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  • 第2章 個別の検査結果|
  • 第3節 特に掲記を要すると認めた事項

国有林野事業の経営について


第1 国有林野事業の経営について

会計名 国有林野事業特別会計(国有林野事業勘定)
事業の概要 立木・素材等林産物の生産・販売、伐採跡地への新植等の造林及び林産物の搬出等のための林道の整備等国有林野の管理経営
損益 利益1975億2732万余円(平成7年度)
損失3292億9051万余円(平成7年度)
収支 歳入5321億7378万余円(平成7年度)
  (うち借入金2969億円)
歳出5675億0231万余円(平成7年度)
累積欠損金 1兆5075億9275万余円(平成7年度末)
借入金残高 3兆3308億2313万余円(平成7年度末)
 林野庁では、昭和50年代に入り国有林野事業の収支が悪化してきたことから、53年に制定された国有林野事業改善特別措置法(昭和53年法律第88号)に基づき、同年「国有林野事業の改善に関する計画」を定め、その後59年に新たな同計画を定めるとともに62年にこれを改訂し、経営改善の推進に努めた。しかし、木材価格の低迷に加え、伐採量の減少等から林産物収入の確保が困難となってきたこと、債務残高の増大により利子・償還金が累年増大傾向にあること等により、財務状況は好転しなかった。このため、平成3年7月に、3年度以降10年間における国「有林野事業の改善に関する計画」を定め、これに基づき経営改善を図っているが、財務状況は一層厳しいものとなっている。
 本院では、この間、国有林野事業特別会計の損益が悪化している事態及び経営改善が進ちょくしていない事態について、それぞれ昭和和50年度及び60年度決算検査報告に「特に掲記を要すると認めた事項」として掲記し問題を提起してきたところである。そこで、こうした事態を踏まえ、「国有林野事業の改善に関する計画」の推進状況等について、借入金依存からの脱却を当面の目標としている経常事業部門を中心として、国有林野事業全体と営林署単位の両面から調査した。調査の結果は、次のとおりである。

(1) 国有林野事業全体の経営状況について

 経常事業部門においては、自己収入の大半を占める林産物収入が減少する一方、職員の給与経費等は減少しているものの収入に対する比率は上昇している。
 林産物収入が減少しているのは、木材価格の低迷に伴い国有林材の販売価格が低迷していること、人工林の林齢構成が伐期前の林齢に偏在していることなどから伐採量が減少していることによるものである。しかも、外材との競合等もあって価格の大幅な上昇は見込めず、また、森林の公益的機能の発揮が求められ自然保護・環境保全等の要請による伐採制限が加わることから、当分の間、伐採量の増加はそれほど期待できない状況にある。
 一方、支出については、要員の規模の適正化が図られてきているが、その年齢構成は50歳以上の者が大半となっていて、比較的給与の高い者が多く、恒常的に多額の退職手当が発生しているため、減少の程度は緩慢なものとなっている。また、森林の保全等のため必要な投資が多額となっている。そして、これらの経費が自己収入を上回ることなどから、経常事業部門においても借入金が増加している。

(2) 営林署の経営状況について

 調査した60営林署においては、外材と競合することのない木曽ヒノキ等の国有林特産樹種を多く保有しているなどの12営林署は収入超過、米ツガ等の外材の価格に影響されるスギ等の樹種を多く保有しているなどの48営林署は支出超過となっていた。
 また、60営林署の森林の機能類型別における立木及び素材販売の収入額とその生産費、販売費及び造林、林道の投資額を合わせた支出額の収支では、その収入の約90%が木材生産林からのものとなっており、公益林(国土保全林、自然維持林及び森林空間利用林)からのものは少額となっている。一方、公益的機能の確保等の必要から、公益林に係る造林、林道の投資額は多額に上っており、公益林におけるこれら投資額の収入額に対する比率は、木材生産林における比率に比べて高い状況である。

