• 国会からの検査要請事項に関する報告(検査要請)|
  • 会計検査院法第30条の3の規定に基づく報告書|
  • 令和8年1月|

有償援助(FMS)による防衛装備品等の調達の状況に関する会計検査の結果について


第1 検査の背景及び実施状況

1 検査の要請の内容

会計検査院は、令和6年6月10日、参議院から、国会法第105条の規定に基づき下記事項について会計検査を行いその結果を報告することを求める要請を受けた。これに対し同月11日検査官会議において、会計検査院法第30条の3の規定により検査を実施してその検査の結果を報告することを決定した。

一、会計検査及びその結果の報告を求める事項

(一) 検査の対象

防衛省

(二) 検査の内容

平成30年度以降の有償援助(FMS)による防衛装備品等の調達に関する次の各事項

① FMSによる防衛装備品等の調達全般の状況

② FMSによる防衛装備品等の調達の契約方法、契約手続、調達価格の設定等の状況

③ FMS調達に係る防衛装備品等の受領及び前払金の精算の状況

④ 防衛省におけるFMS調達の改善に向けた取組の状況

2 FMS調達の概要等

(1) 防衛装備品等の調達の概要

防衛省(平成13年1月6日から19年1月8日までは内閣府防衛庁、13年1月5日以前は総理府防衛庁)は、防衛装備品及びその修理等の役務(以下、これらを合わせて「防衛装備品等」という。)の調達を実施しており、調達の実施について必要な事項を「装備品等及び役務の調達実施に関する訓令」(昭和49年防衛庁訓令第4号)において定めている。同訓令の別表に定める防衛装備品等(誘導弾、航空機、船舶等)の調達、及び別表に定める防衛装備品等以外であって適正かつ効率的な遂行が求められる調達については、陸上、海上、航空各自衛隊(以下「各自衛隊」という。)、統合幕僚監部、情報本部等の要求に基づき防衛装備庁(19年9月1日から27年9月30日までは装備施設本部、18年7月31日から19年8月31日までは装備本部、13年1月6日から18年7月30日までは契約本部、13年1月5日以前は調達実施本部。以下「装備庁」という。)が調達実施機関として行っている(以下、この調達を「中央調達」という。)。また、防衛装備品等の維持及び修理に用いる交換用の部品、消耗品等(以下「補用部品等」という。)の調達については、各自衛隊等が調達実施機関として行っている(以下、この調達を「地方調達」という。)。

防衛装備品等の調達方法には、国内製造会社等から行う調達(以下「国内調達」という。)のほかに、「日本国とアメリカ合衆国との間の相互防衛援助協定」(昭和29年条約第6号。以下「相互防衛援助協定」という。)に基づくアメリカ合衆国政府(以下「合衆国政府」という。)からの有償援助(Foreign Military Sales。以下「FMS」という。)による調達(以下「FMS調達」という。)と、商社等を通じるなどした輸入による調達(以下「一般輸入調達」という。)がある(図表0-1参照)。

図表0-1 防衛装備品等の主な調達方法

調達方法 概要
国内調達(注) 国内製造会社等から行う調達
FMS調達 相互防衛援助協定に基づく合衆国政府からのFMSによる調達
一般輸入調達 外国企業等から直接又は商社等を通じた輸入による調達
(注)
国内調達には、国内開発、ライセンス国産等を含む。

防衛省は、これらの調達方法のうち、国内調達には、国内の防衛生産・技術基盤の維持・強化につながるなどの特徴があり、FMS調達には、一般輸入調達では調達することができない機密性の高い防衛装備品等やアメリカ合衆国でしか製造できない能力の高い防衛装備品等を調達することができるとともに、合衆国政府等との共同購入によるスケールメリットが働くなどして調達価格の低減も期待できるという特徴があるとしている。そして、防衛装備品等の調達に当たっては、防衛装備品等の特性に応じて、それぞれの調達方法を適切に選定することが必要であるとしている。

(2) FMS調達の概要、手続等

ア アメリカ合衆国におけるFMSの取扱い

FMSに適用されるアメリカ合衆国の法律である武器輸出管理法(Arms Export Control Act)によれば、合衆国政府は、防衛装備品等を諸外国(地域及び国際機関を含む。以下「諸外国等」という。)に提供することにより、アメリカ合衆国の安全保障が強化され、世界平和が促進されるとアメリカ合衆国大統領(以下「合衆国大統領」という。)が認めるなどの条件を満たす場合に限り、防衛装備品等の売却を認めるとされている。

