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育英奨学金の回収が適切に行われるよう改善の意見を表示したもの


 育英奨学金の回収が適切に行われるよう改善の意見を表示したもの

科目 貸付金
部局等の名称 日本育英会
事業の根拠 日本育英会法(昭和59年法律第64号(同19年法律第30号の全部改正))
事業の概要 大学等における優れた学生及び生徒であって経済的理由により修学が困難な者に対する奨学金の貸付け、回収等の事業
貸付金残高 1兆7137億余円 (平成7年度末)
滞納額 200億余円 (平成7年度末)
<検査の結果>

  日本育英会では、大学等における優れた学生及び生徒であって経済的理由により修学が困難な者に対する奨学金の貸付け、回収等の育英奨学事業を行っている。この奨学金の原資は、奨学金の貸与を受けた者からの回収金、一般会計及び資金運用部資金からの借入金等である。
 そこで、奨学金の回収状況を調査したところ、毎年滞納額が増加し、滞納期間も長期化してきており、平成7年度末の滞納額は200億余円に上っていた。
 このような事態が生じているのは、次のようなことなどによると認められた。

(ア) 奨学生等に対して返還意識の向上を十分図っていないこと

(イ) 返還金の口座振替による月賦払いを導入したものの、既存の返還者に対し周知していないこと

(ウ) 滞納者、連帯保証人及び保証人に対する督促等の措置を早期に執っていないこと

(エ) 滞納者等の現状把握、滞納原因の調査分析が十分でないため、的確な対策が執られていないこと

<改善の意見表示>

  日本育英会において、次のような処置を執るなどして回収金の滞納の防止及び解消を図ることにより資金を効率的に運用し、育英奨学事業の適切な運営に努め、国の負担の増大を抑制する要があると認められた。

(ア) 奨学生等に対して、育英奨学制度及び返還の重要性を周知徹底し、返還意識の向上を図ること

(イ) 返還金の口座振替による月賦払いを強力に推進すること

(ウ) 滞納者、連帯保証人及び保証人に対する早期適切な督促体制を整備すること

(エ) 滞納者等の現状を把握して滞納原因を調査分析し、実情に合った有効な対策が執られるよう事務処理体制を整備すること

 上記のように認められたので、会計検査院法第36条の規定により、平成8年12月2日に日本育英会理事長に対して改善の意見を表示した。

【改善の意見表示の全文】

 育英奨学金の回収について

(平成8年12月2日付け 日本育英会理事長あて)

 標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の意見を表示する。

1 事業の概要

 (育英奨学事業の概要)

 貴会では、日本育英会法(昭和59年法律第64号(同19年法律第30号の全部改正))に基づき、国家及び社会に有為な人材の育成に資するとともに、教育の機会均等に寄与することを目的として、育英奨学事業を運営している。
 この事業は、優れた学生及び生徒であって経済的理由により修学が困難な者に対して学資を貸与する業務(以下、貸与する学資を「奨学金」、貸与を受ける学生及び生徒を「奨学生」という。)、奨学生の資質の向上を図るなどのために行う補導業務、貸与した奨学金を回収する業務等を実施するものである。

 上記の奨学金には、無利子奨学金と有利子奨学金の2種類があり、次のとおりとなっている。

(ア) 無利子奨学金は、高等学校、大学、大学院等の特に優れた学生等で経済的理由により著しく修学が困難な者に、所定の月額(平成7年度入学の大学生で38,000円から57,000円)に利息を付さないで貸与する第一種奨学金等である。

(イ) 有利子奨学金は、大学、大学院等の優れた学生で経済的理由により修学が困難な者に、所定の月額(7年度入学の大学生で38,000円から137,0000円)に利息(年3%等)を付して貸与する第二種奨学金で、昭和59年度に事業の拡充のために設けられたものである。