 上記のように、国有林野事業は、経営改善を推進する上で困難な事情を抱えており、このまま推移すると、12年度までに経常事業部門で借入金依存から脱却し、22年度までに事業の収支の均衡を回復し経営の健全性を確保するという目標の実現が困難となるおそれがあると認められる。
 ついては、国有林材の計画的・持続的な供給を図りつつ、国民的要請の高い森林の有する公益的機能を適切に発揮するため、林野庁において、事業運営の効率化等を図るほか、関係機関等との緊密な連絡・協調を基に、次のような対策を執ることなどにより、事態の改善が図られることが望まれる。

(1) 国有林野の適切な管理経営の推進に資するため、木材の生産販売等の生産活動を行っている木材生産林に係る経費と、国土の保全等公益的機能の発揮を第一とする公益林に係る経費が明確に把握できるような方途を講じ、その上で、国有林野事業特別会計の置かれた現状と公益林の実態を明らかにして、広く国民の理解・支援が得られるような方策を講ずる。

(2) 木材生産林において、水源かん養機能の発揮等に配慮しつつ生産活動を行わなければならないこと及び自然保護、環境保全等の立場から伐採制限を求められることについて、広く国民の理解・支援と関係者等の理解を得るよう努める。

(3)造林及び林道事業に対する投資並びに公益林の整備、管理に係る経費については、その効率的な実施を図るとともに、国民共通の財産としてその財源のあり方を総合的に検討し必要な方策を講ずる。

1 事業の概要

 (国有林野事業)

 林野庁では、国有林野を国民共通の財産として、〔1〕 国土の保全、水資源のかん養、自然環境の保全形成、保健休養の場の提供等の森林の有する公益的機能の発揮、〔2〕 林産物の計画的・持続的な供給、〔3〕 これらの国有林野の活用、国有林野事業の諸活動等を通じた農山村地域振興への寄与等を目的として管理経営している。この国有林野事業の経理は、事業を企業的に運営し、その健全な発達に資するため、国有林野事業特別会計(以下「特別会計」という。)に国有林野事業勘定を設け一般会計と区分して行われている。

 (経営状況の推移と改善計画)

 国有林野事業は、昭和50年代に入って収支が悪化してきたことから、53年に国有林野事業改善特別措置法(昭和53年法律第88号。以下「措置法」という。)が制定された。これに基づき同年、62年度までの10年間を改善期間とし、72年度(平成9年度)までに、借入金の償還金及び支払利息を含めた一切の支出を林産物収入、林野売払代等の自己収入のみで賄うこととして収支の均衡を回復することなどを目標とする「国有林野事業の改善に関する計画」(以下「53年改善計画」という。)が策定された。そして、これに即して、自己収入の確保、事業運営の能率化等による経営改善に努めたが、昭和55年以降の木材の価格の下落・低迷等もあって財務状況が悪化の度を深めたことから、59年に新たな「国有林野事業の改善に関する計画」(以下「59年改善計画」という。)が策定された。この59年改善計画は、68年度(平成5年度)までの10年間を改善期間とし、72年度(平成9年度)までに上記の収支均衡を回復すること、当面は改善期間の前半が終了する63年度を目途に自己収入と支出のうち借入金の償還金及び支払利息を除いた事業支出との均衡を図ることなどを目標とするもので、62年にはこの枠組みは変えずに、内容的に改訂・強化された。
 そして、これに沿って、自己収入の確保、組織機構の簡素化、要員の縮減等による経営改善の推進が図られたが、状況は好転せず、引き続く木材価格の低迷、伐採量の減少等から収入確保が困難となっていること、債務残高の増大により利子・償還金が毎年増加する傾向にあることなどから、更に厳しい財務状況となった。

 こうしたことから、平成2年12月、林政審議会から国有林野事業の経営改善について採るべき方策の答申が行われた。そして、この提言に沿って昭和62年に改訂・強化された改善計画を抜本的に見直し早急に新たな方策に取り組むため、措置法の一部が改正され、これに基づき、平成3年7月に、3年度以降12年度までの10年間における「国有林野事業の改善に関する計画」(以下「現行改善計画」という。)が策定された。この現行改善計画は、22年度までに国有林野事業の収支の均衡を回復するなどその経営の健全性を確立することを目標とし、経常事業部門(以下「経常部門」という。)の財政の健全化その他当該目標を達成するために必要な基本的条件の整備を12年度までに完了することを旨としている。そして、これに従って、次のように国有林野事業を運営するものとしている。

