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  • 平成7年度|
  • 第2章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第10 労働省|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

地方公共団体の非常勤職員に対する労働者災害補償保険の適用を適切に行うよう改善させたもの


 地方公共団体の非常勤職員に対する労働者災害補償保険の適用を適切に行うよう改善させたもの

会計名及び科目 労働保険特別会計(徴収勘定)(款)保険収入(項)保険料収入
部局等の名称 労働本省、北海道労働基準局ほか11労働基準局
労働者災害補償保険事業の概要 労働者災害補償保険法(昭和22年法律第50号)に基づき、業務上の事由又は通勤による労働者の負傷、疾病等に対する療養補償給付等を行う事業
保険料納付義務者 59地方公共団体
徴収されていなかった保険料の額 568,658,672円
<検査の結果>

 上記の事業の実施に当たり、地方公共団体の保健・衛生事業、教育・研究事業等の現業事業場の非常勤職員について、労災保険の加入手続が適切に行われていなかったため、労災保険が適用されておらず、これら非常勤職員に係る保険料568,658,672円が徴収されていなかった。
 このような事態が生じていたのは、労働本省において、都道府県労働基準局に対し、地方公共団体の非常勤職員に対する労災保険の適用の取扱いを周知徹底していなかったこと及び地方公共団体において、現業事業場の非常勤職員には労災保険が適用されることを十分理解していなかったことなどによると認められた。

<当局が講じた改善の処置>

  本院の指摘に基づき、労働省では、平成8年10月に各都道府県労働基準局に対して通達等を発し、労災保険の対象となる地方公共団体の事業場、非常勤職員の範囲等を明確に示すなどして地方公共団体の非常勤職員に対する労災保険の適用を適切に行うこととする処置を講じた。

1 制度の概要

 (労働者災害補償保険)

 労働省では、労働者災害補償保険法(昭和22年法律第50号。以下「労災保険法」という。)に 基づき、労働者災害補償保険(以下「労災保険」という。)を運営しており、業務上の事由又は通勤による労働者の負傷、疾病等(以下「業務上の災害等」という。)に対して迅速かつ公正な保護をするため、必要な保険給付等を行っている。

 (労災保険の適用範囲及び加入手続)

 労災保険は、労災保険法第3条の規定により、労働者を使用する事業を適用事業とし、事業主の意思にかかわりなく適用される強制適用の制度をとっている。ただし、一般の行政事務を行う官公署(以下「非現業事業場」という。)等は適用が除外されているので、官公署については、保健・衛生事業、教育・研究事業、土木・建築事業等を行う官公署(以下「現業事業場」という。)が労災保険の適用事業場とされている。そして、適用事業場に使用される労働者には、その勤務形態等にかかわらず、業務上の災害等に対する補償がされることとなっている。
 労災保険が適用される事業場の事業主は、労働保険の保険料の徴収等に関する法律(昭和44年法律第84号)により、労災保険の加入手続をとり、労災保険の事業に要する費用に充てるため都道府県労働基準局に保険料を納付することとなっている。

 (地方公務員に対する災害補償制度)

 事業主である地方公共団体は、非現業事業場及び現業事業場において、それぞれ地方公務員として職員を使用している。そして、上記のとおり、労災保険は、現業事業場に適用され、非現業事業場には適用されないこととなっている。
 一方、地方公務員のうち、常勤の地方公務員(非常勤の地方公務員のうちその勤務形態が常勤の地方公務員に準ずるもので政令で定める者(注1) を含む。以下「常勤職員」という。)については、地方公務員災害補償法(昭和42年法律第121号。以下「地公災法」という。)によって、業務上の災害等に対する補償がされることとなっている。このため、非現業事業場の常勤職員には地公災法が適用される。そして、現業事業場の常勤職員には地公災法により労災保険法の適用は除外されているので、地公災法が適用されることになる。
 また、地公災法により、常勤職員以外の地方公務員(以下「非常勤職員」という。)については、労災保険法等で補償の制度が定められていないものに対する補償の制度を条例で定めなければならないこととされている。このため、現業事業場の非常勤職員には労災保険法が適用され、非現業事業場の非常勤職員には当該条例が適用されることになる。
 地方公務員について、以上の法律及び条例の適用関係を図示するとおおむね次のようになる。

