に関する情報収集が一体的かつ効率的に行われておらず、また、補給本部と空補処との間で当該情報が十分に共有されていない状況も見受けられた。