事業名 | 建設省 小川原湖総合開発事業ほか4事業 水資源開発公団 思川開発事業 |
事業の概要 | 洪水を調節し利水を図るため、多目的ダム、河口堰等の施設を建設する事業 |
平成6年度までの支出済額 | 建設省 | 752億3167万余円 |
水資源開発公団 | 98億8607万余円 | |
計 | 851億1774万余円 |
(1) 細川内(ほそごうち)ダム、矢田ダム両建設事業は、地元及び地元住民の反対があるため、事業着手後24箇年を経過した現在でも基本計画作成の見通しが全く立っていない状況である。
(2) 矢作川河口堰建設事業は、漁業補償交渉が著しく難航しているため、事業着手後25箇年を経過した現在でも河口堰本体工事の着工の見通しが全く立っていない状況である。
(3) 八ツ場(やんば)ダム建設事業は、水没関係者に対する生活再建対策に同意を得られていないことなどのため、事業着手後29箇年を経過した現在でもダム本体工事に着工しておらず今後も更に長期間を要する状況である。また、思川開発事業は、いまだに取水地点の地元住民の一部には強い反対があることなどのため、事業着手後27箇年を経過した現在でもダム本体及び取水・放流施設工事に着工しておらず今後も更に長期間を要する状況である。
(4) 小川原湖総合開発事業は、社会経済情勢の変化により、むつ小川原開発計画は達成が大幅に遅延しその変更が関係機関等において検討されていることから、工業用水の供給先における水需要の急速な増加は予測できない状況である。 ついては、治水対策や将来の水需要等を総合的に勘案し、建設省及び水資源開発公団において、関係機関等との緊密な連絡・協調を基に、次のような対策を執ることなどにより、事態の改善が図られることが望まれる。
(1) 細川内ダム、矢田ダム両建設事業については、関係機関等と協議を重ねるとともに地域住民の意見を十分考慮し、事業のあり方などについて総合的な調整を図る。
(2) 矢作川河口堰建設事業については、漁業関係者と協議を重ねるとともに地域住民の意見を十分考慮し、事業の総合的な調整を図る。
(3) 八ツ場ダム建設事業については、水没関係者の生活再建対策を確立するため協議を重ねるなどして、また、思川開発事業については、地元関係者の理解を得るよう協議を重ねるなどして、事業効果の発現を図る。
(4) 小川原湖総合開発事業については、地域住民の意見を十分考慮し、周辺事業の進展と整合性を図る。
1 事業の概要
建設省では、河川の流水を水系ごとに総合的に管理することにより、洪水を調節し利水を図るため、直轄により多目的ダム、河口堰等の施設(以下、これらを「ダム等」という。)の建設事業を実施している。また、水資源開発公団(以下「公団」という。)では、広域的な用水対策を緊急に実施する必要があるため、水資源開発水系として指定された水系において、洪水を調節し利水を図るためのダム等の建設事業を実施している。
これらダム等の主な施設の建設の目的は次のとおりである。
〔1〕 多目的ダムの建設は、洪水調節を行うことによって河川の基本高水流量(注1) を計画高水流量(注2) まで低減し流域における家屋、農作物等の被害を防止し又は軽減させるとともに、流水を水道又は工業用水道として都市等に供給することなどをその目的としている。
〔2〕 河口堰の建設は、河道をしゅんせつして計画高水流量を安全に流下させることを可能にし、海水による塩害を防止するとともに、多目的ダムと同様に、流水を水道又は工業用水道として都市等に供給することなどをその目的としている。
(注1) 基本高水流量 既往の降雨や出水の記録に基づいて、河川の特定の箇所に設けられている基準地点における洪水の際の流量を予測計算した数値
(注2) 計画高水流量 洪水の際に基本高水流量が上流のダムや遊水池等で配分調節された後の基準地点の河道を流下させなければならない計算上の数値
建設省及び公団のダム等の建設事業の実施手順は、一般に、次のとおりとなっている。