(ア) 国有林野事業の管理経営の指針とするとともに、その経営成果をより明確にしていくため、国有林野を、森林の機能類型に応じて、〔1〕 国土の保全を第一とする国土保全林、〔2〕 自然環境の保全を第一とする自然維持林、〔3〕 森林レクリエーション等の保健・文化的利用を第一とする森林空間利用林及び〔4〕 木材生産等の生産活動を行う木材生産林の4タイプに類型化するとともに、水源のかん養機能については、これらすべての森林においてその発揮に努めるべきものとして位置づけ、それぞれの機能の維持向上を図るにふさわしい管理経営を行う。

(イ) 国有林野事業勘定において2年度以前に行った借入金等に係る債務(以下「累積債務」という。)の利子・償還金の経常部門への影響を防ぎ、経常部門の経営成果を明確にするとともに、自己収入のうち林野、土地等の資産処分収入を累積債務の処理に充当するため、累積債務に関する経理を行う部門(以下「累積部門」という。)を経常部門と区分する。

(ウ) 経常部門においては、財政の健全化の達成を図るため、12年度までに、新たな借入金に依存せずに自己収入と森林の有する公益的機能発揮等に係る費用のための一般会計からの繰入れによって、同部門の支出に充当した借入金の利子・償還金を含め同部門の支出を賄い得る状態にする。

(エ) 国有林野の機能類型を踏まえた上で、造林、林道等林業生産基盤の整備に当たっては、収入の確保と支出の削減の徹底を旨として最も効率的な投資に努める。

(オ) 業務の請負化等による民間施行の徹底、要員規模の適正化(5年度末2万人規模の達成等)、組織機構の簡素化・合理化(営林署等の3分の1程度を統合・改組等)等の措置を講ずる。

(カ) 林産物の需要動向に応じた機動的な販売の促進や、森林レクリエーション事業による森林空間の総合的利用等の展開によって、収入の確保に努める。

 (財務の現状)

 国有林野事業は、3年度以降、財政の健全化に向けて、上記の現行改善計画に基づいて事業が推進されているが、その7年度における財務の状況は、利益が1975億2732万余円、損失が3292億9051万余円で、差引き1317億6319万余円の損失金を生じている。また、収支(発生ベース)では、歳入5321億7378万余円、歳出5675億0231万余円であるが、歳入には一般会計からの受入573億0083万余円及び資金運用部資金からの借入金2969億円、計3542億0083万余円が含まれている。したがって、歳入からこれらを除いた自己収入は1779億7295万余円で、これと上記の歳出額を比較すると3895億2935万余円の支出超過となっている。また、この自己収入と事業支出2842億1853万余円とを比較すると1062億4557万余円の支出超過となっている。

 この7年度の状況を、59年改善計画が改訂された年度である昭和62年度及び現行改善計画の初年度である平成3年度と比べると次表のとおりである。

区分 自己収入
(A)
事業支出
(B)
開差額
(A−B)
年度末累積欠損金 年度末借入金残高


昭和62年度

万余円
2881億7140
万余円
3738億7003
万余円
△856億9863
万余円
7522億6058
万余円
1兆6980億3707
平成3年度 2314億4591 3580億3977 △1265億9385 1兆0390億5902 2兆4630億0803
平成7年度 1779億7295 2842億1853 △1062億4557 1兆5075億9275 3兆3308億2313

 このように、現行改善計画が策定された3年度以降も、自己収入をもって事業支出を賄えない状態が継続し、7年度末現在の借入金残高は3兆3308億2313万余円、累積欠損金は1兆5075億9275万余円となっている。

2 検査の結果

 (調査の観点)

 本院では、国有林野事業の経営について、昭和50年度及び60年度決算検査報告において、それぞれ特別会計の損益が悪化している事態及び経営改善が進ちょくしていない事態を「特に掲記を要すると認めた事項」として掲記し問題を提起してきたところであるが、財務の状況は上記のように一層厳しいものとなっている。
 そこで、上記のような事態を踏まえ、平成7年度が現行改善計画における改善期間の5年目で中間年に当たることから、経営改善の推進状況等について、現行改善計画で借入金依存からの脱却を当面の目標としている経常部門を中心として、国有林野事業全体と営林署単位の両面から調査した。