また、アメリカ合衆国議会(以下「合衆国議会」という。)は、合衆国政府が行うFMSの提案について審議する権限があり、売却価格が一定金額以上(日本の場合は、MDE(注1)であれば2500万米ドル以上、それ以外の防衛装備品等であれば1億米ドル以上)の場合には、合衆国大統領は、売却対象の防衛装備品等の内容、売却の理由等を記載した証明書を合衆国議会に提出することとされている。その後、原則、合衆国議会において一定期間内(日本の場合は15日以内)に売却に反対する旨の決議がなされなかった場合、FMSの手続が進むことになる。

合衆国政府におけるFMSの手続は、国防省が定めている安全保障援助管理マニュアル(Security Assistance Management Manual。以下「援助管理マニュアル」という。)等に基づいて実施されており、基本的に国防省傘下の組織が対応している。例えば、FMS全般の管理については国防安全保障協力庁(Defense Security Cooperation Agency。以下「DSCA」という。)が、購入希望国との間の防衛装備品等の提供の実施等については各軍省(陸軍省、海軍省及び空軍省。以下同じ。)等が、購入国が合衆国政府に支払った資金の管理等の会計については国防財政会計サービス(Defense Finance and Accounting Service。以下「DFAS」という。)がそれぞれ担当している。

また、合衆国大統領は、令和7年4月に、FMS制度の迅速性と説明責任の向上に関する大統領令に署名している。当該大統領令は、アメリカ合衆国の防衛産業基盤を強化して、同盟国等との防衛協力を促進するために、FMSによる防衛装備品等の売却案件の迅速な審査の確保、FMSを通じてのみ売却可能な防衛装備品等のリストの見直し、進行中のFMSによる防衛装備品等の売却案件に関する管理のためのシステム開発等を段階的に行うなどの改善措置を実施するよう指示したものである。

(注1)
MDE  Major Defense Equipmentの略。重要な軍事物品のうち、合衆国政府における研究開発費が5000万米ドル又は総製造費用が2億米ドルを超えたもの
イ FMS調達の概要

FMSは、アメリカ合衆国の安全保障政策の一環として、合衆国政府が武器輸出管理法等に従って、防衛装備品等を諸外国等に対して有償で提供する取引である。そして、諸外国等は、合衆国政府から示された次のような条件等の下で、防衛装備品等の提供を受けることができることとなっている。

① 契約する防衛装備品等の価格は合衆国政府が負担する総費用(合衆国政府の事務経費等を含む。)の見積り(合衆国政府が自ら購入する場合と同じ基準で算定した価格)であり、合衆国政府は費用を負担しないこと

② 防衛装備品の出荷又は役務の提供の時期は予定であること(以下、当該時期を「出荷予定時期」という。)

③ 支払は原則として前払であり、提供完了後に精算されること

また、援助管理マニュアル等によると、FMSにおいては、通常、諸外国等は、新品又は未使用品(修理済品や改修済品を含む。)の防衛装備品の提供を受けるが、合衆国政府が自ら保有している防衛装備品のうち、合衆国政府の軍事力の整備目標を超えて余剰となった防衛装備品(Excess Defense Articles。以下「EDA」という。)の提供を受けることもできる。EDAとして整理された際の防衛装備品の状態には、新品、古品、修理可能品、修理不能品等様々なものがあり、経年や状態に応じて安価な調達が可能となる(以下、EDAを調達することを「EDA調達」という。)。

FMS調達は、日本及びアメリカ合衆国の両政府の代表者が署名した引合受諾書(Letter of Offer and Acceptance。以下「LOA」という。)に基づき行われる。LOAには、両政府が合意した防衛装備品等の名称、数量、単価、前払金の支払時期等の条件が記載されており、LOAを取り交わすことで契約が成立する(以下、LOAに基づく個々の契約を「ケース」といい、LOAに記載された金額を「契約額」という。)。防衛省が行うFMS調達は、各自衛隊等の要求に基づき装備庁が調達実施機関として行うFMS調達(以下「FMS中央調達」という。)と、各自衛隊の部隊等のうち陸上自衛隊補給統制本部及び海上、航空両自衛隊補給本部(以下、これらを合わせて「3補本」という。)が調達実施機関として行うFMS調達(以下「FMS地方調達」という。)とに区分される。