 そして、これらの奨学金の貸与を受けていた者は卒業等により貸与が終了した後(以下、貸与終了後の奨学生を「貸与終了者」という。)、終了した月の翌月から起算して6月を経過した後20年以内に全額を貴会に返還することとされている。ただし、大学等で無利子奨学金を受けた貸与終了者が教育職等に所定の期間従事した場合は、返還を免除することなどができることとなっている。

 (事業の実績)

 育英奨学事業が開始された18年度から平成7年度までの問の事業実績は、貸与者累計は519万余人、貸付金累計額は3兆0002億余円で、これから貸付金回収累計額9895億余円及び返還免除等累計額2970億余円を差し引いた7年度末現在の貸付金残高は1兆7137億余円(無利子奨学金1兆4079億余円、有利子奨学金3057億余円)となっている。そして、7年度においては、新規の貸与終了者は13万余人(これらの者に対する貸与済奨学金2020億余円)に対し、新規の奨学生は15万余人で、全体の奨学生数は45万余人となり、これらの者に対する奨学金の貸付金額は2286億余円になっている。

 (奨学金の原資)

 奨学金の原資は、次のとおりとなっている。

(ア) 無利子奨学金の原資は、奨学金の貸与を受けた者からの回収金及び国の一般会計からの無利子借入金(35年後一括償還)等である。そして、貴会が貸与終了者に対して返還を免除した場合は、国も翌年度に貴会に対して償還を免除することとなっていて、現在までのところ、償還免除額が償還期限の到来した償還額を上回っているため、一般会計への償還は全く行っていない。

(イ) 有利子奨学金の原資は、奨学金の貸与を受けた者からの回収金及び国の資金運用部資金からの有利子借入金(3年据置17年元金均等半年賦償還)である。そして、貴会が貸与終了者に対して返還を免除した場合は、一般会計から貴会へ返還免除相当額の補助金が交付されることとなっていて、この補助金を原資として同資金への償還を行うこととなっている。さらに、同資金からの借入利子は、奨学生への貸与利子を上回っていることから、その差額についても一般会計から利子補給金を受けている。

 7年度の奨学金の貸付金額2286億余円(無利子奨学金1768億余円、有利子奨学金517億余円)の原資のうち、回収金充当額は1010億余円(同917億余円、同92億余円)で44%であり、国からの借入金は1275億余円(同850億余円(一般会計)、同425億円(資金運用部資金))である。また、無利子奨学金の返還免除相当額223億余円は一般会計への償還を免除され、有利子奨学金の借入利子と貸与利子との差額99億余円は一般会計から利子補給されている。さらに、貴会の事業の運営に要する費用70億余円も一般会計から補助されており、これらはすべて国の負担になっている。

 7年度末において、一般会計からの借入金累計額は1兆7069億余円で、このうち償還免除累計額2746億余円を差し引いた借入金残高は1兆4322億余円になっている。また、資金運用部資金からの借入金累計額は3722億余円で、このうち償還累計額572億余円を差し引いた借入金残高は3149億余円、利子補給金累計額は658億余円になっている。

 (奨学金の返還方法)

 奨学生が大学等を卒業するなどして奨学金の貸与が終了し貸与終了者になったときに、連帯保証人及び保証人並びに返還期日を記入するなどした借用証書等を貴会に提出させることとなっている。この貸与終了者は、前記所定の期間内に、〔1〕 無利子奨学金は元金均等により、〔2〕 有利子奨学金は元利均等により、いずれも年賦、月賦その他の割賦の方法により返還することとなっている。そして、返還の免除等を受けた者以外の割賦金の返還債務を負担する者(以下「要返還者」という。)は、返還期日到来前に貴会から送付される奨学金返還払込通知書により、銀行振込等による年賦払い(7年度から新規に返還を開始する第一種奨学金の大学卒業生で、年額8万円から13万円程度)などの方法で返還することとなっている。

 (奨学金の回収業務)