 (調査の結果)

(1) 国有林野事業全体の経営状況

ア 収入について

 現行改善計画の初年度である3年度の経常部門の収入は3255億2345万余円であったが、7年度では3112億2673万余円となっている。そして、このうち経常部門の収入の大部分を占め経営改善の柱となる林産物収入(立木販売収入、素材(丸太)販売収入等)は、3年度の1668億5086万余円から7年度では897億8138万余円と減少している。
 このように林産物収入が減少しているのは、木材価格の低迷に伴い国有林材の販売価格が低迷していること、伐採量が減少してきていることによると認められる。
 そして、次のように木材価格、伐採量とも、中期的には、大きな上昇あるいは増加は見込めない状況となっている。

(ア) 木材価格について

 我が国における木材総需要量(用材)は、昭和62年以降横ばいで推移しており、平成6年は1億0950万m3 となっている。これに対し、供給量(用材)は、国産材に比べて競争力の高い外材が年々増大し、6年では総供給量1億0950万m3 の78%を占めており、国有林材は総供給量の5%の555万m3 にとどまっている。
 そして、木材の価格は長期にわたり低迷した状態が続いており、国有林材の1m3 当たりの素材販売単価は、昭和54年度に平均41,700円程度まで上昇したものが、平成3年度は34,600円程度、7年度は33,200円程度となっている。そして、中期的に見た場合、品質において外材と競合することなく国内の需給関係により価格が決定される青森ヒバ(7年度59,500円程度)、秋田スギ(同193,400円程度)、木曽ヒノキ(同326,500円程度)等の国有林特産樹種を除いては、外材との競合、木材に代わる代替材の開発・普及等需要構造の変化等もあって、大幅な価格の上昇は見込めない状況にある。

(イ) 国有林の伐採及び蓄積について

 国有林の伐採量は、53年改善計画が策定された昭和53年度には1534万m3 (うち人工林546万m3 。この単位は立木材積、以下同じ。)であったが、平成3年度には1012万m3 (同515万m3 )、7年度では743万m3 (同442万m3 )と大きく減少している。その中で、資源の減少や自然保護等に対する要請から天然林の伐採量は急減しており、代わって人工林の割合が高まっている。

 そして、7年度における人工林の蓄積量2億8925万m3 の齢級(5年を単位とした林齢区分)構成は、伐期に達した10齢級(46〜50年生)以上の林分は5195万m3 であり、伐期前の3〜9齢級(11〜45年生)に偏在している。特に、戦後の復興期及びその後の経済成長期の資材の供給のため大量に伐採された箇所の造林が昭和20年代後半から40年代前半までに集中的に行われたことから、5〜8齢級(21〜40年生)の蓄積量が全体の66%の1億9026万m3 となっている。
 そして、今後の木材生産の大宗を占めることとなる人工林の蓄積状況及びこれに基づく伐採量を推計してみると、伐期にある10齢級(46〜50年生)以上の林分の蓄積量5195万m3 に成長量を加味した5338万m3 を、仮に今後5年間ですべて伐採できるとすると年平均1068万m3 となる。これは、過去10年間(昭和60年〜平成6年)の人工林の平均伐採量(間伐を含む。)515万m3 の約2.0倍となるが、天然林を含んだ平均伐採量の1050万m3 と同程度である。また、伐期まである程度の期間が必要である林分の蓄積状況は、9齢級(41〜45年生)が3088万m3 、8齢級(36〜40年生)が5452万m3 、7齢級(31〜35年生)が5600万m3 となっている。

 このような蓄積状況からみると、人工林の伐採可能量は資源的には増加していくものと見込まれるが、人工林及び天然林に共通して水源かん養機能等公益的機能の発揮が求められること、自然保護・環境保全等に対する要請の高まりなどから伐採制限が加わることなどを考慮すると、当分の間、伐採量の増加はそれほど期待できないと認められる。