ウ FMS調達の選定に係る要件等

防衛省は、防衛装備品等の選定過程の明確化・透明化等のために、航空機を新規に調達する場合については「航空機の機種選定手続についての全部改正について(通達)」(平成29年防整計(事)第104号。以下「機種選定通達」という。)を、また、火器、弾薬等の重要防衛装備品(注2)を新規に調達する場合については「新たな重要装備品等の選定に係る手続の明確化・透明化の措置について(通達)」(令和元年防整計(事)第118号。以下「元年通達」という。)をそれぞれ定めている。両通達によれば、対象となる防衛装備品等については、国内外の既存製品とのコスト比較を含む代替案分析等を行い、防衛装備品等の選定に係る結果を公表することとされている。

そして、FMS調達の手続を定める「有償援助による調達の実施に関する訓令」(昭和52年防衛庁訓令第18号。以下「有償援助訓令」という。)等によれば、防衛省は、輸入しようとする防衛装備品等について、①調達源が合衆国政府に限られる防衛装備品等又は②価格、取得時期等を考慮してFMS調達が妥当であると認められる防衛装備品等であって、かつ、合衆国政府がFMSによる販売を認めるものは、FMS調達を選定することとされている。

(注2)
重要防衛装備品  「装備品等の部隊使用に関する訓令」(平成19年防衛省訓令第74号)第3条第2号に規定される、部隊使用について防衛大臣の承認を得る必要のあるものであって、同訓令の別表(火器、弾薬等)に掲げる防衛装備品(基本的な性能、諸元、構造その他の事項が部隊使用に適していることが明らかな市販品を除く。)
エ FMS調達における契約方法の概要

FMS調達には、①購入国が調達を希望する防衛装備品等に関する調達内容を具体的にLOAに記載する方式(以下「確定発注方式」という。)と、②調達を希望する防衛装備品等に関する調達内容をLOAに具体的には記載せず、LOAの取り交わし後に、前払金の範囲内で購入国が個々の防衛装備品等の部品名、数量等を指定して発注を行う方式(以下「直接発注方式」という。)の2種類がある。援助管理マニュアルによれば、戦闘機、ミサイル等の合衆国政府が重要な軍事物品として指定している防衛装備品やその関連役務は、通常、確定発注方式によることとされている。

このため、防衛省は、我が国の主要な防衛装備品等を主に調達するFMS中央調達では確定発注方式、補用部品等の調達や修理を行うFMS地方調達では直接発注方式により、それぞれ調達を行っている。

(ア) FMS中央調達の契約方法

FMS中央調達は確定発注方式により行われており、LOAには、防衛装備品等の名称、数量、単価、見積調達価格、出荷予定時期、契約額、前払金の支払時期等が記載される。また、一つのLOAで複数の品目の防衛装備品等が調達される場合には、品目ごとに見積調達価格や出荷予定時期等が記載される(以下、見積調達価格、出荷予定時期等が記載されたケース内の個別の品目を「ライン」という。)。各ラインの具体的な内容や特有の契約条件、補足説明等は、注記事項(Note)に記載される(LOAの記載例については図表0-2参照)。このように、出荷予定時期はラインごとに定められることから、一つのケースで異なる出荷予定時期が設定されることがある。そして、LOAには、受領した防衛装備品の品目の相違、数量の過不足、外観上の損傷等の不具合(以下「不具合」という。)が生じた場合の取扱いなどの一般的な契約条件を定めた標準条項等が付されている。

LOAの取り交わし後にLOAの記載内容を変更する必要がある場合は、変更の内容に応じて、アメンドメント又はモディフィケーションと呼ばれる書面により変更が行われる。基本的に、アメンドメントは、防衛装備品の品目や数量、役務の内容等を追加し又は変更する場合、すなわちラインを追加し又は変更する場合に採用される方法で、合衆国政府及び購入国の両者の同意が必要とされる。また、モディフィケーションは、出荷予定時期、支払時期等を変更する場合に採用される方法で、基本的には合衆国政府の主導で行われ、購入国の同意は必要ないとされている。なお、アメンドメントとモディフィケーションのどちらの方法で変更するかは、合衆国政府の判断となっている。

図表0-2 確定発注方式におけるLOA(抜粋)の記載例

図表0-2 確定発注方式におけるLOA(抜粋)の記載例画像

(イ) FMS地方調達の契約方法

FMS地方調達は直接発注方式により行われており、LOAの形式は、基本的に確定発注方式と同様であるが、数量や出荷予定時期は記載されず、補用部品等の使用対象となる防衛装備品等の名称のほか、発注が可能な限度額(以下「発注限度額」という。)等が記載される。