〔1〕 予備調査を実施し、ダム等の立地の可能性を調査しダム等の建設予定地を決定する。
〔2〕 実施計画調査等を実施し、建設の目的、建設に要する費用及びその負担に関する事項のほか、ダム使用権(注3)
の設定予定者を定め、ダム等の建設に関する基本計画(以下「基本計画」という。)を作成し公示する(建設省の場合)。
実施計画調査等を実施し、建設大臣から示される事業実施方針に基づいて事業実施計画を作成して建設大臣の認可を受ける(公団の場合)。
〔3〕 補償基準を提示し、妥結後に個別の補償交渉等に入り用地を買収する。
〔4〕 請負契約等を締結し、ダム等を建設する。
〔5〕 建設事業が完了後、ダム等の操作規則を作成し、管理業務に移行する(建設省の場合)。
建設事業が完了後、建設大臣から示される施設管理方針に基づいて施設管理規程を作成して建設大臣の認可を受け、管理業務に移行する(公団の場合)。
(注3) ダム使用権 ダム等による一定の流水の貯留を一定地域において確保する権利
建設省及び公団では、ダム等の建設を促進し、水資源の開発と国土の保全に寄与することを目的として制定された水源地域対策特別措置法(昭和48年法律第118号)に基づく制度を活用するなどして、地元の理解と協力を得るよう努力を払っている。また、地方公共団体の協力により設立された水源地域対策基金を活用するなどして、事業の促進を図ってきたところである。
2 検査の結果
本院では、ダム等の建設事業については、建設中のダム等で実施計画調査等に着手(以下「事業着手」という。)後10箇年以上を経過していたもののうち、事業効果の発現が著しく遅延している事態を昭和52年度及び58年度決算検査報告において「特に掲記を要すると認めた事項」として掲記したところである。
そこで、これまでに決算検査報告において掲記した事態を踏まえ、ダム等の計画は社会経済情勢の変化に適切に対応したものとなっているか、その建設は特に長期化したり長期間停滞したりすることなく適切に実施されているかなどに着目して、治水及び利水の両面から総合的に調査した。
昭和58年度決算検査報告に掲記した後、昭和60年度からは基本計画公示前又は事業実施方針指示前に環境影響評価が実施されることになった。そこで、昭和58年度決算検査報告に掲記した7事業のほか、上記の環境影響評価を行うために必要な期間も考慮して、建設省及び公団が、平成6年度において実施しているダム等の建設事業で事業着手後15箇年以上を経過しているもののうち、事業効果の発現が著しく遅延しているものなど4事業を合わせ、計11事業(6年度までの支出済合計額6032億5925万余円)について進ちょく状況を調査した。
調査したところ、6年度末現在、昭和58年度決算検査報告に掲記した7事業のうち、建設省が施行している長島ダム、温井ダム両建設事業は、ダム本体工事が実施中であった。公団が施行している滝沢ダム建設事業は、ダム本体工事の着工の見通しが立っており、浦山ダム建設事業はダム本体工事が実施中であった。 したがって、これら4事業については事業が進展していると認められた。また、公団が施行している長良川河口堰建設事業は既に事業が完了していた。
しかし、残りの6事業(6年度までの支出済合計額851億1774万余円)については、次のとおり、事業着手後19箇年から29箇年を経過した現在でも、基本計画作成の見通しや河口堰本体工事の着工の見通しが全く立っていなかったり、ダム本体工事の着工までには今後も更に長期間を必要としたり、水需要が計画に比べて減退していたりしている事態が見受けられた。
(1) 事業着手後24箇年を経過した現在でも基本計画作成の見通しが全く立っていないもの
地方建設局名 | 水系名 (河川名) |
建設位置 | 型式 | 堤高 堤頂長 |
着手 年度 |
調節水量 (計画高水流量) |
都市用水供給水量 | かんがい用水供給水量 | 年平均被害軽減額 |
m |
|||||||||
堤体積 | |||||||||