 奨学金の回収業務については、「日本育英会が行う学資金回収業務の方法に関する省令(昭和59年文部省令第42号)」で、効率的な方策を調査研究し能率的な運営を図ること、滞納者等に対する督促、強制執行の手続等が規定されている。滞納が生じた場合には、〔1〕 無利子奨学金においては貸与終了者が自ら定めた返還期日から6月以内は延滞金を付さず6月を超えるごとに6月について5%の延滞金を、〔2〕 有利子奨学金においては返還期日の翌日から滞納日数に応じて年10%の延滞金をそれぞれ付加することとなっている。また、要返還者が支払能力があるにもかかわらず、返還を著しく怠ったと認められるときは、返還未済額の全額を繰上返還させることとしている。

 そして、貴会では、奨学金の回収業務を次のように運用している。

(ア) 7年12月以降、新規要返還者を対象として、金融機関の要返還者等の口座から貴会の口座に振り替える自動払いを勧誘する。

(イ) 滞納期間が3箇月を超えた場合は3箇月ごとに返還を文書により督促するなどし、所在が不明の場合には住所調査などに着手する。

(ウ)滞納期間が、〔1〕 無利子奨学金で3年、〔2〕 有利子奨学金で15月を超えた場合は滞納者等に対して個別に文書、電話等による督促を行い、8年を超えた場合は支払命令の手続きを始めるなどし、その後、一部は強制執行に移行することもある。

 (奨学金の回収状況)

 7年度は、返還期日が到来した同年度の返還年賦額及び6年度までに既に滞納となっていた額から7年度に返還免除した額等を控除した債権額(以下「要回収額」という。)1141億余円(無利子奨学金959億余円、有利子奨学金182億余円)に対し、貸付金回収額は940億余円(同773億余円、同166億余円)に過ぎず、滞納額が200億余円(同185億余円、同15億余円)に上っている。そして、このうち1年以上滞納しているものが116億余円(同110億余円、同6億余円)あり、この滞納に係る元金残高は418億余円(同370億余円、同47億余円)になっており、さらに、延滞金の未収額も28億余円に上っている。

2 検査の結果

 (調査の観点)

 育英奨学事業は、昭和18年に開始されたが、当時から現在までの社会経済情勢、教育環境は大きく変化しており、大学進学率は、30年代に10%台(入学者数17万人から28万人)であったものが、平成7年度には45.2%(同80万人)にもなっている。これに伴って奨学生も増加し、7年度には45万余人となり、同年度末の要返還者は138万人を超える状況となっている。
 そこで、国の負担で実施されている育英奨学事業は毎年規模が拡大していることを踏まえ、負担の公平性を確保し、資金を効率的に運用するために奨学金の適正な回収が図られているかという観点から、回収金の滞納状況について調査を実施した。

 (調査の結果)

 貴会では、前記のように回収金の滞納の防止策及び解消措置を執ることとしているが、7年度当初の滞納者は14万余人になっている。そして、同年度中に電話等により個別に督促した者は37,606人で、滞納発生後迅速に滞納者、連帯保証人等と個別に対応していなかったり、繰上返還の措置を全く執っていなかったりなどしている。また、同年度末における要返還者は138万余人であるが、口座振替制度の利用者は6,591人と少数にとどまっている。このように滞納の防止策及び解消措置が十分執られておらず、毎年回収金の滞納額が増加し、また、滞納期間も長期化してきて適切とは認められない事態が次のとおり見受けられた。
 すなわち、昭和60年度、平成2年度及び7年度の5年ごとに、各年度の要回収額、滞納額等の推移をみると、次表のとおりとなっている。

年度 発生区分 要回収額 滞納額(期末) 滞納率
要返還者数(期末) 滞納者数(期末) 滞納者率
60
当年度新規発生分
百万円
32,471
百万円
3,624