直接発注方式の中には、合衆国政府が購入国のために一定数量の補用部品等をあらかじめ在庫品として確保しておき、購入国から発注を受けた際に、当該在庫品から払出しを行う方法(共同兵站補給支援協定(Cooperative Logistics Supply Support Arrangement)。以下「CLSSA」という。)がある。

CLSSAの対象となる補用部品等は合衆国政府により指定されており、品目ごとに発注可能数の上限が設けられているものの、合衆国政府が購入国から発注を受ける前にあらかじめ一定数量の在庫品を確保しておくこととなるため、通常の発注方法より迅速な提供が可能になるとされている。そして、CLSSAには、FMSOⅠ(Foreign Military Sales OrderⅠ)と呼ばれるケースとFMSOⅡ(Foreign Military Sales OrderⅡ)と呼ばれるケースの二つの段階がある(CLSSAのLOAの記載例については図表0-3参照)。

CLSSAによる在庫品の確保及び払出しは、次のように行われる。

① 購入国は、FMSOⅠのケースで前払金を支払い、合衆国政府は、当該前払金を使用して5か月分の所要量を満たす在庫品を確保する。

② 購入国は、補用部品等を必要としている期間中、FMSOⅡのケースで前払金を支払うとともに、補用部品等を必要とした際に、FMSOⅡのLOAに記載された発注限度額の範囲内で合衆国政府が管理するSCIP(注3)(Security Cooperation Information Portal)等を利用して補用部品等の発注を行う。

③ 合衆国政府は、購入国からの発注に対して、FMSOⅠのケースで確保している在庫品を払い出すとともに、FMSOⅡのケースで支払を受けた資金を使用して在庫品を補充し、常に一定の在庫量を確保する。

また、CLSSAの対象とならない品目、又はCLSSAの発注可能数の上限を超える数量を発注する場合には、CLSSAとは別にLOAを取り交わし、発注限度額の範囲内でSCIP等を利用して部品名や数量等を指定して発注を行う方法がある(以下、この発注方法を「オムニバス」という。)。

(注3)
SCIP  合衆国政府が運用しているウェブベースのシステム(ポータルサイト)。購入国は、当該ポータルサイトを通じて各軍省等が運用しているシステムにアクセスし、直接発注方式による補用部品等の発注、出荷状況の確認、発注取消しなどを行うことができる。

図表0-3 CLSSAのLOA(抜粋)の記載例

図表0-3 CLSSAのLOA(抜粋)の記載例画像

オ FMSに係る契約額の概要

武器輸出管理法において、合衆国大統領は、別段の定めがある場合を除き、購入国が契約上生じた費用の全額を支払うことなどを保証する場合に、防衛装備品等の調達に係る製造会社等との契約(以下「購入契約」という。)を締結できるとされており、LOAの標準条項においても、購入国が購入契約上生じた費用の全額を支払うことに同意することが記載されている。また、合衆国政府は、利益を得ることなくLOAに記載された防衛装備品等を提供することとされている。

FMSに係る契約額は、このような原則を踏まえて設定されることとなっており、援助管理マニュアル等によると、合衆国政府が設定した防衛装備品等の調達対象物の本体価格に手数料である契約管理費を加えた見積調達価格に各種の手数料等を加えた価格で構成されることが一般的である(図表0-4参照)。

図表0-4 FMSに係る契約額の構成及び内容

構成内容
契約額見積調達価格調達対象物の本体価格本体価格の例としては、次のとおりとなっている。
・合衆国政府が製造会社等から提示された価格
・役務提供時点の人件費から算定された価格
・合衆国政府の在庫品の棚卸価格 等
なお、購入契約の締結については、原則としてアメリカ合衆国の法令に基づいて行われるなど、合衆国政府が自国のために調達を行う場合と同様の手続で行うこととなっている。
契約管理費合衆国政府が防衛装備品等を調達する必要がある場合に、購入契約の管理経費に充てるための手数料。調達対象物の本体価格に一定の料率を乗じて算定することになっており、①契約管理、②品質保証・検査、③契約監査の三つの要素により構成されている。
梱包費合衆国政府が行う梱包等の経費に充てるための手数料
一般管理費合衆国政府におけるFMSに係る人件費、施設費等の一般的な管理経費に充てるための手数料。原則として全てのケースに付加されている。見積調達価格に一定の料率を乗じて算定することになっている。
輸送費出荷地点(製造会社又は合衆国政府の各補給処)以降の輸送が合衆国政府により提供される場合に付加される手数料
カ FMS調達の契約手続の概要
(ア) FMS調達における防衛装備品等に係る調達条件の照会から余剰金の返還までの流れ