地方公共団体の非常勤職員に対する労働者災害補償保険の適用を適切に行うよう改善させたものの図1

2 検査の結果

 (調査の観点)

 地方公務員に対する業務上の災害等に対する補償については、上記のとおり、労災保険法、地公災法及び同法に基づく条例の適用関係が複雑になっている。
 そこで、地方公務員のうち、労災保険法が適用されることとなっている現業事業場に使用されている非常勤職員について、その適用が適切に行われているかという観点から調査した。

 (調査の対象)

 北海道労働基準局ほか12労働基準局(注2) 管内の65地方公共団体について、平成7年度の現業事業場における非常勤職員の雇用の実態及び労災保険の適用状況を調査した。

 (調査の結果)

 調査したところ、上記の地方公共団体では、行政サービスの多様化などにより、病院、保育所、学校、土木事務所等において、勤務時間が常勤職員よりも短い者や雇用期間が数箇月に限定されている者などの非常勤職員を多数使用していた。
 しかし、上記の13労働基準局管内の65地方公共団体のうち、北海道労働基準局ほか11労働基準局(注3) 管内の59地方公共団体においては、これらの現業事業場における非常勤職員について労災保険の加入手続が適切に行われておらず、多数の非常勤職員が労災保険の適用を受けていない状況となっていた。

 その内訳は、次のとおりである。

(ア) 非常勤職員については、すべて条例が適用されると誤認して、現業事業場で使用される者と非現業事業場で使用される者とを区別せず条例を適用する取扱いとしていたため、現業事業場における非常勤職員について、労災保険の加入手続を全くとっていなかったもの

北海道労働基準局ほか7労働基準局管内

19地方公共団体

(イ) 学校、図書館等一部の現業事業場における非常勤職員については、条例が適用されると誤認していたり、当該事業場を非現業事業場であると誤認していたりして条例を適用する取扱いとしていたため、労災保険の加入手続をとっていなかったもの

北海道労働基準局ほか11労働基準局管内

40地方公共団体

 このように、地方公共団体において、現業事業場における多数の非常勤職員が労災保険の適用を受けていない事態は、強制適用の制度をとり、適用事業場の事業主が納付する保険料により事業を維持運営するという労災保険制度の趣旨からみても適切とは認められない。

 (徴収されていなかった保険料の額)

 これら加入手続をとっていなかった非常勤職員に対して支払われた7年度の賃金総額は893億1424万余円となっており、これに係る労災保険の保険料568,658,672円が徴収されていなかった。

 (発生原因)

 このような事態が生じていたのは、主として次のことによると認められた。

(ア) 労働本省において、都道府県労働基準局に対し、地方公共団体の非常勤職員に対する労災保険の適用の取扱いを周知徹底していなかったため、都道府県労働基準局ではその取扱いを十分理解していなかったこと

(イ) 地方公共団体において、労災保険法及び地公災法の規定により、現業事業場の非常勤職員には労災保険が適用されることを十分理解していなかったこと

3 当局が講じた改善の処置

 上記についての本院の指摘に基づき、労働省では、8年10月に各都道府県労働基準局に対して通達等を発し、次のとおり、地方公共団体の非常勤職員に対する労災保険の適用を適切に行うこととする処置を講じた。

(ア) 都道府県労働基準局に対し、労災保険の対象となる地方公共団体の事業場、非常勤職員の範囲等を明確に示し、地方公共団体の非常勤職員に対する労災保険の適用の取扱いを周知徹底した。

(イ) 地方公共団体に対し、現業事業場の非常勤職員には労災保険が適用されるということ周知徹底するため、都道府県労働基準局から管内の各地方公共団体あてに労災保険の加入手続を勧奨する旨の文書を発するとともに地方公共団体を対象とした労災保険についての説明会を実施することとした。

 (注1)  政令で定める者 常勤の地方公務員について定められている勤務時間以上勤務した日が18日以上ある月が引き続いて12箇月を超えるに至った者で、その超えるに至った日以後引き続き当該勤務時間により勤務することを要することとされている者

 (注2)  北海道労働基準局ほか12労働基準局 北海道、宮城、千葉、東京、神奈川、山梨、愛知、京都、大阪、奈良、広島、福岡、長崎各労働基準局

 (注3)  北海道労働基準局ほか11労働基準局 北海道、宮城、千葉、東京、神奈川、愛知、京都、大阪、奈良、広島、福岡、長崎各労働基準局