11.1
千人
1,375
千人
148

10.7
前年度以前発生分 4,600 2,052 44.6

5,677
2 当年度新規発生分 63,290 6,051 9.5
1,401

144

10.3
前年度以前発生分 9,647 5,124 53.1

11,175
7 当年度新規発生分 96,787 8,394 8.6
1,386

149

10.7
前年度以前発生分 17,350 11,689 67.3

20,084

 (注1)  「前年度以前発生分」の「要回収額」欄の金額は、前年度までに生じた滞納額から当年度の免除額等を控除した金額である。

 (注2)  返還期日未到来の繰上返還額は、表から除いてある。

 昭和60年度から平成7年度までの間、滞納額は、毎年増加し、昭和60年度末で56億余円であったものが、平成2年度末には111億余円と5年間で倍増し、さらに、10年後の7年度末では3.5倍の200億余円と著しく増加している。

 このように滞納額が増加している状況をみると、次のようになっている。

(ア) 当年度新規発生滞納額は、要回収額が奨学金の増額等に伴って大幅に増加しているのに、当年度新規発生滞納率が昭和60年度から平成7年度までの間、それほど低下していないため、36億余円から83億余円に増加している。

(イ) 前年度以前発生滞納額は、当年度においても回収されずにそのまま滞納している割合が昭和60年度から平成7年度までの間上昇しているため、20億余円から116億余円に大幅に増加している。

 そして、現在までの状況からみると、既に生じている滞納額については徐々に回収が進んでいるものの、その間にこれを上回って新たに滞納が生じていて、滞納額が累増し、しかも、上記の10年間に、滞納額に占める滞納期間5年以上のものが4.0%から12.2%に増加するなど、滞納は徐々に長期化する傾向にある。

 (改善を必要とする事態)

 上記のように、回収すべき奨学金に多額の滞納が生じているのに、滞納の防止策及び解消措置が十分でなく、滞納額が増加するなどしている事態は、この事業が、国からの借入金を原資とした奨学金を貸与後に回収し、これを奨学金の原資に充当して運営することとされていることから適切とは認められず、改善の要があると認められる。

 (発生原因)

 このような事態が生じているのは、奨学金の貸与は経済的な理由により修学が困難な者に対するものであり、返還については、従前から主として要返還者の自発的返還に頼っていることにもよるが、次のようなことなどによると認められる。

(ア) 奨学生等に対して返還意識の向上を十分図っていないこと

(イ) 返還金の口座振替による月賦払いを導入したものの、既存の返還者に対し周知していないこと

(ウ) 滞納者、連帯保証人及び保証人に対する督促等の措置を早期に執っていないこと

(エ) 滞納者等の現状把握、滞納原因の調査分析が十分でないため、的確な対策が執られていないこと

3 本院が表示する改善の意見

 育英奨学事業は、国家及び社会に有為な人材の育成に資するとともに、教育の機会均等に寄与するため、優れた学生等で経済的理由により修学が困難な者に奨学金を貸与するものであり、その重要性はますます高まっている。そして、要返還者からの回収金を原資に循環運用することなどにより事業規模を拡充し、この事業を公平かつ効率的に実施するためには、回収金が滞納することなく返還期日までに回収されることが必要であり、滞納が生じた場合には、できるだけ早期に解消することが重要である。
 ついては、前記のような事態にかんがみ、貴会において、次のような処置を執るなどして、回収金の滞納の防止及び解消を図ることにより資金を効率的に運用し、もって育英奨学事業の適切な運営に努め、ひいては国の負担の増大を抑制する要があると認められる。

(ア) 奨学生等に対して、育英奨学制度及び返還の重要性を周知徹底し、返還意識の向上を図ること

(イ) 返還金の口座振替による月賦払いを強力に推進すること

(ウ) 滞納者、連帯保証人及び保証人に対する早期適切な督促体制を整備すること

(エ) 滞納者等の現状を把握して滞納原因を調査分析し、実情に合った有効な対策が執られるよう事務処理体制を整備すること