有償援助訓令等によれば、FMS中央調達における防衛装備品等に係る調達条件の照会から余剰金の返還までの流れは、防衛装備品を例にとると、図表0-5のとおりとされている。

図表0-5 FMS中央調達における防衛装備品に係る調達条件の照会から余剰金の返還までの流れ(概念図)

図表0-5 FMS中央調達における防衛装備品に係る調達条件の照会から余剰金の返還までの流れ(概念図)画像

また、FMS地方調達では、毎年度、繰り返し調達している補用部品等について、P&Aの送付等を受けていない場合もあるが、余剰金の返還までの手続の流れはFMS中央調達とおおむね同様となっている。3補本が調達要求元となり、また、3補本の支出負担行為担当官(以下、装備庁の支出負担行為担当官と合わせて「支担官」という。)が引合書への署名、受領検査の指令、提供の確認等を行っている。

(イ) 前払金の資金の流れ

(ア)のとおり、LOAに記載された全ての防衛装備品等の提供が完了して最終計算書が送付されると前払金の精算が行われ、余剰金が発生した場合には、支担官は余剰金の返済を請求するための措置を執る。

合衆国政府は、FMSにより提供すべき防衛装備品等を調達するために購入契約を締結しており、購入契約に基づき合衆国政府に対する防衛装備品等の提供が完了すると購入契約の支払金額が確定する。そして、合衆国政府は、通常、購入契約の支払金額が確定した後に、当該防衛装備品等の提供に係るケースの最終計算書を購入国に送付する。

このため、合衆国政府がFMSにより複数の購入国に対して提供する防衛装備品等を一つの購入契約にまとめて製造会社等から調達している場合には、通常、一部の購入国が防衛装備品等の全ての提供を受けたとしても、全ての購入国に対する防衛装備品等の提供が完了して購入契約の支払金額が確定するまで、購入国は、最終計算書の送付を受けることができず、長期にわたり余剰金の返還を受けられない状況となる。

そこで、合衆国政府は、このような状況を改善するために、精算手続について、購入契約に係る契約金額のうち製造会社等との間で精算が完了していない金額の見積額(Unliquidated Obligation。以下「未精算債務額」という。)を含めた金額に基づき最終計算書を作成して送付することによって、提供の完了後24か月以内にケースを精算することを基本的な目標とする新精算方式(Accelerated Case Closure Procedures)を平成4年に導入しており、防衛省は9年から新精算方式に参加している。そして、現在は、全てのケースについて新精算方式が適用されることとなっている。

新精算方式が適用されるケースにおける前払金の支払から余剰金等の返還が完了するまでの流れは、図表0-6のとおりとなっている。

図表0-6 新精算方式が適用されるケースにおける前払金の支払から余剰金等の返還が完了するまでの流れ(概念図)

図表0-6 新精算方式が適用されるケースにおける前払金の支払から余剰金等の返還が完了するまでの流れ(概念図)画像

(3) 防衛力整備の概要

我が国の防衛政策については、25年12月に、「国家安全保障戦略」(平成25年12月国家安全保障会議及び閣議決定)において国家安全保障に関する基本方針が策定された。これを踏まえて「平成26年度以降に係る防衛計画の大綱」(平成25年12月国家安全保障会議及び閣議決定)及び「中期防衛力整備計画(平成26年度~平成30年度)」(平成25年12月国家安全保障会議及び閣議決定。以下「26中期防」という。)が策定された。そして、30年12月には、同戦略を踏まえて「平成31年度以降に係る防衛計画の大綱」(平成30年12月国家安全保障会議及び閣議決定。以下「30大綱」という。)及び「中期防衛力整備計画(平成31年度~平成35年度)」(平成30年12月国家安全保障会議及び閣議決定。以下「31中期防」という。)が策定された。