千m3 | (昭和) | m3 /s | m3 /s | m3 /s | 億円 | ||||
四国地方建設局 | 那賀川 (那賀川) |
— | — | — | 47 | — | — | — | — |
この事業は、建設省が、徳島県那賀郡木頭村にダムを建設し、那賀川水系那賀川の洪水を調節するとともに、同県内に都市用水等を供給することとして、昭和47年度に事業着手し、平成5年4月に実施計画調査の段階から予算上建設の段階に移行したものである。
そして、昭和47年度から平成6年度までに42億9879万余円で空中写真撮影・図化及び水文調査、建設予定地等の地質調査及びダム建設に理解を得るための地域振興計画の検討などを実施している。
しかし、ダム建設に伴って、多数の家屋、宅地、農地等の水没が予定されており、ダム建設に対して、当初は地元の理解が得られていたものの、その後、地元関係者の間に意見のくい違いが生じるなどの経緯もあり、現在においてはダム建設が村の過疎化を進行させること、那賀川の自然環境が悪化することなどの理由から地元に極めて強固な反対がある。さらに、下流受益者から建設促進の要望を受け、地元の十分な理解を得ずに調査事務所を工事事務所に組織変更して実施計画調査の段階から予算上建設の段階に移行したことなどから、地元との交渉が難航していて、5年度からは基本計画を作成する上で最も重要なダム建設予定地への調査のための立入りも行えない状況である。
したがって、建設の目的及びダム使用権の設定予定者等を定めることができず、事業着手後24箇年を経過した現在でも基本計画作成の見通しが全く立っていない状況である。
地方建設局名 | 水系名 (河川名) |
建設位置 | 型式 | 堤高 堤頂長 |
着手 年度 |
調節水量 (計画高水流量) |
都市用水供給水量 | かんがい用水供給水量 | 年平均被害軽減額 |
m |
|||||||||
堤体積 | |||||||||
千m3 | (昭和) | m3 /s | m3 /s | m3 /s | 億円 | ||||
九州地方建設 | 大野川 (平井川) |
— | — | — | 47 | — | — | — | — |
この事業は、建設省が、大分県大野郡大野町にダムを建設し、大野川水系平井川において洪水を調節するとともに、大分都市圏に都市用水を供給することとして、昭和47年度に事業着手したものである。そして、47年度から平成6年度までに34億1457万余円で空中写真撮影・図化、水文調査等及びダム建設に理解を得るための地域振興計画の検討などを実施している。
しかし、ダム建設に伴って、多数の家屋、宅地、農地等の水没が予定されているため、生活再建に対する不安や、先祖伝来の土地への愛着などの理由で地元住民にダム建設に対して強い反対があり、基本計画作成のための用地等の立入調査や地質調査が行えず、地元との交渉が著しく難航している状況である。
したがって、建設の目的及びダム使用権の設定予定者等を定めることができず、事業着手後24箇年を経過した現在でも基本計画作成の見通しが全く立っていない状況である。
(2) 事業着手後25箇年を経過した現在でも河口堰本体工事の着工の見通しが全く立っていないもの
地方建設局名 | 水系名 (河川名) |
建設位置 | 型式 | 堰延長 | 着手 年度 |
流下 能力 |
都市用水供給水量 | かんがい用水供給水量 | 年平均被害軽減額 |
m | (昭和) | m3 /s | m3 /s | m3 /s | 億円 | ||||
中部地方建設局 | 矢作川 (矢作川) |
愛知県西尾市及び碧南市 |
可動堰 |
542 | 46 | 7,000 | 3.0 | — | — |
この事業は、建設省が愛知県西尾市等を流下する矢作川の河口に可動堰を設置し、河道をしゅんせつして計画高水流量を安全に流下させ、塩害を防止するとともに、西三河地城及びその周辺地域に工業川水を供給することを目的として、昭和46年度に事業着手し、52年度に基本計画を公示したものである。