イ 支出について

 経常部門の支出は、平成3年度が3603億7257万余円であるのに対し、7年度では3110億3676万余円となっている。このうち経営改善に大きな影響を与える職員基本給、林野基幹作業職員給与等、国家公務員等共済組合負担金及び退職手当(以下「給与経費等」という。)等については、次のようになっている。

(ア) 給与経費等と要員の状況

 給与経費等の額は、3年度の2527億1805万余円から7年度では2013億5737万余円と513億6067万余円減少している。
 これは、要員規模の適正化を図ってきていることによるものである。すなわち、現行改善計画では、3年4月1日現在要員31,098人に対し5年度末に2万人規模を達成するとされた。そして、その5年度末には22,259人と目標に及ばなかったが、7年4月1日現在では19,894人となり、目標が達成されている。
 しかし、一方、要員の年齢構成についてみると、同日現在、50歳以上の者が12,839人(全体の65%)、うち55歳以上の者が8,118人(同41%)となっており、比較的給与の高い者が多数を占めている。そして、退職手当の恒常的発生等から給与経費等の減少割合が少ないのに対し、木材価格の低迷や伐採量の減少から林産物収入が減少していることなどにより、林産物収入に分収育林収入等を加えた業務収入に対する人件費の比率は、3年度の151%から7年度は221%と上昇している。

(イ) 事業投資の状況

 経常部門では、国有林野の管理経営のため造林、林道の事業を実施している。3年度及び7年度においてこれらの事業に要した支出(以下「主要事業投資額」という。)は、それぞれ2243億4854万余円及び2083億6731万余円となっていて、林産物収入の減少とともに減少してきているが、森林の整備、保全管理等による適切な森林の施業を図る上で、今後とも、一定の投資を続けていく必要があるものである。

ウ 借入金について

 国有林野事業では、上記の給与経費等及び主要事業投資額の支出が自己収入を上回るようになってきたことから借入金が増加し、これに伴う償還及び支払利子も増加の一途をたどっていて、昭和62年度からは、借入金の償還金の財源についてもその一部を新たな借入金に頼らざるを得なくなってきている。この借入金の償還に充てるために借換えを行った額は、同年度の100億円に始まって、平成3年度は820億円であったが、7年度では1025億8200万円に上っている。

 そして、借入金の状況についてみると次表のとおりで、借入金総額に占める退職手当及び借換えのための借入金の割合は、3年度の37%から7年度は44%と増加している状況である。

区分 事業施設費 退職手当 借換え
平成3年度 経常部門 1102億1900万円 10億3205万余円 - 1112億5105万余円
累積部門 777億円 278億4894万余円 820億円 1875億4894万余円
平成7年度 経常部門 1226億3435万余円 276億1800万円 - 1502億5235万余円
累積部門 440億6564万余円 - 1025億8200万円 1466億4764万余円

 その結果、7年度末借入金残高3兆3308億2313万余円のうち、経常部門に係る残高は7460億7691万余円、累積部門に係る残高は2兆5847億4621万余円となっている。そして、現行改善計画において、累積部門として区分した債務残高2兆2511億円(2年度末)が、その後の債務対策にもかかわらず、増こうしている。また、7年度末借入金残高のうち、退職手当及び借換え分に係る残高は経常部門で1178億1305万余円、累積部門で6876億9740万余円計8055億1046万余円となっている。

(2) 60営林署の経営状況

 営林署については、全国の264営林署のうち、国有林野面積の機能類型が全国平均(木材生産林54%、その他46%)と近似した割合の営林署並びに木材生産林の割合が特に高い営林署及びそれが特に低い営林署を中心に60営林署を調査した。

ア 営林署の収入及び支出について

 60営林署について、従来からとられている経理の方法により、その7年度の収入、支出(この支出には、当該営林署に係る支出のうち、国家公務員等共済組合負担金、退職手当及び営林(支)局の執行に係る主要事業投資額は含まれていない。)をみると、支出超過となっている営林署(以下「支出超過営林署」という。)が48営林署(注1) 、収入超過となっている営林署(以下「収入超過営林署」という。)が12営林署(注2) となっていた。そして、これらの支出超過営林署、収入超過営林署の別に一定の指標となる数値をみたところ、次のような状況となっていた。