その後、令和4年12月に、我が国を取り巻く安全保障環境が一層厳しさを増す中、防衛力の抜本的強化を実現する必要があるとして、平成25年12月の「国家安全保障戦略」が廃止されて、新たに「国家安全保障戦略」(令和4年12月国家安全保障会議及び閣議決定)、同戦略を踏まえた「国家防衛戦略」(令和4年12月国家安全保障会議及び閣議決定)及び「防衛力整備計画」(令和4年12月国家安全保障会議及び閣議決定。以下「整備計画」という。)が策定された。26中期防、31中期防及び整備計画には、5年間を計画期間とする防衛力整備の実施に必要な金額及び主要な防衛装備品(以下「主要防衛装備品」という。)の整備規模が示されており、この中にはFMSにより調達されるものも含まれている。なお、31中期防は令和4年12月の整備計画の策定に伴い廃止され、その実質的な計画期間は元年度から4年度までとなった(国家安全保障戦略等の変遷については、図表0-7参照)。

図表0-7 国家安全保障戦略等の変遷

図表0-7 国家安全保障戦略等の変遷画像

4年12月に策定された国家安全保障戦略によれば、9年度において、防衛力の抜本的強化等のための予算水準が現在のGDPの2%に達するよう、所要の措置を講ずることとされた。このため、防衛力整備の実施に必要な金額について、整備計画によれば、5年度から9年度までの5年間における計画の実施に必要な防衛力整備の水準額は43兆円程度、このうち整備計画の下で実施される各年度の予算編成に伴う防衛関係費は40兆5000億円程度、整備計画を実施するために新たに必要となる事業に係る契約額(物件費)(注4)は43兆5000億円程度とすることとされ、26中期防及び31中期防と比べて大幅に増加している(防衛力整備の実施に必要な金額の推移については、図表0-8参照)。

(注4)
物件費  防衛装備品等の調達、修理及び整備、油の購入、隊員の教育訓練、施設整備、光熱水料等の営舎費、技術研究開発等のための経費

図表0-8 防衛力整備の実施に必要な金額の推移

区分 26中期防
(平成26年度~30年度)
31中期防
(令和元年度~5年度)
整備計画
(5年度~9年度)
防衛力整備の水準額 おおむね24兆6700億円程度 おおむね27兆4700億円程度 43兆円程度
各年度の予算編成に伴う防衛関係費 おおむね23兆9700億円程度 おおむね25兆5000億円程度 40兆5000億円程度
新たに必要となる事業に係る契約額(物件費) - おおむね17兆1700億円程度 43兆5000億円程度
(注)
「26中期防」「31中期防」及び「整備計画」の下に記載の括弧内の期間は、計画期間を示している。

そして、7年11月に、「「強い経済」を実現する総合経済対策」(令和7年11月閣議決定)において、4年12月に策定された国家安全保障戦略に定める「対GDP比2%水準」について、7年度補正予算と合わせて、7年度中に前倒して措置することとされた。

(4) 後年度負担の概要

防衛省は、防衛装備品等の調達等の実施に当たり、契約から納入までに複数年度を要するものが多いことから、契約の締結と支出とが同じ年度に行われる単年度の契約のほかに、財政法(昭和22年法律第34号)に基づく国庫債務負担行為(注5)及び継続費(注6)による複数年度契約を締結している(以下、契約締結の翌年度以降に支払が必要となる債務を「後年度負担」という。)。また、同法によれば、国庫債務負担行為により支出すべき年限は5か年度以内とされているが、「特定防衛調達に係る国庫債務負担行為により支出すべき年限に関する特別措置法」(平成27年法律第16号。以下「長期契約法」という。)により、一定の要件を満たした防衛装備品等の調達については、国庫債務負担行為の年限を10か年度以内とすることが認められている(以下、長期契約法に基づく契約を「長期契約」という。)。

長期契約を含めた複数年度契約における契約締結年度の翌年度以降に支払う経費(以下「後年度負担額」という。)は、図表0-9のとおり、ある年度(図表0-9における「X年度」のことをいう。)を基準としてみた場合、当該年度に締結した契約に基づきその翌年度以降に支払う経費(以下「新規分の後年度負担額」という。)と過年度に締結した契約に基づき当該年度の翌年度以降に支払う経費(以下「既定分の後年度負担額」という。)とに区分される。