本事業については、昭和58年度決算検査報告において「特に掲記を要すると認めた事項」として事業効果の発現について問題提起をしたところである。当時は、地元に強い反対があり、河口堰建設の地元の同意が得られず、漁業関係の補償は全く行われていない状況であった。そして、46年度から58年度までに65億4944万余円で工事用地の補償及び関連護岸工事等の一部を実施しただけであった。
今回、その後の事業の進ちょく状況について調査したところ、当初河口海域の漁場に対する補償交渉の対象としていた14漁業協同組合のうち3組合については河口堰の影響がないことが判明し補償交渉の対象でなくなったが、残る11組合についてはいまだに同意が得られていない状況であった。また、59年度以降は、平成6年度までに134億1869万余円で関連護岸工事を引き続き実施したほか、橋りょう付替工事として1橋の工事などを実施している。このように、昭和59年度から現在(平成7年9月)に至るまでの12年間に関連護岸工事等に一応の進ちょくは見られるところである。
しかし、昭和46年度から平成6年度までに199億6813万余円を投じながら、漁業関係者の要請による代替干潟造成のための試験結果が得られていないことなどから、漁業補償交渉が著しく難航しいまだに漁業補償が全く行われておらず、事業着手後25箇年を経過した現在でも河口堰本体工事の着工の見通しが全く立っていない状況である。
(3) 事業着手後29箇年又は27箇年を経過した現在でもダム本体工事に着工しておらず今後も更に長期間を要するもの
地方建設局名 | 水系名 (河川名) |
建設位置 | 型式 | 堤高 堤頂長 |
着手 年度 |
調節水量 (計画高水流量) |
都市用水供給水量 | かんがい用水供給水量 | 年平均被害軽減額 |
m |
|||||||||
堤体積 | |||||||||
千m3 | (昭和) | m3 /s | m3 /s | m3 /s | 億円 | ||||
関東地方建設局 | 利根川 (吾妻川) |
群馬県吾妻郡長野原町 |
重力式コンクリート |
131 |
42 | 2,400 (3,900) |
22.1 | — | 464 |
この事業は、建設省が、群馬県吾妻郡長野原町にダムを建設し、利根川水系吾妻川において洪水を調節するとともに、同県内や首都圏に都市用水を供給することを目的として、昭和42年度に事業着手し、61年度に基本計画を公示したものである。
本事業については、昭和58年度決算検査報告において「特に掲記を要すると認めた事項」として事業効果の発現について問題提起をしたところである。当時は、特に、川原湯温泉及び吾妻渓谷沿いの農地の大半が水没することなどから、地元に強い反対があり、ダム建設に関する基本計画立案のための用地等の立入調査や地質調査が行えないため基本計画が公示できない状況であった。そして、昭和42年度から58年度までに45億4489万余円で吾妻川の水質観測や上流の護岸工を施工しただけで、水没家屋及び水没用地等の用地取得は全く行われていなかった。
今回、その後の事業の進ちょく状況について調査したところ、61年7月に基本計画を公示し、63年3月までには現地調査を開始し、平成4年9月には長野原町において用地補償調査を開始している状況であった。また、昭和59年度以降は、平成6年度までに243億1837万余円で水質観測や上流の護岸工を引き続き実施し、地形・路線測量、地質調査等のほか、代替予定地への進入路のための土地に地上権を設定して進入路工事の一部を実施している。このように、昭和59年度から現在(平成7年9月)に至るまでの12年間に、基本計画が公示され、水源地域対策特別措置法に基づく制度が活用されるなどの一応の進ちょくは見られるところである。