(ア) 収入に占める林産物収入の割合について

 経常部門においては林産物収入の確保が経営改善の柱となるが、収入に占める林産物収入の割合をみると、支出超過営林署では平均77%となっている。一方、収入超過営林署では平均93%となっており、収入超過営林署における林産物収入の割合が大幅に高くなっている。特に、林産物収入のうちの素材(丸太)の売払代の割合でみると、支出超過営林署では平均52%となっているのに対し、収入超過営林署では平均80%となっている。
 これは、支出超過営林署では、その大部分が、米ツガ、米マツ等の外材の価格に影響されるスギ等の樹種を多く保有しているのに対し、収入超過営林署では、外材と品質において競合することがない青森ヒバ、木曽ヒノキ等の国有林特産樹種を多く保有するなどしており、これが当該営林署の林産物収入に大きく寄与していることによるものである。

(イ) 支出に占める給与経費等の割合について

 経常部門においては給与経費等が支出の大宗を占め、その縮減が経営合理化の柱になっているが、営林署の給与経費等の支出に占める割合をみると、支出超過営林署では平均63%となっていて、中には70%から80%となっている営林署が16営林署あった。一方、収入超過営林署では平均54%となっており、支出超過営林署における割合が高くなっている。

(ウ) 業務収入に対する給与経費等の割合について

 現行改善計画において業務の効率化を推進することとしていることから、その指標となる業務収入に対する上記経費の比率をみると、支出超過営林署では平均144%となっていて、うち14営林署では300%を超えている。一方、収入超過営林署では平均34%となっていて、支出超過営林署における比率は著しく高くなっている。

イ 森林の機能類型別の収支状況について

 現行改善計画では、前記のとおり、森林の機能を4類型に分けて管理経営することとしているが、これらの機能類型別の経営状況は明らかになっていない。そこで、各類型の森林が国有林野事業の経営にどのように影響を与えているかについて、60営林署の7年度の林産物収入のほとんどを占める立木及び素材(丸太)の販売による収入額(以下「木材販売収入額」という。)と、造林及び林道の主要事業投資額(営林(支)局の執行に係るものを含む。)に素材生産費、販売費等の費用を加えた額(以下「主要事業投資額等」という。造林及び林道両事業は営林(支)局の給与経費等を含む。)とを比較するなどして調査した。その際、森林の機能類型については、国土保全林、自然維持林及び森林空間利用林(以下、これらを「公益林」という。)と木材生産林の二つに大別して調査した。その結果、次のようになっている。

〔1〕 木材販売収入額は、60営林署で計253億4347万余円となっていて、これを森林の機能類型別にみると、木材生産林からの収入が226億2676万余円(全体の89%)、公益林からの収入が27億1671万余円(同11%)となっている。

〔2〕 木材生産林に係る主要事業投資額等は405億1115万余円で、上記木材販売収入額226億2676万余円の1.79倍となっている。一方、公益林に係る主要事業投資額等は59億8143万余円で、木材販売収入額27億1671万余円の2.2倍と木材生産林に比べて高い状況である。
 そして、この状況を収入超過営林署と支出超過営林署の別にみると、収入超過営林署の木材販売収入額に対する主要事業投資額等は、木材生産林が0.9倍、公益林が0.77倍となっていて、主要事業投資額等が木材販売収入額を下回っている。これに対して支出超過営林署においては、木材生産林で3.12倍、公益林で5.18倍となっていて、いずれも主要事業投資額等が木材販売収入額を大きく上回っており、その度合は公益林が木材生産林に比べて大幅に高いものとなっている。

〔3〕 造林及び林道の主要事業投資額は、それぞれ造林事業239億9437万余円、林道事業110億2282万余円、計350億1720万余円となっている。これを森林の機能類型別にみると、木材生産林に299億6423万余円(86%)、公益林に50億5297万余円(14%)となっている。この主要事業投資額は、前記の木材販売収入額のそれぞれ1.32倍、1.86倍となっており、公益林においては収入に対する投資額の比率が高くなっている。