(注5)
国庫債務負担行為  財政法第15条の規定に基づき、国会の議決を経て、次年度以降にも効力が継続する債務を負担する行為である。債務負担権限のみ与えられるため、実際に支出をする際は、支出する年度の歳出予算に改めて計上する必要がある。
(注6)
継続費  財政法第14条の2の規定に基づき、艦船の製造等で完成に複数年度を要するものについて、特に必要がある場合、経費の総額及び年割額を定め、あらかじめ国会の議決を経て、複数年度にわたって支出することが認められるもの

図表0-9 後年度負担の概念図

図表0-9 後年度負担の概念図画像

3 これまでの検査の実施状況

会計検査院は、これまでFMS調達の状況等について検査を実施しており、その結果を11件検査報告に掲記するなどしている(別図表1参照)。このうち、平成30年6月に参議院から国会法第105条の規定に基づく検査要請を受け、その検査結果を令和元年10月に報告した「有償援助(FMS)による防衛装備品等の調達に関する会計検査の結果について」(以下「元年報告」という。)における所見は次のとおりである。

防衛省は各種の防衛装備品等の調達を実施しており、29年度における防衛装備品等の調達額は2兆3805億余円となっている。また、合衆国政府から防衛装備品等を調達するFMSによる調達額は、為替の影響があるものの、25年度の1117億余円から29年度の3882億余円へと3倍以上に増加している。

FMS調達は、アメリカ合衆国の法令等に基づいて手続が進められることから、出荷時期が予定であったり、支払は原則として前払であったりするなど合衆国政府から示された条件によって取引が実施され、防衛省において防衛装備品等の未納入等(注7)により未精算額(注8)が多額に上っているなどの状況が見受けられており、会計検査院においても累次にわたり検査し、その結果を検査報告に掲記するなどしてきているところである。

そして、今後の防衛装備品等の調達に関しては、主要防衛装備品等の整備規模等を定めた31中期防において、陸上配備型イージス・システム(イージス・アショア)、戦闘機(F-35A)、早期警戒機(E-2D)等の取得が計画されており、これらの主要防衛装備品等についてはFMSにより調達することが見込まれている。

ついては、防衛省において、必要に応じて合衆国政府の協力を求めるなどして、今後、次の点に留意して、より一層適切なFMS調達の実施に取り組むことが重要である。

(1) FMSを含めた防衛装備品等の調達全般の状況

防衛装備品の特性に応じて調達方法を適切に選定するとともに、調達方法の選定を含む防衛装備品の選定過程について、十分な透明性を確保し、適切に説明責任を果たしていくこと

(2) FMSによる防衛装備品等の調達の契約方法、契約手続、調達価格の設定等の状況

ア 陸上、航空両自衛隊は、将来の防衛装備品の配備規模の縮小に備えて、適時にFMSOⅠのケースの終結等を行えるよう、あらかじめFMSOⅠのケースの終結等に係る手続について検討すること

イ FMS調達に係る契約額の増加に伴って、手数料の負担額も増加することに鑑み、契約管理費の減免を受けることによりFMS調達に係る契約額を低減する余地がないか検討すること

(3) FMS調達に係る防衛装備品等の受領及び前払金の精算の状況

ア 出荷予定時期を経過しても防衛装備品等が納入されないケースについて、部隊等の運用に支障を来さないよう、出荷促進を行うなど合衆国政府と引き続き調整を行うこと

イ 未精算額が多額となっている未納入ケース(注9)、未精算額が多額となっている精算未完了ケース(注10)及び防衛装備品等の納入の完了から長期にわたり精算が未完了となっているケースについて、ケースごとに精算等が遅延している理由を分析するなどした上で、合衆国政府に計算書の送付を促進したり、防衛装備品等の受領に応じた提供の確認を行ったりするなどして、引き続き未精算額を減少させるよう努めること

ウ FMSにより調達した防衛装備品について、速やかに物品管理簿に記録し、適切に管理すること

エ FMSに係る前払金や返済金の管理を適時適切に行えるよう、日本に関連する信託基金の勘定やその残高を十分に把握した上で、必要に応じて速やかに合衆国政府に対して返済請求を行うこと

(4) 防衛省におけるFMS調達の改善に向けた取組の状況

合衆国政府との協議等を通じてFMS調達の改善に向けた取組を引き続き推進するとともに、装備庁は、新精算方式による精算が着実に実施されるよう合衆国政府に対して引き続き精算促進を行うこと