しかし、昭和42年度から平成6年度までに288億6326万余円を投じながら、いまだに水没関係者に対する生活再建対策に同意が得られていないことなどから、補償基準の提示もできないまま、事業着手後29箇年を経過した現在でもダム本体工事に着工しておらず今後も更に長期間を要する状況である。
ダム名 | 水系名 (河川名) |
建設位置 | 型式 | 堤高 堤頂長 |
着手 年度 |
調節水量 (計画高水流量) |
都市用水供給水量 | かんがい用水供給水量 | 年平均被害軽減額 |
m |
|||||||||
堤体積 | |||||||||
千m3 | (昭和) | m3 /s | m3 /s | m3 /s | 億円 | ||||
南摩(なんま)ダム | 利根川 (南摩川) |
栃木県鹿沼市 |
ロックフィル |
105 545 7,600 |
125 (130) |
1.5 (平均) |
|||
44 | 7.1 | 38 | |||||||
行川ダム | 利根川 (行川) |
栃木県今市市 |
ロックフィル |
52 310 1,200 |
120 (240) |
— |
この事業は、公団が、栃木県鹿沼市及び今市市に上記の2ダムを建設するほか、利根川水系の油川及び黒川に取水・放流施設並びに同大芦川に取水施設をそれぞれ建設し、2ダムの貯水池と3河川とを導水路(約20km)で結び、水の融通を行うものである(参考図1参照) 。これにより、利根川水系南摩川及び行川において洪水を調節するとともに、同県内や首都圏に都市用水等を供給することなどを目的として、昭和44年度に事業着手したものである。この事業は、45年7月に利根川水系における水資源開発計画に掲げられ、当初南摩ダム、取水施設、水路等を建設する計画であったが、その後、平成6年1月に水資源開発基本計画の変更により、行川ダムの建設が追加となった。同年5月に建設大臣から事業実施方針が示され、同年11月に事業実他計画の認可を受けている。そして、昭和44年度から平成6年度までに98億8607万余円で空中写真撮影・図化、環境調査、地質調査等を実施している。
しかし、南摩ダムの水没関係者の一部及び油川の取水地点の地元住民に強い反対があり、このような情勢が十分改善されないのに、公団では、事業実施方針の指示を受けるために昭和59年度に建設事業費の予算を計上した。その後も水没関係者の一部及び取水地点の地元住民からなお理解が得られず、平成6年5月に同方針の指示を受けるまでに10箇年の長期を要していた。
上記のような状況から、現在(7年9月)に至ってようやく南摩ダムの全水没予定区域で技術調査のための立ち入りが可能となった。しかし、いまだに取水地点の地元住民の一部には強い反対があり、水没関係者には補償基準の提示もできないまま、事業着手後27箇年を経過した現在でもダム本体及び取水・放流施設工事に着工しておらず今後も更に長期間を要する状況となっている。
(4) 事業の計画が周辺の事業の進展状況とかい離しているもの
地方建設局名 | 水系名 (河川名) |
建設位置 | 型式 | 堰延長 | 着手 年度 |
流下能力 | 都市用水供給水量 | かんがい用水供給水量 | 年平均被害軽減額 |
千m3 | (昭和) | m3 /s | m3 /s | m3 /s | 億円 | ||||
東北地方建設局 | 高瀬川 (高瀬川) |
青森県三沢市ほか5町村 | 可動堰2堰ほか | 200 300 |
52 | 1,400 | 7.0 | 8.3 | 10 |
この事業は、建設省が、昭和44年に閣議決定された新全国総合開発計画を受けて青森県が作成し52年に閣議了解された「むつ小川原開発第2次基本計画」(以下「むつ小川原開発計画」という。)及び同省が作成した「高瀬川水系工事実施基本計画」に基づき、52年度に事業着手し、53年度に本件「小川原湖総合開発事業に関する基本計画」を公示したものである。この事業は、高瀬川水系高瀬川(小川原湖を含む。)及び拡幅する既設の高瀬川放水路に河口堰各1堰、湖岸堤等を築造することにより、洪水及び高潮の防除を行うとともに、むつ小川原工業開発地区に工業用水を供給することなどを目的としている(参考図2参照)