3 本院の所見

 本院は、これまで、国有林野事業について効率的かつ適切な運営を期する観点から、過去の決算検査報告においても問題提起を行うなど継続して検査を実施してきているところである。
 そして、この間、林野庁においては、「国有林野事業の改善に関する計画」に即し、収入の確保、事業運営の効率化、要員規模の適正化、組織機構の簡素化・合理化、投資の効率化等に努めているものの、次のように経営改善を推進する上で困難な事情を抱えており、財務状況の悪化がなお進んでいる。

(1) 木材価格が長期間低迷していること、伐採の対象となる蓄積量が減少していること、森林の有する公益的機能の確保の要請に対応した森林施業の実施が必要なことなどによって伐採量が減少していることから林産物収入が減少している。

(2) 要員調整に努力し給与経費等は減少しているものの、給与の改定、退職手当の恒常的発生等から自己収入に対する給与経費等の比率は、他方で林産物収入等の減少もあってますます高くなっている。

(3) 借入金に伴う償還金及び利子支払に多額の資金を要している厳しい財政事情下においても、国土保全、水資源のかん養、自然環境の保全形成、保健休養の場の提供等森林の公益的機能を確保しなければならないとともに、これに必要な造林、林道等林業生産基盤の整備を継続的に進める必要がある。

 このため現状のまま推移すると、国有林野事業の財政は更に厳しさを増し、現行改善計画で定めた、12年度までに経常部門で借入金依存から脱却するという当面の目標が達成できなくなるばかりでなく、22年度までに収支の均衡を回復し経営の健全性を確保するという目標の実現も困難となるおそれがあると認められる。
 ついては、国有林材の計画的・持続的な供給を図りつつ、国民的要請の高い森林の有する公益的機能を適切に発揮するため、林野庁において、関係機関等との緊密な連絡・協調を基に、次のような対策を執ることなどにより、事態の改善が図られることが望まれる。

(1) 企業的な運営を旨として設置されている特別会計の枠内において、現在、水源かん養機能等の公益的機能の発揮を図りつつ木材の生産販売等の生産活動を行っている木材生産林に係る経費と、国土の保全等公益的機能の発揮を第一とする非経済的な公益林に係る経費が混然と経理されている。しかし、国有林野の適切な管理経営の推進に資するため、特に公益林に係る経費が明確に把握できるような方途を講じ、その上で、特別会計のおかれた現状と公益林の実態を明らかにして、広く国民の理解・支援が得られるような方策を講ずる。

(2) 木材生産林において、水源かん養機能の発揮等に配慮しつつ生産活動を行わなければならないこと及び自然保護、環境保全等の立場から伐採制限を求められることについて、広く国民の理解・支援と関係者等の理解を得るよう努める。

(3) 造林及び林道事業に対する投資並びに公益林の整備、管理に係る経費については、その効率的な実施を図るとともに、国民共通の財産としてその財源のあり方を総合的に検討し必要な方策を講ずる。

(4) 要員規模の適正化、組織機構の簡素化・合理化等をより着実に推進し、事業運営の効率化及び給与経費等の節減を図る。

(5) 国有林材の特産樹種を有する営林署は収入超過にあるという現状から、外材と競合関係にある一般材については、より付加価値の高い商品の開発を図る一方、販売方法の改善を図るなどして自己収入の確保を図る。

 (注1)  48営林署  芦別、白老、稚内、遠別、紋別、佐呂間、標津、弟子屈、東瀬棚、檜山、弘前、むつ、本荘、酒田、鶴岡、新庄、真室川、原町、福島、郡山、大間々、高崎、天城、静岡、千頭、水窪、臼田、松本、駒ヶ根、飯田、神岡、久々野高山、金沢、福井、津山、川本、松江、鳥取、徳島、高松、西条、窪川、本山、佐賀、武雄、串間、加治木、川内(せんだい)各営林署

 (注2)  12営林署  金木、川内(かわうち)、脇野沢、横浜、能代、富岡、大子、水戸、王滝、南木曽、魚梁瀬、宮崎各営林署