(注7)
未納入  LOAに記載されている最も遅いラインの出荷予定時期を経過しており、一部又は全部のラインの防衛装備品等の提供の完了が確認できない状況
(注8)
未精算額  前払金として実際に支払った額から精算額(防衛装備品等の提供に応じて、支担官が提供の確認を行った当該防衛装備品等の金額(給付確認額)等)を差し引いた額
(注9)
未納入ケース  LOAに記載されている最も遅いラインの出荷予定時期を経過したケースのうち、一部又は全部のラインの防衛装備品等の提供が完了していないケース(当該出荷予定時期からの経過期間が1年を超えないケースを除く。)
(注10)
精算未完了ケース  防衛装備品等の提供が全て完了しているが、精算が完了していないケース

4 検査の観点、着眼点、対象及び方法

(1) 検査の観点及び着眼点

会計検査院は、元年報告のフォローアップを中心に、6年6月に受けた要請の平成30年度以降のFMSによる防衛装備品等の調達に関する各事項について、正確性、合規性、経済性、効率性、有効性、透明性の確保(注11)及び国民への説明責任の向上等の観点(注11)から、次の点に着眼して検査した。

ア FMSによる防衛装備品等の調達全般の状況

(ア) FMSによる防衛装備品等の調達額の推移等はどのようになっているか。

(イ) 後年度負担額の状況や後年度負担額に対する為替の影響の状況はどのようになっているか。

イ FMSによる防衛装備品等の調達の契約方法、契約手続、調達価格の設定等の状況

(ア) FMS調達の契約方法はどのようになっているか。

(イ) 防衛装備品の調達方法の選定等はどのようになっているか。FMS調達における防衛装備品等に係る調達条件の照会から余剰金の返還までの契約手続は適切に行われているか。

(ウ) 調達価格の設定等及び調達価格に含まれる手数料の減免等の状況はどのようになっているか。

ウ FMS調達に係る防衛装備品等の受領及び前払金の精算の状況

(ア) FMS調達に係るケース数及び未精算額は、どのように推移しているか。

(イ) ケースの進捗状況等はどのようになっているか。また、防衛装備品等の提供が完了していないケースの状況はどのようになっているか。

(ウ) ケースの進捗状況の管理は適切に行われているか。

(エ) FMSにより調達した防衛装備品の物品管理簿への記録等は適切に行われているか。

(オ) 防衛装備品等の提供に伴う前払金の精算状況はどのようになっているか。

エ 防衛省におけるFMS調達の改善に向けた取組の状況

防衛省におけるFMS調達の改善に向けた取組の状況はどのようになっているか、取組の効果は上がっているか。特に、FMS調達に係る防衛装備品等の提供を促進させるための合衆国政府に対する働きかけ(以下「出荷促進」という。)及び新精算方式による最終計算書の送付を促進させるための合衆国政府に対する働きかけ(以下「精算促進」という。)の実施状況等はどのようになっているか。

(注11)
会計検査院法における「その他会計検査上必要な観点」に位置付けられるものである。

(2) 検査の対象及び方法

会計検査院は、30年度から令和5年度までのFMS調達を対象として検査を実施した(一部6年度以降のものを含む。)。なお、元年報告からの状況を示す必要がある箇所については、元年報告における検査対象期間の最終年度に当たる平成29年度の数値についても参考に記載している。

検査に当たっては、内部部局、統合、陸上、海上、航空各幕僚監部、3補本、17補給処等(注12)、情報本部、7地方防衛局等(注13)及び装備庁において562人日を要して会計実地検査を行い、LOAやFMS調達の実施状況に係る報告等の関係書類の提出を受け、その内容を確認するとともに、担当者から説明を聴取し、現地の状況を確認するなどしたほか、公表されている資料を活用して分析した。また、アメリカ合衆国において、FMSの制度や援助管理マニュアル等の解釈、契約額や手数料等の設定等の状況、合衆国政府におけるFMSの運用状況、合衆国政府に支払われた前払金の管理状況等について、DSCA、DFAS、各軍省等の担当者から説明を受けるなどして調査を行った。

(注12)
17補給処等  陸上自衛隊関東補給処、同木更津駐屯地、海上自衛隊横須賀、呉、佐世保、舞鶴各地方総監部、同艦船補給処、同航空補給処、同厚木航空基地、航空自衛隊第2、第3、第4各補給処、同三沢、横田、小牧、美保、新田原各基地
(注13)
7地方防衛局等  北関東、南関東、近畿中部各防衛局、東海、長崎両防衛支局、岐阜、玉野両防衛事務所