。そして、52年度から平成6年度までに186億8690万余円で湖岸堤工事の一部及び水文調査等を実施している。
このうち工業用水を供給する事業については、大規模工業基地を建設して基幹型工業を導入することなど、むつ小川原地域の総合的な開発を目的としたむつ小川原開発計画の一環として実施されているものであることから、特に工業用水の供給先であるむつ小川原工業開発地区への企業の立地状況及び利水の現状について調査した。
調査したところ、むつ小川原開発計画で予定していた約5.6m3
/s(486,000m3
/日)の大量の水を使用する石油精製、石油化学等の企業は全く立地されていなかった。そして、現在立地されている企業は、大量の水は使用しない国家石油備蓄基地、原子燃料サイクル施設等だけで、これらの企業は暫定的に高瀬川とは水系の異なる二又川から約0.1m3
/s(9,500m3
/日)を取水して需要を満たしている状況である。
したがって、社会経済情勢の変化により、むつ小川原開発計画は達成が大幅に遅延しその変更が関係機関等において検討されていることから、工業用水の供給先における水需要の急速な増加は予測できない状況である。
3 本院の所見
本院は、これまで、多額の事業費を投下して実施される多数のダム等の建設事業について、事業の有効かつ適切な実施の観点から、継続して検査を実施してきている。その結果、前記のとおり、過去の決算検査報告において、2度にわたり、問題提起を行うなどして事業効果の発現を促してきたところである。
そして、この間、建設省及び公団においては、水源地域対策に係る制度の活用を図るなどして、ダム等の建設事業の推進を図る努力を続けてきている。
しかし、これまで記述してきたように、細川内ダム、矢田ダム両建設事業は基本計画作成の見通しが全く立っていない状況となっている。矢作川河口堰建設事業は河口堰本体工事の着工の見通しが全く立っていない状況となっている。
そして、八ツ場ダム建設事業はダム本体工事に着工しておらず今後も更に長期間を要する状況となっており、思川開発事業はダム本体及び取水・放流施設工事に着工しておらず今後も更に長期間を要する状況となっている。このような状況でこのまま推移すると、洪水被害軽減の効果が今後も長期間にわたって期待できないこととなるほか、利水においては、事業の長期化に伴う経費増と物価上昇などによる事業費の増こうなどから原水単価(注4) が高騰するなど、受益者にかかる利水効果に影響を及ぼすおそれがあると認められる。
また、小川原湖総合開発事業は、社会経済情勢の変化により、むつ小川原開発計画の達成が大幅に遅延しその変更が関係機関等において検討されていることから、工業用水の供給先における水需要の急速な増加は予測できない状況となっている。このような状況では、現行の基本計画どおりに事業を急ぎ実施する要はないと認められる。
ついては、治水対策や将来の水需要等を総合的に勘案し、建設省及び公団において、関係機関等との緊密な連絡・協調を基に、次のような対策を執ることなどにより、事態の改善が図られることが望まれる。
(1) 細川内ダム、矢田ダム両建設事業については、関係機関等と協議を重ねるとともに地域住民の意見を十分考慮し、事業のあり方などについて総合的な調整を図る。
(2) 矢作川河口堰建設事業については、漁業関係者と協議を重ねるとともに地域住民の意見を十分考慮し、事業の総合的な調整を図る。
(3) 八ツ場ダム建設事業については、水没関係者の生活再建対策を確立するため協議を重ねるなどして、また、思川開発事業については、地元関係者の理解を得るよう協議を重ねるなどして、事業効果の発現を図る。
(4) 小川原湖総合開発事業については、地域住民の意見を十分考慮し、周辺事業の進展と整合性を図る。
(注4) 原水単価 当該水資源開発のための利水者負担金を水資源開発により生ずる開発水量で除した価格